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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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 少し霧が薄くなったのか、庭園がより広く見渡せるようになっていた。その明るさの中に、光を放つ二人がゆっくりとお茶をたしなんでいた。
 よく似た雰囲気の男女だ。細い銀髪を、男の方は後ろで一つに纏めて、その短い尻尾が背中の上の方でゆれている。女の方は、零れ落ちるような銀髪が芝の上に髪溜まりを作るに任せている。二人共背が高く、大人びた顔立ちはそっくりであった。
「いえ、偽物という言葉ではなく、拝借という言葉に対してですが」
 男性の方が、シオン・エヴァンジェリウスに言った。女性の方は、優雅にティーカップを口許でかたむけている。
「誰の記憶から作られた? ココからかの?」
 まだ相手の正体を図りかねて、ウォーデン・オーディルーロキがココ・カンパーニュに訊ねた。彼女たちの意識から作りだされた幻影が変化したのであれば、より強い意志や意図を持った者がここにいるということになる。
「いいや、私も初めて見る」
 予想に反して、ココ・カンパーニュが首をかしげた。
「ああ、そうだね、この姿を見るのは、初めてだったかもしれない。アラザルク……ミトゥナを名乗っている。こちらは、アルディミアク様」
 アラザルク・ミトゥナが、ほんのわずかに会釈して隣の女性を紹介した。
「えー、全然別人じゃないですか。まあ、偽物だから当然かもしれませんけれど」
 即座に、月詠司が否定する。全体的な雰囲気はアルディミアク・ミトゥナと同じだとはいえ、背格好や年齢が今とまったく違っている。それに、アルディミアク・ミトゥナに兄弟がいたという話は、月詠司は聞いたことがなかった。いったい、このイメージは、どこの誰から作られた物なのだろうか。
「私たちは剣の花嫁だからね。状況によって、容姿は変化する物なんだよ。それに偽物は呼ばわりは、やはり心外だなあ。私たちは、記憶から生まれ、希望で育ち、理想に達する。いわば、本物よりも本物らしい存在なんだよ」
「いったい、どこからわいて出たのよ」
「いったん生まれた幻影は、霧の範囲内であれば自由に歩けるようだからの」
 もうあんちょこを隠そうともせずに読みながら、ウォーデン・オーディルーロキが言った。その情報が正しいかどうかは、元のレポートを信じるしかないのだが。
 両の手首をさすりながら、ココ・カンパーニュはその言葉を聞いてはいないようだった。
「お前たちが、シェリルをさらったのか?」
 二人のミトゥナを見据えたまま、ココ・カンパーニュが訊ねた。
「それは心外だなあ。今ここにいる私たちは、それとは無関係だよ。少なくとも、ココを害するつもりはない」
「私は、ただのんびりとお茶を楽しんでいられれば、それでいいのですから。この時間さえあれば、それで」
 アラザルク・ミトゥナの言葉に、アルディミアク・ミトゥナが彼の方を見つめてうなずいた。
「時は貴重です……」
「じゃあ、誰がシェリルを連れ出したんだ!」
 ちょっと強い調子で、ココ・カンパーニュが問い質した。
「私たちは、強い意志に隷属する。意志が強ければ、その器にしかならない。ある意味、理想なんだ。理想が、理想を求めたのかもしれない」
「ほう」
 ちょっと、ウォーデン・オーディルーロキがその言葉に興味をひかれた。アラザルク・ミトゥナの言葉は、変に知識欲に偏っていた。
「おや、霧がまた集まってきたようだね」
 アラザルク・ミトゥナが言った。その言葉通りに、霧が再び濃くなった。密度を増した霧が、ココ・カンパーニュたちの周囲で、いくつかの形を取り始める。再び、旅の男女と、エヴァンジェリウス三姉妹が現れた。
「さあ、どうぞ永遠のお茶の席に」
 霧から生まれた者たちが、ココ・カンパーニュや月詠司たちを誘(いざな)った。
 だが、さすがに用心したココ・カンパーニュたちは、素直に席に着こうとはしない。
「安心して、座っていいのよ。だって、ワタシたちは、あなたたちの理想でもあるのだから」
 もう一人のシオン・エヴァンジェリウスが言う。
「そう。あなたたちは、ここでゆっくりしていてほしい。それが、私たちの理想でもあるのだ。なあ、世音」
 旅の女性、燈銘が、道連れの男性に同意を求めた。
「その代わり、お前たちの理想である私たちが、この席を立とう」
 そう言うと、燈銘が脅すように長刀を手に取った。霧がさらに濃くなり、ココ・カンパーニュや月詠司たちの足許から這い上がってくるようにまとわりついてきた。逃げようとしても、足が地面に固定されてしまって一歩も動くことができない。
「冗談じゃないわよ」
 シオン・エヴァンジェリウスが言った。
「おとなしくしないのならば、おとなしくさせるまでよ」
 もう一人のシオン・エヴァンジェリウスが、問答無用でサンダーブラストを放った。
 ふいをつかれた月詠司たちに無数の雷が降り注ぐ。そのまま自由を奪って、椅子に縛りつけでもするつもりだったのだろうか。だが、雷光は、一点に集まって消えた。ココ・カンパーニュの右手に。
「そういうつもりか。どこが理想よ!」
 ココ・カンパーニュが叫んだ、突きあげたその手には星拳エレメント・ブレーカーが輝いている。
「理想なら、自分でなる! よそになんか求めたりするもんか!」
 ココ・カンパーニュの怒りに吹き散らされたかのように、周囲にまとわりつき始めていた霧が彼女の周りで渦を巻いた。それを振り払うように、ココ・カンパーニュが気合いと共に両腕を横に広げた。周囲の霧が絡めとられたかのようにその両手首で渦を巻き、大量の霧が吸い込まれるようにして消えていった。
「今です!」
 月詠司が叫んだ。その声に応えて、ウォーデン・オーディルーロキとシオン・エヴァンジェリウスが同時にサンダーブラストを放つ。降り注ぐ豪雨のような雷光が、霧から生まれた者たちを引き裂いて輪郭を危うくさせた。
 止めとばかりに、月詠司が、チラリと自分のスカートをめくった。
「うわあっ!!」
 爆発するようにして、霧が飛び散り、そこはただの森の中の広場に戻った。
「さあ、本物のシェリルを捜すよ!」
 ココ・カンパーニュが、叫んだ。