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リアクション
第3章 はじめての魔法。はじめて使った魔法。
ホールでは、初めての魔法の話が続いていた。話を聞きながら、
「うー、忙しいって」
船の警備員をするつもりで船に乗っていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、“テレパシー”を打ち切ってそう言った。
ヴォルロスにいるフランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)に、多忙なのでデッキの電話を通して欲しい、と言われてしまったのだ。
「まあ、いっか。皆に気付かれないようにっていうのは、もう聞いているんだし……」
ルカルカはそう小さい声で言って、気を取り直す。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がその姿をいつものように眺めていたが、
「では次に手を挙げたらどうだ」
と、言った。そこでルカルカは、みんなに初めての魔法の話をし始めた。
「ルカの初知り魔法は”ヒール”、傷を癒す魔法ね。救急箱要らなくなるじゃん、製薬会社大ピンチ! って思ったのは内緒♪ でもダリルは随分後まで使ってくれなかったの。酷いでしょ?」
「子供を味方につけて攻撃してくるなよ」
ダリルが口を挟むのにふふ、とルカルカは笑って、
「で、初めて使った魔法は”火術”。火を生み出し、火を操作する魔法ね。私は剣を使うのが得意だから、こんな風に剣に纏わして使ったわ」
ルカルカは両手でトワリングソードを抜くと剣の型を披露した。
「ルカルカさん済みません、ここは船内ですので……」
ユルルに言われて、ルカルカは腰を下ろし、
「……ってのはまあ普通の話、一番最初の本当の魔法は『出会いの魔法』よ。大好きな人と出会って仲良くなる為の恋の魔法だね。女の子は特にこの魔法が得意なの。
皆も使えると思うな♪ 大好きな人が出来たらレベルアップするかもだよ。
──ってことで次はダリルね♪」
いきなり話を振られてダリルは眉を顰める。
「いや俺は……どうしようか」
プロジェクターでのビデオ上映を考えたダリルはフラワーショーのビデオを用意してもらうようフランセットやドン・カバチョに頼んだのだが、フランセットにやドン・カバチョはそもそも持ってないと言い──多忙のため、船の上のため、二人はそれを手配できない──代わりに、船の備品であった「ゆる族解剖ビデオ」やら「AV(赤ちゃん向けビデオ)」などの怪しげなものを手渡されたのだった。
「……そうだな。最初は自分から光条剣が生成できると知り、生んだ事だ。これでいいか?」
「剣の花嫁さんにとっても光条兵器は魔法なの?」
側にいた子供に聞かれて、ダリルは、
「男性型なんで嫁と言われると……な」
と、場を和ませるように普段より口調を和らげる。
「そうだな、チョコレートやら菓子を持ってきている。皆の話が終わったらあげよう」
「はじめての魔法、はじめての魔法かー……」
五月葉 終夏(さつきば・おりが)はうーん、と手を顎に当てて考え込んでいたが、うん、と大きく頷いて、手を挙げた。
魔法は、今ではあるのが当たり前になっていたけれど、はじめてを思い出したら、何だか懐かしくなっちゃったのだ。
では五月葉さん、と指名され、終夏は口を開く。
「私はパラミタに来て箒で空を飛んだのが、はじめての魔法かなー」
「それまで魔法は使えなかったの?」
子供たちの中には魔法使いを目指す子もいるのだろう。好奇心旺盛な瞳が注がれる。
「魔法ってさ、絵本で読んだりしていて憧れてて。絵本の中の魔法はさ、キラキラしていて綺麗で、不思議で。使えるんだって思ったらワクワクした。
でも、実際に使う側になったら、まともに使えるようになるまで勉強も練習もすっごく大変でさ。
あーもー何で使えないのー! 空飛べないのー! って思ったよ。ふふふ」
終夏は昔を思い出して思わず笑みがほころんだ。
あの頃はあの頃で大変だったのに、今はいい思い出になってるんだから不思議なものだった。
「……でも、ようやく箒で空を飛べた時、目に映る景色はキラキラしてた。綺麗だった。ああ、これが魔法かって。これが魔法なのかって思った」
箒で空を飛ぶこと、そのものだけじゃなくて。自分が箒や自分に魔法を使ったはずだったのに──まるで箒が、魔法がまた自分に魔法をかけたみたいに。
そう、はじめての魔法はやっぱりキラキラしてた。嘘じゃなかった。
「で、その時の箒が、これ」
と、彼女は空飛ぶ箒を軽く持ち上げた。
「ね、飛んでみせて!」
「ええと、船の中だしなぁ……うん、ちょっとだけだよ!」
終夏は立ち上がると、箒にまたがって頭上をくるっと小さく小さく一回りした。クラシックで、特別な工夫がある訳じゃなくて、今はもっと速い箒に乗ることだってあるけれど、彼女にとっては大事な箒だ。
あの時と同じ乗り心地は……狭い船内の十秒ほど、彼女の瞳に、あの時の風景を映してくれたような気がした。
「じゃあ、今度は私たちがお話しますね! 三人別々でもいいですか?」
次に手を挙げたのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だった。
「是非お願いします」
「はい! あ、と、じゃ、じゃあ、お師匠様からどうぞ……」
了承したリースだったが、ついパートナーのアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)を先に勧めてしまう。
……苦手なのだ。沢山のお話があれば、外の異変に気づかれないで済むかもしれないですよね、と思っている。全員で話すことにはやぶさかではないのだけれど。最初っていうのは勇気がいるし。
「我輩でいいのか?」
アガレスはそんなリースを一瞥してから、頷く彼女に、
「うむ、それでは昔の話をしよう。
あれはまだ我輩が人間の姿をしていた時の事、我輩の住んでいた街にそれは美しい女性がいたんじゃ。
若かった我輩はその美しい女性の心を魔術によって我輩のものにしようと、女性に我輩のことが好きになる呪いをかけようとしたんじゃが……」
呪い、と言うのがアガレスたる所以なのだろう。女の子だったら恋のおまじない、だったろうに(ノロイとマジナイは同じ漢字でも書くけれど)。
「……何の手違いか美しい翼を持った鳥を召喚してしまったんじゃ。
魔術をやり直す力も残っておらんかった我輩は美しい翼の鳥の羽で扇子を作って女性にプレゼントしようと思い立ち、美しい翼の鳥を捕まえようとしたんじゃが、実は美しい翼の鳥は悪魔でな、我輩の行為に怒った悪魔は、逆に我輩に呪いをかけようと……」
「それ、初めての魔法じゃなくて『はじめての悪魔召喚』とか『はじめての呪い』とかになってますよ!」
ユルルが突っ込んだ。
「じゃ、じゃあ次はナディムさん……」
びくっとしてリースに声を掛けられ、ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)はだるそうに頭をかくと、
「爺さんの次は俺か。仕方ねぇなぁ。
俺がガキの頃〜っつても今もガキだけどな、地球人で言う小学校低学年くらいの時に何したんだったかは忘れたけど、何んかの罰で雪が降ってるクッそ寒い日に家の外にほっぽり出された事があったんだよな」
雪の冷たさを思い出して、ナディムは身震いする。
「このままじゃマジで凍死するって思って、偶然見つけた木の洞ん中に入ってなんとか体を温めようと必死に家で習わされた“火術”の呪文を思い出して使ったのが最初かな。ま、初歩の魔法でも覚えとけば便利だって事で」
どこから突っ込めばいいのかわからない、とユルルが考えていると、リースが何度か咳払いをして、語り始めた。
「わ、私も初めて『使った』魔法、なんですけど……。
えと、昔、病気のお母様を励ましたくて地球に住んでる私の姉さん達と一緒に光術を練習して、病院でお母様に披露したのが最初だったと思います」
どもってしまうのは、もう癖のようなものだった。自分に自信がないから、つい、そうなってしまう。
「も、元々魔法のお勉強はしてて魔法の呪文は暗記してたんですけど、実際に使ったこととかなくて……やっぱり急に“光術”は難しくて、小さな光しか作れなかったんですけど、お母様が喜んでくれたのがとても嬉しかったのを覚えています」
おおー、と、観客の中から声が上がる。ユルルも笑顔で力強く、
「いい話ですね!」
「魔法は使い方次第で人を幸せに出来る力があると思います。その、私や皆さんの話を聞いてくれた人が少しでも魔法に興味を持って魔法をお勉強してみたいって思ってもらえたら嬉しいです」
リースがはにかむように微笑むと、拍手が起こった。
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