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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「ウォーレン、なんで今回はレイヴンにしたの?」
「こいつが俺に乗れと呼んだ気がしたから……それにシュミレーターで訓練したコイツなら大丈夫だと思ったからな」
 水城 綾(みずき・あや)ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)は、レイヴンTYPE―E、【ホワイト・ライトニング】に搭乗し、戦場に出ていた。
 ウォーレンは強化人間ではないが、基本的な扱いには困らなかった。
「ようやくお出ましか……」
 シュバルツ・フリーゲを彷彿させる機体。先日の戦いに現れた、見紛うことなき、カミロ・ベックマンの新型機だ。
「お前を倒さなければ俺は先に進めない」
 機関銃の銃口を向けてきた【ベルゼブブ】を、彼は睨みつけた。
「戦いは怖いけど……頑張ってサポートするから……今度こそ倒そう」
 ビームシールドを構え、戦闘態勢に入る。
 そこに、オープン回線での通信が聞こえてきた。
『よう! カミロ!! てめぇのところの大将、世界を造り変えるだの言ってやがるぜ? てめぇがやりたかったってのはこんなことか!? 大切な物との思い出をぶっ壊すって言ってんだぜ!! このままじゃ、カミロ。てめぇが求めてるものは何も手に入らない。後悔すらできないんだぜ!?』
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。
『君は勘違いをしている。壊すのではない、全てをやり直すのだ。もはやこの世界で、私の求めるものは手に入らない。だから、「新世界」へ行く。その邪魔をするというのなら、私がここで沈めてやろう』
 それは、この世界に絶望した男の言葉だった。自分が救われない世界ならなくなってしまえばいい、どこまでも時分勝手で、独りよがりな。
『まぁいい! オレはてめぇを倒す! そして認めさせてやる! カミロ、てめぇにオレの存在を!!! てめぇの間違いを!!!』
『間違いを知るのは君達だ。行くぞ、ルイーゼ。彼らに現実を見せてやらねばな』
『はい、カミロ様』
 先手を打ったのは、鬼羅達だ。最初から覚醒を行い、銃剣付きアサルトライフルによる弾幕を張った。
 【ベルゼブブ】がシールドを展開するが、ほとんどはその機関銃で撃ち落としている。
 【ホワイト・ライトニング】もまた、カミロにビームライフルで牽制を行いながら接近した。
 強化人間ではないウォーレンによるシンクロ率は、30%が限度だ。それでも、サイコシールド、ビーム兵器の威力への上乗せくらいは出来る。
「さすがにあのシールドは破れないか」
 ビームライフルは通用しない。
 【ベルゼブブ】の背部スラスターが赤い光を閃かせた。ジェファルコンではなく、こちらから先に墜とすつもりだ。
『俺がヤツを引き付ける。その隙に狙え!』
 【ホワイト・ライトニング】が【ベルゼブブ】と向かい合う。逃げも隠れもしない。ただ、正面から戦うのみだ。
 ビームサーベルと対ビームコーティングがなされているランスが衝突し、その感触がウォーレンに伝わってきた。
『どうした? その程度では私を止めることは敵わんよ』
 ビームサーベルが弾かれ、ランスによる突きが繰り出されようとするのが分かった。ビームシールドでそれをガードするが、一発受け止めただけで壊れてしまう。その衝撃で【ホワイト・ライトニング】がバランスを崩すが、ウォーレンはすぐに戻そうとする。
 操縦桿を握り、スロットルレバーを押し、肩部のスラスターを片方だけ噴かせることで突き出されるランスをかわした。
「ならば……レイヴン! 俺の命などくれてやる。ヤツを倒す力を貸せ!」
 覚醒。さらに、シンクロ率を上昇させる。
 メーターは、強化人間の通常限界である50%を示していた。
(もってくれよ、俺の身体……!)
 【ベルゼブブ】の動きを肌で感じられようになる。だが、さすがはカミロというべきか。分かっていても、反応が追いつかない。
 頭痛がする。流れてくる情報を読み取りながら【ベルゼブブ】の動きを予測し、サーベルを振り抜いた。
 だが、
『それが全力か?』
 機関銃の銃弾がジェネレーターに直撃した。出力な急激な低下を受け、【ホワイト・ライトニング】がバランスを崩す。
「く、そ……」
 このまま戦い続けるのは厳しい。そう思った直後、【ベルゼブブ】に向かってプラズマ弾が放たれた。
 辻永 翔(つじなが・しょう)アリサ・ダリン(ありさ・だりん)が駆る機体だ。
『カミロ、ここで決着を着ける!』

『翔くん、援護するよ!』
 桐生 理知(きりゅう・りち)は機関銃を構え、翔達の機体が【ベルゼブブ】に近付くための援護射撃を行う。
 新式プラズマライフルではなく汎用機関銃を使うのは、前回の戦いでプラズマライフルでは牽制や援護がし難いことに気付いたからだ。
 反動に備えた姿勢制御や、トリガーを引いてから発射されるまでのわずかなタイムラグを考えると、カミロほどの実力者が相手では厳しいものがある。
 また、あのランスが見た目以上に厄介な代物であることも知っている。シールドを破壊するまでは、なるべく距離を取った方が良さそうだ。
 翔のジェファルコンが新式ビームサーベルを【ベルゼブブ】に振り下ろす。それがシールドで受け止められた。
『その武器ではこのマルチエネルギーシールドを破ることは出来ん』
 至近距離から機関銃を放つ【ベルゼブブ】から、翔達のジェファルコンが離脱した。シールドは機体前方に展開出来ることは分かっているが、他はどうなのかはまだ分かっていない。仮に正面だけだったとすれば、背後に回り込めれば勝機はある。
『カミロを挟み込む。手伝ってくれ』
『分かった!』
 翔からの通信を受け、【ベルゼブブ】の機体へ向けてジェファルコンを加速させる。実弾式武装を持たない翔を援護するため、理知はあえて正面から挑む。
(翔くんは傷つけさせないんだから!)
 おそらく、カミロは自分達よりも翔の方を警戒しているだろう。引き付けるだけなら、ちょうどいい。
 機関銃で弾幕を放つが、相手もそれは同じだ。しかも、威力は向こうの方が上。シールドを張らずとも、弾幕の物量で理知からの銃撃を【ベルゼブブ】が防いだ。
「こっちなら……!」
 イコン用まじかるステッキを振るう。
 しかし、それはシールドで止められてしまう。
『それ一発で、破れると思ったか』
 シールド自体の強度もかなり高いようだ。
 ちょうどそのとき、【ベルゼブブ】の背後から翔の機体がビームサーベルを横薙ぎにした。
 【ベルゼブブ】は即座に機体を反転させ、ランスでそれを受け止めた。
『私が気付かないとでも思ったのか?』
 そのままランスでサーベルごとジェファルコンの機体を弾き飛ばした。
『翔くん!』
 理知はシールドが消えたところで、ジェファルコンをカミロ機に肉薄させた。
 翔達の機体は無事だ。だが、彼を傷付けられて黙っているわけにはいかない。
「接近戦は智緒に任せて!」
 タッチパネルから設定を捜査し、北月 智緒(きげつ・ちお)と操縦を交代する。ここからは、知緒が攻撃担当だ。
『武器も持たずに何をする気だ?』
 ジェファルコンが、突き出されたランスをマニピュレーターで受け流した。後の先から、機神掌を繰り出す。
『――ッ! イコンで掌打だと!?』
 驚きの声が、通信回線越しに上がった。
『イコン格闘術、舐めてもらっちゃ困るよ!』
 バランスを崩した【ベルゼブブ】に対して、理知はサブスラスターを出力全開で噴射させる。
 機体が勢いよく回転し、その勢いを利用して脚部を振り抜いた。イコン格闘術、旋風回し蹴りだ。
 【ベルゼブブ】はランスでそれを受け止めるが、後方へ跳ね飛ばされた。
 さすがにランスは頑丈だったらしく、蹴り一発では壊れなかった。
「……通用するのはここまでだよね」
 知緒が小声でこぼした。今のは、カミロがイコン格闘術を知らなかったから効いたようなものだ。
 態勢を立て直そうとしている【ベルゼブブ】を追おうとする。
 だが、そこにビームが飛んできた。無人機が理知や翔達に迫っていたのだ。
「ひとまず、こっちをどうにかしないとね」
 無人機に向き直り、汎用機関銃を構え直した。