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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


(・ダリアとヴェロニカ)


アルファ1:ナイチンゲールヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)ニュクス・ナイチンゲール(にゅくす・ないちんげーる)
アルファ2:イーグリット・ネクスト葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)
アルファ3:ブルースロート:館下 鈴蘭(たてした・すずらん)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)
アルファ4:ゼーレミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)ペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)
アルファ5:ホークウィンド天司 御空(あまつかさ・みそら)白滝 奏音(しらたき・かのん)
アルファ6:アイビス・エクステンド星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)

* * *


『じゃあ、今のF.R.A.G.のメンバーは元々グエナさんや兄さんと一緒だった人達ってこと?』
 ヴェロニカ・シュルツは星渡 智宏からの暗号通信を受け取った。
『君が転校してくる前の海京決戦のとき、ダリアは小隊長を務めていた。今は第一部隊を彼女がまとめ上げている。今ここにやってきている部隊だ』
 彼がイタリアで知ったという、今のF.R.A.G.のことを教えてもらった。立場は違えどグエナの、かつてのF.R.A.G.の志を受け継いでいる人がいると聞いて、熱いものが込み上げそうになる。
 だが、ここは戦場だ。今はその思いを振り切る。
「きっと和解は出来るはず。だから今は仲間を、みんなを守り切る!」
 互いに憎しみ合って戦っているわけではない。ならば、そこに一縷の望みがあるはずだ。
(ヴェロニカさん、大丈夫ですか?)
 アリス・テスタインからのテレパシーを受ける。
(うん。準備は出来てるよ。私もニュクスも)

 次世代機による急襲作戦が成功したこともあって、今は学院のペースが続いている。しかし、ここに来て後続から二つの小隊が前に出てきた。
 一つはダークウィスパーとの交戦に入ろうとしており、もう一つがこちらへと向かっている。
 その中には他とは異なる機体が一機存在した――『七つの大罪』、【マモン】である。機体のカラーは赤紫で、姿形はクルキアータと大差ない。が、ランスではなく実体剣を装備している。
 あれが部隊長機だろう。
『ヴェロニカ様、通信を繋げますか?』
『うん、お願い』
 ヴェロニカが直接部隊長と話すなら、オープン回線だけでなく一対一で話せるようにも回線を繋げられた方がいいだろう。
 情報撹乱によって通信網を妨害しようとすることで、大まかでにはあるものの、機体間通信における周波数を調べることは出来る。その程度ならブルースロート以外の機体でも十分可能だ。
 ノイズを聞きながら微調整していき、二機間で通信可能な状態にする。
『さあ、ヴェロニカ様。どうぞその御心のままにお話下さい。そしてお決め下さい』
 今回のF.R.A.G.による軍事的制裁。因縁のあるその名を前にして、ヴェロニカが望んでいるものは何か。
 彼女が本当に守りたいのは何なのか。
 今のF.R.A.G.を設立した者は、ここにはいない。だが、あの剣を持つ機体のパイロットは、F.R.A.G.としての矜持を持ち、この部隊をまとめ上げている人物のはずだ。
 その機体を守ろうとするように、五機編成のうちの二機のクルキアータが【マモン】の前方を航行している。
 可憐はオープン回線をオンにして、声を張り上げた。
『さぁ、そこをどきなさい! ここにいるは古きF.R.A.G.の元メンバーです! 貴方達のその志……恥じぬものならそれを証明なさい!』

* * *


(古きF.R.A.G.の元メンバー?)
 ダリアはそれを聞き、訝しんだ。
 かつてのF.R.A.G.のことは知っている。もっとも、ダールトン隊長もロッテンマイヤー副長も多くは語らなかったため、知ったのは海京決戦後だったが。
 目の前にいる女性型のイコンを目視する。
『聞こえますか……?』
 どうやらオープン回線ではなく、何らかの手段で周波数を合わせてきたのだろう。それに暗号通信の回線を知っているのは、部隊の者以外ではあの男達くらいだ。
『聞こえている』
 少女の声に応じる。
『あなたは、何と戦っているんですか?』
『理不尽なこの世界だ。今のこの世界を――弱い者に厳しい世界を、私達は変える』
 この戦いはその過程だ。
『……それが聞けてよかった』
 奇しくもダリアの戦うその理由は、かつてF.R.A.G.を結成した少年少女達が掲げたものと同じだった。
『だけど、それは私達も一緒。あなた達が戦うというのなら、私はここにいるみんなを守り抜く』
 そこへ、あの青年から暗号通信が入る。
 女性型イコンとの周波数を登録し、そちらを一旦切る。
『退けないか、ダリア? 君達を失えば、アカデミーの学生が戦わざるを得なくなる』
『そういうわけにはいかないわ。聖戦宣言に則り、私達の役割を果たすだけよ』
 「聖戦」と銘打たれているが、あれは本来武力衝突を避けるためのものだ。あれだけ大々的にアピールすれば、シャンバラも下手な真似はしないだろう。逆に言えば、シャンバラ側が地球を脅すことがあれば、F.R.A.G.は軍事行動を起こさなければならないのである。例え、何者かによって仕組まれたものだとしても。
『ならば、俺が君を止める。君が言う協力とは違うかもしれないが』
 それでいい。元々馴れ合うような関係でもない。
『一時間』
 ただし、彼――星渡 智宏には伝えておく。
『撤退の条件は二つ。一つは交戦から一時間経っても拮抗した状態が続いている場合。もう一つは、私が戦闘を継続出来なくなること』
 相手を殲滅することが目的ではない。重要なのは、軍事的制裁を行ったという事実を作り上げることだ。部隊のパイロットには、「敵の無力化を最優先に」と指示を出してある。
『手加減は出来ない。「敵」はどこから私達を見ているか分からないから。だから――全力で来い!』
 顔を引き締め、部隊長としての口調に戻す。
 こちらも全力でいこう。

* * *


 【マモン】が動いた。
 すぐに同じ小隊のクルキアータと編隊を組み、加速を始める。
「さすがに速いね……!」
 【ゼーレ】の中で、ミルト・グリューブルムが思わず声を漏らした。クルキアータの機動はイーグリットと変わらない。
 まずは連携されないように、一機ずつ引き離そうとする。ヴェロニカとF.R.A.G.の隊長が何を話したのかは分からない。
 【ナイチンゲール】からのシールド支援は行われている。機体の挙動に迷いが感じられないことから、「納得のいく答え」を知った上で、相手を受け止めようとしているのだろう。
 【ナイチンゲール】は小隊全機が見渡せる場所に位置取り、戦況を把握しながらサポートを行っている。ブルースロートと違い、エネルギーシールドはレーダーの範囲内の機体に展開が可能であり、五機という制限もない。これはニュクス・ナイチンゲールの演算能力による部分が大きいが、彼女とて常に全体に注意を払えるわけではない。
 その分の隙間を、ブルースロートに搭乗している館下 鈴蘭と霧羽 沙霧が埋める。特に前衛で機動力を生かして攻める機体に対しては常に注意を向け、ダメージを負わせないように心がける。
 そして、一般機を撹乱するのは可憐達のイーグリット・ネクストだ。今現在、F.R.A.G.はこの機体をもっとも警戒している。そのため二機がかりで挑んできた。新型ビームサーベルは従来のものよりも出力が高く、新式プラズマライフルは、下手をすればクルキアータをも一発で落としかねない代物だ。それに加えて、クルキアータを超える機動性を有しているため、敵にとっては厄介以外の何者でもないのである。
 そのため、この時点では敵も無理に戦おうとはしてこない。敵一機に対し小隊がかりでなければ墜とすのは難しいと言われたクルキアータだが、イーグリット・ネクストとブルースロートによる攻撃と防御という連携の前には苦しめられているようだ。

(戦闘は継続みたいだね)
 【ホークウィンド】で、天司 御空は実弾式の長距離射程スナイパーライフルで狙撃を行っていた。
 BMIのシンクロ率は40%。この時点ではまだ射線を曲げても効果は薄い。そのため、射撃後にサイコキネシスで、敵の防御に合わせて弾道を微調整する。ほとんど銃口から弾が出ると同時に相手は反応していた。その際のわずかな「揺れ」を感じ取り、BMIによる弾道調整を行う。
(卑怯だなんて思わないでよ。そっちの反応速度じゃ、こうでもしないと当てられないんだから)
 実体剣を持つ右手首の関節を狙うが、それは剣で捌かれてしまう。さらにはシールドを構え防御姿勢を取ることで、遠距離からの攻撃に備えるようになってしまっていた。
(奏音、ここからは接近戦だ)
(了解です、御空)
 精神感応で白滝 奏音に伝える。レイヴンとはいえ、こちらは元々支援機だ。クルキアータやイーグリット・ネクストのような高機動な機体の戦いの中に飛び込むには、覚醒した状態でなければ厳しい。
 そしてもう一つの理由としては、覚醒中ならばBMIのシンクロ率を上げても負荷がかからないからだ。覚醒時であれば、御空が一人で試した際に倒れてしまった、限界値である50%でも操縦に支障はきたさなかった。二ヶ月の間に行ったシミュレーター訓練では。
 しかし、ここからは先はまだ未知の領域だ。
「BMIを自分の自我と同量受け入れるのが脳の限界。なら、後50%分脳機能を拡張するしかないだろ!」
 思考を持って機体を駆っている限り、限界は生じる。かといって無理に上げようとすれば自分自身を削ることになり、暴走を招く。
 ならば、「無心」になるしかない。BMIによる情報の波に流されることなく、ほとんど反射的に機体を駆っている状態だ。だが、一歩間違えれば自身の中にある負の感情が原動力となり、結果的に暴走に繋がる危険も大きい。
 負の感情の流れに対し、「無意識でもそれに負けないだけの強い自我」を持った上で、心を無にする。
 だが、それが途方もなく困難なことであることは自覚している。そう、一人では。
「必要な記憶、不必要な記憶。人はそれを分け切れない。でも私は違う。夾雑物はいらない。あの子に勝てれば、それで――」
 ならば、その負の感情を全て肩代わりして「制御」してやればいい。それがパートナーである奏音の考えでもあった。他人の感情は他人の感情として受け入れた上で、それを切り捨てる。彼と出会ってからの一年の「自分自身の記憶」以外は必要ない。元より、彼女には「例の事故」があった2018年以前の記憶は一切存在しないのだ。どのみち捨てる記憶はたったの二年分でしかない。
 無心になって機体を制御する御空を、制御する。パートナー同士の信頼関係が成り立っていなければ、決して行えるものではない。
 とはいえ、御空はほとんどイコンと同化して無意識に反応することになるため、精神力以上に体力を著しく消耗することになる。また、奏音も入ってくる情報の波に耐えなければならないため、普段とは比ではないほどの負荷がかかることになる。
 【ホークウィンド】は大型ビームキャノンのエネルギーをチャージしながら距離を詰めていく。当然、一般機のアサルトライフルから狙われることになる。
 眼前では、二挺の新式プラズマライフルをショットガンモードにして牽制を行っている。実体武装に対する相性、威力という点ではコームラントのビームキャノンよりも上だ。そのため、いくら【マモン】であろうと、不用意に接近することが出来ない状態にある。ショットガンモードでも二発あれば、クルキアータのシールドを木っ端微塵にすることが出来るだろう。
 おかげで、【マモン】に接近することが可能となった。
「守りたい人がいる。笑顔が見たい子がいるんだ。こんな所じゃ死ねない。無事に帰るって約束――したんだッ!!」
 シンクロ率を一気に上げる。
 70%。
「ホークウィンド。私の涙をあげる。怒りをあげる。哀しみをあげる。唯一の願いをあげる」
 奏音が意識を集中する。
「だからお願い。あの子を超える奇跡を、私に頂戴」
 【ホークウィンド】から一筋の光が放たれた。フルチャージされた大型ビームキャノンが【マモン】を捉える。
 弾速は通常のコームラントよりは上。だが、あの盾なら一発は耐えるだろう。そうでなくとも、フル出力のビームを真っ二つにするという芸当を行った敵がいたということは耳にしている。剣を武器にしている以上、それをしたところでおかしくはない。
 御空は無意識のうちに引鉄を引いていた。
 普通なら出力全開で打てば、次弾発射までに再チャージの必要がある。だが、シンクロ率を上げてサイコキネシスを送り込むことによって、そのエネルギーを砲弾として撃ち出した。
 御空一人ではなく、奏音もその力を送る。それに覚醒が相まって、先の一撃以上の速さで【マモン】へと直進していく。その威力も、大型ビームキャノンの砲身を歪ませるほどのものだった。
 発射の瞬間、シンクロ率が100%になったが、二人ともそれには気付かなかった。奏音が見たときには、75%になっていた。
 煙が上がる。まだ墜ちてはいないものの、かなりのダメージは負った……かに思われた。
(――――っ!!)
 が、次の瞬間煙の中から【マモン】が飛び出してくる。シールドこそ失われたが、今度は両手に剣を携えていた。
 盾を犠牲にすることで威力を相殺したらしく、まだほとんど無傷に近い状態だ。
 二本の剣による斬撃が、【ホークウィンド】を襲う。
 それは直撃した――かに見えた。

「残像!?」
 それに驚いたのは、ホークウィンドと共に【マモン】と向かいあっていた【アイビス・エクステンド】の智宏だ。
 レイヴンにミラージュの効果が反映されたのだろう。機体のカメラ越しのせいもあるが、彼にも斬撃が繰り出されるまでそれが実体ではないことに気付かなかった。
 【マモン】が【アイビス・エクステンド】に向き直る。
「あのときの続きか……」
 海京決戦を思い出す。だが、今のダリアはあのときよりも遥かに強くなっている。そしてそれは、必ずしも『七つの大罪』の性能によるものではない。
『今は退け、ダリア! もう十分なはずだ』
 暗号通信を送る。奏音からの通信によれば、【ホークウィンド】のシンクロ率は75%。それとあそこまで互角に戦ったんだ。彼女達が本気であることは、この戦いをどこかで見ているであろう「真の敵」にも伝わったはずだ。
『まだだ。せめて私の剣を折ってみろ!』
 前傾姿勢になり、ブースターを吹かせて【マモン】が突進してくる。射撃は間に合わない。
「その翼で護って!」
 時禰 凜が反射回避で覚醒、ナイチンゲールの援護を受けたエナジーウィングで【マモン】の斬撃を受け止める。
 そこからショットガンの反動利用し上昇。エナジーウィングで機体を安定させつつ離脱する。
 が、すぐに【マモン】は片方の剣を投擲してくる。それをエナジーウィングでガードするものの、わずかにバランスが崩れた。その間に弾かれた剣を相手は拾い、再び急接近する。
「負けるかよ!」
 ガードしては反動を利用して【マモン】から離れ、二挺拳銃を生かしての偏差射撃で二機間の距離を維持する。
 このまま時間まで耐えるか、彼女の剣を壊せればこちらの勝ちだ。