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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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7-05 巡礼の夜

 谷間の宿場を逸れ、東の山にさしかかった巡礼の一行。
 完全に日が暮れてから、一時間程は歩いただろうか。草原が終わってからは森に足を踏み入れていた。山道に入る手前に少し木々の開けた場所にキャンプを張る。
 お待ちかねの食事は、巡礼らしく質素なもの……しかないのでは、と皆思っていたが、そういうこともなく、肉を焼いて食べたり、缶詰等も食欲をそそるものが多かった。特別変わった食べ物等はない。
 食事が済むと、巡礼は、早々と眠りに就いた。
 とくに儀式めいたものなどもないようだった。
 疲れが出たのか、琳は真っ先に、女性のテントに入って、もう眠ってしまったようだった。
「お風呂に入りたいですわ。
 ご飯はおいしかったですけれど、お風呂に入れないと疲れがとれませんし。それにこのままなんていやですわ……」
「明日には、寺院に着くといいますし、そうしたら真っ先にお風呂に入りましょうよ」
 ヴァルナヴァリアもそんな会話をしつつ、テントに入っていった。
 残る女性陣、クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)と共に、見張りを引き受けることになった。
 それは、巡礼に依然注意を抱いているクレーメックの指示でもあった。
 巡礼達は彼らが夜間の警戒を申し出ると、とくに遠慮もせずにそれはありがたいですと言い、任せたのだった。
 ノイエ・シュテルンの勇士ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)と、力強いドラゴニュートのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)も、やはり警戒を務める。
 レオンハルトは今日、巡礼らに聞き忘れたことがあると思い出したが、もう皆ぐっすり眠っているようなので、明日にすることにした。彼もテントに向かう。
「明日は獅子小隊が夜間の見張りを引き受けよう」
「ああ。今夜は我々に任せるんだな。ゆっくり眠るがよかろう」
「では、おやすみケーニッヒ、アクィラ」
「ええ、おやすみなさい。ごゆっくりと。
 ジーベックさんも。後は、任せてください」
「うむ……頼んだぞ。おやすみ」
 クレーメックとも短く言葉を交わすと、警戒組は、それぞれの位置に着いた。
 クレーメックからすると、実は警戒対象は、外部からやって来る敵ではなく、巡礼達であった。この巡礼がただの巡礼でないというのが、彼の直観である。本当はもう少し距離を取って巡礼を監視したかったのだが、組み入れられる形になろうとは。致し方なかった。それでも尚、巡礼に怪しい動きがないかは、見張っておく必要はあろう。
 彼らは、二時間交代で見張りを行った。
「なんであたしが夜直に立つ羽目になるわけ?」
 とこぼすのは、アカリ。
 一緒に当番にあたるのは、ケーニッヒとザルーガ。
「……」「……」
 何も言わない、……何も言えない。
「……」
 アカリも、張り合いがないと、延々こぼしてた愚痴もそのうちに言い飽きて、黙々監視を行った。
 二時間。とくに何も起こらない。
 次に、アクィラ・クリスティーナ組が交代して当番になった。
 女王の加護で警戒を強める。クリスティーナは怖がりなので、少しアクィラの方にくっつく。アクィラは……戦車のことを考えていた(五感を研ぎ澄ませながら)。
 二時間。とくに何も起こらない。そろそろ、午前0時か。
 交代だ。
 ケーニッヒ。ザルーガ。アカリは……起きてこなかった。
「……」「……」
 二時間。何も起こらない。
 アクィラと、クリスティーナが出てくる。アクィラは女王の加護を張ると、戦車のことを考え出した。
 しばらくすると……クリスティーナがいなかった。
「はわわわわ〜、アクィラさ〜ん、ジーベックさ〜ん、助けてくださぁい」
「……はっ」
 アーミーショットガンを取る、アクィラ。
 飛び出てくるケーニッヒとザルーガ。クレーメックも、起きてくる。
 が、怖がりのクリスティーナ。過敏なまでに神経を尖らせ続けて、ありもしない影に怯えてしまったらしい、と反省している。何人か起きた者があったが、騒動には至らなかった。
「アクィラさん、ジーベックさん。……ごめんなさぁい」
「いや、草原狼でも近付いていたのかも知れない。今ので逃げただろうが。
 引き続き、任務にあたってくれ。クリスティーナは、少し休んだ方がいいかな? 慣れないことではあるし……」
「ジーベックさんすみません。では、クリスは休んで……」
 アクィラ。
「……」
 もし、何か起こったら、俺が皆を起こすしかない。アリスキッスで。
「……」
 それからは、無事何も起こらなかった。
 ケーニッヒとザルーガ、出てくる。
「真夜中か」
 ケーニッヒはこの時間になって、元気が出てきていた。決してケーニッヒが夜型だからということではない。彼は規律正しい軍人だ。
 そう。丑三つ時には、魔が現れる……
「ふふふ」「兄貴、楽しみだな!」
「おう、ザルーガ」「兄貴!」
「ザルーガ……」「兄貴……」
「……」「……」
 二時間。何も起こらない。
 森では、鳥の鳴き声がかすかに聞こえ始めている。草原では、もう明るくなり始めているだろうか? ここはまだ、薄暗い。
 アクィラが出てくる。
「ん? 二人とも、寝ないでいいの?」
「……(来る。絶対に、何かが来る!!)」「……(兄貴!!)」
 最後の第六感を振り絞って目を見開き続ける、三人。
「……」「……」「……」
 二時間。とくに何も起こらない。
「どぉりゃあああッッッ!!!!」「フンガァァァッ!!!!」
「わっ……びっくりしたぁ。朝か、おはよう皆」アクィラは、戦車の夢を見ていた。
 結局、夜中に起こったいちばんの騒ぎは、クリスの一件だけだった。
 巡礼達が、次々、起きてくる。
 朝の陽が差してくる。
「おはようございます皆さん。近くにきれいな小川がありましたね。顔でも洗ってきますか。
 そうしたら、すぐに出発しましょう」
「……」「……」
 虚ろな目の、ケーニッヒとザルーガ。
「ご苦労だった……な? ……だ、大丈夫か?」
「ジーベック……」「おやすみ……なさい……だぜ……」
 鳥のさえずり。小川のせせらぎ。女性の悲鳴。
「きゃー!」
「ザルーガ!」「おう兄貴」
 武器を手に走るケーニッヒとザルーガ。目覚めの朝だ。
殿どうした!!?」
「……あの、全く気付かなかったんですけど、ルースさんが、女性のテントで寝てます」



7-06 最後の戦い?

 同じ朝。
「お、起きるおにぃ〜〜」
「お、お客さんたち困るおにぃ〜〜」

 鬼の牢獄亭で悠々と眠りこけているのは……元追い剥ぎのぶちねこ達と、それに埋もれる生徒達だった。
「もふもふ……」
「もふもふ……」
 彼らはまだ夢の中だ。
 まあ、あれだけの激しい戦いだったのだから、仕方ないのかも知れない。
 ほんの少しだけ、彼らの武勇伝を語っておくことにする。



 昼間の草原での戦いを終えて、鬼の牢獄亭に無事たどり着いた新生ぶちぬこ隊。馬車の一行も、もちろん同じ宿に泊まる。
 ここでは、昼間の戦いをしのぐ、恐るべき戦いが待ち受けていた。
 宴会場。
ナナはメイドとして、みなさまの給仕をするのです。きゃー」
 ぼん。
 もう枕投げが始まっていた。
「ナナ様……?」
「や、やってくれましたわね!」
「何か口調が?? きゃーなんで拙者に投げるで御座るーーやめてで御座るー」
 ぼん。ぼんっ
「きゃーいやー」逃げ惑うクライス
「……まったく何をやっているんでしょうか」
 行儀よく食事する御凪だがもちろんぼん。ぼん。
「わっ。ちょっと……こ、この……! 人が静かに本読みながら食事をしいてるときにっ」
 御凪も枕を投げる。
 がらっ。扉を開けて、ぶちねこどもも入ってくる。
「おれたちもまぜろにゃ!」
 ぼん。
「あ、ご、ごめんなさい。大丈夫で……」ぼん!
「やったにゃ! 御凪かくごしろにゃ!」
 ぶちねこも乱入して戦場と化した。
「あぁいいなぁもふもふしたいですぅ……」
 シャーロットも負けじと枕を投げながら、ぶちねこを見つめる。
「やったもん勝ちだぜ!」
 猫好きなレイディスはどさくさにまぎれて、ぶちねこにつっこむ。
「やったーいちばんもふもふ!」
「あぁー私もですぅー」
 シャーロットもぶちねこにまとめて体当たりをくらわした。
「い、いたいにゃ」「や、やめてにゃ」
「もふもふーですぅ」
「んー、ふかふかじゃ……おぬしの毛触りはなかなかじゃのう♪」
 セシリアは、ぶちねこの山の上だ。
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……まあ、皆さん、飲みましょうか」
 ローレンスがきり出す。今夜はパートナー達は、静かに飲むことにした。(キャラ的には違うのですが、様はさっきの流れで枕投げに参加して御座います。)
「きゃーいやー」逃げ惑うクライス。
「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「………………まあ、皆さん、どうか気にしないでやってください」
 静かに酒を注ぐローレンス。
 麻上、はっと気付く。
「……っと、そう言えば、悠くんがいないですねぇ」



 別室。
月島かくごしろにゃ」「えいっえいっにゃ」「にゃっにゃっ♪」
「皆で私のこと弄らないでぇー(乙女モード)」



 ……
 戦いが終わって、静かになった鬼の牢獄亭。
 夜中、風呂上り新撰組羽織(修学旅行のお土産)を着たレーヂエの肩をもんだり腰を押したりするサミュエル
 二人も、この宿に無事たどり着いた。
「あのねレーヂエ。俺ね……レーヂエが生きててくれてよかったナって本当に思うんだヨ?」
「……。
 ……ありがとうな。サミュ」
「うン」
「今度こそ、ここでゆっくり療養していくとするか。
 ……さて今頃、騎凛殿らはどうしているのだろうな?」