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ハロー、シボラ!(第1回/全3回)

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ハロー、シボラ!(第1回/全3回)

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chapter.14 最奥の秘宝 


 遺跡最奥部。
 その部屋は小さく、10人ほどが入るので精一杯の広さしかなかった。
「なんだか、厳かな部屋だね……」
 今までとは一線を画す雰囲気に、メジャーは緊張感を走らせた。いや、メジャーばかりではなく、その場にいた誰しもが、である。
 細長い部屋のその中心には、棺のような重厚な質感を持った箱がある。これがおそらく、この遺跡一番の秘宝に違いない。が、それとは別に、その脇にもうひとつ、気になるものがあった。最初にそれを見つけたのは、ヨサークを脅していた円であった。
「これ、何だろう」
 自動販売機のような形や大きさをしたそれは、大分年数を経たものなのか、埃をかぶり色褪せていた。
「ここに、何か入りそうな気がするよ」
 投入口のようなものを見つけた円は、たまたま持っていたみかんを試しに置いてみた。すると、その機械は突然動き出し、みかんを吸い込んだ。数分後、円の前に戻ってきたみかんは綺麗に皮が剥けていた。
「皮剥き機……?」
 これも秘宝なのかな、と円は不思議に思ったが、念のため台車に乗せて持って帰ることにしたようだった。彼女が貼り付けたタグには「全自動みかんの皮剥き機」と記されていた。

「さて、そろそろいいかい?」
 謎の機械を一通りいじり終えた生徒たちを見て、メジャーが言った。一同が頷くと、彼はその手をふたの端にかけ、ゆっくりと開けていく。ギギギ、と音を立てて闇を晒していく箱に、生徒たちも息を飲んだ。
「おいちょっと待て、もしその中身が金になるお宝だったら、俺らが貰ってくぞ」
 不意に、ヨサークが声をかけた。メジャーはぴたっとその手を止めると、首を横に振って答える。
「それは駄目だよ。既にここに来る前、護衛契約の報酬は払っているじゃないか。これは、僕たち大学側が管理させてもらうよ」
「あぁ? 誰のおかげでここまで来れたと思ってんだ」
 秘宝を前にして、ピリッとした空気が両者の間に流れる。今にも争いに発展しそうなふたりを横目で見た綾香は、その間を通り抜けながら、こう言った。
「最後の関門を解いたのは私だ。つまり、一番先にお宝を見るのは私だな」
「あ……!」
 ふたりが呆気にとられている間に、彼女はメジャーが開きかけたふたを一気に開けた。
「おお……っ」
 ずず、とふたを脇にどけ、それは全員の前に姿を晒した。
「これは!」
 メジャーが目を見開いて大声を上げた。彼らが見たものは、箱の中に横たわったミイラだったのだ。それもただのミイラではなく、派手な装飾に身を包んだ、美しい顔立ちのミイラである。生前は相当の美少女であっただろうことは、誰の目にも明らかである。
「棺のよう、ではなくそのまま棺だったんだね……ということは、この遺跡は、本来は彼女のお墓だったのかもしれないね」
 それも、相当この土地で重要な人物とされているものの墓だろう。遺跡の規模と、彼女のきらびやかな装飾からそれは容易に想像できた。
 ついに出現した本格的な秘宝に興奮する一同。ただ、その中でひとり、ヨサークだけが憮然とした顔をしていた。
「と、頭領……?」
 恐る恐る船員が話しかけると、ヨサークは堪えきれず、不満を口にした。
「女の秘宝なんているか! つうか、前にも似たようなパターンがあったぞこらあ!!」
 頭から湯気を放ち、雑な歩き方で踵を返すヨサーク。どうやら秘宝の収まりどころで揉める必要はなくなったようだった。
「待ってくれ! さっきは険悪な雰囲気にしてしまって悪かった。せめて、これに乗って帰ってくれ!」
 メジャーが彼の後ろ姿に呼びかける。振り向いたヨサークが目にしたのは、鍾乳洞で手に入れた秘宝の四輪駆動車だった。タグには、「四輪ハギーカー」とつけられている。
「……」
 何も手に入らないよりはマシ、とヨサークはそれに乗り込んだ。が、シートの座り心地がこの上なく悪い上、ハンドルやレバーをいくら動かしてもうんともすんとも動かない。それもそのはず、この車は、人や荷物が乗ると走れなくなるといういわくつきのものだった。
「動かねえじゃねえか! いるかこんなもん!」
 ヨサークが車を蹴飛ばす。どうにか彼を落ち着けなければ、と思ったメジャーは、秘宝を管理していた真に何か使えそうなものがないか慌てて尋ねる。
「あと残っているのは、このヘッドセットくらいしか……」
「それで構わない! さあそれをつけて、価値ある秘宝だと証明してみせてくれ!」
 使い道のある宝だと目の前で示せば、これは彼に譲ってもいい。その気構えで真に託したメジャーの行動は、やはり裏目に出た。「熱狂のヘッドセット」とタグがつけられていただけあって、それをつけた真は、突然ボルテージが上がり、人が変わったように早口で暑苦しい実況を始めてしまったのだ。
「おおっと! ヨサークさん、ご立腹! ご立腹だあっ! 一体彼が蹴飛ばした車は、へこんだのだろうか!? 彼の気持ちと、どちらがよりへこんでいるのだろうかっ!?」
「うっせえ! 耕されてえのか!!」
 ヨサークが怒りのあまり、近くにあったものを真に投げつける。彼のお腹に勢い良く当たったそれは、ヘーデタースだった。
「うっ……!」
 強い衝撃を腹部に与えられたことで彼はまたもや、自身の体からガスを放出してしまった。厳かな部屋に、間の抜けたアナウンスが流れる。
「おなら出たよ!」


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加して頂きありがとうございました。

皆様の奇想天外なアクションに笑わせて頂きつつ、
昔のシナリオの細かいことを憶えていてくださった方などもちらほらといて、感動もさせて頂きました。

秘宝アクションは、全体の5分の1ほどを採用致しました。
もう少し採用数を増やすことも考えたのですが、
意外と役立ちそうなアイテムが集まってしまったため、「特に役立たなさそうなもの」のみを採用させて頂きました。
なお、今回実際にアイテム化させて頂く秘宝は「全自動みかんの皮剥き機」と「熱狂のヘッドセット」です。
それと、予想以上に登場があったため、私がサンプルで出した秘宝ですが「ヘーデタース」もアイテム化させて頂きます。
これらのアイテムは来週以降、全学校の購買に並ぶ予定です。

謎解きアクションに関しては、
基本的に私の裁量で特に面白いと感じたものを解決法とさせて頂きました。
とはいえ、秘宝アクションを含め、皆様のアクションはとても個性的なものばかりでした。
どれを正解にしようかという贅沢な悩みを持つことが出来たことに感謝致します。
なお「シボラの密林で狩られた民」と記載のある「狩猟採取民」を使ったアクションが複数ありましたが、
彼らは自分の村近辺以外のことをあまり知らない、という扱いにさせて頂きました。ご了承ください。

今回の称号は、MCLC合わせて3名のキャラに送らせて頂きました。
ちなみに称号の付与がなくても、アクションに対する意見などを個別コメントでお送りしているパターンもございます。

次回のシナリオガイド公開日は6月上旬の予定です。
詳しく決まりましたらマスターページでお知らせします。
長文に付き合って頂きありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。