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リアクション
★ ★ ★
「さすがは、リンちゃんなんだもん。私のお菓子の匂いを嗅ぎつけるとは、やるなおぬしだよ」
森のど真ん中にピクニックシートを広げた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、一緒にドーナツを食べているリン・ダージに言った。
イルミンスールの森の異変を調べに来たわけだが、そのへんは半分ピクニック気分でもある。ゴチメイもむかったというのを聞いて、お菓子があればリン・ダージあたりが釣れるかなと思って用意したら、みごとに釣れた。
「うん、おいしいよね」
ドーナツをぱくつく二人をよそに、少し離れて座るコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はちょっと落ち着かない。なにしろ、女の子が二人、結構露出の多い格好でぺったんと座っているのだから、とても目の遣り場に困る。
小鳥遊美羽は相変わらずの太腿全開のマイクロスカートだし、なぜかリン・ダージの方はイルミンスールの制服を着ているが、こちらも、ケープの下は水着と区別がつかないような格好をしている。魔女やアリスは普段からそれで違和感もないのだろうが、ヴァルキリーの少年から見たらちょっとドキドキものだ。
「まだまだドーナツならあるんだもん。食べて食べて」
小鳥遊美羽が、おともニャンルーたちに命じて、持ってきたドーナツを補充した。
「はわわ、いないと思ったら、こんな所にいたなの。エリーも混ぜてほしいなの!」
そんなコハク・ソーロッドのドキドキなどお構いなしに、もう一人のアリスエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)がピクニック会場にむかってかけてきた。
「ちょっとエリーったら……」
追いかけてきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、リン・ダージを見つけた喜びで無防備に駆け出していくエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァを呼び止めようとした。
「ちょっと、あれ、本物なの?」
ゴチメイとお揃いにするんだとわざわざゴスロリ衣装を着てきたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァとは違って、ローザマリア・クライツァールの方はこの間美術館でさんざん霧に翻弄されたので、充分に警戒している。
一件ほのぼのとして何ごともないように見えるが、この光景は本物なのだろうか。なにしろ、リン・ダージ自体が、いつもと違ってイルミンの制服を着ている。怪しい……。そうすると、その前にいるマイクロミニスカートの女の子も、女の子三人に囲まれて真っ赤になっている男の子も、霧が作りだした者なのではないだろうか。
ローザマリア・クライツァールは光学迷彩で姿を消すと、ゆっくりと近づいていった。
「はわわ、リンちゃんなのー! うゆ、とってもおひさしぶりなのー」
そんなローザマリア・クライツァールの心配などよそに、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァはリン・ダージに飛びかかるようにしてだきついていた。
「こらあ、子供じゃないんだから、やめなさーい。だきつかれるなら、まだあっちの方があ……」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァに押し倒されて、リン・ダージがジタバタしながら、チラリとコハク・ソーロッドの方に秋波を送った。
「ちょっと待ったあ! あたしは、そんなお子様は相手にしないんだからあ!」
突然、リン・ダージの怒声が響いた。いつもの黒いシースルーのゴスロリ衣装をした本物のリン・ダージだ。その姿を直視して、コハク・ソーロッドがさらに真っ赤になる。
「ふっ、この程度で悩殺されるお子様は、あたしの守備範囲じゃないのよ」
「ふむふむ、大人の女はおこちゃまを相手にしてはいけないのであるな。メモしたぞ」
意味もなく勝ち誇るリン・ダージの横で、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が律儀にメモをとっていった。
「いや、ジュレ、そんなこと学習しなくてもいいから……」
最近変なことばかり覚えると、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がちょっと困った顔をした。
「ちょっと、コハク、あんなこと言わせておいていいのなんだもん。ここは、どーんとリンちゃんを押し倒すぐらい……」
「できるわけないでしょう! それより、この子、偽物じゃないですか!」
そう叫ぶと、立ちあがったコハク・ソーロッドが小鳥遊美羽の手を取って、あわててその場から逃げだした。
同時に、突然姿を現したローザマリア・クライツァールが、ひょいとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァをだきあげてその後に続く。
「まったく、手を焼かせて……」
「ふゆ……。どっちも、リンちゃんなのー」
混乱しているエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァをかかえたまま、ローザマリア・クライツァールは小鳥遊美羽たちとともに、本物のリン・ダージたちと合流した。
「まあまあ、懐かしい。イルミン時代の年中水着かレオタードのリンちゃんですねえ」
チャイ・セイロンが、懐かしそうに言った。
「ふん、あのころのあたしはお子様だから、ださださだわ」
リン・ダージとしては、今は凄く大人になったと言いたいらしいのだが、たいして変わっていないように思える。
「何言ってるのよ、こっちのあたしの方が露出が多いんだもん。そこのおこちゃまだって、悩殺だったんだから」
霧から生まれたリン・ダージが、思いっきり言い返した。
「うむ、やはり、ファッションショーのときのレオタード姿が大人の印なのか……。今ひとつ納得は行かぬのだが……」
再び、ジュレール・リーヴェンディがメモをとる。
「はうぅ〜、あれは人目につかないイコンの中限定だから、メモしなくていいから!」
ファッションショーでの衆目の冷たさを思い出して、カレン・クレスティアがちょっと青ざめた。イコン搭乗時は乗りで気にならなかったのだが、普段からあんな格好をされたら、隣を歩く身としては凄く恥ずかしいということをこの間自覚したばかりだ。
「露出狂はちょっと……」
チラリと小鳥遊美羽の方を横目で見て、コハク・ソーロッドが思わずつぶやいた。
「露出狂じゃないもん、大人の女だもん!」
リン・ダージがユニゾンで叫んだが、なぜか四人ぐらいの声が重なったように聞こえたのは気のせいだろうか。
「服装なんてえ、変に凝ったりし……」
チャイ・セイロンが何か言いかけたとき、霧のむこうから新たな人影が現れた。
「まあまあ、リンちゃんこんな所にいたんですね。ちょっと実験を手伝ってくれませんかあ」
そう言いながら、薄汚れた白衣を着たチャイ・セイロンが霧の中から現れた。メガネをかけて、髪の毛はぼさぼさだ。
「ファイアストーム!」
唐突に、本物のチャイ・セイロンが、霧から生まれた者たちにむかって帯域魔法を放った。
「何をするんですかあ!」
間一髪で、火術による火炎誘導で難を逃れた霧のチャイ・セイロンが叫んだ。
「今、証拠隠滅しようとしなかった?」
チャイ・セイロンの意図を鋭く見抜いたローザマリア・クライツァールが訊ねた。
「ほほほほ、あれはあ、あたしたちを以前酷い目にぃ遭わせたあ霧ですからあ、敵なのですわあ。だからあ、殲滅ですう」
ごまかすように、チャイ・セイロンが答える。
「まあ、チャイは、昔は魔法にしか興味なかったものね。なんでもできるくせに、やらなかったから、服なんていつもださださだったし。思い込んだら一辺倒だったもんね。まったく、リーダーと出会わなかったら、キマクでむしろ一枚でも平気で暮らし……、い、いひゃいよほ」
「ほほほほ、まあ、リンちゃんったら、何を言いだすんでしょうかあ」
ニコニコと笑いながら、チャイ・セイロンが、暴露話を続けるリン・ダージの頬を思い切りつまんで捻りあげた。顔は笑っているが、目が笑っていない。
「いきなり攻撃してくるうなんてえ。でもお、これでえ、大手を振ってえ、上級魔法をぶっ放せますねえ。えーい」
言うなり、霧のチャイ・セイロンが手帳を取り出して呪文を読みあげ始めた。ボンと噴きあがった炎の壁が、ゆっくりと迫ってくる。
「偽たっゆんなんかに負けないんだもん! 切り裂け、光の刃!」
小鳥遊美羽が、素早く一振りしたハリセンにソニックブレードを乗せて炎の壁を切り裂いた。それを、ニャンルーたちが団扇であおって左右に追いやる。
「火を広げてどうするんだよ」
自分たちに直撃はしなかったものの、周囲に燃え広がった火を見て、コハク・ソーロッドが叫んだ。
「こうなったら、我が……」
「ストーップ、流れ弾が危ないから、レールガンはだめだよ!」
ジャキンっと長砲身のレールガンを構えようとしたジュレール・リーヴェンディを、カレン・クレスティアがあわてて止めた。威力がありすぎて、誰が流れ弾にあたるか分かったものではない。
「ふゆ、意地悪なリンちゃんはいらないの。ふゆ、もう殺しちゃってもいい……よね」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがロケットパンチを放った。霧のリン・ダージがそれを撃ち落とそうとするところを、本物が素早く銃を抜いて霧でできた銃を打ち砕く。直後に、ロケットパンチが、霧でできた二人に直撃して元の霧の状態に戻した。そこを、今度こそ誰に邪魔されることなくチャイ・セイロンが焼き払った。
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