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土中の腕が掴むもの

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土中の腕が掴むもの

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プロローグ

「――亡霊商人の話によれば、既に何件か森の外を走る盗人らしき人影の目撃証言があるらしいわ」

「……少し、厄介な事になったわね」

 コンロン地方の外れ、眠りを妨げられ怒り狂う数多のアンデッドが跋扈する森林への入口。李 梅琳(り・めいりん)は、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)からの情報に溜息を漏らした。

「ええ、このままだと近い内にそいつらを追って外に出てくるでしょう。余り時間をかけていられなくなる」

 先程まで興味津々な様子で亡霊商人に話しかけていたニキータは、打って変わった苦々しい表情でそう呟き。簡易的に組み立てられた机で地図に線を引くエレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)に目を向ける。
 宝を盗んだ下手人の逃走経路を予測する黒いインクは、その全てが近隣の街の方角を指していた。アンデッド達は今はまだ森の中に潜む墓荒らし達に集中しているようだが、このまま放置していればどうなるか――それは火を見るよりも明らかだろう。

「早い所、街に根回しをしておく必要もあるでしょうね。もし盗品が売り捌かれでもしたら、回収に苦労する羽目になるもの」

「……そうね、この場をお願いしても?」

「ええ。これ、使ってちょうだい」

 そう言ってニキータが差し出された車のキーを受け取り、梅琳は頷きを一つ。エレーネを伴い入口前に停めてあった通信車両へと歩き去っていく。
 彼女の交渉技術に任せれば、盗人の指名手配も迅速に行わせる事ができる筈だ――頼もしいその背を見送りつつ、ニキータは意識を切り替え大きく手拍子を打つ。そうして集まっていた契約者達の注意を引き、大きく声を張り上げた。

「ハイ、話は聞いていたわね? 出来れば、アンデッドが逃げ出した盗人を追って森を飛び出してくる前に収集を付けたいわ」

 高い戦意のままに道奥から漂う禍々しい気配を睨む契約者達を引き締めるように、ニキータは強い口調で自らの知る情報を伝達。皆に注意を促した。
 真剣に話を聞くもの、装備の手入れを行う者、そもそも既に森に突撃してしまった者。各々纏まりの無い有様ではあったが、気にせず言葉を重ねる。今は彼らを律している時間は無い。

「――それじゃ、任務開始よ」

 そうして最後に一際力強く号令が放たれ、契約者達は森の奥へと駆け出し暗緑の中へと消えていく。彼らを見送りながら、ニキータはエレーネの残した地図を手に取った。
 墓荒らしやアンデッド達を逃がさないための包囲網の形成、梅琳達との通信などやるべき事は幾らでもあるのだ。ニキータは軽く息を吐き、その思考を回転させた。