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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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ミロクシャ脱出(2)
 
「ぐわわ!」
 強烈な斬撃を受け、夜盗が地に倒れる。路地のあちこちに、すでに事切れた夜盗たちの遺骸。全て、一撃で息の根を止めている。
 龍騎士が裏切ったと触れて回った、ナナの策は功を奏したが、やはり交戦そのものは避けられなかった。
 ミロクシャを脱出するコンロン帝を抱えた旧軍閥の一団、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)はその先頭に立ち出くわした夜盗や怪しんで引き止めてくる相手を斬り、やがて周囲に続々集まってくる夜盗勢を、右に左に、駆け回っては斬り、目立つ戦いぶりで多くの相手の気を引きそれらを一手に引き受けた。風次郎の奮戦のおかげで帝や家臣らの馬車はすでにミロクシャ郊外にまで近づいた。風次郎は今度は追っ手を引き受けて最後尾。囲まれた。
 ……しかし何故でしょうな。不利とわかっていても、これほどまで心が高揚するとは……すでに魔鎧化して身に纏うている当世具足 大和(とうせいぐそく・やまと)が語りかけてくる。風次郎はただ無言で、斬る。
「おお」「おぬし、早く切り抜けられよ!」
 同じく夜盗相手に斬り回っていた雇われの手練らが囲いの一端を破って駆け寄ってきた。
「軍閥の一行、すでに郊外に達した」「この分なら、ミロクシャを抜けられるのは確実……それにしてもぬし、よく斬ったなぁ」
「……」風次郎はわずかに頷いたのみで、にじり寄ってくる相手勢に構えている。夜盗相手にも一切気は抜かない。しかし、もっと手強い奴は、いないのか。
「よし。このくらいならば後は我らに任せ、貴殿は帝の方へ」「まだ、追っ手をまききれておらんのだ」
「……わかった。ここは任そう」
 風次郎は、答える隙に飛びかかってきた一人を瞬時に切り伏せると同時、後ろに飛んで走り去っていく。
「我らが相手だ。夜盗ども」「ここは通さぬ。後、帝の礼をたっぷり貰わねばならんからのう。負けんぞ」
 ナナは、逢に旧帝近辺の護衛を任せ、自らは斥候を願い先へ進んでいた。一人の身なら追っ手をまくのも難しくはない。郊外へ出る際の境界に、屈強な夜盗の中の一団が屯しているのと追っ手が厳しくなってきたため、旧帝の一行は廃墟の一角に潜んでもらっている。交戦のためちらばった手練れの家臣や雇われが、それに風次郎が戻れば、切り抜けられるだろう。
 しかし……ナナは、見た。これから脱出すべき先の廃都群の空が赤く燃えているのを。
「これは、どういうことでしょう。もしや」
 ナナは立ち尽くしそうになったが、気を確かに、皆の元へ報告に戻った。風次郎も戻っており、すでに、郊外に屯した敵の一団や追っ手は片付けられていた。その中に、冑の男の遺骸があった。
「……このお方は。討ち死になさった、のですか……」
 ナナは横たわる男を前に言葉をなくすが、隣にいた逢は首を振った。「この御仁。……どうやら旧帝を狙う暗殺者だったようで御座る」「えっ」「待機中に旧帝の乗る馬車を襲ったで御座るが、拙者が防戦し、戻られた風二郎殿と力を合わせ討ち取ったで御座る。……」
 他の手練れ二人も、戻らなかった。風次郎が追っ手を片付け駆けつけたところ、夜盗十数人を切り殺し、彼らも深手を負い果てていた。また、風次郎はそのときにも、また、脱出の戦いの始めから最後まで、この数の差を逆転するには頭を討つべしと、敵の龍騎士を探していたのだが龍騎士が指揮を執っている様子はなかった。無論、それで思ったよりはらくに切り抜けることができたということもあるが、さらに全体的に敵の数は少なかった。犠牲は出たが、本来ならもっと多くの家臣が死んでいたかもしれず帝を脱出させられるかもわからなかったくらいなのだ。
 そしてナナは見てきたことを報告する。
「廃都群の方が赤く……」「何。どういうことか?」「それで、ここに龍騎士はいなかった……」
「我らの味方のことがすでに敵の知るところとなり、今まさに攻められているところということか?!」「龍騎士が夜盗勢を率い、ミロクシャを出払っていたがために、手薄だったのか」「我々、窮地を脱することはできたが、この先は危険だ」どうする……家臣らは議論し始めた。
「ともあれ味方勢が廃都群に兵を集めてくれたおかげで、我らは逃れることができたとするべきであろう……」「しかしその味方を見捨てることはできぬ。我々が背後より突く形になれば、敵勢も退くのでは?」「これだけの数しかおらぬだぞ。相手は千以上の夜盗。それに龍騎士もいる。こちらは旧帝のお命が何よりだ、旧帝あればまたいずれ立ち上がることができる……!」
 ナナも、違うルートでミロクシャを出ることを進言した。
「むう。やむを得ない……」
 一行は、ボーローキョー方面へと仕方なく逃れることとなった。
 ナナは、家臣が旧帝にそう告げるところを見ていた。幼い旧帝の不安げだが、気をしっかり持たねばという決意の表情。
「帝。どこに行こうと、亡霊が相手であろうと我ら、お守り致します」
「うん。……」
 


 
 赤く染まる廃都群を後ろに、こちらもボーローキョーへと渡ってきた騎凛と国頭、プリモ、ミレイユ一行ら。
「ああ。あちらに妖しげな光が、あんなにたくさん。あれが全部、亡霊の灯かりだなんて。でも、綺麗……」騎凛が指さす。
「どれどれ? ほむ……ホント綺麗。でも、ちょっとコワイな。ボーローキョーか、どんなところなのかな」ミレイユが騎凛の隣に並んで眺める。ミレイユはそうしつつも今まで捕われていた騎凛を気遣い、ディテクトエビルでの警戒を怠っていない。
 国頭のパートナーで勿論、同じくパラ実生であるが、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は「キリン先生と旅することになるとは思いませんでした。旅の間、仲良くしたいです」と親しげである。そして「髑髏の御輿」を用意したので、乗ってくださいね、と。
「わぁ」「すごい」「わーい♪」騎凛、ミレイユ、プリモら喜ぶ。
「教導団第四師団の師団長様のお通りだ〜 道を開けねえ塵虫は消毒すんぞ〜
 ……ちっ。しかし女どもはしゃぎやがって。子どもの遠足じゃねえんだぞ」猫井 又吉(ねこい・またきち)は仕方なく皆の護衛をしているといった様子。「キリン先生もその年で調子に乗ってお子様と一緒になってお子様みたいにはしゃいでんじゃねえぞ」
「何か言いました……? でも、いい気分ですね」
「髑髏の御輿なんて、ボーローキョーの観光にはピッタリだよねぇ♪」とプリモ。
「だから、観光じゃねえと言っているだろ! このおてんばが」又吉はプリモを引きずりおろした。「きゃぁっ、な、何すんの! こんなかわいいなめねこのくせして」「な、なんだと! おいそこに直れ!」
「おい、それから後ろからこっそり付けているやつ」国頭が言うと、
「……」ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が現れた。
「なめんじゃねえぞ?!」又吉が木刀をビシっと叩く。
「……」「……」プリモとジョーカーを並ばせて、
「何かあったら、本隊に知らせに行くつもりかしらないが、必要ない。ここでの全ての決定権はこのオレにある」
「あぁ。なんかしらけちゃうなぁ」「我慢するしかないか」
 一行は少し静かになってコンロンの闇を縫って進む。
「そっかぁ国頭さんは、第三師団では准尉やってたんだよね」とプリモ。
「えっ。そうなの」ミレイユはちょっと驚く。
「ああ。しかし、今、第四師団が活動しているコンロンで第三師団准尉を名乗っても意味ねーだろ。そうだったな、おい騎凛先生。難癖つけられないためにもそれなりの地位を要求させてもらうぜ」
「国頭さん……教導団に戻って、少尉として第四師団の一隊を率いますか?」
「な、何? ……。教導に戻るわけないだろうが。少尉だと。少佐か、せめて大尉の位でも寄越すんだな」
「教導団第四師団の師団長様のお通りだ〜 道を開けねえ塵虫は消毒すんぞ〜」先頭を行く又吉。御輿には騎凛とミレイユが乗って楽しげに会話している。
 その様子を、後方から見つつ、シェイドとルイーゼ。シェイドは、思う。ミレイユは本当に騎凛先生と仲良くなっているようだ。それはいいことだ。「ジークさんたち、大丈夫かなぁ? ルイーゼから聞いた感じだと心配ないみたいだけど……うーん」ミレイユはそう、同じくコンロン入りしたイルミンスールの先輩、【魔王軍】のジークフリートとのことも心配していた。ルイーゼは何らかの方法で魔王軍と交信を行っている。
「それにしてもルイーゼ……」
「ん?」
「いえ、何でもありませんが。(何か隠してます、ね? 魔王軍は一体、何をしにコンロンへ……)」