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リアクション
〜支倉 遥の場合〜
支倉 遥(はせくら・はるか)達との対面が始まる少し前に曹操は本部に戻ってきた。
ミツエのいる天幕をくぐろうとした時、どこからか駆けてきたパラ実生に引き止められ、短冊型に四つ折にされた紙を渡された。
伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)からの手紙だという。
開けた曹操は、おもしろいものを見つけたように口角を吊り上げた。
先の二組の捕虜と同様にパラ実生に連れてこられた遥達。
遥の後ろを歩く正宗がヒョイと顔を覗かせると、三人の英霊を目に留めたとたん声を上げた。
「あなた方が魏の武皇帝、蜀の昭烈帝、呉の太祖でございますね?」
いきなり何を始めるのかとベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が落ち着かなくなる。
引率のパラ実生に止まれと指示された遥達が足を止める。
正宗が続けて言った。
「拙者、伊達藤次郎正宗と申す者。後世の者には『奥羽の独眼竜』などと呼ばれていたようですな。以後、お見知りおきを」
それから三英霊の辺りに目を走らせると、首を傾げた。
「火口殿はご不在でしたか。先日の下剤入り弁当の感想をお尋ねしたかったのですが……仕方ありませんね。──実は、本当は神経性の毒物や致死性の劇薬などでご賞味いただきたかったのですが、持ち合わせがありませんでして」
正宗の遊んでいるような言動に、食えない奴だと誰もが思った。
「して……」
と、苦く満ちた空気をさらに濃くするような声音で遥が言葉を発する。
「中国統一半ばで夭折したお三方はいらっしゃるようですが、ミツエ殿はどちらに?」
ざわり、と場がどよめいた。
遥の視線は目の前のミツエの向こう側を見渡すように遠くを見ている。
ピクリ、とミツエのこめかみが震えた。
遥は腕組みすると細くため息をつく。
「しかし、AAAカップの胸をそんなに揉みたいとは思いませんなぁ。実際、見ただけで目減りするんじゃないでしょうか」
どこかで小さく吹き出す声があったが、ミツエの鋭い視線で黙らされた。
遥はまったくとぼけた表情で、次に金鋭鋒の名を口に出した。
「そういえば、金鋭鋒は実は巨乳好きだとか……おっと、噂をすれば本人が現れるとかいう都市伝説があったんでしたっけ? 危ない危ない」
皇氣ではなく殺気が迸っているミツエに、さすがに見守っている場合ではないと思ったか、曹操が口を挟んだ。
「過ぎた言葉は身を滅ぼすことになるぞ」
遥が最終的に持って行きたい場に達する前に、ミツエが決定的な一言を言ってしまったら元も子もないだろうということである。
ミツエもそこまで感情任せではないが。
遥は一礼すると本題に入った。
「ご存知の通り、先の戦で私達は弁当に下剤を混ぜることに成功したわけですが、兵糧担当であった火口殿は曹操殿の配下とお伺いしていました。……警戒するよう開戦前に通達はされなかったので? 火口殿も知っていれば未然に防げていたはずですが、いかがか?」
「知ってたわよ」
と、静かに答えたのはミツエだった。怒り狂っていたようでも話はちゃんと聞いていたようだ。
ミツエは苦虫を噛み潰したような表情で、あの時敦に出していた指示内容を明かした。
「兵糧隊を狙って敵が攻撃を仕掛けてくるだろうと、わかってたわ。だから、外から攻撃してきた兵は討ち取ったでしょ。敦には、警戒していないように振舞えと言っておいたのよ」
「では、わざと私達に好きなようにさせていたと? 味方を潰してまで?」
「その辺はこっちの認識が甘かったのよ。あんた達の行動までは予測しきれなかった。もし本当に毒薬劇薬の類が使われていたら、もっと大変なことになってたと思うわ」
弁当を片っ端から食べた董卓も生きていたかどうか。
兵糧守備に関しては結果的にはうまく収まったが、悔しいことだらけのミツエだった。
ミツエ三国軍は誰に言われるまでもなく、まだまだ若い軍である。勢いはあるが足りないもののほうが多い。主に長年の経験からの知恵というやつが。
遥達にやられたことは、まさにそこを突いてきたことだった。
「ミツエ殿、この独眼竜を加えてはどうだろうか? きっと戦略の幅が広がるであろう」
「……そうね。そのこすい頭、役に立ちそうよね」
曹操の勧めに頷くも、さんざん虚仮にされたことが胸の内でくすぶっているのか、ミツエの言葉には棘があった。
「独眼竜の名は日本人なら誰でも知ってるんだろ。これで日本出身のパラ実生も盛り上がるな」
明るく言った孫権が、正宗達に「よろしくな」と笑顔を見せた。
多少は和やかになった空気に、ずっと心臓と胃をキリキリさせていたベアトリクスは、どっと疲れたのだった。
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