空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
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リアクション

 巨体を誇る悪魔ザガンが解封された直後、ベリアルは一人、行動を開始した。
「確かに、今が絶好の機会ですわね」
 巨爪を力強く張り、そして弾けるように駆け出したベリアル。そんな彼女の背を目で追いながらに中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は彼女との会話を思い出していた。
「空の壷?」
 自分は最後まで傍観しているつもりだと綾瀬が打ち明けた時、彼女は笑みを浮かべながらにそう答えた。
「協力するなんて言ってるけど、結局の所はお互い様。都合が悪くなったら私も封印されるんでしょうし」
「それは……」
「地上に出るまでの辛抱だとしても、やっぱり安心できないわよねぇ」
「地上に……出るまで?」
「あら? 知らないの? 封魔壺は地上に持ち出せないのよ、地上の空気に合わなくて割れちゃうの。だから、」
 なるほど。地上に国を要求したり、パイモンではなく契約者たちを選んだのも全て、一刻も早く地上に出るため。協力するとしていれば、地上へ出ることも、また姿を眩ますことも容易にできる。
「見事にフラレたわね」
 パートナーの漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)綾瀬に言った。彼女が思い出したのはベリアルとした契約の話だろうか。「綾瀬とパートナー契約を結んで、一緒に人間の世界を観て回らない?」と持ちかけたのだが、彼女は「契約なんてするわけないでしょ」と軽くこれを断った。
「えぇ。ですが」
 彼女の言葉の前にはおそらく「人間なんかと」という言葉も付いたのだろうが、そう口にされなかったということは……と僅かな希望を感じてもいた。
「共に地上へ行けると信じていますわ」
 物語の終わりを彼女の傍で迎える、それが例えどんな結末だったとしても……。
 一つ、二つとカナン兵が持つ「空壷」をベリアルが破壊した時、
「やはり裏切ったわね! ベリアル!!」
 軽やかに跳び行く彼女に早見 涼子(はやみ・りょうこ)が矢を放った。
「逃がさないわよ!!」
 彼女の腰部を狙って次々に矢を射ってゆくが、ベリアルはこれらを猫のように軽やかに跳び避けてゆく。だけでなく、その動きの中でまた一つ、空壷を割ってみせた。
「これ以上は―――」
 ベリアルが着地した瞬間を狙い、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が『ヒーターシールド』を盾に突進した。
 ベリアルは初めこそ巨爪で腕力勝負を受けたが、すぐに弾いて後方に退いた。
「彼女も言ったはずです、逃がしません、と」
 すぐにクロッシュナーが跳び追いて『チェリーナイフ』で斬りかかった。
「空壷を割ったということは、自分たちを裏切ったという事になります」
「あらそう? そうなるかしら」
 この期に及んで……。
「当然です。あなたを拘束させて頂きます!」
「ふふ、出来るかしら?」
 爪と剣で打ち合いながらに―――いや、
「なっ…………くっ……」
 ベリアルがその大きな目を剥いて斬りかかると、先程までの打ち合いが嘘のようにクロッシュナーは受けに徹する形となった。彼女の一振り一振りが格段に速く、そして重くなっている。
「腕力があるのは知っているわ。問題はその穴」
 押されっぱなしのクロッシュナーに加勢するではなく目を光らせて見つめているはレナ・ブランド(れな・ぶらんど)。彼女の役割はベリアルの戦い方を観察すること、そしてそこから隙や癖を見つけ出すこと。
「どこかにあるはず…………必ずあるはずよ」
 パイモンと戦う様も観ていたが、彼女は一度としてスキルを使ってはいない。
 使わないのか、それとも使えないのか。「使えない」のならば数で攻めれば良い、しかし「使わない」のだとしたら最後の一手で切り替えされることも考えられる。
「あぁもう!! ファウスト! 美悠! お願い!!」
 長く悩める時間もない。
 「飛べない」「柔軟」そして「強気」。これらの要素と、そこから導いた戦術を ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)神矢 美悠(かみや・みゆう)の二人に手早く伝えた。
「十分だ」
「あぁ! 行くぜ!!」
 無謀とも暴論とも言える代物だったが、二人は疑いもせずにこれを信じ、そして駆け出した。
 まずは美悠クロッシュナーに加勢して、ベリアルとの斬り合いの中に飛び込んでゆく。
 美悠の武器は『カメハメハのハンドキャノン』なので直接斬り合う事は出来ないが、それでも後衛ぎみに位置しながらにクロッシュナーを援護することは出来る。
 涼子の援護射撃を合わせて、どうにか形勢を五分にまで戻した。そしてこのタイミングこそが彼女らの狙ったタイミング。
「しっかりな!!」
 美悠が『降霊』で召喚したフラワシがベリアルの太股めがけて飛び行きそして、纏わり頬ずりをしようとした直前で巨爪で裂かれた。
「今よ!!」
 巨爪で裂くために小さく跳んで上体を屈めた。次の瞬間、ファウストが背後から腕を回して羽交い締めにした。
「なっ……ちょっと!!」
「大人しくしてろ!」
 『軽身功』を駆使した身のこなしとスピード。そして何より空中にいては自由もきかない。その一瞬を逃さなかったファウストの勝利―――
「なんだぁ?!!」
 次の瞬間、ベリアルの右腕が輝き始めた。炎を操る術……『炎術』か『天の炎』か、それとも『さーちあんどですとろい』だろうか。
 何にしても―――
「ふっ!!」
 これが私のケジメです。
「おぉおおおおおおおお!!!」
 炎が具現化するより直前―――クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)ベリアルの額に封印符を貼り付けた。
「キ……貴様ぁあああああ!!!」
 溢れる光り、ベリアルの体も光りに包まれてゆく。
 契約者やマルドゥークに対し、自分に有利な約定を持ちかけ、そして脅した悪魔「ベリアル」。
 パイモン以上に狡猾だった彼女も、今ここに再び封印されたのだった。