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学園水没!?

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学園水没!?

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「わっ、なんだ!?」
 バケツリレーを続けていたにみてるが目を剥く。遅れてもう一台が続いた。
「こんにちは、土建屋ハーレック興業です。蒼空学園校長から要請を受け参上しました」
 助手席から降りて恭しく頭を下げるのはパンツスーツ姿のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)
 一つのトラックの荷台には作業着を着た男達総勢十五名がすし詰め状態に座っており、
 もう一つには大量の土のうとスコップ、土のう袋が積まれている。
「私共は池の半分を受け持たせて頂きます。皆様は残り半分をお願い致します」
「なんかよくわからねぇけど、人数が増えるからいいか」
 にみてるは、にっと笑った。グレーテル・アーノルドも笑う。
「なんだか戦力が増えたようだね」
 土のうを運びながら、十倉朱華が微笑む。……と。
「キミ【決壊対策班】の人? あたしも参加したいな!」
 ぱたぱたと走ってやってきたのは色無 美影(いろなし・みかげ)。合羽のフードがとれて黒いポニーテールが雨に濡れている。
「! キミ……まさかあの色無美影!?」
「? そうだけど」
「……えーと、キミはいいよ。ほら、女の子には危ないから」
「え、でも結構女子も参加してるようにみえるけど……」
「いいんだよ。だから、ね?」
「うぅー……」
 促され、十倉朱華が逃げるように去って行った。しかたなくとぼとぼと歩きだすと、声が聞こえてきた。
「色無美影って……あのドジっ娘仲居の?」
「度重なるミスで旅館をひっくり返したと噂のあの方ですか!」
「……さすがの僕も、参加を断らざるを得なかったよ……」
 土のうを積みつつ鷹谷ベイキ、安曇真幸に十倉朱華が語りかけていたのだった。
「! そういうことだったのね……」
 称号に尾ひれがついてとんでもないことになっていた。  
「これじゃあ手伝えないじゃない……あたしって、どうしてこうなの」
 肩を落とす。拳で自分の頭をぽかぽか叩く色無美影。
「! そうだ!」
 頭を叩いたことでひらめいたのか、俯いていた顔を上げて駈け出した。


「やあ! 本当に危険や! 土のうが足りひん!」
 南側に回った御槻沙耶が叫ぶ。目前の池は淵が抉れ、今にもあふれ出そうだ。
 できる限り土のうを積み上げたがまだ足りない。と、ラティア・バーナードがいきなり倒れた。
「お嬢様!?」
 サテラ・ライトが駆け寄る。ラティア・バーナードは剣を杖にし身体を盾にして土のうの隙間を埋めている。
「こうすれば、土のうの代わりになるよ」
「で、でもお嬢様のお体が……」
「私の体より、ここが崩れた方が困るじゃない」
 二人の様子を目前にして、御槻沙耶がにっと微笑んだ。
「……それ、ええなぁ。あたしもやろ!」
「え!? ちょ……」
 サテラ・ライトが止める間もなく御槻沙耶が倒れ込んだ。ラティア・バーナードと違い合羽を緩く着ていたため、ずぶ濡れになる。
「A隊、救援を!」
「はっ!」
 社長に扮したガートルード・ハーレックの命令を受け、作業着を着た波羅蜜多実業高校OBの面々が土のうを持って近づいてきた。
「どけ」
 凄みを利かせて睨まれ、三人は身を引いた。土のうがみるみる間に積まれ補強される。
「B隊は西側を重点的に。C隊は土のうを作成してください!」
 そう叫ぶガートルード・ハーレック自身は作業に参加せず、周囲に睨みを利かせていた。その視線は池の片隅に向く。


「間を見て休憩してくださいねぇー」
「軽食もありますわよ〜」
 メイベル・ポーターと嵩乃宮美咲が呼びかけている。声を聞きつけ、御槻沙耶がパラソルの下に駆け込んだ。
「美咲ー! 疲れたわー。癒してや!」
「きゃ! 沙耶、びしょ濡れですわ! 風邪ひきますわよ」
 勢いよく豊かな胸に飛び込んできた御槻沙耶の髪を撫で、メイベル・ポーターに渡されたタオルで拭く嵩乃宮美咲。
「平気や」
 満足そうに微笑んで顔を上げる御槻沙耶。嵩乃宮美咲の服は御槻沙耶の顔が触れていた部分だけ、中が透けてしまっている。
「あっ……! 私まで濡れてしまいましたわ」
 やや顔を赤らめる嵩乃宮美咲に、衣服が張り付いてあちこち肌色が透けている御槻沙耶がすり寄る。
「ええやん。一緒に濡れようやないの」
「沙耶……」
「ストップ。ここは休む場所であってイチャつく場所じゃないよ!」
 メイベル・ポーターを背後にセシリア・ライトが猛る。御槻沙耶はそっぽを向いた。
「あたしはこうやって休むんや。邪魔せんといて」
「うぅ、ヘリクツですぅ……」
 嘆きつつメイベル・ポーターが傍らのクッキーをつまんだ。
 賑やかなパラソルの下とは対照的に、池の周りの【決壊対策班】の面々はせわしなく動き回っている。
「あっちが足りてないわ!」
「もう少し東側を……」
「こっちの土のうはあっちに、こっちは東側にまわしてねぇー」
 グレーテル・アーノルドとアーサー・オルグレンの指示を受け、土のうを作る手を止めずに佐々良縁がさらに指示を出す。
 メンバーは降り続ける雨に負けじと土のうを作り、地道に土のうを積み上げ続ける。
「土のう作りは十分です。あとは並べて、積み上げてください!」
「応っ!」
 作業着姿の男達が土のうを担ぎ、池へと走る。
「……妨害は今のところないようですね。堤防も綺麗に作り上げられているようです」
 満足げに口端を上げ、ガートルード・ハーレックが周囲を見渡す。
 二つの団体【決壊対策班】と「土健屋ハーレック興業」の働きにより、池の周りの補強は佳境を迎えていた。


 降りやまぬ雨の中、水溜まりを蹴る足音が響いた。
「こっちは十分だと思うよ!」
「わ、わたくし達側も落ち着きましたわ!」
「一段落でござる」
 ラティア・バーナードとイリス・カンター、椿薫が土のうを作っている佐々良縁達の元へ走って報告に来た。
 サテラ・ライトも続く。
「できたぜ!」
「うん、これくらいあれば当面大丈夫だよ」
「でもまだ雨、止まないね……」
「きりがないですね……」
 にみてる、鷹谷ベイキ、十倉朱華、安曇真幸もやってきて、土のうが積み上げられた池を見渡した。
「アーサー、上から見たらどうだ?」
「……問題ない」
 櫻井恭介の問いかけに、小型飛空挺が下りてきてアーサー・オルグレンが答えた。
「全体を観察してきたが、問題は皆無のようだ」
「とりあえず土のう積みはかんりょーみたい」
 風森巽、ティア・ユースティもゆっくりとやってきた。しかしやはり雨はやむ気配を見せない。
 グレーテル・アーノルドは深く息をつく。
「うーん、落ち着いたけど雨は未だ降ってるね」
「そだねぇ。念を入れて霞堤もどき作り作戦、やっちゃおっかぁ」
「おう、やっちまおうぜ!」
「やろー!」
 佐々良縁の提案を、にみてると佐々良皐月が快諾する。【決壊対策班】のメンバーも各々頷いた。
「……潮時ですね」
 遠くから盛り上がる人々を眺め、ガートルード・ハーレックが頷いた。彼女の担当する池半分も十分補強された。
 親方としての仕事は十分にこなしただろう。
「では、校長から報酬を頂きましょうか」
 トラックに駆け寄り、ドアを背にする。池を満足げに見る部下たちに顔を向けた。
「全班、撤収! 行きますよ!」
「応!」 
 スコップを担ぎ、余った土のう袋を持って男達がトラックにおさまる。
「おかげで良い仕事ができました」
 満足げに笑い、トラックの助手席に乗り込む。
 猛スピードで、二台のトラックが池を後にした。