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リアクション
模擬店とはいえ念願のキャバクラ嬢として働くことのできた──しかも自分の店だ──川村 まりあ(かわむら・ )は、始終ニコニコしながら張り切っていた。
従業員には前回捕まえた駿河 北斗(するが・ほくと)とベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)、クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)がいる。
「まりあが捕まえた人だから、まりあが使ってもいいですよね?」
と言って、牢から出して連れてきてしまったのだ。
ベルフェンティータとクリムリッテはキャバ嬢に、北斗にはサクラになってもらった。
さらに今は、ミツエ目掛けて突進中の虹キリンにやられた不良達の手当てもしている。
有料で。
「クリムちゃん、火術のほうが好きなんだけどー」
「ちゃんとお給料払うから、ね?」
唇を尖らせるクリムリッテを宥めるまりあ。
治療を施されている不良は、火術と聞いてビクッと震えた。
「北斗、いい飲みっぷりね。見ていてすがすがしいわ。もう一本どう?」
「……」
意外と楽しんでいそうなベルフェンティータと、牢から出してもらったのはありがたいが、まさかこんなことになるとはという思いの北斗。
と、そこにのっそりと大きな男が入ってくる。
雰囲気を出すため天幕を借りて店舗としていた。
「ここかぁ? キャバクラ『ひまわり』ってのは」
「あっ、吉永先輩! いらっしゃいませ♪」
こちらへどうぞ、と吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)専用の大きな席へ案内するまりあ。
治療を終えたクリムリッテが水とおしぼりを持ってくる。
「火口敦からぶん取ってきたのか?」
やるじゃねぇか、とクリムリッテを見る竜司にまりあは舌を出して笑った。
「先輩、カラオケセットもあるんですよ。一曲どうですか?」
「オレの歌を聞きてぇのか。いいぜ。感動して泣くなよ」
♪オレは竜司 吉永竜司
人はオレを 美声の竜司と呼ぶ
オレの歌を聴いただけで 女は全員メロメロになる
岡山番長と対決した時の歌である。
竜司自身は自分の歌唱力を歌詞の通りだと思っているが、実際は警察が飛んでくるほどの騒音だった。知っているのはあの時あの場にいた者だけだが。
そんなわけで、北斗達は地面に這いつくばるようなダメージを食らったわけだが、ナンバーワンキャバ嬢を目指すまりあだけは変わらない笑顔で歌い終えた竜司に拍手を送っていた。
「先輩の歌、初めて聴けて感激です。喉渇いてませんか?」
と、キマクビールを差し出す。
一気に飲み干した竜司は、
「今日は喉の調子が良かったな」
と呟くと席を立った。
「そろそろ行くぜ。キリンがオレを待ってるんでな。あれはオレのために来たんだ……グヘヘヘ」
アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)に、
「麒麟は良き四天王の出現を祝福して現れる。だから捕まえておくと良い」
と吹き込まれ、すっかりその気になった竜司はこれから虹キリン捕獲に出向くのだ。
うまくいくように、とまりあは代金をビール一杯分サービスして竜司を送り出した。
「すげぇ声……」
まるで車酔いにあったような顔色で北斗がこぼした時、まりあの携帯が鳴った。
話し声から察するに、これからミツエ達が来るらしい。
北斗とベフェンティータは目配せを交わす。
話し終えたまりあに北斗がそっと切り出した。
「あのよ、ミツエが来るってんなら悪ィけど俺達……」
「あ、別にいいですよォ。働いてもらいましたし。でも、今日一日はまりあのために働いてくださいね」
行くな、と言われるかと思いきや、あっさりと逃亡を認めたまりあに北斗はきょとんとした後、ホッとしたように表情を緩めた。しかし、今日はここにいろとは? ミツエに見つかったら面倒だ。
「もうすぐ来ますから、あっちの裏口から出て隠れててください。逃げたらチクりますから」
「しっかりしてることで……」
けれど、まりあは口にしたことは守るだろう。
北斗達は裏口から外に出て、ミツエ達をやり過ごすことにした。
それから一分もしないうちにミツエ達が『ひまわり』を訪れた。数人のパラ実生の女子を連れて。
ミツエ達にくっついて来た女の子達は、ここの噂を聞いて自分達もキャバ嬢として働いてみたいという者達だった。
ちょうど人手が減ってしまったところだったので、まりあは彼女達を歓迎した。
制服で接客をするまりあを不思議そうに見るミツエに、そのわけを話す。
「まりあ、お金ないからキャバ嬢ドレスないんで、制服キャバクラなんです」
「そうだったの。今日生まれるあたしの国と同じね。大丈夫よ、国が豊かになればキャバ嬢ドレスだって好きなだけ揃えられるわ!」
ちょうど昼時だったこともあり、ミツエ達はここで昼食にすることになった。
一通り食べ終わり、デザートをつついているミツエにまりあが尋ねる。
「ところで、メールの彼って誰なんですかー?」
意表を突く質問に、ミツエは軽くむせる。
目をキラキラさせて返事を待つまりあに、ミツエは少し照れくさそうにうつむいた答えた。
「た……達也さんって言うの。パートナーを探すのに荒野を放浪してた時にメール交換を始めて……今でもたまにメールしてるだけよ」
やや早口な様子にまりあは羨ましそうにため息をつく。
「達也さんですか。いいなぁ……まりあも朱黎明先輩のアドレス知りたいです」
「朱黎明って……」
彼は今、敦が番をしている牢にいるはずだ。
北斗を出す時に聞ければ良かったのだが、敦が人を呼ぶ前に立ち去りたかったので聞けずじまいだったのだ。
少し考えた後、ミツエが言った。
「後で処遇を決める時に聞いておくわ」
「ありがとうっ」
まりあは手を打って喜んだ。
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