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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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オーソン/ファーストクイーンの欠片


 かつて、ブラッディ・ディバインが本拠地としていたヴィマーナ内部。


「ここで待っていれば、来るんじゃないかなと思っていたよ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は言った。
 それまで眺めていた生体サーバー“アヌンナキ”の方から、ゆっくり振り返ると、そこには金髪の女が立っていた。
 女に見える。
 だが、それが真実の姿では無いことを天音は知っていた。
「お久しぶり、元ポータラカ人のオーソン。いや、ブラッディ・ディバイン、ルバートの古き友。それとも、ニビル、エンキの盟友……アヌンナキと呼んだほうが良いかな?」
『……よもや、この時代になって、その名で呼ばれることが来ようとはな』
「やはり、そういうことだったのか」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が天音を守るように、わずかアヌンナキと天音の間に体を差し込む形を取る。
「であるならば、最初に自身の生体サーバを乗せた船をブラッディ・ディバインに渡したのも納得がいく」
「エンキの手記を見たんだ」
『あの臆病者の?』
 アヌンナキは少し嘲笑ったようだった。
「手記には、君が数万年前の古代ニルヴァーナ人の研究成果から、何かしらの『真実』を得た、とあった」
『問いかければ答えると?
 このタイミングで、我が生体サーバーへ我が接触するだろうという考えは良かった。
 それが、我に僅かに残る、感傷に似たようなものを満たすだけの目的だったとはいえな。
 だが、神でも無いたかが地球人1人とパラミタ人1人、我がまともに相手をすると?』
「数万年前“原初に力”が消えた時――」
 天音はアヌンナキの言葉に構わず、続けた。
「ニルヴァーナとパラミタ、この2つの大陸はナラカに沈む筈だった」
『…………』
「しかし、古代ニルヴァーナ人はイアペトスとアトラスにシャクティ因子を用い、“原初の力”の代わりに2つの大陸を支えさせた。
 この2つの大陸は、滅びの運命に従わなかったんだ。
 アヌンナキ、君はそれをどう思ってる?」
 アヌンナキの目を見据えたまま、天音は微笑した顔をわずかに傾けた。
 金髪の女の造り物の目には、その姿が湾曲した形で写し出されていた。
 女はずっと前から瞬きをしていなかった。
 表情の無い口元が義務的に動く。
『私は、古代ニルヴァーナ人の記録から、“創造主たち”の存在と、このナラカ世界に課せられた役割と運命を知った。
 現状の世界は、正しき滅びと真の世界の否定された先に成り立っている。
 あるべき導べを既に失っており、イレギュラーな状態がもう何万年と続いているのだ。
 古代ニルヴァーナ人が愚かにも、自分たちが生き延びるため、“創造主たち”のシステムを否定したためにな』
「……パラミタ大陸で暗躍を覗かせる世界樹アールキングは、自らを“真の王”と名乗っている」
 生体サーバー『アヌンナキ』を背に天音は静かに零した。
 ブルーズがアヌンナキへと問いを向ける。
「アールキングだけでは無い。グランツ教のガーディアンやシャドウレイヤー……あれらにも、お前は関わっているのだろう?」
『目的を達するため、利害が一致した点があった。ちょっとした“縁”もある』
「ユリン、という少女も?」
『あれもまた縁ではあるかもしれない。“マニ”との相性は確かに良かったようだ』
 言って、アヌンナキが一つ、歩みを進めた。
「もっと多くの事が聞きたかったけど」
 天音は、警戒を強めたブルーズの肩に触れて、彼に「大丈夫だよ」と伝えた。
『ニビルと契約者たちの闘いは、じきに決着が着くだろう』
 ブルーズと天音の横を抜け、アヌンナキは生体サーバーへと触れた。
『私はニビルのことが昔から嫌いだった。
 稀代の天才として王宮付きへと重用され、ファーストクイーンの寵愛を受けた少年。
 だが、あのように狂うことが無ければ、この永く苦しみに満ちた時の中で分かり合える事もあっただろう』
「あるい、君が『真実』に屈服しなかったならば」
 天音は言った。
 アヌンナキは何も言わず、生体サーバーから何かを受け取ると姿を霧散させたのだった。




 ニルヴァーナ王宮。

 激しい戦闘がニルヴァーナの大地を揺るがし、王宮全体を震わせている。
振動で舞う埃の中で。
「愚かですわ」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は微笑んだ。
 その手には砂粒が握られている。
「自身が愛した者がもっとも大切とした地を崩壊させようだなんて……」
 綾瀬の中から“ヴィサルガ”の光がじわりと溢れ出す。
 ニルヴァーナのギフトに力を認められた者が宿す力だ。
 それと共に、彼女の傍らに居たフェニックスのアヴァターラが光に反応し、周囲の空間に共鳴し合うような波紋の波が幾つも広がり始めた。
「ましてや、自分の思い通りにならないから全てを滅ぼそうなどと、天才どころか只の我侭な子供」
「それが、気に入らないの?」
 漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)の問いかけに、綾瀬は口元を揺らした。
「見苦しいと思いますわ。
 でも、それだけじゃない――
 私は傍観者。
 今、世界が滅びてしまうのでは、少し物足りない」
 ヴィサルガとアヴァターラが呼応しあった光の波の数が増え、その動きは徐々に激しくなっていた。
 やがて、幾重にも重なる光の波紋の中から、ゆっくりとフェニックス“ギフト”が姿を表した。
 機械の大鳥は、その体に穏やかで熱の無い炎を湛えていた。
「鳥系ギフトの上位なる存在、フェニックス」
 綾瀬は握りこんでいた自身の手を広げ、王宮に散らばっていた砂粒ほどのそれらをフェニックスへ差し出しながら続けた。
「あなたならば、ほんの一瞬でも叶うと思ったのですわ。
 本物のファーストクイーン様に、自分勝手なクソガキを叱ってもらえるかと」