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リアクション
3
「私たちはー! ヒラニプラからやってきた救助隊でーす!」
「誰か居ないのかーっ!」
救助チームは、飛空挺、ほうき、バイク……各々の足に跨って疾走し、呼びかけをしながら進んでいた。中には拡声器を持参してきている者もいる。だが、要救助者は未だ見つかっていなかった。
ほうきを走らせる傍ら、一色 仁(いっしき・じん)は携帯電話を手に取った。
アドレス帳を呼び出してコールをかける。
その様子を見ていたミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)は口を尖らせた。
「仁。飛行中の携帯電話は禁止されていましてよ。危ないでしょう」
「守ってるヤツなんて一人もいないだろ、それ。見逃してくれよ」
「見逃せません。早くお切りなさい。怪我でもしたらどういたしますの」
「はいはい、わかったよ」
スピーカーからは既に知った声が流れていたが、仁は「悪ィ、何でもない」とだけ伝えて通話を切った。
「まったく。……で? こんな時に、いったい誰に電話してらしたの?」
「うん?」
「いえ、別にね? ちょっとした好奇心、ただそれだけですのよ? 言いたくなければ……」
もじもじと口ごもるミラの様子に気付くことなく、仁はポケットに携帯を仕舞い込んだ。
「ゲルデラー博士に電話してた。ま、本当は誰でも良かったんだけどな。ついでだし、後ろのチームの様子でも訊いておこうかと思って」
「誰でも良かった? どういう事ですの?」
仁の言葉の意味がわからず、ミラは眉を寄せた。
それに答えたのはリフレシア・アタナディウス(りふれしあ・あたなでぃうす)だった。
「携帯電話が使えるか、確かめたのでしょう?」
「当たり。なんか普通に使えるみたいだ」
「それは……ちょっと、嫌な結果どすな」
リフレシアのパートナー、ドナドール・パラセルシア(どなどーる・ぱらせるしあ)も仁の意図に気付いて表情を曇らせた。
「それはそうかもしれないけれど」
リフレシアは努めて明るく微笑んだ。
「暗く考えても仕方ありませんもの。精一杯、頑張っていきましょう」
「そうだな」
仁は頷いた。
だが、ただ一人だけ合点がいかないミラは、頬を膨らませていた。
「な、何ですの、みんなして! もっと解りやすく説明して下さらない?!」
そこへ、リフレシアがそっと耳打ちする。
「ミラさんの想いみたいに?」
「なっ、なっ……!」
ミラの顔は見る見る間に真っ赤に染まっていった。
「うふふ。あんまり可愛らしかったものだから、つい苛めてしまいました。ごめんなさい」
「〜〜〜っ!」
気恥ずかしさで、抗議が言葉にならない。
「リフレシア。趣味悪い事はお止しよし」
ドナドールがたしなめた。
× × ×
やがて前方に二つの影が見えてきた。人影だ。
先行している戦闘チームの日紫喜あづま(ひしき・あづま)とローランド・シェフィールド(ろーらんど・しぇふぃーるど)だった。
その姿を目視して、救助チームは二手に分かれた。
朝霧 垂(あさぎり・しづり)とライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)、
リフレシアとドナドール、
仁とミラ、
フリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)とサーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)、
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)、
空井 雫(うつろい・しずく)とアルル・アイオン(あるる・あいおん)、
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、
佐藤 一(さとう・はじめ)、
の十五名が、速度を落とす。そしてそのまま、あづまの周囲に止まった。
こちらの班はこの付近の捜索をする事になっているのだ。
分かれたもう一手は、一瞥をくれることなくあづまの横を通り抜けていった。彼らの捜索地点は調査団のベースキャンプである。
ほうきから降り、垂とライゼはゆっくりと周囲を見渡した。
「ここが消失地点……」
先ほどまでと変わらぬ美しい光景だった。ここで何かが起こったなど信じられない。
「ねーねー垂ー。変なトコなんて全然ないじゃーん。ホントにここなの?」
「地図を見る限りは、ね。ここが調査団からの連絡が途絶えたポイントよ」
ライゼの問いに答えたのは、あづまだった。
戦闘チームの進行状況の伝達と救助チームの護衛を兼ねて、彼女はここで待機していたのだ。
「すまない、待たせたか?」
「ううん。思ってたよりずっと早かったわ」
「先発隊が露払いしてくれたお陰で、全く敵と遭遇しなかったからな。助かった」
垂の気遣いに、あづまは微笑んだ。垂にならってライゼも頭を下げる。
「ありがとう、おばちゃんっ!」
「お、おば……っ?」
微笑みが引きつった。
「失礼な事を言うな」
「いだっ!」
間髪入れず、ライゼの頭に垂の拳骨が飛んだ。
「うう……」
「申し訳ない。うちの者が失礼をした」
垂は頭を下げた。
「い、いいのよ。気にしてないから」
「そうですよ、あづまさん。気にすることありません。ボクはあづまさんのそんなアラサーなところも素敵だと思いますよ」
「ねぇ、ローランド。お願いだから、あなたは黙ってて。ね?」
あづまがパートナーへ向けた表情は笑顔だったが、そのこめかみには青筋が浮かんでいた。
「あの……あづま?」
「あら、ごめんなさい。ええと、どこまで話したかしら」
「先発隊のお陰で助かった、と。まぁ、そんな話を」
「ああ、そうだったわね。その事なんだけど、礼には及ばないわ。実は私たちも、何とも出くわさなかったのよ」
「それは……妙だな」
「でしょう?」
「垂、ちょっといいか」
思案する垂のもとへ、仁が歩み出た。
「この街、けっこうキてると思うぜ」
「勘か?」
「勘だ」
「加護持ちの勘は馬鹿にできないからな。注意しよう」
女神の加護。シャンバラ人と、その契約者のみに備わる直感能力である。
「携帯電話はどうだった?」
「普通に使えるみたいだ。山の間だから難しいかと思ってたんだが、意外にな」
「そうか。ううん……」
「そういえば、さっきも仁くん、携帯がどうとか言っていたけど。アレってどういう意味?」
一が尋ねた。
「そう! そうですわ! 先ほどは、はぐらかされましたけれど……」
それにミラが食いつき、
「ボク、勉強得意じゃないからわかんなくてさ」
「……。えーと。わ、私は、わかっていましてよ? いえ本当に」
すぐに離れていった。
「うーん、説明しろって言われると、オレもちょっと難しいんだよな……」
頭を捻る仁に、メイベルが助け船を出した。
「えぇと。携帯電話が使えるのに、どうして調査団からの連絡は途絶えたのでしょうか……というお話ですぅ」
「うん?」
「地球の調査団の人たちが一人も携帯を持ってないなんて、ちょっと考えられないよね?」
メイベルのパートナー、セシリア・ライトが補足した。
「うん」
「ではなぜ連絡を下さらないのでしょう〜?」
「使えるのに使わない? ううん、使えない……?」
「ええ……」
メイベルは口を濁した。代わりにセシリアが答える。
「亡くなってたら使えない、よね……」
調査団は既に全滅している。暗にそう言っていた。
「あくまで可能性の話ですよぉ? あとはぁ……そうですねぇ。調査団の人々が、自分の意志で携帯を使わない場合。もしくは、偶然突然全員の携帯が壊れたり無くしたりしてしまった場合……とかでしょうかぁ」
全滅説に比べて、ひどく可能性は低そうだった。
「でも、結局はどれも可能性の話だよね?」
「心の準備をする材料みたいなものですねぇ」
「なるほど」
「さぁ、そろそろ行きましょう。考えていても始まらないわ」
あづまの言葉に一同は頷いた。
× × ×
消失地点捜索班は、いくつかのグループに分かれて周辺調査を開始した。
「探検たんけーん、調査団は何処かしらっと」
「……」
楽しげに歩いて回る藤原優梨子と、その後をただ無言でついて回る亡霊さんのペアと共に、フリッツ&サーデヴァルペアは捜索していた。
「しかし、とてもこの世の物とは思えぬ美しさだな。素晴らしい」
ほんの少し歩みを遅らせて、フリッツは街並みを見渡した。
「フリッツは結構こういうの好きだよね。記録班の方に志願した方が良かったんじゃないのかい」
「うむ。それも考えたが、『襲ってきた水晶』というモノにも興味があったのでな」
「あ、それ解りますよ。どんな敵なのか、楽しみですよね」
優梨子の顔がパッと輝いた。
「いささか不謹慎だが……。正直に言えば、そうだな。楽しみでもある」
「ですよね、ですよね!」
声を弾ませてフリッツの手を取る。
「ははは。良かったじゃない、フリッツ。趣味の合う可愛い女の子とお近づきになれて」
「そういう物言いはよせ」
「やーだっ、サーデヴァルさんったら!」
優梨子は楽しそうに笑いながら、サーデヴァルの肩をぺしぺしと叩いた。
「あっはっは」
「私、本当に楽しみなのですよ。どんな風に攻めてくるのか、初めての相手ってわからないじゃないですか。もうワクワクしちゃって」
「う、うむ?」
「ああ、だけど。本当に水晶だったら、痛がったりしないのかなぁ。悲鳴もあげないだろうし……。やっぱり、ちゃんと血を流してくれないと達成感ないですよね」
物騒な事を言いながら、優梨子は恍惚の表情を浮かべていた。
「……キミと彼女の趣味は合わない。前言は撤回させてもらうよ」
「そうしてくれると有り難い」
サーデヴァルはフリッツにだけ聞こえるよう、こっそり謝罪した。
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