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リアクション
●だいたいほのぼの、時たまスリリングなスイカ割り
「涯君、私がスイカを食べさせてあげるから、ちょっと待っててね! ……あれ? 涯君、どうしてバットなんて持ってるの?」
スイカ割りに自信ありといった様子の花村 彩(はなむら・さい)が、既にお仕置き用の黒いビニールバットを持っている東原 涯(あずまはら・がい)に首をかしげる。
「まあ、気にするな。サポートはしてやるから、迷惑だけはかけるなよ」
涯の言葉に一応は納得したようで、彩が目隠しをして棒を構える。
(……あいつ、自分が壊滅的な方向音痴だってこと知ってて言ってるのか? ……ってああ、言ってるそばから!)
涯の懸念は見事に的中し、ことごとく涯の指示を無視して彩が、スイカとはまったく別方向へと歩を進めていく――。
「……9……10。うっ……こ、このくらい、大したことないわね……」
スイカを割るための棒を地面につけ、反対側の先端に額をつけた格好で10回回ったセツ・キョウマ(せつ・きょうま)が、言葉とは裏腹にあっちへふらふら、こっちへふらふらと砂浜をさ迷っていた。
(まさか本当に回るとはねぇ……ま、お手並み拝見といくか。……うん、このカキ氷美味いな)
セツに「10回回らないと反則でこのお仕置き用のバットで叩かれるぞ!」と嘘を吹き込んだアル・キョウマ(ある・きょうま)が面白おかしく見守る中、完全に方向感覚を狂わせたセツが、スイカとはまったく別方向へと歩を進めていく――。
「……さぁて、楽しい時間の始まりだ。合法的にケツを叩けるなんて素晴らしい……!」
お仕置き用のバットを手に、不敵な笑みを浮かべる二色 峯景(ふたしき・ふよう)の視界に、振り下ろしたバットを砂にめり込ませる生徒の姿が映る。
「はい、アウトー!」
アレグロ・アルフェンリーテ(あれぐろ・あるふぇんりーて)の合図がかかるやいなや、飛び出していった峯景が目隠しを外し、残念そうな表情の生徒の尻に全力でバットを叩き込む。
(うわー……峯景様、すごくイキイキしてるなぁ……輝いてるなぁ……隠れドSの本領発揮だなぁ……)
罰ゲームを執行し終え、悠々と引き揚げていく峯景の表情は、夏の太陽のように輝いていた。
「きゃはっ♪ こんなバットでオシオキなんて風つまんなーい。やっぱオシオキならこれくらいじゃないとね♪」
その様子を眺めていた鈴倉 風華(すずくら・ふうか)が、満面の笑みで断ち切りバサミを煌かせる。
「これで水着の紐ちょっきん♪ ってやってポロリもあるよ男性必見! な展開にするの〜。面白いでしょ?」
「……はい。風が楽しそうであれば、自分もお手伝い……します」
病的にすら映る風華の傍に控える形で、風音・アンディーオ(かざね・あんでぃーお)が断ち切りバサミの他、フォークやスプーンを準備していた。
「えいっ! ……あら、また失敗してしまいました」
そんな『お仕置きし隊』三名の視界に、目隠しを外して残念そうな表情のセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)が映った途端、峯景と風華がキュピーン、と目を光らせ、合図がかかるよりも早く飛び出していく。
「例え女性であろうと、俺は手加減しないぜ!」
「セリにゃん、覚悟〜!」
セリシアに迫るお仕置きの脅威、しかしその直前、彼らの前に飛び込む二つの影。
「うーん……ここだぁ!」
「うぅ、き、気持ち悪い……そこね!」
それは、放浪を続けていた彩とセツだった。
二人の振り下ろした棒が、飛び込んできた峯景と風華それぞれの頭を見事、スイカのようにパカーン、と叩く。
「やったぁ! ねえ涯君、今の見た……あれ?」
「あ、当たった!? ま、まあこのくらい当然よね……あら?」
目隠しを外して状況を確認した彩とセツは、目の前できゅう、と倒れ伏す峯景と風華、次いで互いの顔を見遣って首をかしげた。
「紅、暑苦しいから離れろって!」
「いいじゃないですか〜夏なんですし。ほら、あーん」
「夏だからって関係ねぇよ! ……ったく、可愛いウェイトレスさんでも眺めてまったりしようと思ってたのに、こいつときたら……」
同じ頃、海の家でまったりと見物を決め込んでいた鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)が、他人の目をはばからずイチャついてくる紅 射月(くれない・いつき)に辟易していると、新たに運ばれてくる怪我人の姿が目に映る。
(あーあ、ハシャギ過ぎんのも考えモンだよな……ぶっ!!)
その怪我人の片方が視界に入った瞬間、虚雲は口の中に含んでいたカキ氷を思い切り射月に吹き出してしまう。
「あぁ……これが虚雲くんの愛の形……なんて香ばしい……」
何故かうっとりとする射月のことなど目にもくれず、虚雲は今起きたことを必死に整理しようと試みる。
(って、何で風がここにいるんだ!?)
どうやら、海の家でまったりしようという彼の思惑は、叶いそうにないようであった――。
「えーと……赫夜さん、先日はすみませんでしたっ!」
水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)が、スイカ割りの会場で寛いでいた藤野 赫夜(ふじの・かぐや)を見つけるやいなや、頭を下げて謝罪する。かつて立場の違いから剣を向けたことを、彼女は今も申し訳なく思っていたようである。
「頭を上げてくれ、睡蓮。お互いに信ずるべきもののために行動した結果を、誇りこそすれ悔いることはない。……それに、戦いはもう終わったのだ」
そう、過去に色々とありはしつつも、今は赫夜も他の十二星華の面々と共に、海での一時を謳歌している。
「……はい、ありがとうございます。…………」
赫夜の言葉に少しだけ笑みを見せた睡蓮が、今度は赫夜をひどく見づらそうな様子で、時折ちら、ちらと視線を向けてくる。
「? 私がどうかしたか? ……ふむ、真珠に「姉様、海ではこれが正装なのよ」と渡されて来たのだが……おかしかっただろうか」
赫夜が、自分の水着姿――睡蓮が今身につけている、サラシとフンドシをベースにしたような水着――を見つめて首をかしげる。赫夜の豊満な肉体がより強調され、生徒たちは目のやり場に困っていた。
「あっ、い、いえ……!」(まさか、赫夜さんが私と同じ水着を着ているなんて……!)
どうしたらいいのか分からないでいる睡蓮を横目に、目隠しをした鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が木刀を音速の速さで振るうと、スイカが真っ二つどころか粉々に砕け散り、ちょっとしたスプラッタな現場を作り出していた。
「兄ちゃん、そっちそっち……ああ違う違う、こっちこっち」
「よっ、ととっ……くっ、考えたらビーと視点が違うせいか、全然感覚が掴めないな……」
目隠しをして、棒の代わりに自前の剣を構えた藍園 彩(あいぞの・さい)が、ビート・ラクスド(びーと・らくすど)の誘導を受けてふらふらしながらも少しずつスイカに近付いていく。
「後はまっすぐまっすぐ……そこそこ、いっけー!」
ようやくスイカの前まで辿り着かせることが出来たビートの声援を受けて、彩がスイカの一撃割りに挑戦するべく、剣を高々と振り上げる――。
「コロスツブスコロス……!」
振り下ろされた剣がスイカを一刀両断にするのと、飛び込んできた切裂木 浮螺(きりさき・ふら)の振り下ろしたスイカ割り用の棒が彩の頭をパカーン、と叩くのはほぼ同時のこと。
「に、にいちゃーーーん!! あぁ、こ、こんなに血が……がくり」
割ったスイカに突っ伏したのを、血まみれになったと勘違いしたビートが気を失い、そして二人とも救護所のお世話になっていく。
「……ふむ、迂闊に彼女にスイカ割りを勧めたのは失敗だったか……む、こうしてはおれん、少しでも被害を食い止めねば」
ビキニ姿で棒を振り回す浮螺を、やれやれと愚痴りながら原 萌生(はら・もえにいきる)が後を追うのであった。
「……えい」
サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)の誘導を受けて、スイカの目の前まで来たディオニリス・ルーンティア(でぃおにりす・るーんてぃあ)が棒を振り下ろすと、ぱかん、と音がしてスイカが中の真っ赤な果肉を覗かせた。
「おめでとう、イリス」
「お見事です。私もディオニリスさんのように上手く当てられるようになりたいです」
サトゥルヌスとセリシアの拍手を受けて、目隠しを外したディオニリスが笑みを浮かべ、割ったスイカを手にサトゥルヌスの所へ戻って来る。
「私、スイカ割り苦手だったの。けど、今日は違う方向に行かないでちゃんと割れたの。お兄ちゃんが私をちゃんと誘導してくれたからなの」
「ありがとう。イリスはいい子だね」
スイカを置いたディオニリスがサトゥルヌスに抱きつき、頭を撫でられて気持ち良さそうに目を細める。
「さ、イリスの割ったスイカをいただこうか。セリシアさんもどうでしょうか?」
「ありがとうございます、では、お一ついただきますね」
三人で頬張るスイカは、まさに夏を感じさせる味がした。
「リトルちゃん、ナビしっかりよろしくね!」
スイカが食べたい一心でスイカ割りに参加した因幡 きさら(いなば・きさら)が、目隠しをされてゆっくりとスイカへと歩み寄っていく。
「ああ、そちらではなく……はい、そうです、そのままですわ」
きさらを誘導するのはリトル・ウィンドガーデン(りとる・うぃんどがーでん)、そしてリトルの誘導を受けたきさらはスイカのある方向から外れ、リトルの方へと向かっていく。
「リトルちゃん、ちゃんとナビしてるー? ……ひゃあ!」
もうそろそろ着いてもいい頃なはずなのに、と思ったきさらが声を上げた直後、何かが身体に密着する感覚に驚いた声を上げる。
「うふふ……きさらさん、残念ですわ。スイカではなくわたしですの」
「り、リトルちゃん、わざとだね!?」
「あら、何のことでしょう? きさらさん、外した時のこと、お忘れではありませんわよね?」
言ってリトルが、お仕置き用の黒いバットを取り出す。
「ちょ、ちょっとリトルちゃん!? バットの位置おかしくない!? それに何だか怖い目……きゃーーー!」
「うふふふふふふふふ……」
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