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リアクション
六章 動かない時計塔プレッシオ
動かない時計塔プレッシオ周辺。
特別警備部隊の一員、レオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)は道を行く人に聞き込みを行っていた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、この二人を見なかった?」
レオナーズは早朝の会議で配布された明人とリュカの写真を通行人に見せる。
通行人はまじまじとその写真を見た後、「見ていないね」と言い首を横に振った。
「そうかぁ……。手間をとらせてごめんね。ご協力ありがとう」
レオナーズはお礼を言うと、今までの聞き込みをメモした手帳をポケットから取り出し開いた。
さっきの人でかれこれ二十三人目。しかし、いまだ二人の目撃情報は出ていない。
「うーん……。
同じ隊員の乱世からこっちに向かったっていう情報が来てたんだけど、中々見つからないなぁ」
レオナーズは長いため息を吐く。そして、手帳のページを一枚めくった。
そのページに書かれていたのは、唯一手に入れることが出来た有益な情報。
それは明人とリュカに関することで、証言人は露店のおじさん。証言はこうだった。
『ああ、この子達なら昨日うちの食べ物を買っていってくれたよ。
そのとき、なんだかあの獣人のお嬢ちゃんは『ペンダント』みたいなものを大事そうに持っていたねぇ』
目撃情報ではないが、一つの成果だ。
「情報がないわけじゃないんだ。しらみつぶしに聞いていこう!」
レオナーズは「うしっ!」と気合を入れて周辺を見回す。
この時間帯は祭りのピークなのだろうか、道を行く人の姿は一際多い。
この中から二人を探すなど、砂漠の中でダイアモンドを見つける作業とそう難度は変わらないように思える。
「と、言っても骨が折れそうだよなぁ……」
レオナーズは頭を掻き、困ったように一人ごちた。
その様子を見かねて、パートナーのアーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)は呆れたように言う。
「なーに、レオナ。もう諦めたわけ? 根性ないわねぇ」
「……うるさいな」
アーミスの偉そうな口調に、レオナーズは少しムッとする。
「そういうアーミスはどうなんだよ?」
「えっ!? わ、私?」
「それだけ言うのなら何か手がかりが分かっているはずだよね? 見せてよ」
レオナーズは半ば無理やりアーミスから手帳を引ったくり、中身を見た。
そこは真っ白。何も書かれていない。それはレオナーズよりも遥かに酷かった。
「なんだ、こんなもんか」
レオナーズはフッと鼻で笑いながら、手帳をアーミスに返す。
アーミスは顔を真っ赤にし、両手を強く握り締めて大声で言った。
「私だって、やれば出来る子って言われてるんだから出来るわよ! 見てなさい!」
――――――――――
時計塔近くの喫茶店の店外テーブル。
コルッテロに雇われた傭兵であるルベル・エクスハティオと夜月 鴉(やづき・からす)はそこで軽食を取りながら、会話していた。
「で、リュカの捜索に進歩はあったの?」
「いいや、残念ながら何もなしだ。
……というか、特別警備部隊と、契約者がいるんだろう? それだけの数が入れば、わざわざこっちが動かなくても良いと思うが」
「敵対するあの部隊が足取りを見つけるまで待てっていうわけ? んなこと、血の気の多いアタシ達が出来るとでも思う?」
「そりゃそうか」
鴉は苦笑いを浮かべ、机の上のサンドイッチを口に運ぶ。
その姿をルベルはじとーっと見ながら、疑問に思ったことを口にした。
「アンタ、根っからの悪人じゃないわよね? なのになんで今回の仕事に参加しているわけ?」
「……は? いきなりなんだよ」
「単なる好奇心よ。
アンタからはあのコルッテロの連中みたいに悪人の匂いがしなかったから、不思議に思って聞いてみたわけ。答えたくないなら答えなくてもいいわ」
「別に構わないよ。理由は、ただ単に払いが良かったからだ」
鴉はそう言うと、付け合せのスープを飲み、続ける。
「リュカって奴には悪いが、仕事だし恨む義理もなければ容赦する義理もない。
孤児だったてのもあって、金は欲しい訳よ。生きる為にな。だから、善悪関係なしに仕事はやってるわけ」
「ふーん、そうなんだ……」
「で、あんたは? 俺が答えたんだから、教えてよ」
鴉は食事を終えると、《ティ=フォン》を取り出し、現在の情報を確認する。
液晶に映る内容は、この場所に来ている特別警備部隊の人数。そして、数時間前にあの二人組はこちらに向かったらしいことが書かれていた。
「アタシはそうね……アンタと同じ理由かな。
アタシはゲヘナフレイムの一番強いエースだから。ウチは大所帯だから維持するために莫大なお金が必要だし」
「ふーん、集団のためね」
「うん。アタシが稼がなくちゃ、子供達に玩具も買ってあげられないし。
みんなをお腹一杯食べさせられないし、着る物だって十分に与えられないしね」
「……意外だな。噂によれば、ゲヘナフレイムはもっと冷徹な集団なのに」
「冷徹よ? 残虐だし、思考は獣じみているわ。
けど、アタシ達は故郷に追われた者ばかりだから、その分居場所に対して思い入れが強いの。だから、仲間意識が強固なのよ」
ルベルはそう言うと、珈琲の入ったカップを持ち、口へと運ぶ。
しかし、予想以上に熱かったのか「……あひゅい」と呟き、業火の紋章が刻まれた舌を空気に晒すため外へと出した。
「……ぷっ」
鴉は少し涙目のルベルを見て、小さく吹き出した。
ルベルはそれを耳にし、涙混じりの三白眼で彼を睨む。
そんな折、一般人に紛れ込みリュカの捜索を行うパートナーの御剣 渚(みつるぎ・なぎさ)から<精神感応>でテレパシーが送られてきた。
『鴉。不味いことになった』
渚の言葉は苦々しげだ。
『……どうした? もしかして、相手側にリュカが保護されたのか?』
『違う。そちらのほうは全然ダメだ。目撃情報が全く出てこない。よほどあの二人は隠れるのがお上手なようだ』
『なら、何が不味いんだ?』
『コルッテロの構成員の数人が、特別警備部隊の者に接触した。
特別警備部隊の者が逃げたので、構成員の連中は今追っている』
『……それの何が不味いんだ?』
鴉の問いかけに、一泊遅れて返事が返ってきた。
『私はあの者達を知っている。かなりの手練れだ。
きっと、逃げたのはどこかへ誘い込むのが目的だろう。このままでは身柄が確保される』
『そうか。分かった。……向かった場所は分かるか?』
『ああ、ある程度は予想がつく。向かった場所は――』
渚の説明を聞き、鴉は『分かった。任せろ』と伝えると、最後に指示を出す。
『渚はこのまま、一般人に紛れこんで捜索を続けてくれ』
鴉は<精神感応>を切ると、ルベルを見つめ口を開いた。
「お願いがあるんだけど、いいか?」
「ええ、構わないわよ」
ルベルの赤く美しい瞳に好戦的な意思が浮かぶ。小さく整った唇を、潤すために舌でなぞる。
それはゲヘナフレイム特有の獲物を見つけたときの仕草だ。
恐らく、これから頼まれることが大体分かっているのだろう。自分の得物である真紅の槍《悲姫ロート》を掴み、今か今かと鴉の言葉を待つ。
「コルッテロの構成員が捕まりかけているらしいんだ。奪い返しに行ってくれ」
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