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楽しい休日の奇妙な一時

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楽しい休日の奇妙な一時

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「これはかなりの強敵ね!」

 暴走猫を追って走り続けるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が嬉しそうに笑う。
 毛の長い猫、短い猫、艶のある猫、様々な種類の猫が群れとなってショッピングモールを爆走している。
 及川 翠(おいかわ・みどり)たちと一緒に買い物に訪れたミリアだったが、気付けば周りには誰も居なかった。
 もふもふチャンスを察した瞬間に身体が勝手に動いていたのだ。

「そういえば……」

 ミリアが走り出す直前に、知らない誰かが居たような気がする。
 少し気になるが、目の前を覆い尽くすもふもふたちを見ると、追いかけずにはいられなかった。

「何としてもお姉ちゃんを探し出すの」

 一方、翠と徳永 瑠璃(とくなが・るり)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)はゆっくりと歩きながらミリアを探していた。
 手がかりはもふもふ。
 あれだけの衝動に突き動かされたところを見ると、相手は相当なもふもふに違いない。

「瑠璃ちゃん、何かもふもふっぽいのを感じませんかぁ〜」
「う、うーん?」

 スノゥの問いかけに瑠璃が困った顔を見せる。
 もふもふっぽいの、というのはよく分からないが、別のものなら感じていた。

「よく分からないんですが、あれは何でしょうか?」

 瑠璃が指差したのは、一本隣の大通りを逆方向へ爆走する猫の群れだった。
 それを見た翠とスノゥが感心した様子で眺める。

「きっとあれですの! お姉ちゃん待ってですの〜」

 元気な声を出して駆け出した翠の後を、スノゥと瑠璃がついていく。
 猫たちの後ろを嬉しそうに追いかけるミリアの姿も確認できた。
 そして。
 さらにその後ろを、追いかけようとして力尽きる押し売りの姿があった。

「やる気無さ過ぎて存在感すらでねぇ」

 ミリアたちがもふもふしている光景を、寝転がりながら眺める押し売りだった。

 ◇

 衣類専門の店が並ぶ区画に居たはずだった。
 しかし、気が付けば周りにある店舗はハンバーガーにうどん、焼き肉やパスタ……どうみても飲食関係が並んでいる。

「あら、服を選んでいたはずなのに……不思議なこともあるものですね」

 加岳里 志成(かがくり・しせい)と一緒に居たはずの左文字 小夜(さもんじ・さよ)は、いつの間にか一人で見慣れぬ場所を歩いていた。
 漢字二文字で書くと『迷子』である。
 本来ならば年下の志成が迷子と呼ばれるべきなのだろうが、小夜には強力な方向音痴の特技が備わっていた。
 気が付けばはぐれている、ということも珍しくは無い。

「変なことに巻き込まれてなければ良いのですが……」

 そんな小夜を探して志成は必死に走り続けていた。
 心配なのはもちろんなのだが、慣れない人込みの中で一人でいるのは心細い。
 しばらく駆けていると、他とは違う輪状の人たちを見つけた。

「有名人でも居るのでしょうか?」

 少し興味を持った志成が近づいてみると、その中心で微笑んでいるのは小夜だった。
 安心したのか拍子抜けしたのか、全身の力が抜けてがっくりと肩を落とす。
 そこへ、輪から抜けて小夜がやってきた。

「物を売りたいという方が大勢いらしたのですが、わたくしがお財布を持っていないと言うと、世間話になりまして……」

 手を振って去っていく何十人もの男たち。
 手を振りかえす小夜の服を、志成がそっと握った。
 そして、

「もう、一人になっちゃ駄目ですからね」

 小さな声でつぶやくのだった。

 ◇


 その日、俺こと瀬乃 和深(せの・かずみ)は、ルーシー(ルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる))に付き合わされてショッピングモールにきていた。
 当然荷物持ち要員としてである。俺の両手にはこれ以上持ちきれないほどの荷物がぶら下がっていた。
 にも関わらず、だ!
 ルーシーは一人で買い物をすると言って、どこかへいってしまった。おいおい、俺はもう持てないぞ! 溢れた荷物はどうするんだよ。
 俺はため息をつくと、休憩所へと歩き出した。はぐれた際の待ち合わせ場所として決めていたので、そこで待っていれば合流できるだろう。
 休日の昼間だけあって、休憩所は満員どころか溢れている状態だった。
 ゴールデンウィークだもんな、しかたない。
 俺は大量の荷物を落とさないように抱えながら、場所が空くのをじっと待っていた。

「私、そろそろ時間ですから。代わりますよ」

 すぐ横から落ち着いた感じの渋い声がかかる。
 見れば少し疲れたような顔をした女性が、立ち上がって席を指している。

「あの……」

 大丈夫ですよ、と声をかけようとするが、その女性はただ優しく微笑むだけだった。
 そして俺の肩にぽん、と手を置くと自分の荷物を持って立ち去ろうとする。

「あ、ありがとうございます」

 俺はそう言うのが精一杯だった。

「私はただ、帰るだけですから」

 それだけを言い残し、女性はさわやかな笑顔で立ち去っていく。
 人込みに消えていく渋い後姿に、思わず胸が高鳴る。

「まさか、彼女は恋泥棒?」
「いや、和深くん。何寝ぼけたこと言ってるの?」

 和深の独り言を聞いていたルーシーは思わずツッコミを入れる。
 その後には更なる買い物が待ち受けているのであった。