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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 最終回
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よみがえれ金剛


 ドージェが中国からパラミタへ投げ飛ばしたという空母『金剛』。
 それを、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は『ドージェの威光』と呼んだ。
 今、金剛に旧生徒会の勢力の者はいない。
 居残ったナガンはこの金剛を使ってクローン・ドージェを討ち、ついでにミツエ軍の空母にしてしまおうとたくらんだ。
 このことを夢野 久(ゆめの・ひさし)に話すと、彼はさっそく資材と手勢を集めに行った。
 久から話を聞いた佐野 豊実(さの・とよみ)は、配下に金剛の現状を調べさせた後、考え込むように腕組みして言った。
「壊れたのは主に内部だね。それと外装。内側からの爆発で穴だらけだ」
 修理をしようなど、どだい無理だったのかと配下達から落胆の声があがる。
 豊実は小さく唸ると、ぽつぽつと案を口にした。
「前のように動けるようにするのが難しかった時は、人力で押して動かす……巨獣はあてにならないしね」
 金剛を牽く二頭の巨獣は剛次のパートナーで、基本的に彼の言うことしか聞かない。
 脚を川に浸した巨獣は、剛次が行った方向をじっと見やっている。
 人力、という言葉に配下達は唖然とした。
 豊実は彼らの間抜けな顔を朗らかに笑い飛ばす。
「ははは、まったくもって狂気の沙汰だ」
「笑い事じゃねぇっすよ」
「ぼやくなぼやくな。そこが面白いんじゃないか。ん?」
 人力で空母を動かすなんて前人未到の領域だ、と目を輝かせる豊実に、やがて配下達もそれを想像して顔つきを変えてきた。
 と、そこにナガンの配下が高らかに声をあげた。
「ドージェの威光を放置する気か!」
「ドージェの偽者を野放しにするつもりか? それでも神として崇めているつもりか!」
 黙って話を聞いていた久も大きく頷いている。
 躊躇いを覚えていた者達もしだいに彼らの声に傾き始めた。
「よし、まずは資材集めだ! 木材でも鉄材でも、いっそ粘土でもいい! とにかくかき集めてくるんだ! 急げ!」
 手をたたいて豊実が急かすと、配下達は応の声と共にそれぞれ散っていった。
 材料が集まるまでしばらく時間がかかるだろう。
 その間に久は、どうにか巨獣と意思の疎通をはかれないか試してみることにした。
 小型飛空艇に乗り込み、巨獣の顔の前まで上昇する。
 久はビーストマスターとしてそれなりに経験を積んでいる。それでも、こんな巨獣と接するのは初めてだ。
「なあ、ちょっとだけ協力してほしいんだけどよ……」
 巨獣は久が目に入っていないのか、それとも興味がないのか見向きもしない。
 久と巨獣の静かな戦いが始まった。

 万単位の配下を資材集めに散らした豊実の狙い通り、しばらく後に彼らはいったいどこからかき集めて来たのか、というほどの鉄板やらベニヤ板やらを運び込んできたのだった。
「やればできるじゃないか」
 豊実は笑うが、中には用途不明のものや怪しげな煙を噴いているものなどもある。
 それはともかくとして、配下が出払っている間に金剛の内部も少し見て回った豊実は、内側の電気系統の修理は無理、と判断せざるを得なかった。複雑な構造など専門家でもないのにわかるはずもなく。また、それほどまでに破壊されていたというのもある。
 なので、修理は外側のみになり、金剛を動かすのは久にがんばってもらうか、最終手段の『手押し』になると思われた。
 豊実の指示で手分けして修理にあたるパラ実生達を、空飛ぶ箒に乗ったルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が応援して回っている。
「みんなはドージェ様が好きかー!? 好きなら働けー!」
 火龍の杖を振りかざし、風になびく金髪は太陽の光を受けて透き通るようなきらめきを見せている。
 近くを通り過ぎた時は、ふわりといい匂いがした。
「今こそ信仰心が試される時よ! あんな偽物をのさばらせてたら、神は間違いなくお怒りになられるわ!」
 やや芝居がかったふうに声を張り上げれば、パラ実生達から「ドージェ様!」という叫びが返ってきた。
 縄梯子を足がかりに命綱でぶらさがり船体の穴をふさぐ者、甲板のめくれた板を新しいものに張り替える者、戦闘で出た残骸を片付ける者、ルルールは全員に声が届くように箒で駆け巡る。
 時間が過ぎ、疲れが出てくる頃になれば、お茶やおしぼりを運んで元気付けた。
 特にがんばっていた人には、サービスで『ほっぺにチュー』もしたりで一時騒然となったりもした。
 ふだん、久も豊実もルルールのスキンシップへの反応は淡白なので、彼らの反応に気を良くした彼女は、巨獣と見詰め合ったまま動かない久のところまでこのことを自慢しに行った。
「久も疲れたでしょ。私がやさしく癒してあ・げ……イタッ」
「おまえ、まだ不埒なことやってたな? やってただろ!?」
「やってないわよ。みんな喜んでたし元気になったし」
「……だったらおまえも修理に参加しとけ。俺は忙しい」
「うふふ。がんばって愛を育んでね。恋に発展しても……イタイイタイッ」
 頬をつねられたルルールは、舌を出して下りていってしまった。
 その後、ルルールは日用大工セットで直せる範囲の修復を手伝った

 その様子をだいぶ離れたところから監視するように見ている女が一人。
「性懲りもなく金剛を復活させる気っスね。そうはさせないっス!」
 手のひらに拳を打ちつけたサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は、金剛へと駆けていった。
 そして、遠目では実感できなかったが、金剛で働く人の多さにサレンは絶句した。
 潜入しやすいように配下は置いて単独でやって来たのだが、確かに艦内に入り込むのは簡単そうだが、ひと暴れするのは難しそうだ。すぐに取り押さえられてしまうだろう。
「だからって、これを放置はできないっスよね」
 決意を固め、サレンは人の出入りの激しい金剛へ忍び込んだ。
 と言っても、川岸に架けられた橋を堂々と渡ったのだが。みんな修理に夢中で人が一人入ったことなど気にしなかったのだ。サレンも当然のように入ってきたのでなおさら怪しむ者はいなかった。
 確かに怪しむ者はいなかったが。
「おぅ、手伝いに来てくれたのかぃ?」
 親しげに声をかけてくる者はいた。
 修理の様子を見ていたナガンだ。
 サレンはハッとして身構えた。
「ナガンさん、まだ旧生徒会に味方してるっスか」
「うん?」
「こんなもの修理してどうするつもりっスか? 新生徒会にこんな物騒なものはいらないっスよ!」
「おいおい、この金剛はドージェの威光だぜ。それを放置なんてできるかよ。……いいか、こいつをあの偽物にぶつけてやるのさ」
 人の悪い笑みで言ったナガンに、サレンは混乱したように眉を寄せ、考えた。
 しかし、考えてもよくわからなかったので、どういうことなのか尋ねることにした。
 簡単な説明を受けたサレンは目標を失ったことに唸ったが、すぐにそれを飲み込みナガンや久の計画に乗ったのだった。