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土中の腕が掴むもの

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土中の腕が掴むもの

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エピローグ

「これはまた……随分と派手にやったわね……」

 周囲の街への手配、そして捕まえた墓荒らし達の輸送。与えられた役割を終わらせ全速力で契約者達を追いかけてきた梅琳は、辿り着いた墓場の惨状に引きつった声を漏らした。

 墓石は倒れ、柩は開かれ。大地が大きく捲れ上がり、挙句の果てにはあちこちに亡骸が転がっている。およそ死者の眠る場所には相応しくない光景である。
 この分ではおそらく森の中も大変な事になっているのだろう――彼女はこれから行わなければいけない後始末を思い、大きな溜息を吐いた。

「……さて、この墓はこんなもので良かろう。ふむ、この者に供える花は何にしたものか……」

「うーん、オレとしちゃあ菊や百合よかラベンダーやカモミールの方がよく眠れると思うんすけど、どうですかねぇ」

 近くの墓では夏侯 惇(かこう・とん)ドリル・ホール(どりる・ほーる)が他の契約者達と共に墓場の整備を行なっていた。
 墓石にこびり着いた土を落とし、柩を磨き。そうして亡骸の掴む財宝に刻まれた名前を頼りに、一つ一つ元の姿に戻していくのだ。
 気の遠くなるような作業ではあるが、やってる本人達は意外と楽しそうである。惇とドリルは互いに額を突き合わせ、ああでもないこうでもないと献花について話し合っていた。

「ねぇ、ここの人の埋葬って終わった?」

「後も詰まっていますし、そろそろこの方の慰霊をしておきたいのですが……」

 そこに加わったのは、墓に眠る一人一人に慰霊の言葉をかけて回っていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ジョン・オーク(じょん・おーく)だ。
 二人はこれまでに幾人もの墓に簡易的な葬儀を行っており、その手にはパラミタ各地の物を始めとした様々な宗派の葬祭具が抱えられていた。

「まぁ今しばらく待っておれ、この者に相応しい花を選んでいる最中でな……」

「んー、この人って確か隊長格の人だったよね? だったらケチくさい事言わないで、全部纏めてあげちゃえばいいんじゃないかな」
「おお、成程。おまえこそ天才だぜ」

 ルカルカの一言に意見の一致を見たのか、彼らは手持ちの花を一本ずつ纏めて花束を作り、立て直した墓前にそれを捧げた。そしてジョンの典礼が開かれる中、ルカルカが代表として慰霊の言葉を紡いでいく。

「どうか、コンロンの平和を見守り下さい――――」

 ……そうして始まる死者の弔いは、生者である梅琳の耳にも心地よく響き。思わず立ち尽くしたまま聞き入ってしまう。

「……メイリン様?」

「おっと、ぼんやりしている場合じゃなかった」

 エレーネが袖を引く感触に梅琳は我に返り、軽く頭を振る。そうして手近に転がっていた墓石を拾い上げたその時――こちらを呼ぶ声に気がついた。
 その方向に視線を向けてみれば、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が神妙な顔をして近づいてくる。

「……どうしたの?」

「ああ、ここの整備が完了したら、俺は事の顛末を帝に伝えに行こうと思うんだが――その際に梅琳も同行してくれないかと思ってな」

「私が? 別に良いけれど」

「すまない。また盗掘されないための抜本的な対策案を提言する為にも、詳しい説明のできる奴が居た方が助かるんだ」

 ダリルは梅琳の返答にホッとした表情を浮かべ、笑みを見せた。
 確かに彼の言う通り、そういった事柄に関しては依頼を受けた大元である自分がいた方がスムーズに話が進むだろう。梅琳は納得のままに頷く。

「では早速で悪いが、墓荒らし達の所へ案内してくれないか。ついでに逃げたという奴らの事も――……」

 そうしてダリルは梅琳とエレーネを伴いその場を後にする。
 彼らが去ったその後も墓場の復旧は続き、契約者達が作業する音も、死者を弔う声も止む事は無い。

 ――墓前に捧げられた花束から、一枚。鮮やかな花弁が宙を舞い、天高く流され消えていった。

担当マスターより

▼担当マスター

変わり身

▼マスターコメント

 はじめまして、変わり身です。
 何もかもが初めての経験だった為に至らぬ所も多々あると思いますが、ほんの少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
 これからも精進していきたいと思いますので、もしまた私の名前を見かけましたら宜しくお願いいたします。