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怪談夜話(第2回/全2回)

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怪談夜話(第2回/全2回)

リアクション

 あれから一ヶ月──

『なる話』などといった馬鹿げた怪談は、たんなる作り話でしかないと思っていても、やはりどこかしらに不安要素を芽生えさせた。
 ネットの世界で有名な『おサルの車掌さん』や『カシマサマ』。
 それだって出所は一体どこなのか、まるで分からない。
『なる話』が本当のことなら、死んだ人がいるはずだ! ……って、今回のピアスの話は実際に友人が死んでいるんだっけ?
 一気に現実に引き戻された気がする。
 死者がいた。
 本当に。
 勘弁してくれ。



◆ ピアス捜索:午後一時 ◆


「うう……最後にあんな話を聞かせるなんて……」

 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は携帯を握り締めながら呟いた。
 日が経つにつれ、ピアスの話した怪談が気になって夜も眠れなくなってきたケイは、何としてでも彼女を見つけ出して回避方法を聞きだしてやろうと思っていた。
 情報によれば、学園内に戻ってきているはず。
 そして今日の授業は午前中で終わり!
 百合園に乗り込んだケイは、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)や、目的が同じ生徒達と協力してピアスを探すことにした。

(こんなことになるなら、あの時、わざわざイルミンスールからやってくるんじゃなかったぜ……)

 ケイは溜息をついた。

(カナタを驚かそうなんてしたバチが当たったのかな……もう一ヶ月経ってしまうし、このままじゃ魔法の修行が手に付かないぜ……)

 落胆しているケイの後姿を見つめながら、カナタは唇の端を緩めた。
 恐怖した人間は自分よりも怯えた者を見るとその恐怖も和らぐと聞くが、まさかわらわがそれを体験することになるとは……
 まだ日は高いというのに、風の音でさえも驚いてしまうケイ。
 普段と逆の立場になっていることがカナタには面白くてたまらなかった。

(心霊現象とあればからかわれている、いつもの仕返しをする絶好の機会であろうな)

「あ……!」

 ケイの携帯が震える。
 ディスプレイには数字のみ。
 ついさっき番号を教えあった仲間からの連絡だと気付き、ケイは慌てて通信ボタンを押した。

「──も、もしもし! ピアス、見つかった?」

 ケイは、いきなりその言葉をぶつけた。
 しかし電話の向こうからは、清泉 北都(いずみ・ほくと)ののんびりした声が返ってくる。

『えー? 見つかってないよぉ』

「あ、あぁそうなんだ……で、何の用?」

『そっちにいたかなぁ? と思って』

「いないぜ?」

『そっかぁ、じゃあまたね』

 通信が切れる。
 え? それだけ?

「──…その様子だと、見つかったわけではなさそうだな」

 カナタの言葉に、ケイは引きつった笑みを浮かべた。


 携帯の通信を切った北都は、ぼんやりと空を見上げた。
 まだまだ明るい、日の光。

「面倒事は嫌いなんだけどねぇ……」

 自嘲気味に口をついて出る。
 聞いちゃった以上は自分で何とかしないと。
 聞きに行ったのは自分だし、自分のミスは自分で解決しなくちゃ。
 薔薇学の制服だと目立つと思い、今回は長い黒髪のカツラを被ってメイド服に着替え、聞き込みをすることにした。
 知り合いに見られる恐れもあるので、伊達眼鏡もかけた。

「……言っておくけど、これは『変装』であって『女装』じゃない。僕にはそんな趣味ないんだから」

 誰が聞いているわけでもないのに、北都は言い訳のようにその言葉を繰り返した。

「ピアスさんが見つからなかったとしても、同じ会に所属していた人が居るはず……」

 もしピアスが帰って来ているという情報がデマなら、あの夜話会のメンバーが回避方法を知っているかもしれない。
 とりあえず足掻いてみて、ダメなら……諦めよう。
 北都は、歩き始める。
 天気が良い。
 ぽかぽかして、まさに秋晴れ。なんだか眠くなってきた……



「私は『なる話』などは信じていないのよね。ど、どうせ脚色でしょ。そもそも怪談というのは……」

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、信じていないと言いつつも、その事について語れば語る程、不安の表れを隠しているかのように思われた。

「……怖いのか? ルカ」

「そ、そんなことないよ! だって私信じてないもん!」

「本当かぁ?」

「本当よ!」

 パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、必死に否定するルカルカを見て小さく笑うと……隠しているその不安を解消してやりたいと思った。

「ピアスが何時にやってくるか、調べてみるか?」

 ダリルの問いに、ルカルカは目を大きく開いた。

「列車の予約情報」

 再度告げると、ルカルカは大きく頷いた。

「列車の指定席や予約のデータって残ってるし、地球からの本数は限られる……。第一、地球からの移動手段は少ないしね。私がデータをハッキングして、調べられたらそこにアタリをつけるよ。けど……分からなくても、張り込みをすればなんとか接触できると思うから」

「……列車かぁ〜」

 もう一人のパートナー、夏侯 淵(かこう・えん)が夢見心地で呟く。
 時間の合間を縫って、時刻表の見方をルカから教わった。
 修学旅行で地球行きの列車が気に入った淵は、時刻表を調べる事が、とても楽しく感じられた。

「じゃあ俺がルカが調べた、地球とここを結ぶ便の発着時間を書き記す! ……筆と硯を所望したいのだが」

「筆っ!?」

 ダリルが素っ頓狂な声を上げた。

「えっと…ごめん。……筆ペン…で、いいかな?」

 淵の言葉は、二人を困惑させた。



 影野 陽太(かげの・ようた)菅野 葉月(すがの・はづき)の服の裾を掴んでいた。
 二人のパートナーであるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、恐れることなく秘密の花園、百合園女学園に潜入した。
 エリシアは、今回も百合園女学院制服を着用し、自由気ままにに学院の敷地内を闊歩している。
 魔女の短衣を身に付けたミーナも、中に入ってピアス散策を開始していた。
 ピアスの居所はよく分からないので、適当に軽く回ろうと思ったのだが、物珍しさもあいまって、二人は色々な場所を探索し始めた。
 教室、図書室、保健室、etc……忘れそうになっていたピアス探しも思い出し、すれ違う人に声をかけ──
 さすがに他校の制服を着ている陽太と葉月は、彼女達が戻ってくるまで隠れて待機していた。

「み、見つかったら、ただじゃすまないですよね」

 陽太は手で顔を覆いながら、存在を消そうとしている。

「……そうですね。さすがにこの格好で中に入ったら、捕まって、大変な目に合わせられてしまうかと。この場所なら万が一のことがあっても」

「怖いぃ…早く戻ってきてください、エリシアー」

 情けない声を出しながら陽太が天は仰いだ。

「あ、戻って来ましたよ!」

 葉月の声で、陽太は慌てて前を向いた。

「エリシアー!」

「ただいま帰りました。中にはピアスの姿は無かったですわ」

「そ、そう……」

 陽太が顔を暗くする。

「ピアスさん、一体どこにいるんだろう? でもなーんか変だよねぇ」

「変って、どういうことですか? ミーナ」

「…………」

 葉月の問いかけに、ミーナは複雑そうな表情を浮かべ──そして周りを気にするかのように声を小さくして喋った。

「だって……学院に戻ってきている形跡はあるんだよ? それなのに居場所を誰も知らないって、おかしくない?」

「形跡はあるんですか?」

 ミーナはしっかり頷く。

「もしかして、皆でピアスさんを匿っている……とか?」

「僕たちに居場所が知られることを警戒している? なぜ??」

「………」

 陽太と葉月は畳み掛けるように聞いてきた。

「──例えそうであったとしても、ピアスを捕捉して回避方法とやらを伺いますわっ」

 エリシアは唇を噛んで前を見据えた。

(本当にこれっぽっちも気にしていないので聞く必要はありませんけど、とりあえず、怪談のオチを越えてスッキリしたいです!)



「中にはいないんだ……」

 エリシアからのメールで、ピアスの探索箇所が少し絞れた。

「あ・り・が・と・う、っと」

 ピアスを探しているメンバーから逐一で報告が入る。
 駒姫 ちあき(こまひめ・ちあき)は携帯をポケットにねじ込むと、自分の腕を掴んで離さないパートナーのカーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)を見て、深い溜息をついた。
 地球ではありえないことが平気で起こるのがパラミタ。
 さすがにアノ怪談が現実になるとは思っていないけれど、前回、マジもんの幽霊が出たっていう経緯もあるしね……

(一応、回避方法を聞いておかないと気持ちが悪いというか、いい加減こいつがウザい)

 ちあきは横目でカーチェを睨んだ。
 過剰に怖がるパートナーが面倒になり、一ヶ月目のこの日、抱きつくパートナーをひっぺがし、ピアスを尋ねて百合園までやってきた。
 見つけ出して回避方法を聞かなければ、このウザさが、話を忘れるまで続くだろう。
 冗談じゃない!

「ごばいびょおおぉおぉぉー、じにだぐないよぉおおぉー」

 カーチェは涙と鼻水で、もはや何を言っているのか分かりゃしない。

「……カチェ、暑苦しい。腕、離してよ」

「いやだぁああああ〜ばなざないぃいいぃーいっじょにぃいいぃーじゅっど、いっじょにいでぇええええぇえ」

 駄目だこいつ……早く何とかしないと。