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リアクション
武雲嘩砕一日目〜残虐憲兵青木元中尉
「自分の値段を知りたいの〜! 将来の役に立てるの〜!」
「待てっ。クーの可愛さはプライスレスだ!」
アーライ・グーマ(あーらい・ぐーま)の必死の叫びも、クー・ポンポン(くー・ぽんぽん)には届いていなかった。小さな背はすぐに人ごみに飲まれて見えなくなった。
さて、自分はいったいいくらなのだろうか?
道端で「ボクを買ってみませんか〜?」と呼びかけたものの、あまり反応を得られなかったので、クーは残虐憲兵が仕切っているという人身売買所へ行ってみた。
五、六人でまとめて入れられている檻が六つほど並んでいる。それぞれには残虐憲兵の手下が見張りについていた。
檻の前では、ちょうど奴隷等を欲している金持ちやら何やらが、品定めをする目で捕虜達を見ていた。
檻の中の捕虜達は足に錘を付けられ、両手は手錠で拘束されていた。ずいぶん酷い扱いを受けているのはひとめでわかる。食事も満足に与えられていないようだ。
その見張りの一人にクーは声をかけた。
「ねえねえ、ボクならいくらくらいになると思う?」
「ああん? 何だお前、売られたいのか? ここにでも入ってな」
その手下はクーが子供だと油断したのか、もともと頭が鈍かったのか、クーを猫のように摘み上げると、近くの檻を開けると放り込んだ。
気づいた捕虜達から同情のため息がこぼれる。
けれど、クーは彼らにニッコリと笑顔を見せると、檻を掴んで道行く人へ呼びかけた。
「ボクを買いませんか〜?」
クーはメイド服を着ていた。脱がせない限りは女の子だと思われるだろう。
身形もボロボロの捕虜達の中で、小奇麗なクーは目立った。
たちまち人が集まってくる。
「この前の戦争で捕まえたようには見えませんな」
「最近攫ってきたのでしょう」
「それにしても、この年では労働力には使えないなぁ」
「あら、でもとても可愛いですわ。愛玩動物としてなら飼ってもいいんじゃないかしら」
「ペットですな」
残酷な会話が交わされるも、クーはニコニコして待っている。
「2000Gでどうですかな?」
クーはそっぽを向いた。
アーライに預けてある全財産より安い。話にならない。
「2500は?」
「3400は?」
ツーンとするクーに、徐々に値が上がっていく。
仕切っている残虐憲兵もこれに気づき、途中から近くで見物していた。見知らぬ者が売られていることに関しては何も言ってくる気配はなかった。人が集まっているから良しとしたのだろう。
最終的にクーの値段は8000000Gとなった。それ以上の値を出そうという者が出なかったからだ。
その金額を提示したのは、これでもかと金の装飾品を身につけた壮年の男だった。少し後ろには家族と思われる女と娘がいる。
小切手が残虐憲兵に手渡され、クーは檻から出された。
成金男の使用人が素早くクーの側に寄ったかと思うと、パチンと首輪をつける。リードの先は成金男に。
「屋敷に帰ったら、まずはしっかり洗って綺麗になってもらうぞ。それから消毒をして……」
ブツブツと続ける言葉をクーは全然聞いていなかった。自分の値段はわかったのだ。もう用は済んだ。
クーは人身売買所から充分な距離をとったことを確かめると、光精の指輪を使い、歩きながら頼りにしているシルエットを探す。
やがてかすかな駆動音が接近してきたかと思うと、空から声が降ってきた。
「おい、お前いいもの持ってるな! 私がもらってやろう、ヒャッハー!」
ググッと小型飛空艇が寄せてきて、成金男と家族、使用人は悲鳴を上げて地に這いつくばった。周囲の客達からも叫び声などが上がる。
その隙にクーは両腕を伸ばし、同じく手を伸ばしてきているアーライに捕まえてもらい、二人はそのまま上空へ逃げていったのだった。
その後、クーとアーライはどうしたかと言うと、ちゃっかり文化祭の市に戻ってきて、イーオン・アルカヌムの主催している宝くじを買えるだけ買い、残ったお金で食べ歩きを楽しんだのだった。
卍卍卍
クーを買った金持ちがどうなったかなど知らない人身売買所の客達は、掘り出し物があるぞと盛り上がった。
そんな中、次に目を付けられたのは
夏野 夢見(なつの・ゆめみ)だった。
脂ぎった肌をテカテカと光らせた肥満体の男が夢見に執着し、残虐憲兵もびっくりの巨額を提示したため、あっさり取引が成立したのだ。
檻から出された夢見は素晴らしい作り笑顔を男に向けた。
「あたし、お掃除もお炊事もお洗濯も何でもやります。お洋服の修繕も……」
「いやいや、そんなことはしなくていいのだよ」
「え? それでは……あ、夜のご奉仕、ですか?」
「いいや、それも必要ない」
首を振る男に夢見は戸惑った。
執事に説明を求めようとしたが、支払いの手続き中だ。
それならいったい何を求めて自分に大金を払ったのかと、首を傾げた夢見の手を男は肉付きの良い手で取り、撫でさする。
「お前は、私と一緒にいてそうして微笑んで話し相手になってくれればいい」
彼は人形を求めていたのだった。
納得した夢見は素直に「はい」と返事をすると、甘えるように男に擦り寄った。そして、男に抱きつくように腕を伸ばす。
このまま軽く首でも絞めてミツエのもとへ突き出そう、そう思ったのだが。
肥満のあまり男の首は脂肪に埋まっていて、どこが首なのかわからなくなっていた。
首はどこかな、と探しているうちに支払いを済ませた執事が戻ってきてしまった。
同時に大金を支払ってくれた客を見送るために、残虐憲兵がこちらを向く。
この残虐憲兵は青木といって、シャンバラ教導団の元中尉である。
その青木の視線を感じたとたん、夢見の体が硬直した。
元とはいえ自分より位が上の者が見ているということで、余計な緊張をしてしまったのだ。
これが軍人の悲しい性か、と教導団員の身を嘆くが、嘆いたところで事態が好転するはずもなく。このままでは目的も果たせずに肥満男の家に連行である。
早くあっち向け青木、と夢見が強く念じた時、
「そこまでよ!」
と、颯爽と現れた女二人があった。
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