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 第二章


 バシッと竹刀を叩く音が広場に響く。
 上を見れば大食い大会と書かれた文字が見える。
 そう、ここはショッピングモール内で開催されている大食い大会の会場だった。

「脇が甘い! 肉ばかり食べるな! 背筋を伸ばして食道の通りを確保しろ!」

 半分魂が抜けかけたまま、すでに惰性で食べ続けるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の背後には、無性に可愛い生物が立っていた。
 鉢巻にジャージを羽織り、竹刀を持つちんまい師匠である。
 数十分前、夏の新作水着を購入してテンションをあげていたセレンフィリティは、その勢いで大食い大会に飛び入り参加をした。

「タダで美味しいものが食べられるなんて、最高よね!」

 味わいながらも大量に詰め込んでいくが、やはり限界はあるもの。徐々にペースが落ちていった。
 その時である。
 どこからともなく現れた可愛い師匠に、ペースの落ちたセレンフィリティは情け容赦の無い厳しい突っ込みを入れられ続けた。
 食べ方はおろか、挙句の果てには買ったばかりの水着の柄やデザインにまで及んでいく。

「セレアナ……後は頼んだわ……よ……」

 すっかり『HPはゼロよ』状態となってしまった恋人の様子に、普段は冷静なセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が師匠へ抗議する。

「師匠! セレンは褒めて伸びる子なんです!」
「ちょ、セレアナ……あたしは小学生かっ」
「ふふふ、甘いなセレアナよ! お前の甘さは蜂蜜以上だ!」

 師匠の厳しい突っ込みはセレアナにまで飛び火し、キレ芸までを披露することになるのだった。

 ◇


「三月ちゃん、何とかしてください〜」
「無理、無理だって! 数が多過ぎてヒプノシスも焼け石に水状態だよ!」

 休日を利用してショッピングモールへ買い物に訪れていた杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)は、なぜか大量の猫に追われていた。
 なんとか止めようとしたものの、数が多すぎて対処をしきれない。
 全速力で逃げる二人の耳に、別の地響きが聞こえてくる。
 途中の曲がり角から現れたのは、同じように逃げていた雅羅とアルセーネだった。

「えっ、雅羅ちゃんとアルセーネさんも追いかけられてるの?」
「柚に三月……あなたたちも!?」
「あらあら、偶然ですわねえ」

 成り行きで合流した四人は併走しながら逃げ続けていた。
 背後には容赦のない砂煙が疲れを見せずに追ってくる。

「雅羅ちゃん、アルセーネさん、大丈夫ですか?」

 普段から踊りで体力のあるアルセーネとは違い、雅羅は息も絶え絶えの状態である。

「雅羅ちゃん、今回復してあげますね!」

 柚の回復術でなんとか持ち直した雅羅だが、終わりの無い逃走は続いていた。

「ありがとう柚。……でも、いつまで逃げればいいの〜〜〜」

 とても広いショッピングモールに雅羅の叫びが響く。

 ◇


「さあて、どこから回ろうかしら?」

 羽切 緋菜(はぎり・ひな)羽切 碧葉(はぎり・あおば)羽切 白花(はぎり・はくか)の三人は、地球産のお菓子が食べたいという緋菜の希望で、空京まで買い物に来ていた。
 彩り豊かな店が並ぶアーケードを、三人はのんびりと雑談しながら歩いていく。

「あらあら〜、なんでこんな事になっているんでしょう?」
「ど、どうしたのそれ!?」

 白花ののんびりとした声に振り向いた緋菜が驚く。
 気が付けば白花の周りは小さい子供たちで溢れていた。
 子供たちと楽しげにはしゃぐ姿はまるで幼稚園の先生みたいな状態である。
 買ったばかりのお菓子を開けて、一緒に食べて遊んでいるようだが……。

「保護者の方が見えませんね。何もわからずついてきた子もいるみたいです」
「そうみたいね」

 子供たちの中に、お菓子を食べず不安げにしている子がいることを、緋菜と碧葉は見逃さなかった。

「まったく、なんでこうなったのかしら」
「やっぱりこの子達を、保護者の元に送り届けた方が良いと思います。でも、これだけの人数を迷子センターに一気に連れて行ってしまうと、流石に大変そうですから……私達で何とかできる子は何とかしてあげましょう」

 碧葉の言葉に、仕方ないわねと頷くと、緋菜は不安げにしている子の頭をそっと撫でる。

「たまには、こういうのも良いですよね」
「まあ、たまには……ね。買い物は出来なかったけど、しょうがないわ」

 白花と子どもたちの様子を優しく見つめる碧葉に、緋菜は微笑んだ。

 ◇


 映画を観ようとショッピングモールを訪れた想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は、なぜか大勢の巨漢の押し売りに追いかけられていた。

「コレ、タダノ歯ブラシジャナイヨ! 高級歯ブラシネ! 一個五万ゴルダとオ安いネ!」
「コレ、タダノ虫メガネジャナイヨ! 高級虫メガネネ! 一個七万ゴルダとオ安いネ!」
「コレ、タダノ金ダライジャナイヨ! 高級金ダライネ! 一個十万ゴルダとオお安いネ!」
「必要無い物ばかりだし高過ぎだってばー! 要らないよー!」

 人気の多い通路や閑散とした狭い道を構わず走って逃げるが、押し売りはしつこく追いかけてくる。
 すると目の前から、これまた大量の猫に追われている雅羅とアルセーネを見つけた。

「雅羅さん! アルセーネさん! ……大変そうだけど、どうしたの?」
「どうやらお互い、同じような状況になってるみたいですわね」
「ああ、オレも訳わかんないけど追われてるんだ!」

(このまま逃げ回るのも限度がある、どうにかしないと。……そうだヒッチハイクで雅羅さんたちだけでも)

 夢悠は雅羅の手を取ると、ショッピングモールの外へ向かいだした。
 急な方向転換に走る速度が落ちて、背後の砂煙が近づいてくる。

「ま、間に合ってくれ〜」