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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●ユマ・ユウヅキと一緒

 魔王、と呼ぶにふさわしい姿だった。
 彼が征けば人は道を開ける。
 開けざるを得ないのだ。彼の名を知らずとも、その威圧感は人々に本能的な恐怖を与えた。
 彼の眼光をまともに、受け止められる者はそうはあるまい。
 だが不思議と、その姿は人の目を惹くのだ。
 これは矛盾ではない。
 ――まともに見るのは怖いが見て見ぬふりはできない。それだけのカリスマ性が彼にはあった。
 彼は金 鋭峰(じん・るいふぉん)、シャンバラ国軍の総司令官である。
 どんな扮装をしていても鋭鋒の威圧感はいささかも衰えない。
 頭には角。
 派手な兜。
 鋼鉄の翼を背に有し、茶目っ気すらあるスカーフを首に飾る。
 山が歩んでいるかのような存在感、これ以上ないほどに『大魔王』といった様相、常人ならギャグに見えてしまう仮装であっても、妙に似合ってしまうのが金鋭鋒という男なのだった。
 だが人々が見せる反応は、本人にとってはいささか不本意らしい。
 鋭鋒は、普段から皺のある眉間によりいっそう深いクレバスを生じさせた。
「良いのか……? 気のせいか、人々が我らを怖がっているような」
「いいんです! ハロウィンはホラーなお祭、怖がらせた人が一等賞なんです!」
 鋭鋒の半歩前をゆき、道を掃き清めるようにルカルカ・ルー(るかるか・るー)は手にしたジャック・オ・ランタンを揺らした。
 ルカルカの声はこれ以上ないほどに弾んでいた。さもあらん彼女こそ、鋭鋒大魔王をエスコートする側近の役割を、仮装的にも現実的にも果たしているのだから。なんという光栄。
 ルカルカの頭にはねじれた角が二本生え、服装も鋭鋒と同系統の禍々しさ、マントと翼も魔の一族のしるしだ。「魔王様のお通りだ。道を開けよ」と言わんばかり……いや、実際に言いつつ歩くのが実に様になっている。
「魔王様、いえ、団長……今夜のこと、感謝しております」
「改まって何か」
 鋭鋒は流し目した。飛びだしナイフが刃を露わにしたような感触――団長の、こういう所作を意図せずできてしまうところがゾクゾクする――とルカルカは思いつつ奏上する。
「私が差し上げたこの衣装に袖を通して下さったこと、こうしてパーティを楽しんで下さっていることもですが……ユマの連れだしを許可して下さったことが最大の喜びです☆」
 鋭鋒は、そうか、と言って振り返った。仲間たちに囲まれて歩くユマ・ユウヅキの姿が見えた。
 ユマはかつて、クランジΥ(ユプシロン)と呼ばれた戦闘兵器、危険すぎる暗殺者であった。色々あって教導団に保護されて以後は人間らしいところも増え、もう一人の生徒として扱っても安全と思われていた。
 しかしユマは七夕の祭で、あるきっかけがあって豹変した。
 あの瞬間、間違いなくユマ・ユウヅキはユプシロンに復していたのだ。
 リュシュトマ少佐の咄嗟の判断、鋭鋒の機転がなければどんな惨事になっていたかわからない。
 その後再び厳重監視下に置かれたユマだったが、ルカルカらの働きかけにより、再び外に出られるようになったのである。といっても、教導団の者の監視下でという条件付きではあるが。
「礼なら山葉涼司に言うがいい。彼が許可しなければこの地を歩むことなど叶わなかった」
 それでも、鋭鋒が認めなければ教導団の独房から出ることすらユマには許されなかったはずだ。
 だがルカルカはそれ以上鋭鋒を称えなかった。彼は、阿諛追従を喜ばない。
 かわりに彼女はユマについて報告した。ルカのパートナーダリルが手がけた右腕の修理は完璧で、兵器の使用はできなくないが日常生活には支障がないこと、監視役の許可が必要とはいえ、携帯電話も使用できるようになったこと、等である。
「その辺りは聞いている。クローラも付いているのだ。貴官も、ユマのことばかり気にせず自分の好きなように過ごせ」
「私の好きなように――というのは、団長のために働くことです」
 恭しく、されど目を輝かせてルカルカは言う。
「食べたいフードはありませんか? クラッカー、鳴らしてみませんか? 望むことを何でもおっしゃって下さい。日頃の重責を離れ、心から楽しんで下さいますよう……」
「そういっぺんに言われると困ってしまうな……だが」
 ルカは最初、聞き違いかと思った。
 なぜってあの金鋭鋒団長が、パーティ用クラッカー(ハロウィン仕様)を鳴らすことを希望したのだから。
 パンと鳴ったクラッカーに、思わず若松 未散(わかまつ・みちる)は拍手してしまった。さすが鋭鋒団長、クラッカーを鳴らしても祝砲のように聞こえる。
「わー♪ まさしくパーティって感じだー!」
 かく言う未散の扮装は、鋭鋒たちとは系列を異にしてメルヘンチック、それも赤ずきんちゃんの仮装なのであった。
 トレードマークの赤頭巾、その下の服はエプロンドレスで靴は編み上げブーツだ。手にした籠には宝石のようなお菓子がたくさん入っており、未散はこれをほうぼうで配って歩いていた。
「それにしても似合ってるねー」
 その格好、とルカルカは言った。素直に喜ぶべきか迷うところではあるが、可愛いのでよしとしようではないか。かわいい赤ずきんちゃんに扮したせいもあって、ローティーンにしか見えない未散なのである。――実年齢、そんな難しいことはこの際忘れてしまおう。
「ありがと〜♪」
 未散本人も赤ずきん扮装は気に入っていた。この服装を選んでくれたのはルカ、そのお礼に、と持ちかけた。
「ささやかだけどこれ、ルカさんの好物だから取っておいたんだ」
 どうぞ、と未散は籠から、さっとチョコバーを取り出し差し出した。

 ユマ・ユウヅキは、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)琳 鳳明(りん・ほうめい)とともに歩を進めていた。万が一のことを考え、三人はユマを囲むようにして歩いている。
「リュシュトマ少佐は、参加されないのですね」
 誰に言うともなくコトノハは呟いた。その言葉を拾って、
「少佐は、俺に今夜の件は一任されました」
 クローラが言った。
 数日前、クローラは少佐に直接、参加するのかどうか問うている。
「私は仮装せずとも既に、ハロウィンの『お化け』だ」――これが少佐の短い返答だった。それが冗談だったのか本気だったのかわからず、クローラは曖昧な反応しかできなかった。
 ここまで、ユマが狼狽したり危険な行動をとりそうな様子はまるでなかった。やがて張りつめたような緊張感が消え、ようやくパーティを楽しむ余裕も出てきている。
「そういえば、髪……」
 切られたんですね、と、コトノハは言った。
 以前、彼女が会ったときのユマは髪が長く、それを夜会巻きにしていた。それがいまでは、おかっぱのような髪型に切り揃えている。
 そんなユマを見ると自分も髪を切ったような気になり、涼しく感じてしまうコトノハなのだった。
 コトノハとユマは雰囲気が似ている。髪も近い色だ。顔立ちにも近いものがあった。ゆえにか、コトノハはユマのことが、どうしても他人のように思えないのだ。
 これをきっかけにコトノハは、無事に赤ちゃんが産まれたこと、白夜・アルカナロードと名づけたことなど、これまで溜まってきた数々のことを彼女に語って聞かせたのである。
「そうですか、新しい命が……」
 ユマは自分のことのように喜んでくれた。新しい命、その言葉にユマが重きを置いたのは、自身が命を奪う側の機晶姫として設計されたという経緯があるからかもしれない。
 コトノハは吸血鬼の扮装をしている。かつてのユマのように夜会巻きにし、黒いマントも用いてダーク調の貴族的な扮装にまとめていた。胸元の赤いリボンがアクセントだ。金の鎖のアクセサリーで、ブレスレット同士をユマと繋げていた。
 一方、ユマの服装はコトノハ同様ゴシックだがメイド服である。ふわりとしたスカートに控えめな装飾、このように(仮装パーティとしては)あまり目立たない格好にしているのは、鋭鋒の指示による配慮であろうか。なお、ベースとなる衣装は鳳明が選んだという。
「和風な整った顔とのギャップで可愛いよね! うん、これで勝てる!」
 自分のチョイスに満足しつつ鳳明は言った。何に勝つのかは秘密である。
「ところで私の扮装、なんだかわかる?」
 鳳明は両手を揃え、前に突きだしてぴょんぴょんと移動する。丸いぽっちりつきの中華帽をかぶり、コスチュームも道教風にしていた。
 いえ……というユマに、
「これはね、キョンシー。中国のゾンビかな? こうやって移動するの」
 と両脚揃え移動を行って笑わせる。
「あ、そうだ……」
 これ言っておかなきゃ、と、鳳明は真面目な顔をして言った。
「ユマさん! この前の七夕の時に『命に替えても』って言ったよね?」
 むにっ、と鳳明はユマの頬を引っ張った。
 よく聞いて、という主張である。
「そんな事言っちゃダメ。みんなの幸せを考えるんなら、ユマさんと、ユマさんのことを大好きな私や皆。両方一緒じゃないと意味がないんだよ。だから自分の命を軽く扱わないで! わかった?」
 怒っているというよりも、言いきかせんとしている鳳明なのだった。ユマがうなずくのを見て手を放した。
「私と、私の大切な友人……その両方一緒、ですか」
「そういうこと」
 鳳明は牡丹の大輪のような笑みを見せ、ユマの首をぎゅっと抱いて放した。
「それを忘れないで……はい、お姉さんのお説教終わりっ。じゃあ、クローラさん?」
「え?」
 唐突に鳳明に名を呼ばれ、クローラはいささか戸惑い気味に返事した。
 彼は今、騎士の仮装に身を包んでいた。
 といってもややメルヘンチックな、『ダルタニャン物語』(いわゆる『三銃士』)に出てくるような貴公子だ。
 白銀基調の服に、水色や金など、いささか古風だが高潔な感じで統一している。
 大きな鍔の帽子も華やかで、この夜にふさわしいものだろう。
 腰に佩いたサーベルが、彼の歩みに合わせ小気味良い金属音を立てていた。
「ユマさんに話したいことがあるんじゃないの? 良ければ少し、私たちは外そうか?」
 鳳明が意味ありげにコトノハを見た。
 コトノハは瞬時、抗議するような口をしたのだが、ユマに目を走らせたのち、
「そうですね……それでは……」
 自分とユマを結ぶ鎖を外して、名残惜しそうに近くのテーブルへ移動した。
「いや、俺は……」
 クローラはますます戸惑ったが、口をつきかけた拒否の言葉を飲み込んだ。迷ってどうする。彼のパートナーがここにいれば、「喜んで!」と言ってクローラの背を押したことだろう。
 思えば今日、迎えに行ったときから、コトノハがユマの部屋まで付いてきていた。会場でもずっとコトノハと鳳明がユマの横におり、じっくりと二人でユマと話すタイミングはなかったといっていい。
 気を利かせてくれたというべきだろうか……ともかく、躊躇していては時間が過ぎるばかりだ。
「その……右腕の手術、無事で終わって良かった」
「ありがとうございます」
 ユマは彼を見上げた。
「あと、花の……」「花の鉢植え……」
 二人の声が重なった。クローラは照れたように言葉につまり、自然、ユマが続きを述べる。
「きちんとお礼、言えていませんでした。……先日いただいた花の鉢植え、ありがとうございました。ヒラニプラ山脈で見つけてくれたものなんですってね。大切に育てています」
「ああ。大したものじゃないが、喜んでくれたのなら嬉しい」
 自覚しつつある己の感情に胸を高鳴らせながらクローラは続けた。
「それで……以前、少し話したが……」
 口の中が緊張で乾く。けれどクローラはなんとか言葉を継ぐことができた。
「俺が非番の日にどこかへ行かないか。無論、外出許可が出れば、だが。案内したい場所があるんだ、一緒に見たい景色も……」
 二つ返事とはいかずとも、色よい返事、少なくとも希望の持てる返事をクローラは期待していた。
 だからそれだけに、伏し目がちに回答したユマの言葉に、心臓に杭を打ち込まれたような気持ちになった。
「クローラさん、あなたは優しい人ですね。責任感も強く、真面目な人です」
 ユマは透き通るような声で、しかれどもはっきりと言った。
「だから、あなたは誤解しているのです」
 と。
「クローラさん、あなたが私に抱いている感情、嬉しく思います。けれどそれは、自由を制限されている私への『同情』を別のものと取り違えたものに過ぎないのではありませんか。私のことが気になるのも、任務への責任感がそうさせているのではありませんか。どうか、ご自身の胸の内を誤解なさらないで下さい……あなたのように将来のある方が、私のような者に惑わされてはいけません」
 違う俺は――クローラが反射的に声を上げようとしたとき、
 彼がポケットに入れた携帯電話が機械的な音を発した。
 取り出してみれば、それはクローラが責任を持って預かっているユマの携帯電話であった。
 Cinemaという機種の新型だ。柊真司という男がユマに進呈したものだという。クローラが発信者をチェックし、問題がなければユマに渡していいことになっている。
 着信したのはメールだった。発信者は、その柊真司である。
 クローラは胸に締めつけられるような痛みを感じた。よく知らない発信者からのメールがもたらした痛み……これは嫉妬なのだろうか。
「……」
 今、ここでメールを見せることを拒否することもできる。他校生からのものだ。「機密上見せられない」と言って消してしまっても構わない。
 だがクローラは、ユマに携帯電話を渡した。
 ユマがメールを読んでいる。
 文面まではわからない。だが、ユマの口元がほころんでいることをクローラは感じ取っていた。
 どんなメールなのだろうか……己の矜持にかけて「見せてくれ」とは言えない。それだけに苦しい。
 携帯電話をユマから受け取ると、クローラはコトノハと鳳明を呼んだ。
「いいのかな? じゃ、今日は沢山食べてお喋りして遊んで、目一杯楽しんで素敵な思い出を作ろうっ!」
 鳳明が楽しく宣言し、コトノハも、
「行きましょうか」
 とユマの手を取った。
 その日結局クローラは、ユマに自分の心を語ることができないまま終わった。