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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第八章 ミロクシャ方面争乱

 
 
廃都群
 
 コンロンのかつての首都・ミロクシャ。その周辺にあって栄えた都も今はすべて廃墟となってしまっている。ここは廃都群の西の外れ、ドージェ寺院跡。ミロクシャの方角、東の空が赤く、燃えているのだが……
「夜盗のやつら。火を放った、か」
 激しい炎らしく、また、そう遠くもないそこから、火の粉がここにまで空の上を舞ってくるのだった。
「ヒャ、ヒャハ……」「そ、総長!」「どうしやす?!」
「おう。落ち着け。いいかよく聞け。――」
「鉄心殿」「この事態、いかに?」「それに、追われているという者たちは?」
「うむ。――」
 ここに対峙していたパラ実・教導団両陣営、ざわつき始める。そんな中、両陣営間にあるこの者らは……
 縄のかけられたままの騎凛 セイカ(きりん・せいか)。向かい合う朝霧 垂(あさぎり・しづり)国頭 武尊(くにがみ・たける)
「このオレが、第四師団の傭兵に? 騎凛と一緒に旅を続ける、だと?」
「ああ。その前に、まずはセイカを解放してやってくれないか。こんな状況で縛ったままじゃお互いに不便だろ。」
「いいだろう。ほら騎凛先生」
「あぁ、はぁ……」
 騎凛の縄を解き、再び朝霧と向き合う国頭。
 パラ実勢を従えどんと後ろに控える夢野 久(ゆめの・ひさし)総長からすれば「……いや、現在進行形で教導団としてコンロンでバリバリ軍事活動しながら、『教導団とパラ実じゃない』『同じシャンバラの民』とか言われても正直困る。何を言ってるんだお前らは……」そう思いつつも、久は国頭のことは国頭にと判断を委ねることにする。
 久多 隆光(くた・たかみつ)は朝霧のやや後方で、国頭の反応を待って苛々している様子だ。
「ぐぬぬぬ……納得いかねぇ。納得いかねぇが、ここは納得するしかない。下手に俺の感情を優先させるよりは、ここは軍人としてだな。冷静に判断するべきなんだ。冷静にな……」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、そんな久多を横目に見つつ、彼自身は現在の状況を冷静に判断している。
「僕たちの無断通行に対する警告が師団長拉致であったなら、その非礼はパラ実の人たちに詫びたつもりだけれど、それは挨拶なしにキマクを通ろうとしたことに関して、だ。
 強引な形で、騎凛先生の引き渡しを求めるのは、また別の事になると思う……現在、師団長がパラ実の方たちの手にあるのは、不当なこと。だけれど、力ずくで奪還しようというのでは、僕たちも、師団長が力ずくで浚われた事を批難できなくなってしまう」
「っ、ああ冷静になれるかッ落ち着けるかッ! あーちくしょー……だが、仲間のためだ。ここで俺が発砲でもしたら、仲間の計画が全てパーだ。クールになれ、俺。冷静になれ、俺」
 なお落ち着かない様子の久多を見やり、トマスは――失礼ですが、久多先輩は私情にも駆られて師団長の身柄の、パラ実(国頭さん)からの引き渡しを要求されているよう。僕たち第四師団が、この地に派遣された理由は当地軍閥より救援要請があったからです。そして今、入ってきている情報によると……
 赤く燃えている空の下。帝国の龍騎士に率いられた夜盗勢が、軍閥の敗兵を、嬲るように殺している、という。
 今は、考えるのはここまで。「今」僕たちが行動しなければならないことは何か。トマスは、東の方に目を移す。追われている敗兵が、僕たちを頼ってきた軍閥の方たちだったら? そして少なくとも他方の夜盗というのはコンロンの軍閥ではない。ならば。
「師団長も、教導団員としての優先順位の付け方は理解くださいます。……それでも尚、騎凛先生の居場所に拘ってしか行動できないなら、僕のような若輩者から見ても、久多先輩、貴方は……」
「久多殿も、今は抑えて」 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が出る。
「あ、ああ。……大丈夫だ。俺は」
 魯粛はふっと涼やかに笑い、トマスもほっとしたように思う。魯粛はそのまま続けて、「夢野殿、国頭殿、「たまたま」夜盗たちが火を放って暴れ回っている、ドージェ殿の聖地……ドージェ殿を慕う方々にとっての聖地を、出しゃばって守ってしまうようになりましても、平に御容赦」追われている兵が、我々を頼ってくださった軍閥の方なら、目の前にして見捨てるわけには参りません、と。続いてテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)も「龍騎士に率いられた夜盗が襲っているのが、どの軍閥の敗残兵かは未確認だけど、一方的な殺戮に火付けは見過ごせねぇ」と言う。ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)にしてみれば、「男の子たちって何故、ときどきこんなに不必要なまでに理屈っぽいのかしら? 教導団の任務を思い出せば自然と行動できる筈なのに」と思うのだが。
 騎狼部隊を率いる源 鉄心(みなもと・てっしん)の傍らからはティー・ティー(てぃー・てぃー)が、「勝手に戦争を始めるわけには……でも、放っておくわけにもいかないです。何とか、助けられるだけ助けたいです。鉄心……」
 鉄心も頷く。鉄心はすでに騎狼部隊の編成を整えている。教導団側のとるべき行動は決まった。
「俺も、同じだ」朝霧は言う。「旧軍閥の連中が襲われてるんじゃ放っておけないし、ここがドージェの修行をしていた地というのなら、俺もこの地を守りたい。ドージェはシャンバラを守ってくれた英雄だからな……龍騎士は俺が止める!」
「わかった。朝霧 垂、さっきの君の申し出は受けよう。騎凛の傭兵として旅をしてやる」国頭はそう返答を下した。が、「しかし、無条件ではない、色々注文はつけさせてもらうぜ。
 まず教導連中の同行は断る。ぞろぞろついてこられた挙げ句、騎凛を連れて逃げられちゃ洒落にならねえからな。久多も、いいな?」
「あ、ああ。そうだ、セイカのためにも俺は耐えるぜ……おう」
 縄を解かれたばかりの騎凛はまだ地に膝をつきつつ、国頭を見上げ「しかし、それでは……」と言うが、国頭は、
「何か文句あるのか、騎凛先生。だったら、おい」
「ヒャッハー!」一人残る国頭の手勢は、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)を取り出して縄と猿轡を解いた。「あぁん! 乱暴にしないでよ!」「ヒャ、ヒャハ……ぽっ」
「そいつだけ連れていく。なら、文句はないだろう」
「ええ、で、ですけどそれじゃちょっと……」
「きりんてんてー、あたしじゃ不満なわけ!」「だって、さっきまで一緒に捕われて……これじゃまた連行されていくようなものじゃないですか」
「ちっ。色々、うるせぇな。いいか、それに行き先の決定権もオレにあるからな。
 ボーローキョーへ行く」
 ボーローキョー、か。朝霧も、久らも、国頭の決定に頷いた。
「セイカ。今は国頭を信じていい」朝霧は、 ボーローキョー方面なら、無論あちらにも危険は潜んでいるだろうが、ひとまずはこの危急の事態からは騎凛を遠ざけることになる、と思った。
「パラ実の方たちに、僕ら教導団のまことの義を見せよう! 国頭さん、お話しさせて頂くのはもっと後です! 生きていれば!」トマスは言う。
「セイカを頼む。任せたぞ、国頭」久多も、国頭にこの台詞を言うことになるとはと思いつつも、委ねる。鉄心も、ひとまずはこれで信頼できると踏んでいるようだ。「師団長の身柄を、トマスが国頭に任せたままにしといていいと判断したなら俺は納得だ。手諦めはしないが、諍いの元は今俺たちの手の中にはない。猫と、そのパートナーがどんなタマなのか、俺の方からだって値踏みしてやらぁ」とは、テノーリオ。
「わかりました。皆さん、一緒に行けなくてごめんなさい。どうか、軍閥の方々を救ってあげて。
 私は、国頭さんとこの機会にボーローキョーをしっかり見てきます。国頭さん、よろしくお願いします。私に何かしようものなら今度はナギナタ食らわせます」
「何か……騎凛先生相手に何をするわけもないだろ」
 そこへ、寺院跡の物陰から恐る恐るな様子でこちらへ駆けて来る者。
「あれは?」
 騎狼部隊に同行し、国頭に備えていたイルミンスールのミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)
「アタシが、行くよ。ねぇ、ルイーゼ?」
 後ろに、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)そしてルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)も続く。
「うん。国頭くんが騎凛先生に手を出すような真似をしないか、見張っとく必要があるからね」
「だからそれはないと……」
「騎凛先生、大丈夫?」「ありがとうございます」ミレイユは捕縛の痕が赤く残らないようにとクリームを取り出した。
「いいでしょう、国頭さん? アタシなら教導団員じゃないし」
「なんだ、目的は」
「そりゃ、騎凛先生を守ってあげなきゃと思ったからね。シェイドくん?」
 シェイドは、そう言うルイーゼの目をじっと見るが、そうだと頷いた。
「まあ、いいだろう。しかし、これ以上はだめだ」
 国頭は最後に久の方を向いて、「亡霊どもを何とかしなけりゃ、分校の立ち上げも危うくなるからな」と頷き合い、「騎凛先生、同行者ども、そのためには協力してもらうぞ。
 あとは道すがら、教導連中に遭遇した際に俺の立場が危うくならないよう、騎凛に地位でも要求させてもらうかな。じゃあな」
 久は、国頭を見送ると火の手の上がる東に目を移す。ケジメはつけなきゃならねえ……!
 教導団の騎狼部隊は、廃都群の東に向けてすでに隊を発たせた。鉄心が手を上げ、指揮を振るう。「騎凛教官。どうかご無事で」
「さぁーって、と決まれば後は仕事だ仕事。さくっとやってさくっと終らせて、無事で済ませるのさ」久多はその後尾についていく。
 朝霧は、ワイバーンにまたがった。ボーローキョー方面へと去っていく去っていく国頭らの上を旋回し……
「セイカ。戻ったら大切な話があるんだ……聞いてくれるか?」
「垂……?」