空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

「地上軍だけと思っていたが……奴らは私達が相手せねばなるまい。
 可能なら地上に落とし、そこで決着をつける!」
 『稲桜』を駆る透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)の下に、璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)からの報告が届く。
「透玻様、十時の方向、大きな反応が見られます」
 解析の結果、どうやら地上に落ちた飛行魔族であるようだった。
「了解した……ここを通すわけにはいかん!」
 すぐさま機体を、レーダーが示す場所へと向かわせる。そして到着した時には、既に別のイコンが戦闘を開始していた。

「本当は戦いたくない……だけど、大好きな場所が無くなるなんて、そんなの嫌!
 お願い美桜ちゃん、イコンに一緒に乗って!」
 堂島 結(どうじま・ゆい)に懇願され、仁科 美桜(にしな・みおう)ははぁ、と息をつく。こうなってしまった結にこれ以上何を言っても無駄かな、と思い至った美桜は搭乗を決め、そして二人の乗るイノセント・カルディアは戦場へと向かう――。

 地上に落ち、一時的に動きの鈍くなっている飛行魔族を、イノセント・カルディアのビームサーベルが襲う。致命傷こそ辛うじて免れるものの深手を負い、離脱を図ろうとする飛行魔族の視界に、丁度姿を現した『稲桜』が飛び込む。
「味方の増援……でも、位置が悪い……!」
 美桜が、捉えた機影に対して表情を歪める。自機の背後ではなく敵機の背後であり、確かに挟み撃ちの状況ではあるが、相手が咄嗟の判断に耐えうる保証がない。
 そして魔族の方も、突然の光景に相手が混乱している可能性に賭けた。イノセント・カルディアに背を向け、稲桜の方へと全速で向かったのだ。
「やるしか、ないわね! 結、無尽パンチを!」
「うん! あったれーーー!」
 結の操作で、本来は『腕の関節部が半永久的に伸長する』パンチが、特別に組み込まれた転送装置の影響であたかも飛んだかのように、跳躍する飛行魔族の背中を殴りつける。結果飛行魔族は、『稲桜』の前に無防備な前面を晒す格好となる。
「御免……!」
 お膳立てをされて応えられないほど鈍ってはなく、透玻の操作で稲桜は飛行魔族を切り捨て、抵抗力を失った飛行魔族は地に伏せる。

「……話に聞いた謎のアルマイン……ここには来ないのか?」
 バイヴ・カハに搭乗する柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が、先日ウィール砦に出現したという謎のアルマインの機影を追っていた。あれは天貴 彩羽(あまむち・あやは)アルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)が搭乗している、という複数の意見を元に、身内の恥は身内で決着をつけんと馳せ参じたのだが、肝心の機体が一向に姿を見せない。
「どうしますか? 当初の予定通り、クリフォト破壊に?」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の問いに、真司は少しだけ沈黙した後、方針を口にする。
「飛行する魔族への迎撃を優先しよう。各機、それと『アルマイン隊』の面々にも伝えておいてくれ」
「分かりました」
 ヴェルリアから各機、カルディナー・スヴィーシュニクツィルニトラに今後の方針が伝えられる。
「……了解した。天貴彩羽……貴方は今何処で、何をしている?」
 『カルディナー・スヴィーシュニク』搭乗、富永 佐那(とみなが・さな)が忌々しげに呟く。同じ学生でもある彩羽が敵対の態度を取っている事実は、佐那にとってとても看過出来るものではなかった。故にこうして遥々天御柱から駆け付け、彩羽のパートナーである『アル・アジフ』の手配書を配布し、彩羽を天御柱に『還す』つもりでいた。
「手配書が回っているのなら、彼女が居れば何らかの知らせが入ってくるでしょう。彼女を捕縛することも可能かもしれません。
 私たちはここで、なすべきことを為しましょう」
 吉川 元春(きっかわ・もとはる)の言葉を受けて、佐那は冷静さを取り戻していく。自分達が居る場所は戦場なのだ、熱くなっていてはいたずらに状況を悪化させるだけだ。
 『カルディナー・スヴィーシュニク』が飛行魔族へ向けて飛び立つのを見、同じく方針を伝えられたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)も少しの間、瞑目して思慮に耽る。
(これまで何人もの学生が、いかなる理由であれザナドゥに魂を捧げ、結果として放校の処分に遭いました。
 天貴彩羽……あなただけがこの措置を逃れ続け、此方と敵対を続けるならば、あなたも相応の処分を受けねばなりません。
 あなたの行いは、看過出来ないものです)
 目を開くと、前方で飛行魔族と空戦を繰り広げる『バイヴ・カハ』『カルディナー・スヴィーシュニク』の両機がモニターに映る。
「両機を援護します。千鶴、いけますね?」
「ええ、いつでも」
 テレジアの言葉を受けた瀬名 千鶴(せな・ちづる)が操作すれば、『ツィルニトラ』は空へと舞い上がり、マウントされたアサルトライフルを構える。飛行魔族は両機を相手に善戦していたが、別方向より浴びせられるアサルトライフルの弾丸を喰らい、その動きに隙が生じる。
「逃がさないよ!」
 不利を悟った飛行魔族が撤退を図ろうとするのを、『カルディナー・スヴィーシュニク』のビームアサルトライフルが阻止する。二本の射線に身を削られ、満身創痍となった飛行魔族へ、『バイヴ・カハ』がサイコブレードを展開し突っ込む。
「仲間の邪魔をさせるわけにはいかない。……悪いな」
 すれ違いざまに振り抜かれたブレードは飛行魔族を深々と切り裂き、悲鳴を上げながら飛行魔族は墜落していく。三機の異国からのイコンはなおも善戦し、飛行魔族は一体、また一体とその数を減らしていった。

 多少の混乱はあったものの、全体としては契約者有利のまま、戦闘は終盤戦へと流れていった。制空権はイコン部隊によって確保され、地上の魔族軍も抵抗力を失い、もはやジリジリと押されていくばかりであった。
(……だが、まだ終わりじゃない。クリフォトの分体……アレがある限り魔族は諦めない)
 ソーサルナイトに搭乗する涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の視界には、何度も目にした魔樹が映る。魔族の拠り所でもあるアレを沈めなければ、この地に真の平和は訪れない。
(……もう一度だけ、力を貸してくれ、ソーサルナイト。戦いに終止符を打ち、平和をもたらすために!)
 涼介、そしてクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の祈りに応えるように、『ソーサルナイト』の羽根が強く光を放ち、全身から溢れる魔力は自身を大きく見せる。
「おにいちゃん、皐月さんから通信があったよ! 内容を言うね!」
 クレアの口から伝えられる皐月の作戦は、『爆弾を満載した『I2セイバー』をクリフォトにぶつける』という、豪快なものであった。破壊力としては問題ないだろうが、それまでにクリフォトや他の魔族から反撃があれば、作戦は水泡に帰してしまう。
「……分かった。私がソーサルナイトで渾身の一撃をクリフォトに見舞う。彼にはその後に船を向かわせてくれと伝えてくれ」
 クレアが頷き、皐月に返答する。その間涼介は瞑目し、精神を落ち着かせる。
 絶対に、失敗は出来ない。生きてこの地より帰還し、愛する“妻”の元へ帰るのだから――。
「……行くぞ!」
 叫び、クリフォトへ突貫する『ソーサルナイト』。かの機体の危険を感じ取った他の魔族が迎撃に向かおうとするが、その時響いてきた音――いや、歌――が、彼らに満足な動きをさせない。
(ボクの歌は、力がある……魔族にこれ以上戦いをさせない力が……!
 もう、キミたちは戦わなくていいんだよ! ここで無為に、キミたちを死なせはしない!)
 クイーン・バタフライに装着されたソニックブラスターを通じて、赤城 花音(あかぎ・かのん)の歌が響き渡る。『進化』の力によって紡ぎ出された歌は、魔族が魔族と呼ばれる以前、地上で他の者と変わらぬ生活を送っていた時に感じていたであろう『今住んでいる場所こそが、自分たちにとっての『楽園』なのである』という思いを呼び起こさせる。魔族にとっての楽園、ザナドゥ。地上人にとっての楽園、パラミタ。そのどちらも変わらず大切であり、どちらも汚してはならぬものだと。
(心地いいですね……出来れば頭を空っぽにして、聴き入りたいものです)
 その思いを抱くリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)だが、万が一歌を聞いても戦意を残している魔族が、こちらを狙ってこないとも限らない。
 リュートは最後まで、花音のパートナーとして彼女の身を守るつもりでいた。

「おおおおおぉぉぉ!! 受けよ、思いの力を!!」

 高々と掲げられたマジックブレードに全魔力が注ぎ込まれ、天をも貫かんばかりの刃が出現する。
 そして振り下ろされた刃は、魔樹を枝先から根元まで貫通して切り裂く。悲鳴にも聞こえる、枝が割け幹が倒れる音は落ちるように突撃してきた『I2セイバー』のもたらす爆砕音に掻き消えていく――。

『全員の無事を確認した、これより本艦は帰投する。
 ……皐月、艦長としての務め、立派だったぞ』
 マルクスからの報告を耳にし、皐月は『バスターズフラッグ』の甲板上から、爆心地を眺める。そこに根付いていた植物、生物、何もかもが欠片となって消え去った地を、目に焼き付け、心に刻む。
「……じゃあな」
 おまえは確かに、イルミンスールとイナテミスの空を守った。
 だから休め、I2セイバー――。