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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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廃都群の戦い
 
「私は教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)!」高らかに名乗りを上げた。「ご高名な龍騎士殿に一騎打ちを所望したい!」
 廃都群の東に集結した旧軍閥残党を蹴散らしていた夜盗勢のど真ん中を、バイクで突き抜けてきた。真っ先にこの場所に到着したのは先立って向かっていた琳 鳳明。夜盗らに上から指示を出している龍騎士を見つけるやそのままバイクで直進してきた。
「何〜」「何だ、何奴だ?」「教導団だと……」夜盗らが琳の周囲を囲みつつある。
 後方では、この「時間稼ぎのアイディア」を琳に授けた張本人たるセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が見守る。「まだ鳳明にはこの一騎打ちは荷が重いかもしれませんが、引き際さえ見誤らなければ何とかなるはず……。頃合を見てこちらから合図を出しましょうか」
「何。一騎打ちだと? 貴様何者だ。一兵卒が、この龍騎士様と一騎打ちだと抜かすか?」「……」一人は豪勢に笑い、一人は無言だ。下りてくるような気配はない。「たれか、こやつを討ち取れい!」
 琳は、龍騎士に向かい言葉を発し続けた。「私は……花音特戦隊の手帳に記載されている……」何でもいい、この口上も時間稼ぎの一部……。龍騎士の誉など相手の自尊心をくすぐる単語を交えつつ。
 龍騎士の一人の笑いが止まっていた。もう一人は、無言のままだ。だが、手を柄に置いた。何か、話しているようだ。どちらが来る……
 また、このとき、周囲の夜盗たちがややざわつき始めていた。「龍騎士にいいとこ見せても自分たちの手柄にならん……」「手柄以前に、先陣に立って勝てる見込みのない契約者に戦いを挑んで死ぬのはごめんだ……」
 夜盗の中に紛れて可能な限りの手を尽くした、藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)。「鳳明。やれるこだけのことはやったよ」
 琳はセラフィーナから受け取った光条兵器を構えた。それは穂先が棒状の長槍。
「小賢しい策を弄しおって」笑いを抑えた方の龍騎士が琳のものと同じかさらに長い槍を高く掲げた。「小娘、オレが相手だ!」
 そこへ……
「見えてきた! 垂!」
「ああ。琳 鳳明……無茶して。時間を稼ごうってのか」
 ワイバーンに乗ってきた朝霧 垂とそれに続くパートナーたち。「二体同時には自殺行為みたいなもんだから、一体を確実に、と思っていたところだ。なるほど琳、一騎打ちを所望したのだな。なら、もう一体を俺が……」「ようし、ほら垂、チャージブレイク、パワーブレス、鬼神力!」「先の先も忘れちゃだめだよっ」
 槍を掲げた龍騎士を、今一方の龍騎士が制した。「……」「ぬう。オマエが行くか。いいだろう」一体が、剣を抜いて琳のもとへゆっくりと降下していく。
 槍を持った龍騎士は、夜盗を収拾し始めた。「何をやっている! 敵の策に乗るな! 早く、残党を皆狩ってしまえい! 首の数だけ、手柄は増えるのだぞ! ぬう? 誰、だ……ッ!!」
 あらゆる術をもって攻撃力を高め、神速をもって龍騎士を捕捉した朝霧。歴戦の必殺術を重ねたその疾風突きが龍騎士を襲った。神速で近づかれ一気に破壊的な打撃を食らった龍騎士は何が起こったのか理解しきれぬまま鎧ごと砕かれ飛龍もろとも吹っ飛んでいく。
「……」琳の元へ降下していた一体は思わず振り返った。そのとき、別方向から加速ブースターで近づいてきた夜霧 朔(よぎり・さく)がその飛龍を狙ってワイヤークローを連続で撃ち込む。そこへ朝霧 栞(あさぎり・しおり)が奈落の鉄鎖で負荷を加えた。飛龍ごと、落下していく。
 琳は思わぬ急展開に、一瞬戸惑ったが、倒れた飛龍の下から龍騎士が這い上がってくるのを見て、構え直した。六連ミサイルポッドを繰り出そうとする朔を制し、琳は、
「私だってたまには派手に、戦うよっ」
「……」龍騎士は無傷らしく、一切怯むことなく剣を構えて向かい合う。
 地上での一対一。これなら? ……
「な、何?!」
 上方では、吹っ飛んだ龍騎士が飛龍を立て直し、朝霧の方に近づいてくる。飛龍への打撃は確かに少なかったかもしれないが、龍騎士は致命傷の筈だ。しかし、龍騎士は尚も槍をこちらに向けてくる。「……おのれ。オレにこれだけの傷を負わせるとは」ぺっと血を吐き出し、「地獄への道連れにしてやる……覚悟しろ」
「何だと……! あの攻撃を受けて、まだ」
「垂〜!」ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、上空で対峙する朝霧と龍騎士の周りを飛んで、支援の体勢に入る。
 地上。槍を繰り出す、琳。琳も神速の構えに軽身功とダッシュローラーのスキルを用いての戦いを挑んでいたのだが……は、速い! 長槍を使った琳の戦いの基本は勿論、懐に入られないこと。だが相手は、剣で琳の槍を受け流すとそのまま穂を伝って滑り込むように琳の懐へ……しかし琳も、相手は格上と、この流れは読んでいた。もっとも自分の一番の武器だからこうなるのは避けたかったけど……琳はすぐに長槍を捨てると、「疾風の覇気……!」八極拳を用いた長接近戦闘へと切り替えた。龍騎士は意表を衝かれたのか、琳の足蹴りがその剣を弾いた。
「ひぃ」「ひ、ひゃはぁ」再び周囲を囲んで一騎打ちに見入っていた夜盗らの足元に突き刺さる、弾かれた剣。
 龍騎士は重たい籠手をはめた腕で殴りかかってきた。あれにまともに打たれたら気絶してしまう……! 琳は必死にそれを交わす。さいわいに武器を捨てると琳の方が身軽さで勝っている。
「ひゃは」「ひゃはぁ……」夜盗らはその戦いに暫し見入るばかりになっていたが……夜盗勢が好き放題に残党狩りをしていた辺り一帯、一瞬静けさに包まれた後、騒然となる。
「て、敵だぁぁ」「敵の部隊だ!」
 騎狼、部隊……琳は一瞬の気を逸らせてしまったその瞬間に、自分の胸倉を激しく掴まれたのを悟った。しまった。……引き際さえ見誤らなければ、だったよね……。「琳!」セラフィーナの叫び。……く、苦しい。……光術が放てない。龍騎士の太い腕が振り上げられた。ああ、終わりだ。がしゅぅ。振り下ろされる腕。だけど私は、私は十分、時間を稼げたよ、ねっ……
 
 
 源 鉄心は戦場に着くや、状況を見渡し、指揮を執った。上空でもみ合っているワイバーンと飛龍。朝霧さんか。龍騎士は一騎だけ? ……中央に夜盗の円陣? しかし乱れている。落下している飛龍。一騎はやったのか。分けておいた班を一個ずつ然るべきところへ差し向けていく。あちこちに散って討たれている旧軍閥を、騎狼部隊の古参兵に率いさせた3班4班で救出に。5班は退路の確保と誘導。ティーの預かる2班が敵の固まる中央に馳せていく。鉄心の1班と共に障害の排除を行うべく。鉄心も、駆ける。この迅速な采配に夜盗は士気を失った。
 しかし上空から響く、龍騎士の声だ。
「夜盗ども! 敵の数は少ない! 怯むな! たった百そこそこだ。後続はない! 戦え! はぁ、はぁ」
「……まだ、……それだけの力が残っているなんて、驚きだ、な……」
 朝霧。龍騎士の槍に脇腹を刺された。血が、とめどなしに流れる。
「タズグラフ様第一の部下のオレが、そうやすやすとやられるわけにはいかんのだ……!」
「し、垂〜そ、そんなぁ」
「ライゼ……いい大丈夫だ。俺がこのくらいで」
 夜盗の排除に移っていた朔、栞が、上空の異変に気付く。「垂……?」
「……強いな、……名は? 俺は第四師団のメイド隊長、朝霧 垂だ。俺も堂々一騎打ちを所望するべきだったかもしれないな。だけどセイカの、第四師団のためにも俺はどうしても……ああ、……セイカ」
「ナナドナイ。人間の分際で、限りなく神に近いこのオレに奇襲といえ挑んできたことは誉めてやろう。はは、はぁはぁ……タズグラフ、様。……」龍騎士はもう一度槍をゆっくりと構えた。朝霧は、脇腹を押さえていた手を外しウルクの刃の仕込まれた竹箒を抜き放つ。メイド長の特注品だ。
「セイカ。オークキングとの遭遇戦から始まって、オークスバレー、黒羊郷での出来事……色々あったよなぁ……一緒に旅をしたり、戦ったり……セイカ……俺はセイカのことが……」
 ――セイカ。
 ん? セイカを呼ぶ声?
「セイカ……? いや、今は目の前の敵をだな、ちっ、しかしきりがない。おい夜盗ども、おまえらの首領はどこだっ。この久多隆光が、相手だっ! であえ、であいやがれ! どこだッ」
「久多殿。指揮を執っていたのは龍騎士で、夜盗どもの頭目はここにはおりませんようです」
「何!」
「それより久多殿、我ら劣勢であります、ここは後方へお下がりを……」
「な、何だって、いつの間に?」
 鉄心が、必死の采配を振るって士気を保っている。が、百対千以上である。最初に相手の士気を挫いた段階で、かなりの軍閥勢を回収することはできた。しかし、ここが退き時か? 退路の確保はできている。
「鉄心さん!」
「鉄心殿!」
「トマス君。おお、久多君も。無事か。そろそろ撤退を……」「はい! 鉄心先生に委ねます」「おう」
 ジャーンジャーン。
「!」「伏兵、まさか」「げえっ」
 再び、一瞬の内静まり返る一帯。
 救助した軍閥兵と共に各班を回収し機を計っていた教導団の背後に……
「パラ実!」
「いつの間に……」「総長の軍勢」「夢野 久。どういうつもりだ。俺たち教導団を罠にかけたってのか?!」
 千近いヒャッハーどもが陣を組んでパラ旗を掲げている。
 夜盗たちもざわざわとするが……「あいつらヒャッハーだ。となると」「俺たちの仲間か?」「ししし、これで教導団を挟み撃ちかぁ」
「おい。聞けぃ」
 ヒャッハーの陣前に、男が立った。総長、夢野 久(ゆめの・ひさし)だ。
「先ず旧軍閥に義理はねえし、龍騎士にどうこう言う気もねえ。喧嘩や戦争しにこの国に来たんじゃねえしな。
 だが、俺らのナワバリに火点けやがったのは別だ。
 まあ、目前の戦いを優先したんだろうし、俺らも別に看板立ててシマを宣言してるわけじゃねえからな。やっちまった事に関してはギリ良いとする。
 だが、これ以上は許さん。
 放火をはじめ、俺たちパラ実に喧嘩売ったり害を及ぼすことはこれ以上はやめろ。続ける様なら「喧嘩を売ってると見なす」。国でいう所の宣戦布告扱いだ。喧嘩買うのは慣れてる、その場合は徹底抗戦してやんぜ」
 辺りはみたび、しーんとなった。
「以上だ」
 これを守るなら、残党狩り位ぇ勝手にすりゃ良い。守るならな。それが久の意思であった。手勢には勝手に動かぬよう徹底させている。ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)は一部のヒャッハーたちとすでに消化活動にあたっている。「どちらかいうと火遊びがしたいんだけど?」
 夜盗勢は暫く事態が飲み込めないでいたが……
「ひゃ、ひゃは……」「わ、わかった。俺たち、おまえらパラ実には喧嘩は売らねえ、な、仲間だもんな。火も、もうつけねえよ。ひゃ、ひゃははっは」「ひゃっはぁ。お、おい。引き続き、教導と旧軍閥とまとめて狩ってやれやぁ! 一部は、消化に協力してやれやぁ」
 また一帯は戦場に戻った。残党狩り。少しでもそれを救出し防戦しつつ、しかし後退せざるを得ない教導団騎狼部隊・救助班。一部では消火活動。さきまで上空にあった飛龍とワイバーンは姿が見えなくなっている。……
「フン」「やつら、こっちには向かってこなかったね」久と、その隣の佐野 豊実(さの・とよみ)。「あくまでそれでも襲いかかってくるのなら、確実に仕留めてやるつもりだったけど……そうじゃないなら、この戦いに私たちの益は一切無いんだよ。旧軍閥を救いたいのは教導団の都合だ。そんなモノの為に仲間であるパラ実生たちの血を流すわけにはいかない」
 示威と防衛。久らの取った指針はこれであった。
「ひゃは」「ひゃはぁぁ、指揮官だ」「討て。討ち取れぇ」
「く、……」鉄心は魔道銃で群がってくる夜盗どもを打った。
「鉄心!」すぐにティーが駆けつけ加勢してくれる。しかし、……「ここが限界か」「鉄心!」
「ううあっ」「ああ鉄心!!」
 鉄心が跳ね飛ばされた。
「う、……! 貴女は……!?」「えっ」
「新入り。随分、無理をしてくれているな。
 極力争いの種を蒔かないようにという本部の方針、だが、蒔いてしまったものは仕方あるまい。とまれここまでよく頑張った。私が来たからにはこれ以上好きにはさせん」
「林田 樹少尉……!(って、さっき俺にくれたのってもしかしてその蹄??)」
 騎狼に乗った林田 樹(はやしだ・いつき)。勿論、騎狼部隊本隊も引き連れての参上であった。その数は三百。
「何。相手は千。ふむ、その程度の差ならば……! こちらは、第四師団の精鋭だ」
 かかれぃ! 騎狼部隊、突撃していく。慌てふためく夜盗勢を、次々なぎ倒していく。久々の戦いぶりであった。
「サァ、ドージェ寺院跡に到着したッスよ〜。総長たちはどこッス?
 何はともあれひとまずは……正義の鉄槌、食らうがいいッス!」
「な、何」「あの子。パラ実の……」
 サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)も、騎狼部隊に混じって突撃していった。
「あ、夢野先輩」
「伏見か」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)。パラ実の後輩だ。ようやく、追いついてきてくれた。「やっと先輩に合流……ってうぉぉい、随分派手にやってるー?!」明子は、途中、騎狼部隊およびにサレンと会い、サレンの曰く「旅は道連れ・助け合い」の精神で共に来たことを明かした。「あら? そのサレン先輩は……」
「むう」「……」「あ。……本当に、これまた派手に……」
「おらおらぁ、かかってこいッス。もれなく鉄拳制裁の、プレゼント、ッス!」
「ところで伏見。そのデカイのは……」
「ああ。はい、イコン扱いの巨大ペガサス。連れてきました」
「おう。そうかとうとうイコンを」
「夢野先輩。サレン先輩のお手伝い、してきた方がいいでしょうか?」
「いや、待て。サレンはちょっとその、今回はなかったことにする」
「総長〜総長どこにいるッスか? あっ、この、鉄槌プレゼントッス! 邪魔ッスよ、鉄拳制裁ッス! 総長ー!」
「……」「わかりました。様子見、ですね」
 こうして夜盗勢はあらかた、騎狼部隊とサレンによって蹴散らされた。五百に上る敵を討った。追っ手・掃討の報告次第では更に討ち取った敵の数は増えるかもしれない。敵の指揮を執っていた二体の龍騎士も戦死しているのが見つかった。旧軍閥の兵たちを救うこともできた。討たれた者も多数に上るが……焼け跡の中から戦死者や重傷者の捜索が行われている。
「鳳明、鳳明……!」
「朝霧さん! 朝霧さん。……」