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学園水没!?

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学園水没!?

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 雨模様の空を、小型飛空挺が駆ける。
「さて、次は――」
 双眼鏡を片手に、小型飛空挺を操縦する銀枝深雪。その視界に、もう一つの小型飛空挺が浮かび上がった。
「あれは……」
 黒い双眸を細める。もう一つの飛空挺の上には合羽の下にカメラを提げた色無美影が立っていた。
「こんなときはやっぱり写真よね」
 合羽の下から愛用の一眼レフカメラを取り出した。防水処理もばっちりだ。
 思わず微笑む色無美影はカメラのレンズを学校の入り口に向ける。多数の人影が、眼下に広がっていた。



「なるほど……そうですか。ありがとうございます」
 白い合羽を羽織ったソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、蒼空学園の制服を着た生徒に頭を下げる。
「ケイ、そちらはどうですか?」
「案外目撃証言が多いみてぇだ。イルミンスール生がうろついてるのは間違いねぇな」
 答えるのは緋桜 ケイ(ひおう・けい)。桃色合羽の下にストライプ柄のワンピースを着ている。
 その姿をソア・ウェンボリスはまじまじと見つめた。
「……合羽を着るのでしたら、女装は必要なかったかもしれませんね」
「念には念を、だ」
 苦笑して応える緋桜ケイ。可愛らしい外見に女性の服がよく似合う。
「そこのあんた、ちょっと聞きてぇんだけど……」
 傘をさして歩く生徒に語りかける。生徒は首を傾げた。
「? あれキミ、どこかで見たような……どこだっけ……」
「お、俺……い、いや、私は夜桜お七よ! 人違いじゃないの?」
 慌ててそう言うと、生徒は納得したように頷き、緋桜ケイの質問に応じた。
「……一応、効果ありのようですね?」
「ああ……危なかった」
 苦笑を見合せて、二人は調査を再開。小走りする彼らの傍らに、女生徒に頭を下げる影があった。
「うぅん、情報を集めるのも楽じゃないですねぇ」
 傘をさしたままシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)は伸びをした。
 その彼女に、合羽を着て周囲を睨みつつ渋井 誠治(しぶい・せいじ)が近づいた。
「シャロ、調査はどうだ?」
「なんだか思う通りに行かないですぅ……。保健の先生がよくいなくなるとか、どうでもいい情報ももらっちゃいましたぁ。渋井様はどうですか?」 
「オレは一応【禁猟区】を張ったぜ。危険は避けるに越したことはないしな」
「そうですねぇ」
 傘をくるりと回して微笑むシャーロット・マウザーに渋井誠治が微笑みを返す。
「オレが警戒してるから、シャロは安心して調査してくれ」
「はいですぅ。がんばりますぅー」
 和やかに調査が進む中、二人の間を通り抜ける黒い姿。
「すみません、この学校周辺でイルミンスール生を見かけたという噂はご存知でしょうか?」
 生徒に問いかけるのは本郷 翔(ほんごう・かける)。生徒は勢い良く頷く。
「では、その噂はどなたからお聞きになられたのですか?」
「えぇと……」
 生徒の返答をメモに取り終えると、本郷翔は恭しく頭を下げた。
「ご協力、まことにありがとうございました」
「……本郷さん、順調ですか?」
 カルスノウトを構えながら九条 風天(くじょう・ふうてん)が問いかける。
「ええ、そうですね……。噂の元を辿るには少々時間が掛かりそうですが」
「周囲への警戒はボクがしておきます。本郷さんは聞き込みに集中してください」
「感謝いたします、九条様」
 深々と頭を下げ、再び生徒に顔を向ける本郷翔。女生徒の集団に語りかける。
「すみません、最近流れている噂について伺いたいのですが」
「はーい」
 快諾してくれた彼女達に質問をぶつける。違う答えが返ってきた。
「……わかりました。ご協力、まことに――」
「そうそう噂と言えば、保健の先生に恋人がいるって噂があるよ」
「え!? 本当?」
 去ろうとした手前、女生徒達の言葉。思わず耳を傾ける。
「うん。保健室から『〜ちゃん! 愛している』って声がしたとか」
「……また養護教諭の話題ですか。人気者ですね」
「あ、それと校長先生が……」
 まだ続きそうな会話に耳を傾けつつ、メモを取る本郷翔。


「そこの少年、話を聞かせてくれない?」
 正面口前で男子生徒に問う月白 葵(つきしろ・あおい)。突然美少女に語りかけられた少年はややたじろぎつつ、頷いた。
「屋上で怪しい人影を見たって噂、知ってる?」
「うん。皆言ってる。僕の友達も見かけたって」
「? 見たという人は一人じゃ、ない?」
「いっぱいいるみたいだね」
「ふぅん……ありがとう」
 軽く手を振り、少年と別れる。月白葵が視線を動かすと、イルミンスール生らしき女性の姿が目に入った。
「! あれは……」
 急いで駆け寄る。
「女、まさか噂のもとは――」
「い、いえぇ! 違いますぅ!」
 首をぶんぶん振って、シャーロット・マウザーが否定する。
「ゆ、友人の渋井様が困っていたので、手助けに来ただけですぅ。私も犯人を探しているだけですよぅ〜」
「本当?」
「本当ですよぅ! 渋井様〜! 助けてくださいぃ……」
「シャロ! 大丈夫か!?」
 蒼空学園の制服の上に合羽を羽織った渋井誠治が駆け寄ってきた。
「……どうやら本当のようね。疑って悪かったわ」
 素直に頭を下げる月白葵。
「わかってくださったならいいですぅ。渋井様、もう大丈夫ですよぅ〜」
「おぅ、そうか? じゃあオレは警戒に戻るぜ」
渋井誠治が去っていく。シャーロット・マウザーも一礼して背を向けた。頷いて、周囲に視線を走らせる。
「あ、そこの少女!」
 通りかかった生徒に再び問いかける月白葵。雨の中、聞き込みは順調に行われていく……。
 それは雨雲の外である蒼空学園溜池キャンパスの外でも同じだった。


「不自然ですよね」
 乳白金の髪を振り、ナターシャ・ホフマン(なたーしゃ・ほふまん)が腰に手を当てた。
「学園敷地を一歩出ただけでこの天気の違い。やっぱり、イルミンスール生の仕業でしょうか」
 彼女の示した通り、学園のすぐ外は青空に覆われていた。傍を歩く二人が持つ傘もたたまれている。
「マリーちゃん、外はいい天気だねぇ」
「そうね。風が気持ちいい」
 マリー・ストークスと東條 カガチ(とうじょう・かがち)が並んで歩いている。
「カガチくん、とりあえずまだ怪しい人影はみえないね」
「そのようだねぇ。まあ、気楽に行こうかー」
 話しながら、周囲を警戒する二人。ナターシャ・ホフマン、東條カガチ、マリー・ストークスの他にも多くの学生がイルミンスール生を探していた。
 学校を出て東側でアルフィエル・ノア(あるふぃえる・のあ)高月 芳樹(たかつき・よしき)が駆け回っている。
 北側にアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)デズモンド・バロウズ(でずもんど・ばろうず)アルフレッド・スペンサー(あるふれっど・すぺんさー)が周囲を見渡している。
 それぞればらばらに六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)久慈 宿儺(くじ・すくな)スティド・ハルパニア(すてぃど・はるぱにあ)が捜索をしている。
 池に程近い茂みの影にうごめく小さな影に、捜査メンバーが気付くのは時間の問題だった。


 一方、寮の食堂には、村雨 焔(むらさめ・ほむら)を中心とした【水害対策遊撃】の後続部隊が待機していた。彼の身を包む漆黒のマントには、アリシア・ノース(ありしあ・のーす)がくっついている。
「情報、続々と届いてるな」
 携帯電話をチェックするのは武神牙竜。村雨焔は大きく頷く。
「ああ。先発隊の調査の成果もそろそろ現れるだろう。皆、妨害者が現れたらすぐに動けるよう準備を怠るなよ」
 その場にいる全員が頷く。
『緊急連絡、緊急連絡!』
 校内スピーカーから武来の声。室内に緊張が走る。
『妨害者が現れた!』