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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

(メアリーちゃん、いるんだろー)
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)は、この戦場のどこかにいるはずのメアリー・フリージアに、テレパシーで呼び掛けた。
(約束は覚えてるか? 余計な世話かもしれんが、絶対に助けるぞぉ)
 すると、声が返ってきた。
(やっぱり来てしまいましたわね。わたくしが何を言ったとしても、あなたはその考えを変えることはないのでしょう。あなたが思う道を進めば、わたくしの前に辿り着くはずですわ)
 その声からは、全てを悟っているかのような落ち着きが見られた。
 無人機の間を抜けながら、白いクルキアータの姿を探す。
(どうしても解んねーんだが。そっちの考え方で、『救いのある世界』なんて可能なのか? 俺ら死んじゃうぞぉ? 聞いた限りじゃ選民主義みたいな感じなんだが?)
(いいえ。総帥の目的はあくまで再生。いえ、『再世』といった方がいいでしょうか。選民主義ではなく、ただ『新世界』を望む者だけがそれを感じ取れる、というだけのことですわ。誰も死にはしません。いえ、たとえこの戦いで死んだとしても、『死んだ』という事実さえもなかったことになりますわ)
 それを聞いても、どうにも釈然としない。一度世界が滅ぶみたいなことを言っているのに、誰も死なないとはどういうことなのか。
(それでその『新世界』に行ったとして、最終的にはどうしたいんだよ?)
(わたくしは……)
 メアリーがそれを告げた。
(ありふれた、普通の女の子として生きたい。特別なことなんてなくていい。ただ、次の瞬間には何が起こるか分からない、そんな毎日が送りたい。この世界にいては、駄目なのですわ。誰かが書いた脚本で演じるメアリー・フリージアという配役ではなく、ただそこにいるメアリー・フリージアという一人の女でありたい、それだけですわ)
 テレパシでの声ではあるが、泣いているかのように震えていた。
(正直、あなた達が羨ましいですわ。仲間がいて、時に楽しく、時に辛く、でもそんな毎日を精一杯生きているあなた達が、ひどく輝いて見える。眩し過ぎるほどに。この世界で、わたくしが一番憧れながら、手に入れることが出来なかったものをあなた達は持っていますわ)
 彼女はこの世界を変えるのではなく、今とは違う自分がいる世界に行きたいだけだ。
 だが、メアリーの思いに反し、彼女は優秀過ぎた。同時に、非常に脆くもあった。そこをつけ込まれ、利用されているのだ。本人にとってはそれさえも予想されていたことで、あくまで自分の意志でここに立っていると考えているだろうが。
「景勝さん、あそこです!」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が声を上げた。
 ――見つけた。
(……なんだよ、ただ寂しかっただけじゃないか。待ってろよ、メアリーちゃん。その孤独から、助け出してやっからな!)
 声には出さずにその思いを秘め、景勝は【アスモデウス】をじっと見据る。
 ミス・アンブレラという仮面を被ったメアリー・フリージアとの、最後の一戦が始まりを告げた。