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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第三楽章「死闘」


「ふふ、ずいぶんとご大層なことを言ってくれるわね」
 七つの大罪【ルシファー】に乗ったメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、口の端を吊り上げた。
 ノヴァの語った『創世計画』。この世界を再生するとノヴァは宣言していたが、それ自体は嘘ではない。
 そしてもし、その計画が成就すれば、メニエスの目的は達成されることになる。
 その方法については詳しく知らされているわけではない。だが、あの『回帰の剣』が全てを一掃するだけの力を持っているのは確かだろう。
(もうすぐ世界が生まれ変わる。この戦いが、その『新世界』に連れていくに相応しい人間がいるか見定めるためにあるのだとしても、あたしがやることは変わらないわ。ふふ、どちらにしたって、そのときになればあたしにとっての邪魔者はみんな消える。だけど……)
「マスター、こちらへ向かってくる敵影を確認しました。数は三。データ照合完了、シャンバラが所有する第二世代機です」
 全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)が報告してきた。
「今、『この世界』で邪魔されてなるものか! 元よりこの世界にすら必要ない貴様らなど、あたしがこの場で殺してあげるわ!」
 可能性の芽は摘んでおかなければならない。
 【ルシファー】が機体外の魔力制御用の杖を携え、迎撃準備に入った。

* * *


『あれが、メニエス・レインが駆っているという機体――【ルシファー】か?』
 アジュールユニオン小隊の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は、無線を通じて鳴神 裁(なるかみ・さい)に確認した。
『うん。学院にあるこの前の戦いのデータを見たから、間違いありませんよ』
 白銀のイコンのパイロットが通信で呼び掛けた際、確かにメニエスの名前があったのだという。敵の三機いたカスタム機のうち一機は、魔法を操るイコンとなっていた。それが、今岩造の前にいる。
『ワシが岩造の身をお護りする。メニエス・レインと鏖殺寺院は全ての世界を滅ぼそうとする悪の塊じゃ。全力で行けい!』
 彼が身に付けている魔鎧である武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)が言う。
 今回、岩造が搭乗しているのは乗り慣れた自分の機体ではない。第二世代機プラヴァーの、重火力パック装備機だ。彼にとって枷になるサポートプログラムは切ってある。
 接近戦は、裁のジェファルコン【シルフィード】の担当だ。
 後衛のプラヴァー、前衛の【シルフィード】、そして鬼頭 翔(きとう・かける)カミーユ・ゴールド(かみーゆ・ごーるど)の搭乗する防御支援機のブルースロートの三機で小隊がバランスよく組まれている。
(たいちょ〜、くれぐれもブルースロートの防衛範囲から外れないで下さいよ)
 今度はテレパシーで念を押してきた。
(分かってるよ)
「前方の機体から、高エネルギー反応。攻撃、来ます!」
 フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が告げる。
 直後、小隊三機が炎に包まれた。【ルシファー】によるファイアストームだ。
 ブルースロートによるエネルギーシールドのおかげで、何とかそれを防ぐことは出来た。その炎が壁となっている間に、フェイトが【ルシファー】に対し、三つの照準を同時に合わせる。
「プラズマキャノン、発射準備完了です!」
 最初から加減するつもりは一切ない。
「覚悟しろ、メニエス!」
 炎が消えた瞬間、二門の大型ビームキャノンと主砲のプラズマライフルから光が迸った。三門同時という無茶をしたために、その反動でプラヴァーのバランスが大きく崩れる。
「何の……これしき!」
 岩造は機体のブースターを噴かせ、何とかバランスを取ろうとする。
「やったか……?」
 直撃すればただでは済まない。だが、【ルシファー】は無傷で健在だ。
『単純ね。殺傷力の高い攻撃ほど、見抜きやすいものはないわ』
 岩造はメニエスをここで殺さんと意気込んでいる。それだけ殺気だっていれば、ディテクトエビルや殺気看破で警戒していさえすればすぐに分かってしまう。
『メニエスッ!!!』
 すぐに次弾の準備をフェイトに指示した。
「駄目です。オーバーロードしてます。エネルギーカートリッジを交換しても、最チャージまでまだ時間が掛かってしまいます!」
 さすがに無理がたたったらしい。そもそも、プラズマキャノンは一発当たりのエネルギー消費量が大きい。ビームキャノンも、決して小さいわけではない。それを両方フルチャージの状態で撃とうものなら、一時的に兵装が使用不可能になっても不思議ではないだろう。
 冷静さを失った岩造は、それを見落としていた。
『たいちょ〜、落ち着いて下さい。逆上したら思うつぼですよ』

 不安は的中してしまった。
 岩造の一斉砲撃がしくじったとき、裁は真っ先にそう思った。
 重火力型のプラヴァーに乗ってきたから第一の懸念はクリアしたと少しだけ安心していたが、隊長は隊長だった。
 前に出るのを止めたのはいいが、今度は後先考えずに最初からフルパワーで砲撃してしまった。
(重火力型なんだから、エネルギーの消費量が大きいことくらい、考えれば分かるだろううに……)
 まあ、外れたものの【ルシファー】の背後にいた無人機が二機ほどそれに巻き込まれて消滅したからまったく無意味だったわけではないのだが。あんな無茶なことして、墜落しなかっただけでも、大したものである。そこはさすが軍人、といったところか。
「今のところ、近くの敵はルシファーだけだよ」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が言う。
 アジュール1が復帰するまでどれだけかかるか分からない。ただ、纏っているドール・ゴールド(どーる・ごーるど)のテレパシーを通じて応援を呼ぶには早い。ただ、最悪このまま重火力パックが使えないままだと、銃剣付きビームアサルトライフルで特攻してしまう危険性がある。
 そうなってもいいのは、【ルシファー】が完全に行動不能になってからだ。
「さて、一対一。機動力ならこっちの方が上。だけど、どうやって近付いたものかな」
 どれだけ機動力が高かろうと、広範囲魔法を使われたら迂闊に接近することもままならない。
 また、魔力によってマジックシールドが形成されている可能性も高い。
『こちらアジュール3。エナジーウィングを強化致しますわ。あと、出来るか分かりませんが、敵機体への干渉で魔術回路の乱せないかやってみますわ。イコンに応用していることを考えると、機体から出力されるのに、何らかの手続きを踏んでる可能性がありますので』
 カミーユからの通信が入った。
『了解。ただ、たいちょ〜の機体から注意をそらさないように』
 戦い方次第では、プラヴァーがブルースロートのレーダーの範囲外に出てしまうことがあるかもしれない。
 ただ、それ以上に頭に血が上っている隊長が何をしでかすか分からないという不安の方が勝っている。
(とにかく、エナジーウィングの防御力を信じるしかない)
 ジェファルコンを覚醒させる。
 その状態で、ルシファーに向かっていくが、真正面から突っ込むようなことはしない。あえてアップダウンを激しく行うことで、こちらの動きが読みにくくなるようにしている。これが通用していればいいが……。
『こざかしい!』
 【ルシファー】が再びファイアストームを繰り出してきた。避けきるのは困難なため、アリスがエナジーウィングを、機体正面を覆うように展開し、【シルフィード】が炎の中に飛び込んでいく。
 アリスがセンサーを確認しながら、【ルシファー】の位置を伝えてきた。【サタン】や【ベルゼブブ】はレーダーに映らない。おそらく、カスタム機はそうなのだろう。だが、ファイアストームによる熱源を感知することは出来る。
 そこに向かって、新式ビームサーベルによる斬撃を繰り出した。
「いない!?」
 【シルフィード】が薙いだのは、炎の精霊だった。
 そこへ、今度はブリザードが繰り出される。それを同様にエナジーウィングで防ごうとするが、
「しまったっ!!」
 エネルギー部分は冷凍ビームのような強力な冷気でなければ打ち消すことは出来ないが、エナジーウィングの骨格部分は別だ。
 そこが凍りついたら、翼が自由に動かなくなる。
「消えろ!」
 【シルフィード】の上から、天のいかづちが降ってきた。それが直撃し、エナジーウィングが大破、しかも制御不能となり、都市へと落下していく。
 そして、案の定直後に岩造のプラヴァーが【ルシファー】へ特攻していくのが見えた。さらに、至近距離からプラズマキャノンを放って止めを刺そうとしたようだが、オーバーロードした状態で無理に撃とうとしたために暴発した。
 二機を救出するために、ブルースロートが機体干渉によるコントロールを試みながら、降下してくる。
 制御不能だったものの、それによって脱出装置が作動し、裁達は【シルフィード】から抜け出した。
 一方の岩造達は暴発の衝撃で機体が大破しており、外からコックピット内部が見えるほどだった。
 落下中にそこから岩造とフェイトが投げ出されるが、その二人をブルースロートが救出する。
 アジュールユニオン小隊は【ルシファー】の前に敗れ去った。

「見つけた!!」
 見間違えるはずがない。葛葉 杏(くずのは・あん)は【ルシファー】の姿を発見した。
『その機体は危険だからここで破壊する。今回は逃がさない!』
 杏は【ポーラスター】の覚醒を起動し、BMIのシンクロ率を一気に60%まで上げた。
『この前の黒いヤツね。誰も逃げないわ。むしろ、あたしが貴様らを逃がさないのよ』
 前回の雪辱を果たすため、杏は【ルシファー】へ勝負を仕掛けた。