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リアクション
第三章 大奥茶会3
大奥の中庭では色とりどりの花、日傘、敷き布が庭に並べられ、着々と準備が進められている。
タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)は欠伸をする。
「こうやってお団子食べて暮らす生活が一番なのに、大奥ってとこは何やら大変ですねえ」
「何、他人事みたいに言ってるの。あんたが玉の輿に乗れば、ビックチャンスなんだから、今のうちに将軍とお知り合いになるのよ!」
今回の茶菓子を献品した『ふわふわ』店主、氷見 雅(ひみ・みやび)は搬入作業にてんてこまいだ。
「……ワタシはお団子屋のほうがいいです」
雅の思いも空しく、タンタンは売り物の団子を片っ端から平らげていた。
そのころ、別の廊下で声が上がった。
「あー、もう何でこんなに広いの?」
竹中 姫華(たけなか・ひめか)と鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)である。
彼女たちは大奥で迷い、急ぎ出口を目指していた。
「ねー、姫ちゃん。大奥って大きい奥さんのことでしょう? どこにいるのかなー?」
「またそんなこといって……もし君が本当は男のコだってバレたら、打ち首だよ」
氷雨の手を引きながらすでに涙目の姫華。氷雨がふいに声を上げる。
「あ、姫ちゃん。あの男の人に聞けば良いよ」
氷雨が指差した先には、侍従や女官をぞろぞろ引き連れた若い男の姿がある。
「あの、出口って何処にありますか?」
「出口か。知る者なら分かる。が、これから庭で茶会だ。後で案内させてやってもよいが……」
「お茶会?お菓子? わぁ、ボク食べもの持ってるよ。おいしいよ!」
そういって、デローン丼なるものを差し出す氷雨。
「いけないわ、将軍様! その得体の知れないものはあたしがお毒見を!」
リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)はすっと間に入った。
「毒なんて入ってないもん」と、むくれる氷雨に、なだめる姫華。
一触即発の気配漂う中、太鼓の音が鳴った。
「上様のお成ーりー!」
小姓の掛け声に合わせて、着飾った人々が一斉に両手を床につけた。
豪華絢爛に装った茶席に美しい姫君が将軍を迎える。
彼女たちを見たものは皆、ほうとため息をついた。
瑞穂睦姫は金の巻き髪に翡翠と金でできた蝶の髪飾りを刺し、藍色に浮かぶ金魚の絵取りをした豪華な色打掛。
葦原房姫は鼈甲に赤い房を付けた装飾を長い黒髪に、緋色に宝珠の文様を縫い取った手の込んだ打掛であった。
すでに女の戦いは始まっている。
「お二人とも本気だ。ティファニーも負けておれんデス」
姫たちに負けまいと意気込むティファニーだったが、着物の裾を踏んで転んだ。
「まったくしょうがねえな、ティファニーちゃんは。慣れない事はするなよ」
「あれ、隼人。どうしてここに? 大奥によく入れたネ」
風祭 隼人(かざまつり・はやと)は彼女を助けおこし、着物から砂を払ってやる。
ホウ統 士元(ほうとう・しげん)がかわりに答えた。
「通常は無理ですけど、茶会でティファニーちゃんの警備ってことで特別に入れてもらったんです。上級女官になればそういうことができるらしい」
「ということは、ティファニーは結構、大奥で認められてるって事デスネ」
ふふふと機嫌の良くなったティファニーに、彼女に添い女官を志願したアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)はため息をついた。
「ティファニーは葦原明倫館の分校長だから、房姫様が口添えしてくださったんでしょう。でもこれが、瑞穂に葦原の勢力拡大と思われるとやっかいだわ」
そのとき使い魔から士元宛てにメールが入った。
添付された写真には天狗らしきものが写っている。
「まさか賊がこの茶会に忍び入ったのか? どこに?」
四人は当たりを見渡す。
卍卍卍
そのころ瑞穂睦姫の茶席では、
「アンタが睦姫か」
睦姫が驚いて声の主を探すと、物陰に居た
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がいた。
彼は用心深く周囲に誰も居ないかを伺っている。
睦姫はお付の女官を身代わりにし、さっと物陰に入った。
唯斗はささやく。
「望むのなら、アンタを守ってやる。ここにいるエクスを置いてやってもいい」
剣の花嫁
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がかしづいた。
「あなたの望みは何?」
「別に……ただ将軍家もアンタも泣かせたくないだけだ」
睦姫の問いに唯斗はそう答えた。
紫月 睡蓮(しづき・すいれん)も頷いている。
「でも、あなた葦原の人間よね」
睦姫はちょっと首をかしげている。
彼女は袂から葦原の紋が入った小柄(こづか)を手渡した。
「これは?」
「これからある者によるちょっとした騒ぎが起きるから、この小柄をその者の真下に落としてきて頂戴」
「それだけでいいのか?」
「ええ、それだけでいいわ。でも、誰にも見られては駄目よ」
睦姫はにこり微笑んだ。
卍卍卍
芦原房姫の茶席では、
「明倫館分校の様子はどうでしたか」
房姫の問いに、
透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が静かに答える。
「璃央……からの報告では、瑞穂藩士が現れたとのこと」
透玻はパートナーの
璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)を分校に待機させ、逐一報告させていた。
「そうですか。瑞穂藩士はなぜ……」
「鬼鎧、じゃないかしら?」
水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が呟く。
彼女は托卵目的じゃなく鬼鎧の情報収集が目的で大奥入りしていた。
天津 麻羅(あまつ・まら)も同様だ。
「房姫様は何かご存じないの? 私は葦原にも将軍家にも、托卵以外に鬼鎧が重要だと思うんだけど」
房姫は托卵という言葉にちょっと顔を赤らめた。
「確かに将軍家は近いうちに鬼鎧が必要と思い、葦原の力を求めたのでしょう。でも……」
房姫は悲しげに目を伏せた。
「私はまだ、貞継様にきちんとお会いしてないのです。誠に何を考えておられるかはわかりませんから」
遠く将軍の影を見てため息をついた。
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