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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


間奏曲 〜Recitativo〜


 ――聖カテリーナアカデミー。
(コリマ校長、聞こえるか?)
 告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)が天御柱学院のコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)校長にテレパシーで連絡を行う。
(聞こえておる。状況は?)
 元から学院の許可を得た上での潜入調査だ。それに、アカデミー側も彼らがシャンバラの人間だと知った上で、自由に泳がせている。
 あの女校長の考えは読めないが、おそらくこの程度のことは歯牙にもかけないだろう。
(F.R.A.G.は全部で三つの部隊で構成されている。今そちらで戦っている、第一部隊、枢機卿が指揮権を持つ第二部隊。そして、このアカデミーの学生による第三部隊。第三部隊はあくまで予備戦力であり、これを撃破することは地球側の反発を招く。出撃を取りやめるよう交渉は行うが、決裂した場合はシャンバラ全員が悪という構図にならないために、F.R.A.G.側として出撃する)
(了解した。健闘を祈る)
 このことはパイロット科長にも伝えるように言ってある。
 ゾディアックが地球とパラミタを分断する力を持っていることを、自分達は知っている。しかし、まだF.R.A.G.側はそれを知らないはずだ。
 物理的にしろ心理的にしろ、世界平和のためにシャンバラと地球を分断しなければいけないというのは短絡的過ぎるように、ヴィクウェキオールには思えた。

「話って何かしら?」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、校長室のドアを叩いた。エルザは紅茶を啜りながら、落ち着き払っていた。普段の彼女と変わらない。
 F.R.A.G.とシャンバラが戦っているというのに、どうしてここまで余裕な態度でいられるのだろうか。
「単刀直入に言うよ。第三部隊を絶対に出撃させないで下さい」
 そんなことか、とさほど興味なさそうに彼を見てきた。
「一応、理由くらいは聞こうかしらね」
「今回の軍事的制裁は、あくまでF.R.A.G.とシャンバラのイコンの戦力差を証明するためのものだよね。だとしたら、第一部隊が劣勢になって第三部隊の力が必要になった時点で、戦闘続行の意味がない。アカデミーの生徒の錬度じゃ、例え数が揃ってて、シャンバラ側が疲弊していたとしても決定打には成り得ない」
「そうね。実際『聖歌隊』の子達は別格だけど、それでもあなた達と大差ないわけだし。あなたが本気を出していない、もしくは本気だけど向こうでは三下だっていうなら、絶望的ね」
 エルザは状況をよく理解しているようだった。
「敗北すれば、クルキアータは最強ではないことが証明され、F.R.A.G.の信用は地に堕ちる。勝利すれば、貴女達はパラミタからの干渉をなくすと同時に、最強の剣たるクルキアータを失う。契約者としての力も、圧倒的な装備もない状態で、世界の秩序を守れるの?」
「マヌエル君は守れると思ってるわね。彼にとっては信仰こそが絶対。
 それに、あのなんとかって言うイコンがパラミタと地球を分断出来るとして、離れた後に契約者が力を失うかなんてまだ分からないんじゃない? あくまであなたの言っていることは『可能性の一つ』でしかない」
 カップに口をつけ、飲み干す。
「熱心なのはいいけど、彼もまだ若いわ。これがチャンスとばかりに張り切って、周りが見えなくなってるもの。そんなわけで、最初っから第三部隊を出す気なんてないわよ。立場上、『状況次第ではやむを得ない』なんて言ったけれど。ダリアちゃんやレイラちゃん、カール君、ミス・アンブレラ。彼女達が負けるようなら、到底F.R.A.G.に勝ち目なんてないわ」
 少なくともエルザ校長が枢機卿に協力しているのは、表面上だけのようだ。
 彼女の本質が見えてこないのが不気味ではあるが。
「まあ、前々からシャンバラ政府に戦争をしたがっている人がいるのは感じ取っていたけれどね。シャンバラの学生さんも大変よねー、協力しなけりゃ『反シャンバラ』のレッテルを貼られるんだから」
「それでも、僕が知ってる人達はそれだけを理由に戦ってるわけじゃないよ。シャンバラに守るべきものを持っているから、そのために戦うんだ。ここの人達だって、そうだろ?」
 一度だけ海京に帰ったが、アカデミーでの生活を通して、どちらにいるのも同じ「人間」だと知った。
「『安全圏で見てる「権力者」の駒として利用されるのは虚しいだろ? 「今、ここに在る意味を考えろ』……貴女の仲間の言葉だよ」
「へえ、いいこと言う子がいるものね」
「お互い、憎しみ合って戦うわけじゃない。だったら、きちんと話し合って、状況を理解し合い、新しい関係を構築することだって出来るはずだ。今ここで、僕と貴女が話しているように、協調の道を取るのは、今からでも遅くはない。無駄な血は必要ないんだ」
 そこでエルザが口元を緩めた。
「信じる、信じないは別として面白いこと教えてあげるわ」
 この戦いの「裏側」について、彼女が告げる。
「ダリアちゃんはこの状況をある種の陰謀だって考えてるみたいだったわ。だから、出撃前に『出来る限り、相手を無力化するにとどめておきます。相手を殺さずに倒すことの方が、殺すよりも難しいため力の差をアピールするにはいいでしょう』なんて言ってたけど、実際は『後々に備えて』被害を少なくしておこうとしているのかもしれないわね」
「それに対し、貴女は何て答えたの?」
「『いーんじゃない? まあないとは思うけど、「万が一新型機でも出てきて」ヤバイと思ったらさっさと帰って来なさいね』って言っといたわ」
「貴女はパラミタと地球の分断を望んでるわけではないみたいだね」
 対話の余地を残しているということは、そういうことだろう。
「前世紀に生まれて育ったあたしにとっては、元の地球に戻ったところで何の面白みもないもの。あたしは誰の味方でも敵でもない。ただあたしにとって面白ければそれで構わないのよ」
 なぜかは分からないが、背中に冷たいものを感じた。

* * *


 イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)がクルキアータを見上げていた。もしかしたら出撃することになるかもしれない、そう考えていたからだろう。
 そこにレオがやってくる。
「出撃する必要はなくなったよ」
「そうか。だが、少し残念だ」
 とはいえ、学生の出撃を阻止出来たのは幸いだ。
「レオよ、このクルキアータはアカデミーの者も正確な出所を知らない。それがいささか不気味だ。サイコメトリで確認してみてくれないか」
 機体に触れ、サイコメトリを実行する。
 見えてきたのはどこかの研究所のような場所だ。
 そこに二人の男が立っていた。一人は派手な柄のワイシャツにジーンズというラフな格好で、シャツの上に白衣を纏い、サングラスをかけている。もう一人は、黒いスーツに帽子を被った紳士風の姿だ。
 その二人の会話までは聞こえてこない。だが、開発途中のイコンの姿がある。今のクルキアータとは違う姿だが、ところどころ似通った部分があった。
 景色が飛ぶ。
 今度はクルキアータの姿になっていた。サングラスの男と向かい合っているのはマヌエル枢機卿であり、英国紳士風の男の姿はない。
 読み取れたのはそこまでだ。
 クルキアータは元々別の機体として開発されていたのを、マヌエルが受け継いで仕様を変更したものであるらしい。
「枢機卿と繋がっているかもしれない二人の男……。エルザ校長は何か知ってるのかな?」
 忘れないよう、サイコメトリで見た二人の人物の顔を記憶した。