校長室
創世の絆 第三回
リアクション公開中!
龍雷連隊、死力を尽くす 「我々はこの場所にイレイザーを釘付けにする! シールド装置の奪取が完了するまで、やつを動かすんじゃない!」 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)の怒濤のような一喝が砂漠にとどろいた。 砂ザメの誘導によって、イレイザーが地中に逃れるのもふさがれている。それによって引き延ばされているとはいえ、ダメージが蓄積した状態では、いつまた潜るつもりか分からない。 「弁慶、イレイザーの注意をそらせ!」 「おう、ゆくぞ!」 負けじと叫び返す武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)が、対イコン爆弾を取り付けた矢を放つ。巨大すぎるかぶら矢がイレイザーの巨大な胴体を揺らした。 続けて弁慶の飛空挺から吐き出されるミサイルポッドは目くらましの一手である。その隙間をぬって、鳴神 裁(なるかみ・さい)が駆ける。 「このイレイザーは、目隠しが通用しなかった……ってことは!」 「おそらく、振動を感知して、敵の位置を探っているのですね〜?」 裁の体を包む魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が、一見気楽に呟いた。裁は砂の上を走りながら、ドールの力を引き出し、念力で砂を叩いている。その目的は、自分以外にもイレイザーに向かって突進している何者かがいると、イレイザーに勘違いさせることにある。 今だ体の半分ほどを砂に沈めたイレイザーは、砂の中を這い回るサメを追い払うために使っていた触手を振りかざした。狙いはまばらで、裁がどこにいるのか、断定できていない様子だ。 「やはり、視覚よりも砂の震えを感じているようだな!」 確信を得た岩造は、裁に向けて振り下ろされる触手を両手のレーザーマインゴーシュで受け止め、逸らす。派手に上がる砂煙をくぐって、裁はさらに駆け回っていく。 ゴオオオオッ! しびれ切らしたイレイザーが、顔を砂から浮かせ、鼻を突き出すように覗かせた。 「あそこ?」 「おそらくな」 触手を払いのけた岩造が裁に答える。だが、すぐに別の触手が躍りかかってきた。 「まだまだあ!」 甲賀 三郎(こうが・さぶろう)指揮下のアンデッドが、その触手を体ごと受ける。守護に回った三郎の巻き起こすブリザードが、触手の動きを鈍らせた。 「頭を狙え! いいな!?」 これ以上の接近は、標的として気を引きつけるだけでなく、イレイザーの本格的な反撃が予感される。これだけの数の触手を相手するのは、体力以上に精神力の消耗が激しい。イレイザーの振動を感知する器官は頭部にある……そう判断して、岩造と裁は転身した。 「引き受けた!」 気を引く役が交替する。上空からは三郎が魔法を浴びせ、砂上では鎧兜に槍を構えた本山 梅慶(もとやま・ばいけい)が、人馬一体の突撃を敢行する。 イレイザーに比べて小さすぎる体だが、それぞれの連携と、砂ザメのかく乱もあり、イレイザーの注意が乱れているのは明白であった。 「ショウタイム!」 この瞬間を待ちに待ったフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が、はじかれたゴムのように飛び出した。戦闘飛行脚を装備した身一つで空中を飛び回り、てんでむちゃくちゃな軌道を描く。イレイザーの目線が、そのフィーアに向けられた。 「頭、頭……ね」 イレイザーの触手も届かぬ超長距離で、ヴァルトルート・フィーア・ケスラー(う゛ぁるとるーと・ふぃーあけすらー)は冷静に引き金に指をかけた。 未来の時間軸から持ち込んだ銃が、大質量のビームを噴き出す。それはイレイザーの頭を打ち、頭蓋を振るわせた。 「早く終わらせて、ナオンを射止めたい所だけどね……」 「同感!」 描写は再びイレイザーの頭上に戻り、フィーアが叫びを返した。声が届くはずはないのだが、両者がどのようにして同じ感情に至ったのかは不明である。 「来いよイレイザー! 触手なんか捨ててかかってこい!」 生えているものに対して無茶を言いながら、両手持ちのマスケットを振り回し、踊るように弾丸を放つ。イレイザーの体格からすれば、雨粒に撃たれるようなものではあるが、顔にばかり雨が降れば腹が立つものだ。 ゴオオオオッ! フィーアに向けて威嚇の叫びを向け、巨大なアゴでかみ砕こうとする。 「好機! 今だ!」 「言われなくても」 連隊長・岩造の指示をさらりと受け流し、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)が急降下する。注意をフィーアが、触手を三郎が引きつけている間に、自由落下を上回る加速で狙うのは、イレイザーの前肢である。 「潜るときに使うのだから、ケガをしたら困るでしょう?」 酷薄な笑みと共にレリウスは呟いた。そして、戦場では相手がもっとも嫌がることをするのが兵の権利であり、義務でもあった。 またがるドラゴンと自分の体重すべてを乗せた一撃が、イレイザーの前肢を撃つ。これまでの幾度かの戦いで分析されたイレイザーの骨格構造の隙間を狙った一撃だ。がり、と、硬いが確実な手応えがあった。 衝撃は、レリウス自身にも伝わってくる。竜と共にイレイザーの表皮に跳ね飛ばされ、むちゃくちゃに空中へ投げ出された。そこを狙って、触手がうねる。 「だから無茶するなって言っただろうがよおおお!」 同じ義務と、数倍する責任を負ったハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が叫びながら飛び退る。触手にレーザー射撃を浴びせながら、飛空挺を操作してレリウスを受け止めた。正確には、レリウスが飛空挺に捕まり、落下を防げる場所まで操艇したのだ。 「無茶などしていません」 「どこが!」 触手をかわしながら叫ぶハイラルに、レリウスはイレイザーを示した。 「斬りつけた時に爆弾を仕掛けておきました。着火を」 「くそっ!」 言われればやるのが教導団・鉄の掟である。狙いをつけて、数条のレーザーをうちはなった。 「注意散漫! もっと注意できなくしてやる!」 一方、フィーアは上空からの射撃姿勢……自分の胴体で銃を押さえ、両足を広げて姿勢を安定させるきわどいポーズで、まっすぐ下に向かって銃を構えた。空中では踏ん張ることができないため、強烈な衝撃に対しては、この姿勢がもっとも射線がぶれにくいのだ。 ドドンッ! 強烈な衝撃が、同時に戦場に広がった。 一方はフィーアが放った大型弾丸がイレイザーの眉間を打ち、そこにある振動を感知する器官を麻痺させた音であり、もう一方はハイラルが撃ち抜いた起爆装置でイレイザーの前肢に深刻なダメージが伝わった音である。 「……シールド確保部隊の突入を確認。以降、我々はイレイザーの注意を引きつけるための戦闘を続けるが、ダメージは十分だ。状況が変わるまで、現状を維持しろ!」 岩造の指示が飛ぶ。感覚と潜るための手段を弱められたイレイザーは、もはや砂中の獣ではなく、直立した要塞と化していた。