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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●あなたと私で試練の壁

 中世欧州風ファンタジーRPG、そういうものに出てきそうな姫君があらわれた。
 それはもう、楚々としてあらわれたのだ。
「待った?」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は心臓が止まりそうになった。
 なぜって彼女が、美しすぎたから。
「どうしたの黙りこくって? やっぱ変?」
 彼女すなわち御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、ロングドレスの両裾を持ちあげて怪訝な顔をした。
 頭には紅玉(ルビー)のはまったティアラ、下ろした髪は黄金(きん)の色、いささか恥ずかしそうな上目づかいがまた麗しい。
 もともと気品のある顔立ちが、この扮装で一層高まっていた。
 王道すぎるほど王道なプリンセスの仮装だが、これを違和感なく着ることができるのは、やはり環菜の美貌あってこそだろう。サングラスを外した瞳はきらめき、白い首、軽く開いた唇も瑞々しかった。
「変だなんてとんでもない。ただ……」
 彼女がまるで光の女神であるかのように、眩しい目をして陽太は首を振った。
「俺の奥さんは何を着ても綺麗だなー、って……」
 ぽつりと口にする。
「もうっ、からかうんじゃないの!」
 環菜は照れ照れの様子で、両腕で彼の腕をつかんだ。
 そして小声で言う。
「……ありがと。陽太も格好いいよ」
 今度は陽太が照れ照れになる番であった。
 陽太の仮装は海賊船の船長だ。特徴的な帽子に厚みのある襟、首を飾るスカーフもきまっていた。情熱的な赤い色も、黄色のラインもあいまって凛々しい印象を与える。
 かくて二人が並んで立つと、城を抜け出した姫君が、義賊と駆け落ちしたように見えた。
「じゃあ、あの……行きませんか?」
「ええ」
 環菜は彼の腕を、大切な宝物のように胸に抱き寄せた。そして頭を、彼の肩に預ける。
 心臓が高鳴ってしまうけれど陽太は、そんな彼女をリードして歩いた。
 陽太と環菜が結婚して数ヶ月、それでもまた、初々しさの残る夫婦なのである。甘酸っぱい、けれどそれがいい。
 だが二人の歩みは、唐突に途切れてしまった。
 ずううん、と重々しく風祭 隼人(かざまつり・はやと)が立ちはだかったのだ。彼は口を『へ』の字に結んでなにやら頑張っている。
「どうしたんです隼人さん?」
 陽太が首をかしげた。
 ところが隼人は「今は隼人ではない」と低音をきかせた口調で言いはなった。
「……俺は愛の試練の壁、手を離さずにこの壁を乗り越える事ができるかな?」
 壁というのは比喩ではなく、本当に彼は壁なのだった。
 日本妖怪のアレである。ぬぼうと突っ立つ壁妖怪、その石色のボディから、隼人の顔だけがひょいと出ているというシュールさ溢れる着ぐるみ仮装だった。道すがら子どもにでも落書きされたか、あちこちにへのへのもへじだのガイコツだのが描いてあるところもご愛敬である。
「……ルミーナさんが見あたらないからって、イチャイチャしている二人にひがんでいるわけじゃないぞ! 本当だぞ!!」
 ちなみにこの壁は、本当に壁の材料を用いているので冗談抜きで重いらしい。
 なので、
「なんでこんなところに壁があるのかな……いや、あるのかにゃ?」
 たまたま、隼人の後ろからやってきたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、猫らしい好奇心を発揮してツンとつつくと、
「あっ、ちょっと倒さないで、この衣装は背後正面からの攻撃に弱……あー!」
 ずーん、と気持ちいいくらいの音を立て、隼人は倒れ込んでしまったのだった。それはもう、グラウンドに数センチめり込むほどに。
「にゃ?」
 ミーナは、猫が顔を洗うような仕草をしつつ目を丸くした。
 やたら猫猫と書いてきたが実際、本日のミーナはずばり、黒猫こな仮装である。
 猫耳、黒いワンピースのゴスっぽい衣装、尻尾もしっかり生やした黒猫さん、内面も猫化が必要と、しっかり口調を猫語尾にしていた。今夜の彼女は内側も外側も黒猫というわけだ。
 一人ドミノよろしく倒れたままの隼人が、立てないままうめいていた。
「踏みつけないで〜、ゼッタイに踏みつけないで〜」
「にゃにゃ?」
「つまりこれは、『踏み渡ってほしい』と言ってるんじゃない?」
 環菜が提案した。
「いやそういうわけでは……」
 隼人は弱々しく応えたものの、そうもいくまい。
「じゃあ踏んでいくにゃー!」
 嬉しげにミーナが隼人の背を踏んでいく。
「私も」
「俺も……やったほうがいいですよね? 失礼します……」
 つづいて御神楽夫妻も従った。
「うおお、いじられて喜ぶべきか、本当に窒息しそうなので呻くべきか……!」
 なんということだろう。隼人の衣装は飾り物程度の手しかないため、文字通り手も足も出ない状態だ。
 立てない。顔面は地面に押しつけられ、石の重量もあって圧迫感が半端ではないのだ。
 酸素不足でクラクラしてきた隼人だったが、ここでぐいと身を起こされていた。
「大丈夫ですか……?」
 聞き違えるはずがなかった。ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の声だ。彼女が助けに来てくれたのだ。
 ここは一発、いつか使うつもりだった口説きセリフを出すしかない! 隼人は、これ以上ないほどのハンサム顔を作ってルミーナを見あげた。同時に、天竺を探しているかのような遠い目をする。
「ああ、どうやら俺は死んだようだぜ。天使が目の前にいるなんて……」
「え? はい、本当に守護天使ですが」
 あっさりとルミーナは自分の種族名を言った。事実だし。
 背中に引火したかというほどに慌てて、ひょこりと隼人は立ち上がった。
「る、ルミーナさん、今日のお姿も素敵です! 俺と一緒にパーティーを過ごしましょう!」
 なお、ルミーナは仮装をせず、普段と同じ服装である。
 彼女は「でも」と言い淀んだ。
「私、お二人の護衛をしなくては……」
 お二人というのはもちろん御神楽夫妻のことだ。
 どうにも難色を示すルミーナだが、
「心配ご無用、こっちこっちにゃ〜!」
 すぐそばのテーブルから、一条の光のようにミーナが呼びかけてくれた。
 椅子つきの円形テーブルだ。そこにはすでに、陽太、環菜、ミーナが着席している。
「ここで食事にしましょ。ほら、ルミーナも隼人も」
 環菜が二人をさし招いてくれた。
(「つまり御神楽夫妻は、ルミーナさんが俺を助けると信じて見守ってくれていたわけか……」)
 フッ、と隼人は、壁コスプレのまま笑った。
(「倒してくれたあの黒猫の子も含めてサンキュ。リア充への道を一歩進んだぜ。たぶん」)
 親指を立てて見せたいところだが、やはりこのコスプレは手が出せないのである。
 うーん、どうにももどかしい。