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学園水没!?

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学園水没!?

リアクション


『ぴーんぽーんぱーんぽーん! 緊急連絡っ!』
 あーる華野筐子の能天気な声が響いた。
『犯人に告ぐっ! 屋上の装置はワタシが壊したっ!
悔しかったら屋上でワタシと対決しなさいっ!』

『勝手に使うなっ!』
 武来弥の叫び声も混ざる。テントの無線を使っているらしい。緊張感が一瞬なくなるが、メンバーの疲労は消すことができなかった。
「っ、このまま見てるしかないのか?」
「【水害対策遊撃】の先発隊。御苦労だったな」
 龍堂雷がはっと振り返ると、村雨焔が立っていた。彼の漆黒の外套の下にアリシア・ノースが潜り込んでいる。
「後は俺達が引き受ける。テントで休んでくれ。回復したら加勢してくれて構わない」
 背後の後続隊のメンバーも頷く。素直に頷き、先発隊のメンバーがテントに向かう。
「わたくしはまだ戦えます、わ」
「無理は禁物ですよ。休んでください」
 包み込むような笑顔を浮かべ、カライラ・ルグリア(からいら・るぐりあ)が東重城亜矢子に語りかけた。
「焔、敵は結構強いみたいだな」
 自作の特撮ヒーローコスプレをまとった武神牙竜が目を細める。同じく自作の魔法少女コスプレをまとったリリィ・シャーロックも頷いた。
「私は皆さんの手当てをするねぇ」
 テントの下から紫煬 遥香(しよう・はるか)が手を振る。救急箱を持った手がすぐに動き出した。
「行こう」
 村雨焔の合図で、後続隊がゴーレムに近づく。と、背後に影。
「私も参加する」
 憮然とした姿で、ロザリア・リージュドット(ろざりあ・りーじゅどっと)が立っていた。
「よーし! みんなであいつを倒そう!」
 リリィ・シャーロックが拳を掲げた。……と、もう一つ、背後に影。
「保健の先生?」
 テントの中の紫煬遥香が首を傾げると、白衣姿の男性が腕を組んで立っていた。
「君達、そこで何をしている!?」
 眼鏡を光らせた養護教諭は鋭い瞳で【水害対策遊撃】のメンバーを見渡すと、ゴーレムと壊れた機械に目を遣った。
「! あれは……そんな!」
 悲鳴に近い声を上げ、養護教諭が拳を振り上げた。
「僕の作品を、よくも! レームちゃんまであんな目に!」
 そして動き回るゴーレムに熱い視線を向けた。
「ゴー君、やってやれ!」
 彼の声に反応し、ゴーレムが向かってくる。
「先生! いったいどうして――」
「言い訳は聞かないよ!」
 武神牙竜の問いかけには答えず、身構える養護教諭。
「ちょっと待った!」
 一同が声のもとを向く。手すりによりかかったあーる華野筐子だ。
「ここはワタシに任せてほしいな」
 村雨焔に言ってから、彼女は養護教諭に向き直った。
「屋上の怪人物である先生に挑戦状をたたきつけるっ!」
「え?」
「学園NO.1怪人物決定戦っ!」
「? 僕は怪人物では……」
 困惑する養護教諭に構わず、武器を構えるあーる華野筐子。その様子に任せることを決めた村雨焔が、ゴーレムの前へ。メンバーも倣う。
「弱った場所を集中して突けば倒すのは難しくない。先発隊がつけた傷を狙え!」
「了解っ!」
「いっくよっ!」
 武神牙竜とリリィ・シャーロックが動き回るゴーレムへ飛びかかり、傷のついた胸と背中を切り裂く。
「アリシア、サポートを頼む」
「わかったよ。気をつけてね」
 頷いて村雨焔が未だ立ちはだかるゴーレムへ斬りかかる。一旦退く武神牙竜と入れ替わりになり力強い一閃を放つ。
 その傍ら、起き上がろうとしているゴーレムに銃弾が撃ち込まれる。
「狙うは肩と足ですね」
 カライラ・ルグリアが笑みを浮かべたまま、肩口に照準を合わせて連射。射撃は確実にゴーレムを打ち抜く。
「次は足に行きますよ?」
 冷酷なほど輝く笑みで、引き金を引く。
「このロザリアの剣で倒される事を光栄に思え!」
 銃弾の合間を縫い、ロザリア・リージュドットが倒れたゴーレムに飛びかかった。煌めく刃が肩を完全に切断する。
「腕なしにするのじゃ!」
 足への攻撃が止んだことを確認し、ロザリア・リージュドットが叫ぶ。
「了解です」
 カライラ・ルグリアが頷く。
 容赦ない攻撃が、二体のゴーレムに浴びせられていく……。


「秘儀・分身の術ぅう!」
「! 何っ!?」
 あーる華野筐子の叫びに、養護教諭が身構える。あーる華野筐子は背後から何かを取った。
「……え?」
 教師が面食らった。それはあーる華野筐子と同じ段ボールロボット。彼女はゆったりと同じ形のロボを四つほど並べ、満足げに頬笑んだ。
「それは……分身とは言わないのでは?」
「ちゃんと分身だよ!」
 言ってあーる華野筐子がカルスノウトを構える。そのまま振り上げてきたため、教師は横っ飛びで避ける。他のロボは微動だにしない。
「やはり偽物か」
 安心した養護教諭は段ボールロボットを背にし、身がまえた。
「よし、今だっ!」
 教師は攻撃を後ろに下がって避ける……はずだった。
「何っ!?」
 振り返った先には、もう一つの段ボールロボット、アイリス・ウォーカーが立ち上がっていた。伸びた手が教師の肩を捕まえる。
「勝負あり!」
 楽しげにカルスノウトを突きつけ、あーる華野筐子が微笑んだ。同時に、ゴーレム二体が倒れる。
「これで、妨害はなくなったな」
 武神牙竜が満足げに言った。リリィ・シャーロックも嬉しそうだ。
「さあ、話を聞かせてもらおうか」
 外套下にアリシア・ノースを潜らせた村雨焔が養護教諭にカルスノウトを突き付けた。
「どうして雨を降らせたのか……その理由を聞かせてください」
 さらにアサルトカービンを突き付けたカライラ・ルグリアがとびきりの笑顔で言い放った。
「言わなければ……わかりますよね?」
「わかったよ、わかった……」
 両手を挙げた養護教諭は、震えながら言った。
「全て僕が悪かったんだ……」
「あっ、見て空が!」
 テントの下で手当てをしていた紫煬遥香が叫んだ。
 空を覆っていた雨雲はなくなり、橙がかった青空が姿を現していた……。