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土中の腕が掴むもの

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一章 捜索

 森の中は数多の木々が鬱蒼と生い茂り、絡み合う葉と枝に日光が遮られていた。
 参拝者が居たのか墓場へと続く道はきちんと整備されており迷う事は無いだろうが、それでも道の先が見通せない程度には薄暗く、森中を進む者達の心にも不安を伴う影が落ちる。光を嫌うアンデッドが動き回るには不備のない環境と言えるだろう。

「……どうやら、墓荒らし達はこの付近には足を運んでいないようだ」

 油断なく周囲を警戒しながら、手近に生える木々と意識を通わせていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、そう言って頭を振った。

「何人かは既に森から逃げ出しているという話だが、馬鹿正直に出入り口から脱出したという訳ではないようだな」

「まぁ、追いかけてくるアンデッドから身を隠す事を選択したくらいですからね。素直に逃がしてはくれなかったのでしょう」

 彼と同じく、周囲の植物や石ころから手当たり次第に墓荒らしやアンデッドの情報を引き出していたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)もそれに同調し、溜息を吐く。こちらも有力な情報を得る事が出来なかったようで、申し訳なさそうに眉を下げていた。
 森の中に身を潜めているという墓荒らし達は、道から離れ無茶苦茶に森中を突き進んだのだろう。道なりに存在する植物達の中に彼らやそれを追うアンデッドの姿を見たと言う目撃証言が無い事からも、それを察する事が出来る。

「……やはり、俺達も道を外れて森林を捜索するしか無いか」

「え、も、森の中をですか……?」

 森の奥。暗闇に包まれた先を見ながら呟かれたエースの一言に、黄乃 優和(きの・ゆうわ)は不安気な声を上げた。
 未だ痕跡が発見出来ていないとは言え、少し森の奥に踏み込めば多くのアンデッドに出くわす筈だ。敵の気配の把握が完璧では無いままその渦中に向かっていくのは、少々の危険の伴う行動である。

「……僕も危険だとは思いますが、確かにこのまま手をこまねいている訳にはいきませんか……」

「そうそう、そうした方が良いですよ! 絶対!」

 その提案にエオリアは顎に手を添え、唸るように賛同の意を示す。すると彼の肩口から次百 姫星(つぐもも・きらら)が顔を出し、焦ったようにその言葉に追随。慌ただしく何度も首を縦に振る。

「早めに決着をつけたいってニキータさんも言ってましたし……何より早く見つけ出さないと……」

「――――」

 ……恐る恐る、と言った風情で姫星が向けた目線の先。彼女達から少し離れた場所に、何やらおどろおどろしい気配を立ち昇らせる人影があった。
 見る者に威圧感を与えるその影は、鬼気迫る形相で墓荒らしの気配を探る呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)だ。彼女は隣に立つ紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と共に、額に青筋を立てて意識を集中させていた。

「――……ミスター紫月、下手人の気配は掴めましたか……?」

「……いいえ、常軌を逸した殺気ならすぐ隣にあるのですが」

 死者を統べる墓守姫はその名の通り死者を冒涜した墓荒らし達に酷く憤慨しているようだ。その強大な気配たるや唯斗の殺気看破が警鐘を鳴らす程であり、姫星と優和はその光景に共に身を震わせる。

 エースはそんな彼女達の様子に苦笑を一つ零し、すぐに気を引き締めて自らの武器を握り締めた。そして自らが先頭に立ち森の奥へと歩を進めようとして――――

「――何か、来ます」

 この場に向かい来る何者かの気配を察知したらしき唯斗の声が響き、流れるように警戒態勢に移行した。他の者達も同じくそれぞれの武器を握り締め、周囲に注意を向けている。

 十秒か、一分か。誰もが無言のまま、緊迫した時が過ぎ――――。

「――助けてくれぇぇぇぇ!」

「ひゃあああああ!?」

 突如茂みから汚らしい格好をした墓荒らしの一人らしき男が飛び出し、叫び声をあげて手近にいた優和へと突撃する。
 その顔は恐怖と疲れに引き攣り酷いもので――あまりの事に驚いた優和は反射的にメイスを振り回し、その顔面を殴打。男は悲鳴を上げる間も無く意識を刈り取られ、近くの茂みへと吹き飛び鈍い音を立てた。

「あぁっ!? ごめんなさい!?」

「構わないわ、まだ大勢騒いでいるようだもの……!」

 死者を統べる墓守姫も唯斗と同じく墓荒らし達の気配を察知したらしく、威圧感を振りまきながら姫星と共に森の奥へと走り去る。
 彼女達の向かった方角では、墓荒らし達とアンデッド達が逃走劇を繰り広げているのだろう。朧げながら悲鳴と絶叫が響き始めており、切羽詰った状況である事が伺えた。

「え、あの……こ、この人は……」

「俺が運びます、早く行きましょう」

 困る優和に唯斗はそう告げると、気絶した男を無造作に抱え上げ死者を統べる墓守姫を追って走り出す。
 少し遅れてエース達や優和もそれに追随し、後には彼らに散らされ宙を舞う葉が残された。