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リアクション
■■■
「私は、やっぱり千鳥の手助けをしなくちゃだわっ」
金色に光るポニーテールをなびかせて白波 理沙(しらなみ・りさ)が意気込む。
それに対し、パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)は背伸びをして理沙に耳打ちをする。
「理沙さん、理沙さん」
「ん?」
「このゲームの真意をご存知ですか?」
理沙は少し首を傾げて考えて、ぶんぶんと首を振った。
「ペイント弾を持ったからには、終了までに誰か好みの男性を狙わないと一生彼氏が出来ないそうですわ☆」
「え……何それ?」
「これはそういう呪いの勝負なのですわ〜」
「えぇー? 一生は嫌よー!!」
「そ、そんなくだらない運命なんか私が変えるわよっ!」
強気に誤魔化そうとするものの、内心焦りを隠せない理沙。
「早くしないと他の女性に先を越されてしまいますわ」
八重歯をちらつかせて、理沙をうまく挑発する。
「あーーーんっ! そういうことなら早く言ってよね! 早く探さなきゃ!」
完全に騙された理沙は早速、校舎へ足早に向かう。
「普通に対決したら勝ち目がないから、なにかトラップ……しかけなきゃよね」
仕掛けもほどこし、準備が整ったというものの理沙は相手探しに手間取っていた。
「やっぱ男性は一緒にスポーツしてくれそうな人がいいなー……」
理沙は自分の好みの相手がいないか校舎内を散策していた。
「……って、なんで誰も見当たらないのよーっ!!」
学校のどこかでは罠にかかったのだろうか誰かの叫び声やらなんやらで賑わってるというのに、理沙の行く道、人の気配すら感じられない。
「もぉーー!! どこにいるのよぉ! 私の王子様ぁ!」
シビレを切らして、そんな恥ずかしげもないことを言い放つと
「よぉ! 可愛い子ちゃん」
曲がり角で鉢合わせた鈴木 周(すずき・しゅう)に気付かずにぶつかってしまう。
条件反射で周は理沙を抱きしめる。
「可愛い子ちゃん、ゲーット」
「え!? え!? え!?」
急なことに全く意味が分からない様子の理沙は周を突き放す。
「な、なんなのよ?」
「いや、まぁ可愛い女の子がこれまた可愛いことを言ってるからつい、ね」
先ほどの発言を聞かれてしまったことに理沙の顔は火照っていき、すっかりゆでダコ状態。
しかも、それがちょっぴり好みの相手だったものだから余計に恥ずかしくなってしまう。
しかし、ふと周の身につけているゼッケンに気付き「あ!」と指をさす。
急いで、ペイント弾をかまえようとするが
「お姉さん、そりゃフェアじゃないぜ」
周は自分に向けられた銃口を手でおさえる。
「せっかく俺が逃げる側、お姉さんが追う側なら勝負しようぜ。
俺、お姉さんのこと好きになっちゃったからさ、俺が勝ったらデートしてくれよな!」
「ちょっと勝手なこと……!」
「理沙さんっ、いいではないですか♪ ほらっ早くしないと呪いにかかっちゃいますわ」
「う、うん……」
不安そうに頷くと、
「分かったわ、勝負しましょう。私は白波 理沙よ。貴方は?」
「理沙、可愛い名前だな! 俺は鈴木 周! よっしゃあ、じゃあいっちょ逃げるとすっかぁ!」
理沙の頭をポンと叩くと、歯を見せニヤっと笑い周は先に走り始めた。
「よっし、本気で頑張らないとっ!」
……そんな意気込みも空しく、理沙は周にからかわれるかのようにてんで追いつけないでいた。
「はぁ……走りには自信があったのになぁ……」
理沙が落ち込んでいると、その先を九条院 京(くじょういん・みやこ)がツーサイドの髪をピコンピコンはねさせて周を追いかけていった。
「ははははははははは、逃げても無駄なのだわ!」
ペイント銃をブンブン振り回して、狙うは周。
「おいおいおい!! 2 vs 1はいくらなんでもフェアじゃないだろっ!」
とかなんとか言いつつ、女の子2人に追いかけられて悪い気はしないものである。
足はそんなに速くないものの、小柄な体型を駆して機敏な動きで圧倒する京。
ライバル(?)が現れて、いよいよ 理沙はのんびりしていられない!と自分に言い聞かせ全力で周を追いかけた。
「理沙さん、いいですわよ〜☆」
一生懸命な理沙を見て、チェルシーは手を叩いて喜んだ。
「私の技で絶対つかまえてやるんだから」
理沙は事前に用意していたトラップの場所へうまく誘導しようとするも、
目の前では周と京の戦いが繰り広げられており、思わず後ずさってしまう。
「理沙!! これって、俺たちの甘〜い鬼ごっこじゃなかったのか!?」
「はははははは! 逃げ惑えーーー!!」
ペイント弾をぐるんぐるん振り回して、実に楽しそうに京は周を追い回す。そのとき、京の目にある興味深いものがうつった。
「お!?」
【!!DANGER!!】
と書かれた、それはそれはもう怪しい臭いしかしないボタン、その文字を理解したのかしていないのか、
「おもしろいものを見つけたわ!」
ニヤっと笑うと、なんの躊躇いもなく思いきり押してしまった。
すると、同時に
「わあああああああああ!」
周の柄にもない叫びが聞こえ、……止んだ。
状況を把握できていない理沙は周の声に驚き、その場所へ走る。
砂が混じったような煙が辺りに立ちこもり、そこに立ち尽くす京と、大袈裟にポカンと開いた穴。
その穴に周が落ちてしまっているのは言うまでもなく。
「なんだか分からないけど、うさぎ君げーーーーっと! なのだわ♪」
うさぎ君、とは周のことだ。瞳が赤いからという安直な理由で京は周のことを名付けたのである。
穴に落ちて目をくるくる回らせている周を見て、それはもう満足そうに微笑むと
「さ、次行くのだわ〜〜〜! 次の犠牲者は誰かしら♪」
とスキップして去っていく。
その後ろを京のパートナーの文月 唯(ふみづき・ゆい)はすかさず周と理沙の方を向いて一礼する。
「本当にどうもお騒がせしました……」
その言葉には、あからさまに疲労感が見え、理沙も思わずいたたまれない気持ちになってしまう。
「……な、なんだか、嵐のような子だったわね」
「それよりも、理沙さん! お相手が……!」
「あ! いけない、そうだったわ!」
理沙が恐る恐る周の様子を伺うと、そこには落ちた際の痛みで目を閉じている周の姿。
「あ〜あ」
ふふっと笑うと、「しょうがないんだから」と理沙もひょいと穴に降りる。
近くで見る周の顔は、案外かっこいいなとか思ったり思わなかったり。理沙はしばらく見つめると
「本当にごめんなさい」
と深く頭を下げ、隙だらけの周のゼッケンにペイント弾を打つ。鈴木 周くん、アウト。
「やりましたわ〜! 理沙さん♪」
穴を覗きチェルシーが声を上げると、それに続き理沙も笑顔で返す。
「やったぁ〜〜! これで呪いがとけたわ!」
喜びも束の間、目の前で気絶していた周が突然目を覚まし、
「ちょっとごめんな、優しく抱きしめさせてもらっちゃうぜ」
虚ろなまま理沙をギュッと抱きしめる。本日2回目。
「ちょ……! ちょっとッ!」
「俺、負けたからデートはあきらめる。でも、これくらい許してくれよ」
周の言葉に、胸がなんだかくすぐったくなって思わず力が抜けてしまう。
「あら、なんだかいい感じですわ♪」
そんな2人を見て、満足そうなチェルシーだった。
■■■
あのときのバドミントン。
あのときのサイクリング、ピクニック……お弁当。
リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)の心に走馬灯のように理沙との思い出が過ぎっていた。
渡り廊下を逃走中、密かに思いを寄せていた白波理沙が他の男子生徒が抱き合っているのを目にしてしまったのだ。
その抱擁もちょっとした事故のようなものであったが、不運にもリュースにはそれを気付ける余地もない。
普段は冷静で穏やかなリュースも今回ばかりは傷心で、走る足もだんだん減速していった。
しかし、彼の発火剤は次の不気味な笑い声で点火した。
「ふふふ……あははははは!!」
その笑い声にすばやく反応したのは親友、椎名 真(しいな・まこと)。
「リュースさん! し、し、し、島村さんだ!! 島村さんがきたんだ……!!!」
出来上がった体格から思えないような、恐怖に震え、引きつった声を出す真。
リュースも同様に、恐怖を隠しきれないようだ。
「……ま、真くん、逃げよう。島村さんに捕まったら、どんな改造をされるか分かりません!」
壁の向こうから近づいてくる笑い声、その声の持ち主と思われる、島村 幸なる人物。
彼女不気味な笑い声が廊下を曲がってくる前に、二人の男は明後日の方向へ逃げ出した。
「ふふふ……あーっはっはっは!!」
不適な笑い声とともに現れたのは島村 幸なる人物……ではなく、
ツーサイドアップの黒髪を笑い声と一緒に揺らして、口元の八重歯がやけに憎らしい少女。
「おびえろ、すくめ、私の前に!! なぜなら私があのッ! あの九条院 京なの……って、最後まで聞くのだわ!!」
リュースと真の後ろ姿が小さくなっていくのに気づき、地団太を踏んでから忙しく走り出す京。
彼女のパートナーの唯もあきれたように、疲れたように「はぁ」と、ため息を漏らしながらその後ろをついていく。
島村 幸。その存在はリュースと真にとっては生きるか死ぬかの戦いだった。
幸を男だと一言でも口走ると、かなりの屈辱的な報復が襲い掛かるのだ。
そして残念なことにリュースと真はその報復のターゲットになっていて、そして今回は島村 幸が追う側で、リュースと真は逃げる側。
揃った条件が、あらぬ錯覚、幻聴を二人にプレゼントしていた。
しかし幸いに、島村 幸(の幻覚)から逃げることで手一杯のリュースの傷心は生き死にと天秤に賭けられて、それが逆に気持ちを楽にしてくれていたのも本当だった。
「リュースさん、リュースさん!」
「え、あ? あぁ」
真に両肩を揺さぶられて我に帰るリュース。
しかし、目の前の親友の表情に余裕はなく「あぁ、これは夢じゃないんだなぁ」とか呟きたくなってしまう。
二人の前に立ちはだかるのは行き止まりと言う名の現実。
不自然に『残念無念急降下』と書かれた壁は頑丈な校舎の作りとは違い、仮設で作られたみたいでなんだか安っぽい。
きっと「行き止まり」というトラップの一種なのだろう。まさかここまでシンプルなトラップがあるとは誰も思うまい。
そして何よりつらい現実は、後ろから響く不気味な(二人にはそう聞こえる)笑い声。
彼らの本当の恐怖はこれからだった。
「はははははー!! どうやら京の恐ろしさに恐怖して逃げ帰ったな!」
リュースと真を見失った京だったが、差ほど気にもしないで笑う神経に、唯はある種の敬意すら感じられた。
でも少し冷静になってみると、
「恐ろしさに恐怖って、頭痛で頭が痛い人みたいになっちゃってるよ」
って、つっこめた。
京はそんなつっこみなんてまるで興味を示さず、急に見つけてしまった赤い大きなボタン。
彼女の好奇心センサーをキュンキュン唸る。
廊下に反響していた笑い声が一瞬ぴたりと止んだ。
「来る、か」
真が覚悟を決めたように呟き、構える。
「リュースさん、ここは俺が時間を稼ぎます。……その間に」
その言葉に胸を撃たれるリュース。
本当はすごく嬉しかった。そしてすっごく逃げたかった。
「……いや、それはできないよ。玉砕覚悟でも、二人で立ち向かうんだ」
しかし、その感情は友情と理性が押さえ込み、真同様、覚悟を決め、構える。
殺気が曲がり角から現れたその瞬間、二人は同時に床を蹴る。
床を、蹴る。
床が、
「ない!」
二人は同時に叫び、『残念無念急降下』の壁を目で追いながら、急降下していった。
核心を突いたつっこみを無視された唯は少し腹を立てながら、ふと気になった曲がり角をのぞいて見た。
そこには『残念無念急降下』と書かれた壁。そしてぽっかりと抜けた床。
唯はそれを落とし穴と認識し、京もまともではないが校長に比べたらかわいいものかも。そう考えるとイラ立ちはすっとなくなった。
京に視線を戻すと、彼女は不機嫌そうにボタンをペチペチ押している。
「あ、また変なボタン押してー」
「だって、これ押しても何も起こらないのだ。……つまらないのだー」
ふて腐れながら押すその赤いボタンに『残念無念急降下』と、書かれていることを彼女は知らない。気にしない。
ドカドカ。
何かが落っこちてきたような物音で目覚めたのは浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)。
「いけない。私は、寝てしまったのか」
鬼ごっこが始まってどれくらいたったのだろう?
考えながら辺りを見回してもそこには寝ぼけ眼の幼い顔ばかり。
その薄暗い部屋の光景で今、自分がどこにいるかを思い出す。
あぁ、そうか。鏡部屋に逃げ込んだのだ。
鬼ごっこで隠れるのは邪道。しかし自分は体力に自信がない。
そんな翡翠が出した合理的な答え。それは相手の動きが確認でき、背後を狙われ難くできる場所。つまり、鏡部屋だった。
しかし、彼の中でかなりの誤算が発生していた。
それは、驚くほど風紀側の追手が現れないこと。
「……暇ですね」
うっかりうたた寝するくらい暇だった。略してUUHだ。
ここまで退屈だと、別に隠れているつもりがなくても隠れているような気分になってしまう翡翠。
「むむむ。移動しましょうか」
早々と腰を上げ、鏡部屋の出口に向かって歩き出す。
すると、急に何かが足にまとわりついて、唐突にバランスを崩す翡翠。
彼の足を取ったのは一線の透明なワイヤートラップだった。
「おっと、危ない」
落ち着いた一言とともに翡翠の首根っこを掴む少女の声。
「大丈夫?」
彼のピンチを救ったのは、いつの間にか現れた少女、佐久良 縁の姿だった。
「……助かりました」
翡翠は軽く礼を言い、警戒、期待。そして詮索。
彼女の胸にはシンプルなゼッケン。それを確認した翡翠の表情には適度な安堵と、喪失感が滲み出る。
「はぁ」
……風紀側ではない。
嬉しくないような、良かったような。
「おーい、少年。人様が心配してあげてるのに顔見るなりため息はないじゃない?」
「……すみません。思いの他、鬼ごっこに参加できないもので」
意味のわからない弁解と、翡翠の落ち込み具合から気を使う縁。
「そりゃ、そうだねぇ。こんな薄暗い部屋に隠れてたら追っかけるほうも気づかないよなぁ」
しかし、縁の何気ない一言「隠れてたら」が少年のハートに突き刺さった。
「えぇ、そこが盲点であり失敗でした」
縁にはっきり諭されて予想以上に凹んだ翡翠は、肩を落としトボトボとその場をさって行く。
「先生、私、なにか悪いこと言いましたかね?」
縁は後ろに立っていたパートナー、孫 陽に問うと「いろいろあるのですよ」と濁される。
さり行く少年の方向を眺めながら縁は思い出した声を掛ける。
「あ、おーい、少年。そっちはトラップがいっぱいあるって伯楽先生が言ってたぞー」
後ろに立っている孫に「ね、先生」と問うと、
「さっき単眼鏡で覗きましたからね」
自信満々に答えてくれる。
「また間抜けなワナにはまるなよー」
謎の見送りモードの中、翡翠は振り返って軽く会釈する。……が、顔を上げてから驚いた様な顔つきで縁を見続けた。
「間抜けなワナ。……もしかして、それは私の子供たちのことを言っているんですかね?」
翡翠の視線の先にいた人物、それは縁でも孫でもなく、島村 幸(しまむら・さち)、その人物に間違いなかった。
「さ、幸姐ぇ!?」
縁は叫ぶようにその名を呼んで、同時に自分の失態を把握した。
それと同時に孫の手を思い切り掴んで走り出す。逃げ出した。
風のように飛び出した縁と孫は翡翠をあっという間に追い抜き、入り組んだ鏡部屋を疾走する。
しかし、幸の存在に気を取られすぎて、自らトラップに飛び込んでいることを忘れていた
「縁、その先はッ!」
孫の呼び声も虚しく、縁は派手にワイヤートラップに引っかかり、転倒する。
そして倒れこんだ二人が立ち上がることはなかった。
「うん、スタンワイヤーの威力は絶大ですね」
引っかかったワナは翡翠がかかったワイヤーとは別物で、幸がさらなる魔改良を加えた電流ワイヤーだったのだ。
「本当は超加熱して足の一本や二本簡単に切れるヒートワイヤーにしたかったのですが、校長睨まれたからやめてあげたんです。
……あぁ、なんて慈悲深くて優しい私」
その慈悲深い研究結果を前にあっけにとられる翡翠だが、校長の名前を聞く限りこの人は風紀側なのだな、ということを理解する。
少しばかりテンションのあがった翡翠は、まったく悪気なく、絶対に口にしてはいけない一言を零してしまう。
「風紀の人ですね? 貴方様のような男につかまるのなら本望かもしれません。いざ、勝負です!」
時が止まる。
「逃げます!」
その重々しい空気に気づかないまま、走り出そうとする翡翠。
しかし、彼の行く手を阻んだのはガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)の姿。
ガートナは翡翠の両肩をがっちり掴み、君はもう助からない。と言った悲しい表情で首を左右に振る。
後ろからゆっくり近づいてきたのは、不気味な笑い声と光る眼鏡の幸。
「ふふふふ。あなた、中々綺麗なお顔をしてますね。……コーディネートのし甲斐がありそうですよ」
バチンッ。とライトアップされたのは大量に飾られる女性物の衣服。
「……え? え?」
あまりにも早く済んだ鬼ごっこに、何が起こったかわからない翡翠。しかし、もうこの後、このイベントで翡翠少年、『少年』の姿を見た者は誰もいない。
「ケンリュウガー、参上ッ! 逃がさんぞっ!」
ノリノリでペイント銃を構えながら校舎を駆ける変身ヒーロー、武神 牙竜。
「なによっ! 結局変身しちゃって、体力勝負なんじゃない!」
牙竜のやや後方を走るのはパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)。
元気が失われることのないヒーローのあとを必死に追いかける。
「仕方ねぇだろ! 放送室から締め出されちまって他にすることねぇーんだから!!」
そんな騒がしい二人の前方を走って逃げるのはこの二人、一般性と側についた陣とリーズ。
「ぜっはっぜっ……! な、何でオレがあんなのから逃げ回らなあかんの!? あんのドS校長、大概にせぇよ、ホンマに!!」
「あはははは♪ 楽しいね陣くん! ほーら、ボク達はここだよー♪」
「……なんでお前そんなに元気なの?」
リーズのマイペースさにあきれながら、追跡者に目をやる陣。
ペイント銃を構えて走るそのヒーローの姿は、懐かしの日曜朝八時的な少年時代を思い出させてくれる。
そんなセピアな思い出を回想しながらふと冷静になると急に体力に限界を思い出し、陣は逃げるのをやめてリーズの首根っこを掴んで見知らぬ部屋へ飛び込んだ。
「ちょっと牙竜! 逃げられちゃったわよ!」
「問題ねぇ、まだ近くにいるはずだ! このケンリュウガーバスターフォームから簡単に逃げられると思うなよ!!」
ペイント銃を構えなおし、集中する牙竜。
今度ケンリュウガーBF(バスターフォーム)の衣装も作ろう。とか、頭の片隅で考えながら、ヒーローの直感を頼りにトリガーを引く。
「そこだッ!」
放たれた弾丸は見事に生徒のゼッケンを捕らえた。
「ぐわっ、なんで、急に、オレ!?」
ペイント弾の直撃を腹に受けたのは偶然通りかかった瀬島 壮太の姿だった。
無念に崩れ落ち、ペイント弾の真っ赤なインクを指で拭う。
『い きな り へん しん ひーろー』
震える指で床に書き終えると、壮太はそのまま力尽きた。
「何この部屋、鏡だらけ……ってうわ!」
陣とリーズが飛び込んだ部屋は鏡部屋。
そして陣の目の前には額に肉と書かれた二人の男女が倒れていた。縁と孫だった。
その向うに、一人の男性生徒が視界に入る。
「そこの兄ちゃん座り込んで何してんの、危な……」
その姿は楽しそうに罠を弄くる島村 幸の不気味な笑顔と眼鏡。
「陣ですか。この子達との憩いの時間を邪魔した罪は重っ、……あなた今なんていいましたっ!!」
「あ、あばばばばっ、ばささささ幸さんんん!?」
尻餅をついてガタガタ震える陣に、幸は問答無用で飛び掛った。
「リーズ殿、走り回っておなかがすきませんかな? ほら、飴玉ですぞ」
リーズが反応する前にすばやく動くガートナ。色とりどりの飴玉をチラつかせ、幼い少女を幸に近づけない。
彼にできるせめてもの慈悲の心だった。
「え? お菓子くれるの!? ありがとーガートナさん♪」
レロレロ。
「ちょ、リーズなに釣られてクマーしてんの!? こっち助けろやコラー!」
「う〜ん、おいひー。ひあわへらなぁ♪ ……ひんふーん、ふぉれおいひーよ☆ ひっひょひらめる?」
完全に釣られて何言ってるかわからないリーズを視界に入れて「……泣かす。後でもみ上げ引きちぎる勢いで泣かすっ!」と宣言したかったが、幸に馬乗りにされた陣も言葉に出す余裕なんて丸でなかった。
「いやああああ! 額に肉はまだしも、女装はやーめーてえええええええ!!!」
ライトアップされる鏡部屋で抱き合う二人の男女、幸とガートナ。
「今日もあなたのおかげで愚かな男たちに報復できましたよ」
「私の力が君に役立てるなら、嬉しい限りです」
そんな甘い二人を取り巻く鏡部屋には、四人の女の子が飾られている。
メイド服姿の浅葱 翡翠。女子高生姿の七枷 陣。
そして、校長が協力的に各校舎に配置してくれた鏡部屋(むしろ直に島村 幸)に繋がる『残念無念落とし穴』に見事引っかかった椎名 真とリュース・ティアーレもドレス姿で着飾っている。
陣の額にはペイント弾がべっとりとこびり付いているが、他三人の額にはしっかり肉と書かれていた。
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