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展覧会の絵 『彼女と猫の四季』(第1回/全2回)

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展覧会の絵 『彼女と猫の四季』(第1回/全2回)

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第七章 日暮れ前の決着

 再びマーチン家。
 コントロール役としての術者を失ったウッドゴーレムは、凶暴さを増して暴れ始めていた。
「だぁぁぁぁぁぁっ!」
 咆哮一響。
 ほとんど「降ってきた」と表現する他ないウッドゴーレムの巨大なげんこつに向かって、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は担ぎ上げたグレートソードを叩きつけた。
 ゴインッっという耳に痛い程の衝撃音とともに、無骨で肉厚な刃がげんこつに激突、その軌道を逸らした。
「ほらほら、早く逃げて逃げてっ」
 腰が抜けていた様子の見物人を立たせ、マーチン家の外へと促しているのはベアのパートナー、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)
 どうも普段の様子とは違うらしい。さっきまでのんびりと見物を決め込んでいた野次馬も、今や一目散に逃げ出しつつあった。
「おい、マナ、お前そっちいいからさっさと攻撃っ!」
「だって、まだ逃げてない人いるし……ベアこそこっちっ! ディフェンスシフト急いでっ!」
 再び見物人の救助に向かうマナ。
 ベアはクシャクシャと頭をかいた。
「バッカ、だから俺がやるって言ってるんだよっ! この鉄壁、ベア様が守るって言ってんだっ! 一人のけが人も出しはしないぜっ!」
 再び、マナの前に割り込んでゴーレムの拳をたたき落としたベアが叫ぶ。
「だって……」
 少しだけ俯くマナ。
「ありがとう綺麗なお姉ちゃんっ!」
 マナに助けられた子供が、頭を下げて去っていく。
「だって……褒められたし……」
「なにニヤけてんだよ」
「に、ニヤけてなんかないよっ! どっちみち、鎌じゃここんなおっきなの倒せないよ!」

「準備はいいか? では、打ち合わせ通り、行くぞっ!」
 イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)の号令一下、【猫目石の守人】メンバーが行動を開始した。
「はーいーでありますー!」
 風にそよぐ代わりに、その身を銃声にそよがせたチューリップ姿はトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)。とててっと進み出てはゴーレムの足下をシャープシューターで掃射する。
「好調、好調でありますっ! みなさん、足止めは任せるでありますよぉ〜」
「その調子です。なるほど、イリーナさんには優秀なパートナーがついているようですね」
 ゴーレムの攻撃を警戒、トゥルペの側についたのは鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)
「褒められると照れるであります〜」
 葉っぱの手で、トゥルペは後ろ頭をかいた。
「兄者、出来ればこちらも褒めてくれ。と言うか、早くこれ、投げてしまいたいのだが」
 水の入った巨大な袋を担ぐのは姜 維(きょう・い)
 平然としてはいるが、時折食いしばった奥歯が覗く。
「お、おお、すまないすまない。では……せーのっ!」
 維は背中から水袋を下ろし、真一郎と共に背負い、息を合わせて放り投げた。
 二人の筋力で放物線を描いた水袋。
 ふわりと舞ってゴーレムの胸のあたりに直撃。バシャリと盛大に水をまき散らした。

「お、始まったな。じゃ、続くぞ」
「おっけー」
 真一郎達が投げた水袋を見てエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とパートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)も行動を開始した。
 こちらは水の入った小さな袋を、二人して次から次へ、ゴーレムめがけて放り投げる。
 パシャンパシャンパシャン。
 連続する小さな破裂音と共に水がゴーレムの体表を流れ、地面には水たまりを作った。
 ゴーレムはうるさそうに腕を振るう。
「ゴーレムに恨みはないから……オイラ、ちょっと良心が痛むなぁ」
 ゴーレムの様子を眺めていたクマラがポツリとひと言。
「まあな。絵を借りに来てこの騒ぎってのは、無粋な気もするよな。って言ったところで、さっきの騒ぎでマーチンさんってのは気絶してるみたいだからな……どのみち俺たちが止めなけりゃしょうがないってとこだぜ――っと、よし、これで最後だっ」
 勢い良く、エースがオーバスローで放った水袋は午後の澄み切った秋空にぐんぐんと上昇し、ゴーレムの肩のあたりで着地、ゴーレムを濡らした。
「まかせたぜ」
「まかされたよっ!」
 その声と共に、クマラが火術を放つ。
 吹き上がった炎は、水たまりに接触するやジュッと音を立てて消え、代わりに大量の水蒸気を吹き上げる。
 すぐに温度を下げ始める水蒸気が作る白いもやの中で、ゴーレムがばたばたと手足を打ち振るうのが見えた。
「これでうまく水を含んでくれれば、準備完了……。後はよろしくな、みんな」

「ぬぅ……やはり暴れますかっ! トゥルペさんっ引き続き掃射を! 弾を切らさないように頼みますっ!」
 言い放ち、真一郎はもやの中に特攻。
 立ち上る水分から逃げようと踏み出したゴーレムの右足にランスで一撃。
 動きが止まるやさらに二回三回とランスを振るい、何とかその巨大な足を押し戻した。
「お静かに頼みますよ――ここが勝負所でしてね」

「む、いかん。エレーナ、一緒に来てくれ。鷹村殿に加勢する。フェリックス、ヒール役、一人になってしまうが頼んだぞ」
 真一郎の不利を見て取ったイリーナがパートナー達に告げる。
「了解ですわ。ふぅ、何やら荒っぽくなってきましたわね」
 けが人に備えてヒールの準備をしていたエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)は、大きく息をついた。
「メイドのお仕事はお掃除ですから、枯れ木のお掃除をしませんと――そういうことですわね」
 言うなり一瞬で光条兵器の剣を展開させると、真一郎のところへ駆け出した。
「はいはーい。こっちは大丈夫だよー。あ、イリーナ」
 自身もすぐに駆け出そうとしていたイリーナだったが、その腕をフェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)が引き留める。
「なんだ?」
「左手。怪我してる」
 どこかに引っかけたのかゴーレムの木片にでもかすったのか。服の生地がかぎ裂きに破け、血が滲んでいた。
「これくらいどうということはない」
「女の子が肌に傷を残していいわけはないよぉ、ほら見せて」
「いいと言っている。そんなことより加勢が先だ」
「鷹村さんとエレーナだよ? もっと信じていいって。大人しく治療されときなってば。それとも――」
 フェリックスは不適に笑った。
「僕に無理やり抱き寄せられて治療されるのとどっちがいい?」
 渋々と、イリーナは左腕を差し出した。

「真人っ! ちょっと、まだっ!?」
 ギリギリまで引きつけたゴーレムの右腕を真横に飛んで回避。パートナーの囮役となって飛び回っていたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がさすがに悲鳴を上げた。
「もう少しだけ、頑張ってください」
 ウッドゴーレムの体表面に目をこらしながら、御凪 真人(みなぎ・まこと)が静かに返した。
 さっきまでゴーレムの足下に広がっていた水たまりは、クマラの火術ですっかり蒸発しきり、その分ゴーレムがわずかに膨らんでいるように見えた。
「もうっ! ホントにダメなときは私逃げるからねっ!」
「ぜひ。君は優しいんで、最後の最後で俺を置いて逃げられない――なんてことがないようにしてください」
「バ、バカ言わないでよねっ!」
 顔を赤らめるセルファ。
 このやり取りで、どういう訳かセルファは体に活力が戻るのを感じた。
 そのすぐ後、
「いいですよ、セルファ! 避けてください!」
 真人の鋭い声。
 射線上からセルファが消えたのと同時に、全力で放った真人の氷術がゴーレムを襲った。
「ちゃんと効くの?」
 真人の横に戻ってきたセルファは不安そうな声。
 ゴーレムの左足に直撃した真人の氷術は、一瞬ゴーレムをよろめかしたが、それがさして痛手になったようには見えなかった。
「木の中の水分が凍って膨張すれば幹がすら裂ける……寒い地方ではよく起こる現象だそうですから、おそらくは……」

 パキ。

 その真人の耳に小さな、しかし待望の音が届いた。

 ビシッ!
 バキィ!

 続いて誰の耳を震わせた激しい音とともに、ゴーレムの左足に亀裂が生じる。
 裂け目は木目に沿って広がっていく。
 異変に気がついたのか、ゴーレムが騒々しく左足を振り回したせいもあって、あたりには、大量の木片がばらまかれることとなった。

「やるじゃない真人っ!」
 セルファがはしゃいだ声をあげる。
「みんなが大量に水をかけてくれましたからね。さて、次に行きましょう、右足です」

「イリーナ、真人さんの作戦、成功ですわっ!」
 ゴーレムの足止めに剣を振るっていたエレーナが、歓声を上げた。
「ふむ。絵のためとはいえ、ちょっとかわいそうな気もするが……ごめんな」
 木片をまき散らすゴーレムを眺めて、イリーナは少し顔をしかめる。
「だが、これで足止めは大分楽になるというものだ。ルカルカ殿っ、出番ですっ!」

「オッケー! まーかせてっ!」
 くるぶしまである作業靴で足下を固めたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、両手で持った太いワイヤーに力を込める。
 ビシリ、と鋭い音が響いた。
「では先に行くぞ、ルカルカ」
 夏侯 淵(かこう・えん)の静かな声。
「うんっ。ここが正念場だよっ! よろしくねっ!」
 つむじ風のごとく、淵の姿はすでに消えていた。

 一方、真一郎の横では維が、淵の動きを追っていた。
「む、兄者、淵殿が動かれたようだ。自分も行きます」
 真一郎が頷いた。
「行きなさい。それと……もし淵さんの側にルカルカさんがいたら、よろしく伝えてください」
「兄者、それはご自分でお伝えいただくべきかと」

「淵殿」
「おう」
「来ました」
 ゴーレムに接近して横並びに構えを取った淵と維。
「来たのはいいが……いきなり俺を小脇に抱えるのはやめてもらおう」
 そのぶすっとした声で、維は淵を地面に下ろした。
「すみません、つい救助してしまいました……大丈夫なのですか?」
「大丈夫も何も、抱えられてたらルカルカの囮がつとまらんだろうが」
「いえ……その、なんだかサイズがあまりにも……心許ないというか」
 維は、自分より大分下にある頭に向かって遠慮がちに声をかけた。
「小さくてわるかったな。お前とて、昔とは性別がまるで逆ではないか」
 淵は、自分の目の高さで豊かに盛り上がっている維の胸に向かって言った。
「奇縁というものですね」
「ああまさか、かつて敵国の武将だったお前と肩を並べるとはな。まあそれはいい。ともかくこっちの心配など不要だ、囮役などいくらでも果たしてみせる。目の前だけに集中しているがいい」
「とにかくゴーレムの注意を引けばいいのですね」
「そうだ。後はルカルカが決めるはずだ」
「ふむ。では、勝ち戦といきましょうっ!」
 英霊同士の時を越えたやり取りを果たし、
 淵と維は揃って雄叫びを上げた。

「ルカルカっ! 行くぞっ!」
「うんっ!」
 囮役となった淵と維の挑発により、ゴーレムが二人を追って動き出したのを確認。
 ルカルカとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はワイヤーロープを握って走り出した。
 二人揃ってドラゴンアーツを発動。
 ほとんど叩きつける勢いでゴーレムのスネに、ロープを接触させた。
 ゴーレムの推進力に引っ張られ、一瞬で張り詰めたロープはもう次の瞬間強烈な負荷に化ける。
「ぬあああああああああ」
 ドラゴニュートのカルキノスの口から呻き声がもれ、攻防を続けるロープとゴーレムの足が木片を散らす。
 ルカルカに至ってはもう血が上りきって真っ赤な顔になっている。
 ゴーレムの力は止まず、手にはますますワイヤーロープが食い込んで行く。
「離して……」
 そのルカルカが食いしばった歯の間から声を漏らした。

 バキ……。

「……たまるかぁー!」

 バキバキバキバキっ!

 気合一閃。
 体の底から力ごと振り絞るようなルカルカの雄叫び。
 押し込まれたロープはゴーレムの両足を粉砕。
 支えを失ったその巨体が、前のめりに地面に激突した。
 地震と紛うような轟音と振動が襲い、土埃が舞い上がる。
 フラッと、力を出し切って倒れそうになるルカルカを、カルキノスが支えた。

「後は、内部から破壊して終わりというところですかな」
「いや、それが……」
 止めの準備をしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、真一郎に声をかけられて顔を曇らせた。
「おや? どうかしまし……」

 ブオンっ!

 風圧を伴った巨大な質量が空間を薙いでいく。
 ダリルと真一郎はとっさのところでそれを交わしてのけた。
「なっ……」
「どうやらまだ終わらないらしい」
 ゴーレムは今や回転する独楽のように腕を振り回している。その度に、規模の大きくなった木片が飛んでくるので、危ないことと言ったらない。
「悔しいが、俺に出来るのは強度を下げるくらいだな」
 振り抜けた腕の隙を突いて、ダリルはアシッドミストを放った。
「後は向こうが適任か?」

「はいは〜い、みなさん、ランスが通るわよ〜。危ないわよ〜」
 のんびりした口調で何やら物騒なことを言っているのはクローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)。「あ、そこ、巻き込まれるかも」「ひかれたらことよ?」と言いながら生徒達の人垣の間に一本の「道」を作っていく。
「ヒーローも通るぞ〜。ある意味……危ないぞ〜、うむ」
 パタパタとクローディアの後に続いていくのはマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)
 こちらはまるで紙吹雪でも撒くかのように、ゴーレムにアシッドミストを連発している。
「エリオット、こんなものでどうかしら?」
 振り返って尋ねるクローディア。
「……もう少し広げてくれ。二、三人引っかけかねない」
 腕だけで暴れ回るゴーレムに、厳しい視線を送りながら、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が指示する。「了解」と答えた、クローディアは、「そこ、踏まれるかもしれないわ」とさらに道幅を広げにかかる。
「マナさん、もっと、もっとブシューっと! 景気よく撒いちゃってください!」
 こちらはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
 言われたマナは、
「ぬ? 人をスプリンクラーか何かだと思っておらんか、クロセル」
 とちょっと顔をしかめながらも、ゴーレムに向かってアシッドミストを放つマナ。
「いくら巨大とはいえ……これだけやればそろそろ強度もガタガタであろう。頼んだぞ、クロセル」

「クローディア、そのくらいで大丈夫だ。さてお三方――ご準備願おうか」
 ゴーレムまでまっすぐに、そして今や広々と確保された道を確認して、エリオットが振り返る。
「ぬあっはっはっは! 我輩ならいつでも行けるぞ! さっさとあのデカブツを粉塵に帰そうではないかっ!」
 豪快な笑い声をあげたのはエリオットのパートナーアロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)。ビシリと張った背筋そのもののように、体にランスをまっすぐくくりつけ、自転車にまたがっている。
「わっはっはっは! やはりこのヒーローの存在が不可欠と見えますね! なに、大丈夫ですよっ! この大騒ぎ、華麗に幕を引いてあげましょうっ!」
 快笑を上げたのはクロセル。笑い声とともにドラゴンアーツを発動。体の正面でシールドを構える。
「あ、あっはっは……えっと、これ、笑った方が、いいんですよね? イルミンスールの戦闘訓練は、何やら変わっているのですね……。後でメモしなくてはっ! あっはっは……」
 興味深そうに、若干何やら取り違えている様子なのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)。しかし、重装備に身を固め、ランスを抱えた姿は実に堂に入っている。
「上等」
 三人の様子を確認、エリオットが口を開く。
「では今一度だけ確認を。ゴーレムはあの通りもはや絶えず腕を振り回しているだけだ。半回転しては戻る、半回転しては戻る、を繰り返しているから当然隙は出来る――」
「そこに突撃、粉砕というわけなのですね」
 セリナの声にエリオットは頷いた。
「私は箒で併走、直前で皆の武器に氷術をかける。もう相当ボロボロだとは思うが、あの腕をまともに食らえばただではすまないだろう。タイミングだけは、慎重に」
「合図は、よろしく」
 ポンポンと肩を叩いたクロセルに、エリオットは首を縦に振った。
「僭越ながら。では――」
 エリオットの視線がゴーレムに注がれ、アロンソ、クロセル、セリナは突撃の態勢をとった。

 ……。

 ……。

 行っては過ぎるゴーレムの腕。
 エリオットの険しい視線は、その瞬間を正確に見極めようとしている。

 ……。

 ……。

 そしてついに――

「ファイエル(撃て)!!」

 合図が、響いた。

 他二人よりわずかに飛び出たのはクロセル。
 短くはない距離を一気に駆け抜けると、勢いをそのままにシールドを突き出す。
 エリオットの魔法により氷術に覆われた盾は見事、ゴーレムの攻撃の切れ目に向かって差し込まれた。

「よっしっ!」
 クロセルは心の中で拳を握る。
 さらに打撃を届かせようと、手にした盾に力をこめる。
 しかし、ゴーレムの腕の戻りが案外に早い。
 身の危険を感じたクロセルは盾の方向を切り替えた。
 直後に衝撃。
「ぬああああああっ!」
 悲鳴を上げそうになる体から、クロセルは力を振り絞った。

 ゴーレムの腕を真っ正面から受け止めるクロセルを確認、セリナは思わず真横を確認する。未だぬかるんでいた地面にグリップをとられたのか、前傾姿勢で必死に自転車をこぐアロンソの姿があった。
 目だけで合図。
 目だけは合った。
 通じただろうか。
 それでもグッと決意を込めてランスを握り直したセリナ。
 そのまま、クロセルが作ってくれた、本当に小さなしかしこの上なく貴重な隙間に向かって、疾走の勢いを全て乗せた一撃を叩き込んだ。


「新たなる知識を求めてパラミタに来たはずだったのだが……これではすっかり『戦闘屋』。どうにも荒っぽい結末だな……」
 二本のランスが、ゴーレムを文字通り木端微塵に砕いたのを見届けて、エリオットは大きく息をついた。
 それでも、突撃の成功に手をたたき合って喝采を上げる三人や、ばたばたと駆け寄るクローディア、パタパタと駆け寄るマナ達の様子を見ていると、悪い気はしなかった。


 目を覚ましたマーチン氏は、涙を流しながら絵を手渡してくれた。
 果たしてその涙は、庭園の惨状を目の当たりにした瞬間から溢れ出したように見えなくもなかったが、いやきっとそれはゴーレムを倒すだけの力量を持った挑戦者に感動したためだろう――参加した生徒達はそう思うことにして、イルミンスールへの帰路についた。
 小さな家と、小さな庭。豊かな緑と陽光に包まれる季節を描いたのであろう『彼女と猫の四季』「夏」。そこにはやはり「彼女」と「猫」の姿は見つからなかった。