空京

校長室

選択の絆 第二回

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選択の絆 第二回

リアクション


【3】空、駆け抜ける者たち

 愛機アンシャールに乗って、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は戦場を駆け抜けた。
 メインパイロットは歌菜が務め、サブパイロットに羽純がいる。コクピットのモニターの隅には、お互いの顔が映し出され、二人はつねに連携を取りながらアンシャールを操った。
 左右には部下イコン二機がついている。部下イコンはアンシャールの動きに合わせて、常に左右への警戒を怠らなかった。
「……いきます」
 歌菜の歌声が、ゴーストイコンたちの足を止めた。
 しめた! すかさず羽純がアンシャールを動かし、双槍で敵を引き裂いた。部下イコン二機も続く。左右から迫っていたゴーストイコンを、ビームアサルトライフルの光が撃ち抜いた。
 ごおぉんっ! 爆発が起こった。が、まだ終わりじゃない。次々と、敵のイコンたちは生み出されていく。
「まったく、数だけは多いな」
 羽純はため息の混じった声で言った。
「はい、そこ、ぼやかない」
 歌菜がすぐに注意をうながした。
「まだまだ戦いは続くんだよ? ネフェルティティさんが女王になれるよう、私たちが道をつくらないと」
 歌菜に言われて、羽純はモニター越しに地上を見た。H部隊がつくった旧王都へと続く道を、ネフェルティティたちが走っている。地上用のイコンや、補給物資を積んだトラックに似せたカモフラージュ、それにどこからか飛んできたイコン用のマントなどで、一見すると、それがネフェルティティたちだとはわからなくなっていた。
 だが、それでもじっと目を凝らして注意すれば、どこかおかしいと気づくはずだ。それを避けるためにも、羽純たちは敵の注意をそらさないといけなかった。
「やれる? 羽純くん」
 歌菜が黙っている羽純を心配して訊いた。
「……もちろんだ」
 ほほ笑みながら、羽純は答えた。
 アンシャールは再び双槍をかまえた。次なる敵を求め、アンシャールは駆け抜けた。



 シュヴェルト13は迫りくるゴーストイコンや魔物たちを撃墜していた。
 パイロットはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)だった。サブパイロットにシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が乗っている。シュヴェルト13には部下イコン二機が配備されている。機体のコントロールはサビクに任せ、シリウスはそれら二機の小部隊の指揮を務めていた。
「うおおおぉぉぉ!」
 サビクが吼え、シュヴェルト13はデュランダルを振るった。
 ゴーストイコンや魔物が、次々と引き裂かれていく。高出力ビームサーベルの光は、敵イコンを物ともしなかった。
 シリウスに指示される部下イコンのプラヴァーたちも、サビクに続くよう、ライフルを撃ちまくった。爆発音がいくつも響く。デュランダルの光がきらめいたと思ったとき、シュヴェルト13は敵に迫っていた。
 が、いずれはそのエネルギーも尽きてくるだろう。限界に近づいてきたとき、サビクはヴィサルガ・プラナヴァハを使った。
「お願い……その力を解放して!」
 金属の腕輪の形をしているプラナヴァハは、サビクが願いを込めると光の粒子になって散った。
 瞬間、サビクの瞳に変化が起こった。まるで全ての時間が遅くなったようだ。それに、シュヴェルト13自体のエネルギーも自然回復し、起動速度が一気に増した。
 ごうっ! スピードをあげたシュヴェルト13は、ライフル、マシンガン、ビームサーベル、全ての武器を操り、次々と敵を撃破していった。その勢いは、まるで流星が駆け抜けるようだ。
「やるじゃん、サビク」
 シリウスは相棒の活躍に嬉しくなりながら言った。
 戦いは終わらない。まだまだ、これからだ。



 グランツ教のなんちゃらクイーンとかいう女王は、未来から来たという話だった。
 未来において世界を救ったから、信仰を集めてた。そんなところらしい。は! 嘘っぽい! 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は心のなかで笑った。
 それやったら、なんで過去にわざわざ介入してくるのか、ようわからん。それに、未来のグランツ教ってのが世界を手にした経緯が、今回みたいな脅迫まがいの方法だとしたら、それこそ胡散臭さは二倍増しだった。
 ズルっ子は気に食わん。なんてったって、ぽっと出なんやから。
「アルティメットクイーン……たいそうな名前じゃのぉ」
 バンデリジェーロのサブコクピットに座る讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)がつぶやいた。
 メインパイロットは泰輔だ。当然、サブパイロットは顕仁になる。
「いったい誰が名づけたんかのぉ」
「さあてね。そんなん、僕らが知るこっちゃないわ」
 泰輔はバンデリジェーロを動かし、敵ゴーストイコンに突っ込んだ。ソウルブレードとダブルビームサーベルが、敵を切り裂く。ずがぁんっ! と、背後で爆発が起こった。
 ルドルフ校長が任せてくれたいま、僕らが頑張るしかない。泰輔はそう思っていた。
 通信機を通じて、戦艦の艦橋から連絡があった。相手はランダム・ビアンコだ。敵の陣形と位置情報。それから、ネフェルティティとかいう先代女王の妹を連れ、旧王都に向かおうとしている理子たちの情報も受けとった。
「いくのかの?」
 顕仁が判断をあおぐようにたずねた。
 泰輔はにまっと笑ってうなずいた。
「当然や」



 無限 大吾(むげん・だいご)西表 アリカ(いりおもて・ありか)は、愛用のイコンアペイリアー・ヘーリオスに乗っていた。
 メインパイロットは大吾。サブパイロットにアリカだ。二機の部下イコンであるプラヴァーを連れ、アペイリアーは戦場を飛ぶ。
 目的は、ゴーストイコンと魔物たちの陽動、それに攪乱だった。命令では、「突っ込んで派手に暴れろ」とある。つまり、いつも通りぶっ倒せばいいってことだな? 大吾はそう理解した。
「アリカ、準備はいいか?」
「うん、もちろんだよ!」
 アリカはコクピットの操作盤をいじりながら言った。
「行くぞ!」
 大吾が叫び、アペイリアーは敵の間に突撃した。
 肩と脚部が開き、アヴァランチミサイルが発射された。無数のミサイルポッドは煙を吐き出しながら敵へぶつかり、爆発を起こす。ずごぉんっ! と、激しい爆風が巻き起こったところで、右手のビームアサルトライフル『エルブレイカー』と、左手のガトリングガン『ケルベロス』が放たれた。
 隙を突き、プラヴァー二機も援護した。アサルトライフルの光が、アペイリアーの周囲に光線を描いた。
 そして、アペイリアーは最後に大形ビームキャノンの『ノヴァブラスター』を発射した。巨大な光の光線が、一直線に魔物とゴーストイコンをのみ込んでいった。
 アペイリアーの周りに、ゴーストイコンの残骸が漂う。
「さぁ、来い! まだまだ……このアペイリアーが相手になるぞ!」
 大吾の叫びとともに、アペイリアーは次の敵へと立ちむかった。



 アルシェリアは戦場を駆け抜けた。
 乗っているのは佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)。それにアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)だった。メインパイロットはルーシェリア、サブパイロットがアルトリアだ。それに二機の部下イコンもついている。
 アルシェリアはその高い機動力と遠距離攻撃性能を活かし、戦場のさまざまな場所におもむいていた。
「ルーシェリア殿。サポートは自分に任せてくださいね」
 アルトリアが引き結んだ表情で言った。
「わかっているんですぅ。信用してるですぅ」
 ルーシェリアは独特の口調で話し、アルシェリアを動かしてライフルを発射した。
 ライフルに貫かれたゴーストイコンは爆発し、魔物は地上に落下していく。二機のプラヴァーもライフルを放ち、アルシェリアの部隊はさながらライフル隊だった。
 イコン部隊は、決して戦力が多いわけじゃない。だから、一点でも突破されれば負ける。ルーシェリアはそう考え、一箇所に留まらず、次の場所、次の場所と、各部隊の支援に回った。
 果たしてグランツ教が戴冠するのが正しいのか? いや、そんなことはきっとない。長く続いた国のトップは、だいたいは崇拝ではなく、尊敬を集めてきたものなんだから。ルーシェリアは、ネフェルティティに戴冠してもらいたかった。
「上手くいくことを、願ってるですぅ」
 ルーシェリアはつぶやいて、アルシェリアが持つライフルの引き金を引いた。



 及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)はイコンシルフィードに乗っていた。
 ミリアがメインパイロットを務め、翠はサブパイロットだ。もっとも、翠のコクピットにボタンやスイッチはなかったが。放っておくと勝手にいろいろなものをいじくるので、ミリアが撤廃したのだった。
 部下イコンの二機のプラヴァーが、後ろからついてくる。担当は狙撃。そしてサポート。先陣切って戦うシルフィードの支援を命じられていた。
 ミリアは遠くにのぞむ旧王都を見つめた。どうも、かなり複雑な話になってるらしい。ミリアはどちらの味方とも言えない。ただ、百合園の生徒として、しっかり役目をこなすだけだ。もし上手くいけば、グランツ教を出し抜いて欲しいとは思うが。
「ねーねー、お姉ちゃん」
 翠が通信を通じて声をかけてきた。
「ん−? なに?」
「やっぱり私の席って、スイッチ禁止なの?」
 落ち込んだように翠は言った。すこし同情を覚える。
 が、本当になにをしでかすかわからないのが、翠だ。ミリアは首を振った。
「悪いけど、禁止よ。こっちはいまそれどころじゃ……」
 いきなり、ゴーストイコンのライフルが飛んできた。
 かろうじて光を避け、ミリアはシルフィードを動かした。艦載用大型荷電粒子砲なんつー馬鹿でかい兵器を、ぶっ放す。光にのみ込まれた敵イコンは一斉に爆発した。
 もちろん、その隙に射程内に入ってくる敵もいる。が、それらはプラヴァーがライフルで撃破した。
 こっちにだってプライドはある。百合園生徒としても。シルフィードのパイロットとしても。
 シルフィードはゴーストイコン目がけ、スーパー・オリュンポスキャノンを発射した。