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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


(・アスモデウス)


 戦場に現れたのは、魔法を使う未確認機だけではない。
(白のクルキアータ……?)
 シフ・リンクスクロウはその機体の姿を捉えた。ウクライナで烏丸機が暴走した際に現れたF.R.A.G.のイコンだ。
 通常のクルキアータよりも女性的なフォルムで、武器はレイピアだ。
 他の機体の相手をすることなく、真っ直ぐに【コキュートス】へと向かってきた。
 思い当たる理由は一つ。ウクライナで暴走した危険な機体の始末。
(私は暴走なんかしません)
 とはいえ、耳鳴りと頭痛はまだ止まない。シンクロ率上昇による影響だ。
(ミネシア、頼みますよ)
(え、シフっ?)
 レイヴンに対する答えは出ている。覚醒と同時にシンクロ率を一気に80%まで上げた。ここにいるのは自分一人ではない、パートナーが、共に戦う仲間がいる。レイヴンに抗うでもなく、飲まれるでもなく、受け入れる。色即是空。諸法無我。ただ、全ての流れに委ねる。「信じる」というのはそういうことだ。
 100%。その状態で白のクルキアータ【アスモデウス】のレイピアを受け止める。
(シフの思念が消えた?)
 彼女は無意識に反応し、攻撃を繰り出している。静かに、流れるように相手の攻撃に反応する。それに合わせるようにして、ミネシアも意識せずに急制動、旋回を行っている。
 シンクロ率100%は、機体が触れる空気そのものも自分の肌に感じるものだ。そのわずかな「空気の振動や音」さえも情報として流れ込むため、相手の行動を予知出来るのである。もっとも、それに対して無意識に反応しているため、予知している実感はないのだが。
 普通なら、予知することで相手の隙を確実に突けるわけだが、一切有効打を与えられない。
 相手はBMIを搭載しているようには思えないが、恐るべき反応速度で、シンクロ率100%の【コキュートス】の攻撃をかわしていく。ビームもシールドに付与したサンダークラップも、サイコキネシスでワイヤーを誘導しても、その全てを予め読んでいるかのように。だが、向こうの攻撃も自然と避けれるため、伯仲したままだ。
 ミラージュによる残像すら、相手は意に介さない。
 そこへ、一機のイーグリット・ネクストが駆けつけた。ビームシールドを間に立て、割って入る。
(悪いけど、ちょっと用があるんだ。ここから先は任せてくんねぇか?)
 テレパシーを受け、シフは我に返る。
 同時に、シンクロ率を一度安全域まで引き下げた。まだ常時高シンクロ率を出すまでには至らない。
(ですが、いくら次世代機だからってこの機体は……)
 自分自身は100%で戦っていたときのことはほとんど認識出来ていない。が、ミネシアから精神感応でその間のことを補完する。
(何、ほんとにヤバくなったときは遠慮しなくていい)

* * *


 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は【アスモデウス】の姿を見つけ、メアリーにテレパシーを送った。
(メアリーちゃん、やっほー。相手してくれよ)
(あらあら、わたくしの「攻撃対象」にあなたは入ってませんのに……)
 F.R.A.G.第一特務ミス・アンブレラことメアリー・フリージアから残念そうな声が返ってくる。
(それってどういうことだ?)
(本来ならば、劣勢になったときに部隊を撤退させる時間稼ぎがわたくしの役目ですの。ですが、追加で「超能力を使う黒い機体を優先的に排除」という指令が下ってしまいまして)
(ウクライナでのことがあるから……ってことか)
(おそらくそうでしょう。今戦っても分かりましたが、あなたのその機体以上に厄介ですわ)
 メアリーからすれば、第二世代機よりもヤバいということらしい。
 とはいえ、景勝からすればメアリーの方が遥かにとんでもないわけだが。レイヴンと【アスモデウス】の戦いに割り込みはしたものの、その戦いは目視で追いきれるものではなかった。
(やっぱり、任務だから退けない……よな?)
(ええ、今はまだ)
 あくまで彼女の狙いはレイヴンだ。だが学院の仲間が乗っている以上、見過ごすわけにはいかない。
 彼女をここで食い止める。
「ニーバー、エナジーウィング展開」
「はい!」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)がエナジーウィングを展開させ、メインスラスターを全開にする。
 ビームシールドと新式ビームサーベルを構えて、メアリーに接近戦を挑む。
 機動性ならこちらに分がある。また、覚醒で緩急をつければタイミングを誤魔化すことが出来る。
 だが、そう簡単にはいかなかった。
 【アスモデウス】は新式ビームサーベルの刃ではなく、柄と鍔の部分をレイピアの先で受け止めている。
(遅いですわ)
 そのままサーベルを払い、突きを繰り出してくる。それを覚醒、補助スラスターを全開にして回避。
 そこからエナジーウィングの角度を調整し、機体を安定させる。
 が、一瞬だけ速度を緩めた瞬間に【アスモデウス】が眼前に迫ってきた。今度は咄嗟にシールドで受け止める。
 一旦距離を置く。今度は新式ビームサーベルで正眼の構えを取る。【アスモデウス】との間合いを詰めてからが勝負だ。
 メインスラスターをフルにして斬りつける……と見せかけて、ワイヤーを放つ。狙いは相手の腕だ。
(そんな小細工が通用すると思いまして?)
 が、フェイントには引っかからない。ワイヤーが切断される。
 今度こそ、サーベルによる攻撃だ。
 しかし、先ほどと同じく受け流される。そのままレイピアは喉元を捉えた。人間だったら急所である。
 ここでまた覚醒を使い、補助スラスターを全開にして回避。そのまま機体を回転させて、回し蹴りを食らわせようとする。
 さすがにこればかりは予測してないだろう、と思いきや、右脚が綺麗に切断されていた。
 メアリーは異常なまでに強い。シミュレーターで格闘特化、スピード型の指揮官機とも互角に戦えるようになっているにも関わらず、【アスモデウス】の前には成す術がない。
(メアリーちゃんってさ、もしかして心が読めたりする?)
 思わずテレパシーを飛ばしてしまう。
(人の心なんて、読めませんわ。「なぜか」わたくしの直感が当たってるだけですわよ)
 それだけではなく、まるで人間のような精密な運動性能を持っていることから、機体にも何らかの秘密がありそうだった。
 しかし、そのとき女王の加護が【アスモデウス】以上に危険な何かの存在を告げていた。
「レーダーには何の反応もありません。まさか……」
 それこそ、直感だ。
 すぐ近くに、あの「青」がいる。