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リアクション
◆ 特殊講堂 7 ◆
「じゃあトイレに行く人は、まとまって行った方がいいね」
歩が提案した。
「私はここで、あの話の検証を始めているよ」
「あたしも残る! 音楽代わりにリコーダー吹くよ!」
乃羽は覚えたばかりの授業で習った曲を吹き始めた。
「ぼ、ボクは動かないですよ。行ってらっしゃい、皆さんで」
「翼……」
相変わらず怖がっている翼に悠は苦笑する。
「私も残ります! 少年が遊びに来るかもしれないですし」
エルシーの発言に、ルミが困った笑みを浮かべた。
「俺も残るぜ〜茶は上手いしクッキーは最高だし。来てよかったなぁ〜」
ラルクは声を立てて笑った。
「あぁ、おっと。それだけじゃなく──用心棒として残って見張ってやるよ」
例え噂が本当だとしてもそれはそれで上等だ。立ち向かえばいいだけの事だしな。
それにアンデッドとかだって幽霊の一種なんだから今更怖がることでもねぇ気がするんだが……確かに、触れられないのは少し気味わりぃかもしれねぇがよ。
「ほら、あれだ。俗に言うアンデッドとかも結局はホラーじゃね? それと一緒だよ」
その言葉に、皆の恐怖心が少しだけやわらいだようだ。
「私はぁ、寝てますねぇ…もし異変がありましたら起、こし、て…」
「……──もう寝ちゃった」
すやすやと寝息を立てるロザリンド。
何か楽しい夢でも見ているらしい、笑っている。
「──じゃあ、行こうか!」
真希の元気な声で、勇気を奮い立たせる。
トイレに行くのは、真希、カレン、ジュレール、葵、エレンの5人。
ごくりと唾を飲んで前に進む。
五人で向かったトイレ。
真希とカレンとジュレールは、すんなり個室に入っていったが……
何故かエレンはもじもじしながら、葵を見上げる。
「本当は、ドアの前に立っててほしいのですが……もし良ければ、一緒に入りますか?」
「えっ!????」
「……嘘です。葵ちゃんの今の驚いた可愛い顔を見たら、ちょっと落ち着きました」
「もう〜!」
「あ、でも……出来たら隣の個室に入ってほしいのですが、いいですか?」
「分かった。あたしがずーっと隣にいて、声かけてあげるから、安心して」
「はい……!」
そんなやり取りが外で繰り広げられている中で。
「あれ? ──歩ちゃん?」
個室の中で、真希はメールに気付いた。
内容は、あの少年に関することが自分の見解を含めてびっしりと書かれている。
急に怖くなって慌てて個室を出ようとしたが……
「あれ? ……だ、だれかいるの!? ね、ちょっとやめて…よ、やだやだやだやだ!」
ドアが開かない! 誰かが閉めてる!?
真希はドアノブを回し続けた。
「──……なんか騒がしい……」
カレンはぼんやり思った。
早くトイレを済ませて、スープ作りを再開させなきゃ。
その時。
かちゃかちゃと、ドアノブが回った。
「!!! 来た? 来てくれた!!?」
ドアを開けようとノブを回すが、何故か開かない。
「ちょっとー! すぐ開けるから待っててー! スープ! スープ作ったからー!」
カレンは声を張り上げた。
そして。
ジュレールのドアノブも回っていた。
きっと誰かのいたずらに違いないと踏んでいるジュレールは、先手必勝で開けてやろうとしたが、これが中々手強い。
「必ずこっちから出てやる……!」
不気味な呟きがカレンの口から漏れた。
「あけて、助けて…開けて、開けて……苦しい…よ、外に出して、誰かタスケテ……」
玲奈はか細い声を出して、脅かしにかかる。
どうやら真希の個室らしい。
「おまえか…オマエガ犯人カ…殺す…コロシテヤル」
少年になりきって芝居をする。自分でも中々やるなと思う。
だがその横で。
「あははぁ〜女子トイレに潜入〜」
にやけた顔でジャックが辺りをきょろきょろ見回していた。
個室の中の真希は電気を消され、過去のトラウマを引き起こしかけていた。
泣いてドアとは逆の壁の方をどんどん叩いたり、便器のかげに隠れようとしたり。
やがて。
ドアが開き、苦笑した玲奈の姿が。
「……びっくりした?」
「ばかーっ!!」
真希は安堵で泣きじゃくった。
ほんの少しだけ、便座にへたりこんだ時に、おもらしをしてしまったようだ……。
ドアノブを押さえている波音とララは慌てていた。
おかしい。筋道通りにいかない。
怯えるどころか、むしろ好感を持って接してきている!
「波音おねぇちゃん〜なんか変だよ〜」
「こっちもだよ、なにこの人達!?」
手がしびれてくる。
ドアノブを押さえる手に、力が入らなくなってきている。
「あけて〜あけて〜スープー!」
意味不明な言葉を繰り返す中の人物。
「ら、ララ! こうなったら一気に逃げるよ!」
「うん! …え? あ…アァ……あ…!」
ゆるくなったドアの隙間から、ジュレールの恐ろしい顔がララを捉えていた!
「み〜〜〜た〜〜〜ぞ〜〜〜〜」
「ひぃ……っ!」
固まるララの手を引いて、波音は一目散に逃げ出した。
が、そこに。
地球外生物の着ぐるみを着た、円とミネルバがいた。
「ぎゃぁああああぁあ〜〜〜!」
「キシャァァァァァァ(びっくり)」
悲鳴を上げながら逃げていく二人の後姿を、オリヴィアは呆然と眺めていた。
円は首を傾げると、中に入っていると思われる人達のドアノブに手をかけ、回そうとしたが……
「なにやってるんですか!」
ルイスとサクラが騒ぎを聞きつけ、バーストダッシュでやってきた。
声を荒げて、叫んだつもりだったが、中にいた世にも奇妙な生物に、言葉が続かない。
「あ…あぁ……」
「…な、なにを、やろうとしてるんですか…悪ふざけが過ぎますよ」
それでも必死に、サクラが声を絞り出す。
「……キシャァァァァァァ!」
必死の会話もむなしく、円とミネルバの着ぐるみの口から、二人に向かって液体が発射された。
ねばねばねばねば……
「うわあぁあああ!」
幽霊もアンデッドも、どうにかなるかもしれないが、汚されるのはイヤだ!
二人はお互いの粘液を拭きあいながら、逃げ出した。
その光景を見ていたカレンとジュレールは内からしっかりと鍵をかけ、存在を消した。
「さて……」
オリヴィアは耳をすます。
「──聞えてる〜エレン〜大丈夫〜?」
こんこんこん。
「大丈夫ですよ〜葵ちゃ〜ん」
こんこんこんこん。
お互いの壁を叩き合いながら、仲むつまじく時を過ごしている。
次のターゲットは……
こいつらだ。
円とミネルバが小さく吼えた。
「──人数が減ったら、静かになったね」
乃羽が小さくリコーダーを吹く。
「本当だね」
ぽそりとクッキーを口へ運んでいく歩。
「翼、大丈夫?」
「うん……平気です、ありがとう」
悠に引きつった笑みを向ける。
「静か、だな」
ラルクは頭をかいた。
少年がもし出てきても成仏させる術を知らないんだよな。
次元なんて繋ごうと思えば何処とだってきっと繋がる。
「ふと思ったが……幽霊って銃弾とおるんかな?」
通らなかったらそれはそれで問題なんだけどな……やっぱり出てこないことを願おう。
がだだだーん!
いきなり襖戸が倒された。
亜璃珠が業を煮やしてやって来たのだ。
「──ひっ!!?」
『キター! シャッターチャーンス!!』
ベアが叫んだ。
そして驚いた顔の歩、乃羽、の写真を収めた。
うへ♪
「馬鹿熊!さっきのチャンスを撮らないで……どーして、そっちを撮ってるのよ!」
「っく……いや、違うんだ。自分も驚いて、手元が狂って違う場所を撮影してしまったんだぜ…☆」
とりあえずマナにそう誤魔化しつつ。
コレクション♪ コレクション♪
(あ……怪しい!この馬鹿ベア違う事考えてる! あとでカメラ没収して調べてやる)
「亜璃珠ちゃん、あなた……」
あまりにも堂々とイタズラ?をやってのけようとする亜璃珠に、小夜子はどう注意していいのか分からなくなった。
騒ぎの鎮圧に重視しようと思っていたが、これはなんというか……
あまりにも表立ってやられると、潔すぎてイタズラなのか何なのか考えがまとまらない。
「亜璃珠ちゃん、えっと……」
「なあに?」
満面の笑顔を向けられる。
「ほどほどに」
「了解ですわっ!」
亜璃珠はいきなりエルシーに抱きついた。
「キャッ!」
『再度キター! シャッターチャーンス!!!』
怯えているわけではないけど、驚いた顔もこれまた良い! 狙うは百合園生! う〜〜〜ん、かぁわいいい〜〜〜♪
「ベア〜〜〜! 何やってんの!?」
「あっ!」
マナはカメラを取り上げると、すばやい動きでデータを全て削除してしまった。
「あぁあ!!!! 何すんだよ! 人がせっか、く」
「……何か問題でも??」
「い、いいえ……」
凄んで睨むマナに、もう何もいえないベアだった……。
「…なんか、飽きちゃった」
一通り騒ぎまくった亜璃珠は、溜息をついた。
いつまでもびくびくしてる連中を見るに付け、どんどんうんざりしていく自分に気付いた。
「こんな所にいたら意気地なしが伝染ってしまうわ。私はもう帰るわよ」
颯爽と去っていく亜璃珠に、小夜子はまたしても絶句してしまった。
それから数時間。
「……結局出てこなかったね」
「怨念がここにお」
「それはもういいよ」
夜麻とヤマが笑いあう。
「お客さんが多くて忙しかったのかもしれないですね?」
ちょっとしょんぼりしつつも、それでもまだ期待をしてしまうエルシーは、寂しそうな表情を浮かべた。
「残念、でしたね」
「ルミの言った通りだった」
「もうちょっと待ってみますか? もしかしたら、ってこともありますし」
「いいの!? ──うん!」
「あ、そうだ。編集前の動画データ、欲しい人いる? 何も映ってないかもしれないけど、記念にさ。本当ならお金を取りたい所だけど、一緒に死線を乗り越えた仲だからね。特別にタダでいいよ」
「は? 動画データを配布する? 待てバカやめろ、考え直せ。ほ、ほら、変なもの映ってたりしたら困るじゃん?」
ヤマの否定もむなしく、みんな夜麻の周りに集まり出した。
やはり無料(タダ)より安いものはない……
「でも……」
あれだけ騒いでも、全く起きようとしなかったロザリンド。
『あ、桜井校長…そんな…恥ずかしです。でも校長の頼みでしたら…むにゃむにゃ…』
今も夢の中の住人だ。
『校長…何を! 何をするんですか? …ふふ…ふふふ…』
「お、おいおい……一体どんな夢見てんだよ?」
ラルクは思い出す。
そう言えば、ここに来る時もおかしな妄想にふけっている人物に会った。
百合園には……奇妙な出会いが、いっぱいある。
ラルクは苦笑しながら、ロザリンドの様子を興味深そうに見守った。
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