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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「都市の中心部に一際デカい建物が見えるッスね。しかも、無人機の多くがまるで護るようにして取り囲んでるッス。
 ……他のところはそうでもないのに」
 地上には小さい影のようなものがぽつぽつと見える。少し前、巨大な八つ首の竜のような姿もあったが、今はない。
「兄さん、無人兵器とはいえ、侮れる相手ではありませんよ」
 狭霧 和眞(さぎり・かずま)ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)が駆る【トニトルス】が、無人機に向き直った。
 和眞達、ダークウィスパーは年の中枢に向かう【ナイチンゲール】の援護だ。ヴェロニカ達も小隊として数機で行動しているため、その周囲の護りを彼らで固めている、という形だ。
 今回のダークウィスパーは、前衛として和眞らDW−G2とDW−G1【ドラッケン】、DW−B1【ラーズグリーズ】の第一分隊と、後衛としてDW−B2【アルキュオネー】、DW−G3【ゴースト】、DW−RC1【ジャック】による第二分隊で編成されている。
『こちらDW−G2。敵部隊を確認。これより状況を開始します』
 ルーチェが通信を送った。
「先手を打って道を拓くッスよ!」
 エナジーウィング展開、ブースターを起動。
 無人機のビームキャノの砲口に照準を合わせ、プラズマライフルを放つ。
 内側から無人機が爆ぜるのを確認すると、プラズマライフルを散弾に切り替える。
「どうやら迎撃モードになったみたいッスね」
 敵の一部が、こちらの部隊に向かって発進してきた。
「プラズマライフルの発射準備は完了。その前に、隙を作るッス!」
 実弾式のショットガンで牽制を行うが、無人機である相手は多少の被弾は気にせずに飛び続けている。
 だが、それが好都合だ。避けなければ、射線を変える必要はない。
 プラズマライフルの引鉄を引き、無人機にプラズマ弾を照射する。散弾モードとなったそれは、両腕の刃を撃ち砕いた。
「兄さん、敵影、六です」
「了解ッス!」
 ちょうど、第二分隊の方に迫っていた。
「……今を大事に出来ない人達に、世界を任せることなんて出来ません。それを思い知らせてやりましょう」
 ルーチェが静かに意気込むのが分かった。
 かつて神が世界を洗い流し、その結果出来た今の世界が歪んでいるというなら、全く同じ事をした所で、結果は変わらないだろう。ただ、「繰り返される」だけだ。
 そんなものは、「今」から逃げるための方便に過ぎない。
 「今」を生きる自分達は、ここで負けるわけにはいかない。

(敵機接近、第二分隊の射程に入るわ)
 【ゴースト】の霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)常磐城 静留(ときわぎ・しずる)から精神感応を受けた。
(数が多いね。さあ、この状況を打破して見せてよ、新型!)
 新式プラズマライフルの照準をこちらに向かってくる無人機へと合わせた。さすがに、飛び回りながら行えるほどの技量はない。
 引鉄を引くと、反動で機体のバランスが崩れる。そのせいで狙いがわずかにずれてしまった。
「威力は高そうだけど、自分にはまだ早いかな」
 反動を受けても機体のバランスを維持出来るくらいの操縦技量がなければ厳しい。二人にはまだジェファルコンを乗りこなせるだけの技量がないため、取り回しの効く実弾式の銃剣付きアサルトライフルへと装備を切り替える。
 同分隊の【ジャック】からのビームキャノンの光条が【ゴースト】の真横を通り過ぎていった。
 眼前の敵がそれをかわしたのを見計らい、アサルトライフルを撃ち込む。
「動きが止まった? よし、今のうちだ」
 無人機に接近し、今度は新式ビームサーベルを振り下ろした。機体は両断され、空中で爆発する。
『どうやら無人機にはジャミングが効くらしいの。成功したら合図を送るようにする。その間に狙えばよい』
 【アルキュオネー】の御厨 縁(みくりや・えにし)から通信が入った。
『DW−G3、了解。それまでは援護に徹するわ』
 静留がそれに対し返答する。
 悔しいものがあるが、まともに乗りこなせない以上、自分に出来ることに徹するしかない。
 ナギサは第二分隊の他のメンバーと一緒に、第一分隊と中枢へ向かう者達のサポートに徹した。

『DW−G3は、まだ扱いを心得てはおらん。無理をせぬよう、フォローを続けとくれ』
 【アルキュオネー】から連絡を受けた高峯 秋(たかみね・しゅう)は、長距離射程スナイパーライフルを構えた。
 敵のビームキャノンの射程を頭に入れつつ、その砲口に照準を合わせる。
 上空から時折降り注ぐ【マリーエンケーファー?】からのミサイル攻撃がやってくるが、サイコシールドで防いだ。
 さらにその煙を利用して姿を隠し、視覚センサーによる射線感知をしにくくさせる。
 レイヴンのリミッターは解除されているため、シンクロ率を任意の値に設定することも可能だ。
 現在は40%。30%あれば、第二世代機とも十分渡り合うだけの力はあるため、小隊の援護を行うという点では十分過ぎるくらいだ。秋は大丈夫だが、エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)も様子を見る限り何ともなさそうである。
 レイヴンは搭乗者の精神状態に影響される。不安を抱えていれば不安定になり、負の感情があればそれによって暴走にまで発展する可能性がある。
 しかし、この一年の戦いを通して成長した彼らは、この正にも負にも転び得る機体を扱いこなせるまでになっていた。
 この世界を変えたいという気持ちは分かるかもしれない、けど、ノヴァという人物の言う方法は間違っている。だから、絶対に止めなくてはならない。
 きっと世界を変える別の方法があるはずだ。それを探すのはとても大変で、変わるのにはさらに時間はかかるかもしれないが……。
 それでも、そこに可能性があるならそちらを選択すべきだと、秋は思う。そこに確固たる意志がある限り、レイヴンは自分達に応えてくれる。
 スナイパーライフルの引鉄を、射程外から引いた。
 サイコキネシスによって銃弾を押し出すことによって、本来の射程以上の距離からでも撃てるようになっている。
 それは敵の砲口に吸い込まれていき、ビームキャノン発射の瞬間、暴発を起こした。
 同じ要領で、無人機にとどめの一撃を放っていく。
「アキ君、もうすぐ【ナイチンゲール】達があの建物に着くよ」
「分かった。ここで一気に突破させるよ。エル、頑張ろう!」
 覚醒を行い、イコン用と思われる入口付近にいる無人機へ向けて、今度は大型ビームキャノンを放った。
「ここにいる無人機は俺達が食い止める!」
 【ジャック】と【ゴースト】が、【アルキュオネー】によるシールド援護を受けて、前進した。そこからは、無人機との接近戦を行っている第一分隊の支援だ。

 【トニトルス】、【ラーズグリーズ】と連携し、天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)は【ドラッケン】の機体を駆る。
 反動が大きく、連射が効かないプラズマライフルはいざというとき使えるように温存し、実弾式の銃剣付きアサルトライフルで攻撃を行う。
「沙耶、今よ!」
 やはり一番の狙い目は、胸部のビームキャノンが発射される瞬間だ。そこを狙って、沙耶はトリガーを引いた。
 弾を無駄に使わず無人機を多く倒すには、敵の武装も利用するのが早い。これまで中距離、遠距離戦を行ってきた沙耶にとっては、ライフルでキャノンの砲口を狙う程度は造作もないことだった。
 的は大きい。これがもし、同じ口径の銃口を狙うとなればさすがに難しいが、幸い無人機に関してはそれをしなければならなくなってしまうような心配はいらなそうだ。
 カスタム機、上空の【マリーエンケーファー?】も、仲間達がそれぞれ対処してくれていることが通信を聞いていると分かる。
 そちらが心配ではないと言えば嘘になるが、皆ここまで共に戦ってきた者達だ。そちらは任せ、自分がやるべきことに沙耶は専念した。

『さて、準備はいいですか皆さん』
 DW−E1【ラーズグリーズ】に乗るエルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)は、小隊各機へ確認を取り、【アルキュオネー】と示し合わせる。
『干渉を同時に行うと?』
『機晶石が動力ではないらしく、干渉は聞きません。私の推測ですが、ジャミングによるセンサーやレーダーの妨害を行えば、機械である以上リアルタイムの判断材料がなくなり、フリーズするようです。もっとも、すぐに周波数を変えるなり、外部電波をシャットダウンして対策するようですが。それでも最低一分、最大で三分程度は無人機を止めることが出来るはずです』
 加えて機体内部に対策装置がないことを考えると、機体内部ではなく外部から何らかの信号を受け取ってあの無人機が動いている可能性が高い。何かの拍子でそれをもシャットダウンしたら動かなくなってしまうため、そうならないようにしているためである。
「計算終わったぜ。いつでも大丈夫だ」
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が告げる。
『DW−B2、そちらは?』
『こちらも完了しておる。いつでもよいぞ』
 レプンカムイの表示を見て、二機の有効範囲を確かめる。
『ピンポイントで一機、というわけではないので気休めに過ぎませんが……それで一瞬だけでも隙が生じるのなら十分です』
 二機のブルースロートが同時に無人機へのジャミングを開始した。
「……それにしても、再生ですか」
 あの宣言を思い出す。超霊を一瞬でかき消した白銀のイコンの規格外の力。そして一度洗い流し、あるべき姿に再生するという言葉。その二つは関係がありそうだ。
 回帰の剣。自分は直接見たわけではないが、あの力はそういう名前であるらしい。ならば、超霊を消したのはその存在を無に回帰させた――それこそ、宇宙の法則に直接干渉するような力なのかもしれない。
「最初から世界をやり直したところで歪みのない世界が出来る保障は何もない。人間は過ちを乗り越え成長していくもの。自分の絶望を他者に押し付けてもらっちゃ困るんです。私達は『その先』へ進まないといけない、だから……」
 ダークウィスパーの各機が無人機へ一斉攻撃を行った。
「ここは通してもらいますよ!」