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リアクション
スタートの合図とともに、契約者たちは一斉に洞窟を進んでいった。
三段階の階層で構成された迷宮は、その道を幾重にも枝分かれさせ、また様々なトラップを用いて、契約者を迷わせるように作られていた。
■第一階層
勢いよく駆け出していく者、些細な動きをも見逃さないとする者、それぞれがそれぞれのスタンスで歩みを進めていく。
探索を進めるうちに、契約者たちは幾度かの分かれ道を経て少数グループへと分断されていた。
「ねぇダリル、どう? 私がつくった罠!」
ダンジョン出口、モニタールームでは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に向かって声を張り上げている。
モニターには、契約者が歩き回る姿が映し出されていた。
二人はダンジョン入口近くのフロアをそれぞれ担当している。ルカルカとダリルが作った罠たちが最初に契約者を出迎えることになるのである。
「うむ、よくできてるんじゃないか?」
言いながら、ダリルはモニターの一つに注視した。ちょうど、契約者のひとりの足元にパチンコ玉が流れ、それに気を取られたスキに天井から現れた人形が荷物をさらっていく。荷物をさらわれた契約者は慌てて追いかけていくが、気づいた時には周りには誰もいなくなっている。
「たまには頭を使う仕掛けもいいだろう」
「えっ、頭突き?」
「お約束すぎるだろう、その反応は」
「えへへ。それよりダリルはどんなトラップを作ったの? みせてみせて!」
苦笑いするダリルをよそにルカルカはあっけらかんとしている。
「それなんだが。チェスを使った罠を掛けたんだが、なかなか解ける奴がいないみたいでな俺の作ったルートは時間かかりすぎて駄目のようだ。攻略法は用意したんだが。まぁ、あとは、カオル君達もいるし、任せるか」
「そうだね!あとは頼むよ!」
ルカルカはモニターの先へと声を掛けた。
「任しとけっ!今日は驚かしまくってやるぜ」
スタンバイしていた橘 カオル(たちばな・かおる)は楽しそうに返事をした。
カオルは小さな部屋の物陰から、獲物が通りかかり、自分が飛び出すタイミングを伺っていた。入念に準備した奇襲。
物陰で、かつ迷彩を使うことで自分の存在を限りなく隠す。その上で注意をそらすためのトラップを使って相手の意識が完全にそれたところで死角から幻覚を見せて、反撃のスキを与えることなく行動不能にさせる。それがカオルの作戦だった。
待つことしばし。現れたのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だった。
小次郎はあえて灯りを使わずに探索し、足音も殺している。
それが、カオルにとって大きな誤算だった。
カオルの狙い通り、小次郎は足元のトラップに気を取られたが、予想外の行動に焦ったのが伝わってしまった。
いつでもトラップの攻撃に対抗するため態勢を整えていた小太郎と、慌たために姿勢を崩してしまったカオル。狩る者と狩られるものの立場が逆転した。
「残念ですね、カオル殿。冷静さを欠いてはいけませんよー」
小次郎は冷静でいて、それでいてからかうような言い回しをした。正面勝負となってはそもそも相性が悪い。その上いじられ返上も兼ねて参加しているが伝わってしまっている以上、色々な意味で勝敗は決してしまっていた。
ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は、ひとり坑道を進んでいた。
別にひとりで探索するのが好きなわけではなかったが、スタートして直後にあった強制分断のトラップでチームがバラバラにされてしまったのだ。
「小暮クン達とはぐれちゃったのは痛いわよねぇ。別れさせるにしてももうちょっと考えて欲しいわ。ひとりで行動させても訓練としては今ひとつでしょうし……ん、なにかありそうね」
少し開けた小部屋への入口付近に何か仕掛けてあるような気がしたが、遠くから観察する限り、何も見えなかった。
オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が仕掛けたインビジブル・トラップである。
先行していたオデットは、相手チームを足止めしようと、罠を仕掛けて隠れていた。
誰か来たら気づかれる前に歌で眠ってもらうつもりだ。
「そろそろ誰かくるかな……?」
ささやくように、小さく小さく歌いはじめる。
ニキータは、歌声にこそ気づかなかったが、トラップは自分が同トラップを使えることから看破することができていた。
そこにトラップがある以上、近くにほかにもトラップがある可能性は低くない。そう考えたニキータは、そろそろとトラップに近づき、そしてその場から遠くない場所でオデットが小さく詠唱しているのに気がついた。
オデットもニキータに気がつき、詠唱する声に力がこもる。あとは、どっちが先か、時間の勝負である。
勝敗は、ほんの一瞬の差で、オデットにあがることになった。
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