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リアクション
◆ 特殊講堂 5 ◆
「怪談話如きに踊らされちゃって……みっともないのね」
亜璃珠は座敷部屋の様子を、隙間からこっそりと覗き見ていた。
ま、見てる分には面白いし、これもいいのかしら? 人によっては怖がってる時の方がかわいい時ってあるものね。
「うん……なんというか、そそるわ…」
亜璃珠は唇を舐めた。
オペラグラスでのベストポジションを探している間に、絶対に騒ぎを起こすであろう4人の姿を見失ってしまった。
こうなったら自分で直接、手を下さなければならない。
「一際怯えている「可愛い」子がいればいいな……まぁ、ゆる族は論外だけど。隠れ身を使って、こっそり近づいてイタズラしてみるのもいいかも……さ〜てと!」
「ちょっと」
「!!!」
「何を……やってるんですか?」
小夜子が、伺うような目をしながら、声をかけてきた。
「こんな暗い場所で、見たところお一人のようですし……まさか……まさかノゾキですか!? それともこれから何かイタズラを!?」
手に持っている懐中電灯を取り調べのように顔に向けてくる。
亜璃珠はそれをうるさそうに払った。
「……私がイタズラやノゾキをするような人間に見えますか!?」
「え」
「小さい……小さいですわっ! 私はノゾキごときで満足する女じゃありません! 見損なわないで下さい」
「あ、え…そ、そうですか。これは、どうも…」
催眠術にでもかけられたかのように、小夜子は納得させられてしまった。
「えっと、幽霊相手じゃどうしようもないですが、変な音や動きがあった気がしたので見にきてしまいましたの。もし悪戯なんかしてる人を見つけたらビンタしようと思っていました。流石に武器は使いませんが」
「び、ビンタ……」
「もしかして、どこかに移動しようと思われてました? 電気はついてますが、いつ切れるか分かりません。私、懐中電灯を持ってるのでご一緒しますわ」
「あ、ありがとうございます……」
今度は亜璃珠が術でもかけられたかのように、断ることも出来ず、素直に厚意を受ける羽目になっていた。
ベアが真面目な顔をして写真を撮っている。
座敷部屋には黄色い声ではしゃぐ可愛らしいお嬢様達。
一応許可を取って撮らせてもらうことになった。
(人目少ない場所で百合生徒さんにアタックすると思ったけど…真面目に仕事してる…よぅし、私もがんばるぞっ!)
マナは大きく頷くと、どこかから持ってきたレフ板を持ち上げて生徒達の美白を際立たせる。
「マナ! もうちょい左に行ってくれるか? あっ、もうちょい……」
「こ、こんな感じ?」
かなり重い。
ふらふらになりながら、それでも力の限り役に立てるようにと、マナは頑張った。
「……何も起こるらねぇな…」
「うえぇ〜? 何か言いました〜?」
「いや、なんにも」
にこやかな顔をマナに向けるベア。
バレてたまるか、自分の目的を!
(誰か脅かしに来いよ……)
ファインダーごしに、周りの様子を伺う。
隣でビデオカメラを触っていた夜麻は、退屈そうに欠伸をしていた。
「──ヤマダ〜、撮影替わってくれない?」
夜麻が疲れた声を出した。
「ああ、いいぜ。辺りを撮影するんだな」
「うん! がんばってねヤマダ。幽霊出たら教えてねん」
そういい捨てると、夜麻はトランプをしているグループの中へと喜び勇んで消えていった。
「幽霊が出ないか見張ってろ? OK、任せとけ──襲われそうな人間はいねーかな〜っと…」
あれ? 座敷部屋って言うからには襖戸だよな? 襖からじゃ出て来られないんでねーの?
……まぁ移動するとか言われたら面倒だから言わないけどな。
「俺はここでRECしてたいんだよ〜」
ふいに。
画面の中に、お嬢様のするりと伸びた綺麗な足が映った。
ごくりと喉が鳴る。
(……ふ、ふとももふともも…ズームズーム…うへへ)
「ヤマダ? しっかり撮ってる??」
いきなり夜麻のどアップが画面に映し出された。
「うわっ!!」
「何そんなに驚いてんの?」
「い、いや……別に?」
ヤマは気付かれないように、そっとカメラの位置をずらした。
玲奈は講堂の中へ入ると、座敷部屋で集まっている生徒達の様子をこっそり伺った。
「どうだ? みんないるか?」
ジャックが後ろから声をかける。
すぐ隣の襖でも、同じ状態で中を覗きこんでる波音とララがいた。
「怖がっている人も成仏させようとしている人も、どんどん驚かせてやるぅ〜!」
んっふっふ〜と、口元に手を当てながら笑いを堪える波音。
持ってきた袋の中に手を突っ込み、何やら探し物をし始めた。
「脅かす姿は……そうだな〜昔の怖い映画で『ロングヘアの後ろの髪の毛を顔の前に持っていって、顔を隠した姿』でテレビから出てくるっていう場面見たことあるから、あの格好がいいかな! ……あたしの金髪じゃ、怖さが半減しちゃうかもだから、かつらを被って──っと」
「鞠も用意してきたよ、波音おねぇちゃん」
「でかした、ララ! ……って、ゴム鞠か。まぁ無いよりマシかっ。できたら服もちょっとボロっぽい感じにして、髪と服を水で濡らしてみよう! そして顔には血糊!」
あたしが歩いた後が水とかで濡れてたら、結構怖い感じだよね〜
にゅふふ♪
顔出したとき血だらけなんて怖いだろうな〜
「──あ、動きだしたっ!」
玲奈の声で、波音に緊張が走った。
「じゃ、お先に!」
玲奈とジャックは光学迷彩を使い、少し離れた所に移動する。
(誰かが部屋から出てきた!)
足音を立てずに、光学迷彩と解かずに、ゆっくりと後を尾ける。
「あたしたちもスーパーミラクル全開でいっちゃうよ!」
「うん!」
「少ない人数で行動している人達に狙いをつけて……」
波音が歩き出そうとしたその時。
「どうしました?」
「!?」
驚いて振り向くと、ルイスとサクラが武装した姿でやってきていた。
見回りをしていたらしい。
「何やら緊張なさっていらっしゃるようですね? 余り……張り詰めているのも心に毒です。折角ですから、友達を捜してみては? これだけの人数が集まるのも珍しいですし」
「あ、あは……そ、そうですね」
サクラが心底心配している顔を向ける。
(ララ……!)
助けを求めようと視線を向けると、ララは既に離れた場所で、こちらを見てくすくす笑っていた。そして──隠れた。
いや、違う……そうじゃないから……
がくりと肩を落とす。
「本当に、大丈夫ですか? 困った輩も多いですからね。……ふざけるのはいいでしょう、驚かすのも多目に見ます。でも洒落にならない可能性もありますので、僕たちがしっかりと見回りをさせて頂きます。だから──」
「……」
「だから、安心してください」
「………」
ルイスとサクラの正義感に満ち溢れた目が、まっすぐ向けられる。
罪悪感に蝕まれる波音だった。
「もっと、だぁ〜いなみっくぅ〜に演技をするのよぉ〜」
オリヴィアは声を大にして言った。
「もっと楽しませなさいよぉ〜」
目の前にいる、地球外生物の着ぐるみを着た円は、ミネルバと共に、わけの分からない雄叫びを上げている。
深夜の特殊講堂からほんのちょっと離れた場所で特撮ごっこ。
迷惑も甚だしい。
「キシャァァァァァ(特撮ごっこ!)」
「キシャァァァァ(がんばればおいしいもの!)」
「わかりましたぁ〜だから頑張りなさいぃ〜」
キシャァしか発していないのに、なぜかその言葉を理解できるオリヴィア。
恐るべし。
「キシャァァァァァ(ミネルバちゃん尻尾あたーっく)」
「キシャァァァ(何をするのだ!)」
「キシャァァァァァ(ミネルバちゃんパーンチ)」
着ぐるみから、変な液体が飛び出す。
溶けないところを見ると、どうやら酸性ではないらしい。ネバついている。
「キシャァァァァァ(マスターいつまでこれ撮るんですか)」
「う〜ん……もうちょっと〜?」
「キシャァァァァ(マスタートイレいってくるよ)」
「トイレぇ〜? いいわよぉ〜いってらっしゃぁい〜お手伝いはいるぅ〜?」
「キシャァァァァ(いる)」
オリヴィア以外の二人は、もちろんそのままの格好で、トイレに向かった。
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