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リアクション
駆除
「ぼーいずめいどさんとは僕のことです! う”いっ! 脱走スライムよ、覚悟するんだよ!」
人差し指を突きつける姿も愛らしく決め込んだユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)に対し、スライム達は沈黙を保ち続ける。
「あぁ……ユーリはどうしてこんなにもかわいいの……頑張る姿も一段と素敵だわ」
反応が返ってこない事で余計に気持ちが滾ったのか一人燃えあがるユーリの姿を眺めトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)はうっとりと自分の頬を両手で挟んだ。これだけで手伝いに来た甲斐があったと過程をすっ飛ばした考えに行き着いてしまう。
「ユーリちゃん、ユーリちゃん」
では早速掃討しますかと火術を使用するため集中しようとしたユーリに向かって、少しばかり離れていた位置に居たメアリア・ユリン(めありあ・ゆりん)は手を振った。
「どーしたの、母様?」
手招かれ地面に座り込んでいるメアリアの側に駆け寄ると男性が倒れて気絶していた。片足をスライムに突っ込んで前のめりになっているところを見ると、逃げている途中で足元を掬われたのか。何にせよ倒れている目と鼻の先にスライムの壁が立ちはだかっているこの状況はあまり宜しくない。
スライムが沈黙している内に男性を起こして避難所に誘導しなければとユーリは男性の横に膝を落とした。
「大丈夫ですか? 起きてください!」
ユーリが男性の肩を揺り動かすごとに、男性の足に絡みついたスライムが魅惑的な動きでその姿をたわめかせた。弾けるような張りと思わず触りたくなるような滑らかな輪郭、それでいて赤子の肌の様な柔らかさを想像させる優しい表面。あまりな瑞々しさに誘惑されて、脳裏に過ぎった思いつきにメアリアふらりと立ち上がった。
視界に可愛いユーリちゃんとスライムが映る。
うふふと笑んだメアリアは両腕を上げ、躊躇いの一瞬も無く人命救助に励むユーリの背を押した。
スライムに向かって。
避難所に近いこともあって東エリアは村人の救助誘導は既に終了し、残すはスライムの掃討作業を残すのみだった。
ここまで来ると配慮するのは家屋くらいで、他に遠慮は要らない。
打ち合わせで決められた項目を優先度順にこなしていた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は携えてきた火炎放射器の胴を調子を尋ねる様に撫で上げる。
「後は殲滅だけでありますな」
「でもやっかいすぎます」
共に救援に来たコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)は難しい顔でぼやいた。
光条兵器のレーザーを以って寸断、稲妻の札で電撃による焼尽を目論んだが、術を浴びてもスライムはその属性色に一瞬だけ染まり、鮮やかなグラデーションを描いて元に戻るだけで思うような結果にならず、彼女には人力で引き剥がせるだけ村人の救助をしていた方が遥かに容易かった。
「では、こいつには派手に暴れてもらうであります」
最初から提示されていた弱点を素直に突いて行こうと剛太郎は火炎放射器を誇らしげに構える。
剛太郎の考えていることがわかりコーディリアは彼に寄り添うように近づく。
「離れていてください。火傷してしまいます」
「あ、あの……、ご、ごめんなさい」
注意されスライムに近づくのも嫌だし、制御できない自然火が服に引火するのも危険だし、コーディリアは適度な言われた距離まで下がった。
「あまり目立たず、ゆっくり、細々と……」
呟きながら、トリガーに指をかけて、剛太郎は意気揚々と銃口をスライムに向け、
「消毒だー!」
嬉々として叫んだ。
けたたましい音を立てて噴射される猛火に、スライム達は次々とその姿を消していく。面白い程順当に綺麗に消えるので、核集めができるかとレジ袋の用意までしていたが核は一個だけと知れてがっかりもしたが、それを忘れるほどの気持ち良さに剛太郎は思わず笑んでしまった。
しばらくしてパートナーをスライムに突き飛ばし、ミイラ取りがミイラになってしまった状態の一団が、火炎放射器を振り回すその行為が単なる火遊びにしか見えず火事の不安を拭えないコーディリアを引き連れて突き進む剛太郎の目に入った。
分裂スライムの駆除中に親元である核持ちスライムを発見して破壊できれば一石二鳥というものではあるのだが。
「全くいやしない。にしてもあの考古学者核持ちを持って返って来いって言いながらそいつの特徴ひとつ言わなかったな」
一目で他のスライムと区別できる様な代物なのだろうか。
そもそもこれらが生物なのかも疑わしくなってきた。
「にしても気持ち悪いな」
行く道の確保と殲滅の為ドワーフの火炎放射器で容赦なくスライムを消していくのは東エリアを担当する国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。彼は先程の救助活動と打って変わった根絶作業の感触に眉間の皺を深めていく。
真空波は効力が無かった。たまに遠くで雷槌等が垣間見えるもそれらが続けざまに撃ち鳴らされないところを見ると火と水以外は無効と考えるべきか。
そのまま仰いだ空は鈍色に垂れ込めた雲に覆われていて、まるで時間は無いものだと脅している様であった。
武尊は作業速度を上げる為、持つ火炎放射器の火力を更に調節し、スライムにその銃口を向けた。
「や、やめてくれー」
「お、わ、せ、先生!」
後ろから抱きつかれ武尊は危うくトリガーを引き絞るところだった。
突如として「止める!」と駆けた勢いのまま割り込んできた考古学者に武尊は驚きを隠せない。
「私の研究が、研究が。やめてくれやめてくれやめてくれ!」
考古学者は見る間に減っていくスライムの様子に顔から色を失って、冷静さも失くしたらしい。たまらず避難所から抜け出し、顕微眼を備え火器を両手に下げた武尊の姿に恐怖すら覚え、力ずくでも止めずにはいられなかったのだろう。
核すら焼尽することも厭わない武尊の立ち振る舞いに怯えられ身を以て制されて、大の男を背中に負う形になった彼はとてもいい迷惑であった。
考古学者の心情を表すかのように空には広範囲に跨って炎が吹き上がる。
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