空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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●ベルゼビュート城:地上6階

 エリザベートとルシファー(アーデルハイト)、二人の戦いは既に室内を飛び越え、クリフォト内に移っていた。
「ははははははは! なるほど、これは実に愉快じゃのう!」
「何がおかしいですかぁ!」
 中心で相殺される魔力、その余波に身を晒しながら、二人が言葉を交わし合う。
「我が娘の力を直接感じる、これを愉快と評さずしてなんとするか!」
「まだ言うですかぁ!」
 フッ、とエリザベートの姿が消え、ルシファーの目前に現れたかと思うと、パンチを見舞う。それをルシファーは掌で受け止め、放り投げるようにしてエリザベートを散らす。遠距離からの魔弾の連射も、ルシファーのかざした掌に生まれた障壁が全て食い止める。二人の戦いは一見互角であるように見えて、そこには途方も無い力の差が生じていた。

「明日香さん、本当に行くんですか? あの中に混ざるのはその、危ないといいますか……」
 飛び出そうとする神代 明日香(かみしろ・あすか)の背後から、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が恐る恐る声を掛ける。明日香が何を言っても、エリザベートを助けようとすることは分かっていたが、それでも口にしてしまうのは、明日香が大切なパートナーだからこそ、である。
「……親子喧嘩なら、私も混じって良いですよね? ノルンちゃんは、エリザベートちゃんと私の強化をお願いします」
 笑顔を振り向け、ノルンが予想していた通りの言葉を口にして、明日香がエリザベートの下へ発つ。泣き出しそうになるのを堪え、ノルンは自身の守りを召喚したフェニックスに任せ、魔力の強化や精神力の回復に努める。
(……どうしたら良いかなんて、わからない。勝つことがどういう事かもわからない。
 でも、戦うからには私達は負けない……負けたくない!)
 前方では、動きの止まったエリザベートへルシファーの放った魔弾が迫る所であった。明日香は迷わず間に飛び込み、掌の先に力場を出現させて魔弾を防ぎ切る。
「アスカ!」
 背後から飛ぶエリザベートの声に、振り返って笑顔で応えて、明日香はルシファーを見遣る。
「エリザベートちゃんをイジめちゃダメですよ〜?」
「フッ……昔の我であったら、貴様のような存在は断じて許さなかったであろうが……時代は変わった。
 我は、我の前に立ちはだかる者として、貴様を消す!」
 ルシファーの言葉に、明日香は言葉ではなく魔道銃の引き金を引くことで応える――。

「お母さん、明日香さん……」
 上空での戦闘を、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が心配そうに見つめる。ミーミルはここで、ルシファーを助けるためにやって来るかもしれない魔族を通さないように、また、エリザベートを助けるためにやって来るであろう者たちを迎え入れるために控えていた。エリザベートの傍に居られないことは不安ではあったが、傍に居て守るだけが手段でないことを、ミーミルは学んでいた。
(魔族は、絶対通しません! お願いします皆さん、早く来てください……!)
 果たしてミーミルの祈りが通じたか、『王の間』に続く門の向こうから複数の気配が、徐々に近付いて来る。
「! ミーミル!」
 ミーミルの姿を認めた七尾 蒼也(ななお・そうや)が駆け寄り、背後に続々と契約者が続く。どうやら地上5階までを制圧し、無事にここまで辿り着いたようであった。
「私はここで、皆さんの帰り道を守ります。皆さんはお母さんを助けて下さい!」
 ミーミルの言葉に、蒼也はいいのか、と答えようとして、ミーミルの瞳に言葉を引っ込める。
「……分かった。これ以上は、放っておけないからな」
 頷いて、ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)と共に『王の間』を抜け、さらに上へと続く道を駆け登る。
(俺に力を与えてくれたイルミンスール……これだけ離れていても、エリザベートにはその力が伝わるはずだ。
 そうだろう? イルミンスール……)
 クリフォトの表皮を両足が捉えた所で、二人を抑えつける力の本流が襲う。
「くっ! ペルディータ、大丈夫か!?」
「え、ええ、なんとか……。
 あたしはイルミンのみんなが大好き、だから、みんなの居場所を守ります!」
 蒼也が癒しの力を周囲に施し、ペルディータが消耗した蒼也の精神力を回復させ、サポートする。

「ほう……見ろ我が娘、貴様を追って来た者たちが到着したようだ」
 ルシファーに言われ、エリザベートと明日香が下を向くと、複数の人影が見えた。
「もう! なんで校長が先陣切っちゃってるのよ。怪我でもしたらどうするつもり!?」
 その中から一足早く、茅野 菫(ちの・すみれ)が飛び出して疲労したエリザベートたちに癒しの力を施す。パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が警戒の眼差しで、菫とエリザベートたちの護衛を行う。
「スミレ、私を心配してくれるですかぁ?」
「当たり前のこと言ってんじゃないわよ。まさか、校長、私が心配しないとでも思ってたの? それこそ失礼よ。
 ……ま、今はいいわ。後でたっぷり言い聞かせてあげるから覚悟しなさい。あたしが言いたいことがあるのは……あんたよ」
 言って菫が、アーデルハイトの姿をしたルシファーへ振り向く。
「結局の所さ、夫婦喧嘩に親子喧嘩よね。それに侵攻、失敗してるし」
「フッ、最初からそのつもりだったなどと思ってもらっては困るな。侵攻に失敗したのは誠に忌々しいが、認めざるを得まい。
 貴様らの働きぶりがあったからこそ、我はこのような遊びに興じることになったのだ」
 動揺させるつもりの言葉であったが、ルシファーは動揺する所か、菫の言葉を認めている節が見られた。
「……あんた、結局何がしたかったのよ? なんか一人で満足しちゃってるみたいだし、そういうの気に入らないのよね。
 大ボスが大ボスらしくしてないのって、おかしくない? どうせ負けなんだからさ、最後くらい演じてみせなさいよ、『大魔王』をさ」
 どこかおかしい気分になりながら、その勢いのままに菫が言ってのける。魔族も人間も、同じ『弱さ』を持っている。困難にぶち当たり、当初目指していた方針を変更してしまう弱さを。契約者に『お膳立て』をされなければ、自ら開いたはずの『魔戦記』を終わらせられない弱さを。
「なるほど、それは一興であるな。……よかろう、ここからは『大魔王』である我と、『勇者』である貴様らとの戦いだ。
 ……かかってくるがよい!」

「おい何だよ、これから親子喧嘩が見られると思ったら、糞つまんねぇ茶番劇かよ!
 ちくしょう、これならもっと早くからザナドゥ関連の事件に関わってりゃよかったぜ。夫婦喧嘩が見られたかもしれねぇのにな!」
 『王の間』に到着し、特等席を確保して埼玉県民と共に『世界を股に掛けた親子喧嘩』をニヤニヤしながら眺めようとしていた国頭 武尊(くにがみ・たける)が、当てが外れて悔しげに床を蹴りつける。
「みっともない喧嘩が見られると思ったら、もっとみっともない戦いになりやがったぜ。
 ま、やることは変わらねぇな。おい、しっかり撮影しとけよ。このみっともない様子と顛末は後世に伝えるべきだろうからよ」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)が、やはり下僕として連れて来た埼玉県民に一部始終を撮影させる。
「さぁ、終わりが始まりました! わたくしは傍観者にして語り部!
 この戦いこの出会いこの結末!! この愛憎に満ちたエピローグ……楽しみですねぇ心配ですねぇ血沸き肉踊るとはこのことですねぇ!」
 自らを語り部と称する戯祭 紳士(ざれまつり・しんし)が、語り部にしては妙にアグレッシブに動きながら演じる。
「あら? アラ? ココはどこですカ?
 まぁいいキニシナイ! だって乙女だもの!」
 そして、紳士のパートナーである只野 乙女(ただの・おとめ)がバケツを頭に被った異様な格好で、モップを握り掃除を始めてしまう。『王の間』の床はモップ磨きに適していたから、本人もノリノリである。
「(掃除の)邪魔すル奴はデストロオオオオオオオオオイ!!」
 猛ダッシュをかました乙女が、又吉の指示で撮影をしていた埼玉県民をふっ飛ばしてしまう。哀れ埼玉県民は今の一撃で行動不能に陥ってしまった。
「あーーーっ! この野郎、何しやがる!」
「野郎じゃないヨ乙女だヨ♪」
「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ待てやコラーーー!」
 下僕をやられた又吉が乙女を追いかけるも、床を汚したことで「デストロオオオオオオオオオイ!!」とふっ飛ばされてしまう。
「……猛さん? あの……やっぱり見届ける、のですか?」
「……ああ。結末がどうであれ、最後まで見届けさせてもらう」
 不安げな面持ちのルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)の問いに、和泉 猛(いずみ・たける)が堅い表情で呟く。それまでは親子喧嘩だったのが、いわば魔王と勇者の世界をかけた戦いに変化したことは、まあそれはそれ、と捉えていた。
「うーん……さっきイルミンスールの生徒とルシファーが話してたみたいだけど、結局どういうことなの?」
『聞いた感じだと、最初は魔族は地上侵攻する気満々だったが、契約者がそれを阻むから結局親子喧嘩するしかなくなって、それじゃカッコつかないだろうと今、正々堂々と戦って決着つけようという話になったようだが』
「何それ、ホント傍迷惑だわ。さっさとどこかで手を引けばいいのに、ズルズルと」
『だからここで決着つけることになったのではないか?』
 七瀬 雫(ななせ・しずく)と、彼女に装着される形のズズ・トラーター(ずず・とらーたー)の会話が交わされる。最初から親子喧嘩をするつもりで戦争を仕掛けるほど愚かではないようだが、契約者の力を甘く見たのはやはり愚かであり、無様な真似を晒すのも因果応報と言えよう。
 故にこの戦い、どことなくシラけた雰囲気が漂っていた。他の場所では決してそうではないかもしれないが、ことこの場においては当事者以外は、戦う意義を見い出せない。
 ……そしてその雰囲気が、彼女たちを暗躍させる要因になっていた。

(ここまで都合よく事が運ばないのは久し振りだわ……。
 でも、最後にしてようやく、あたしの望む空気になってきたじゃない。そうやって『遊んで』いる間に、あたしが『本気で』エリザベートを殺してあげるわ)
 思い思いに過ごす契約者を一瞥し、メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が飛び立つ。狙うはもちろん、エリザベートの首――。