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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

リアクション

 大金が手に入る約束をしたご機嫌の曹操は、ふと通りの片隅で数人のゆる族がカードを出し合って遊びに興じている場面を目にしてミツエに尋ねた。
「カードゲームをやったことはあるか?」
「ないわ」
「あのカード、和希殿のカードだな」
「本当に? ねぇ、それちょっと見せて」
 ゆる族の輪の中に声をかけてカードを見せてもらうと、確かに和希の写真のカードだった。さらに他のも見てみれば、董卓や劉備のもある。
「これ、どこで買ったの?」
「『越美』っていう駄菓子屋だよ」
「ありがと。行ってみるわ」
 ミツエはカードを返すと教えられた店へと向かった。

 その駄菓子屋に着くなりミツエは陽光に反射する頭を指差して大声をあげた。
「やっぱりあんたねっ」
「あっ、ミツエ殿」
 椿 薫(つばき・かおる)がミツエの顔を見た瞬間、焦って何かを隠したように見えたが、ミツエには見えていなかった。
 ずんずんと薫の前に進み出たミツエは、ひなの推薦を受けたことを話した。
「今はもうあたしを使った変なゲームは売ってないのよね?」
「ええ、あれは全部リメイクしたでござる。売れる年齢層も幅が出たでござるよ。いや、その節はご迷惑をおかけしたでござる」
「調子のいいことを……。それと、カードゲーム、見たわよ。いつの間に作ったのよ」
「アハハ……。売り上げは献上するでござるよ」
「……売れてるの?」
 薫は大きく頷く。
 見た目はただの懐かしの駄菓子屋だが、いくらか追加で支払うと『ミツエ軍アイドル当たりつきブロマイド』を引かせてくれるのだ。カードは中が見えないように包まれているので、誰が当たるかは開けてからのお楽しみだ。
「それ、みんなの許可取ってるの?」
「和希殿はOKをくれたでござる」
「他は……?」
「……」
「あんた……後でフクロにされても知らないわよ……」
 とりあえず、ミツエを始め曹操、劉備、孫権は使用を許した。もし、前もってひなから薫の推薦を受けていなかったら、違う反応になっていたかもしれないが。
 ミツエはそのカードに興味を示し、一枚引かせてくれと薫に頼むと、彼はカードの入った大きな箱をミツエの前に置いた。おみくじのように引けばいいのだ。
 箱に手を突っ込んだミツエに、薫はハッと気づく。
 言われるままに出してしまったが、カードには『大当たり』もあるのだった!
 しかし今さら箱を引っ込めるわけにもいかず、ミツエのくじ運がないことをひたすら祈った。
 適当な一枚を引いたミツエは、袋の口を開けてカードの写真を見て──不審そうな顔をした。
 みんながカードを覗き込むと、そこには見たこともないような可愛い笑顔のミツエが。
「あたし、こんな顔したことあったかしら。……まぁいいわ。今日からあなたもあたし達の仲間よ。よろしくね。それじゃ、もう行くわね。がんばって稼いでね」
 多少は写真に気を良くしたのか、ミツエは店を去っていった。
 一行の後ろ姿を見送り、薫は安堵の息をつく。
「危ない危ない。修正前のCGがあるなんて知れたら、どうなることやら」
 最初の客には当たりカードを掴ませるという薫の戦略でだいぶ名の売れたこの駄菓子屋の客の半分は、不健全ブロマイドを引き当てるのが目的だったりする。
 ほんのお遊びで作った『おっぱい三国志』のせいで、死ぬまでミツエ軍から指名手配を受けるのはあまりに割に合わないので、ひなに掛け合って軍に加えてもらえるよう頼んだのだ。
 うまくいってよかった、の一言だった。
 後は文化祭が終わるまでどれだけ口コミでこの店のことが知れ渡り、商品が売れるかだった。

卍卍卍


 また、ミツエの知らないところでこんな噂も流れている。

『ミツエが中原制覇だか建国宣言だかする時、公約を果たすためストリップをするらしい』
『お触りOKだとか』

 これらの噂は二箇所から発信されていた。
 一つはシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の出している店だ。
 客に玩具の剣を持たせ、シグルズに一撃を与えられたら駄菓子などの景品がもらえるという遊びの出店である。
 カツン、と軽い音を立てて蛮族の青年の手から玩具の剣が落とされた。
「あんた強いなぁ。ちっとは手加減してくれよ」
「そんな余裕はなかったな」
 落ちた剣を拾う青年のぼやきにシグルズがそう答えれば、彼は少しだけ微笑んで肩をすくめた。
「はい、これは残念賞。ところで明日には建国宣言とかって話だな」
「ああ。いったいどんなふうになるんだか」
「脱ぐだの揉ませるだのと言ってるそうだが、中原制覇の後なんだろう。そんないつになるかわからない話で皆をズルズル引きずるはずもないから、もしかすると今日は一部前払いとかあったりしてな」
「チラッと見せる……とかか? 確かに、それくらいあったほうが盛り上がるだろうな」
 ニヤニヤしながら頷く青年。
 シグルズも人の悪い笑みを見せた。
「あんまり時間がかかってミツエがオバハンになってた、とかいうオチは目も当てられんからな」
「ハハハハ! 違いない!」
 おもしろい話をありがとう、と帰っていく青年。

 そしてもう一つは、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が立ち並ぶ店を覗いては店主と交わすこんな会話。
「ミツエがストリップ? ちーっと色気が足りねぇだろ」
 略奪してきた穀物類を高値で売っていたパラ実生に話すと、彼は豪快に笑い飛ばした。
「どうせ見るならもっとメリハリのある体の女が好みだな」
「最近はああいうのが好きだという奴も増えてるという話だ」
 アルツールの言葉にパラ実生は短く笑った。理解できない、というふうに。
「どんな建国宣言になるか見ものだな」
「まったくだ。おっと、商売の邪魔して悪かった。ちょっとおもしろい話だったんで誰かに話したかったんだ」
「いやいや、なかなか興味深い話だったぜ」
 友好的な雰囲気のままアルツールは彼と別れた。アルツールの格好が魔法学校生崩れの魔術師という怪しげなものだったから、パラ実生も気安さを覚えたのか。
 アルツールとシグルズでこんな噂を流すことにしたのは、ミツエの勢力が大きくなるのを嫌ってのことだった。
 結果は明日の建国宣言の時に出るだろう。