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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

 他校への連絡を終えた環菜は、校長室に呼び出したカンナ様親衛隊のイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)、彼のパートナーのフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)に言った。
「ルミーナを救う為に、巨大機晶姫の中に入ってほしいの。行ける?」
「勿論だ。機晶石まで辿り着けば、問題も解決できるだろう」
「異論はありません」
「……ですな」
 イーオン達は、直ぐさま蒼空学園を出て小型飛空艇に乗り込んだ。1台はフェリークスとセルウィーの2人乗りだ。
 そこに、バイクに跨ったアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)と空飛ぶ箒に乗った御陰 繭螺(みかげ・まゆら)が近付いてくる。
「話は聞いたぞ………どうもあのSOSが気になるな……それに、機晶姫……か……放ってはおけないようだな」
「助けを求めてるみたいだよ! ボクたちで力になれないかな?」
「では協力しよう。巨大機晶姫まで、全速力だ」

 その数分前。
 鋼鉄ボディに少女型頭部を持つ機晶姫のロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、環菜の放送を皆まで聞かずにさて、と小型飛空艇の準備を始めていた。
(巨大人型遺跡機晶姫かぁ……なんかエヴァルトが何言うか予想できるよ。部分的に以心伝心なわけだから、飛空艇の持ち出しだって早いよー)
 案の定。
「巨大人型機晶姫だって!? すぐに準備だ!」
 放送が終わると、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、勢い良くロートラウトを振り返った。いつもと大して変わらない表情に見えるが、彼女には、普段剣呑な目が輝いているのがありありと分かる。
(わくわくしてる。もうめっちゃわくわくしてる)
「いつでも乗れるよー」
 小型飛空艇は、ばっちりスタンバイOKだ。窓もしっかり開けられている。ロートラウトも乗り込み済みだ。
「お! さすがだなロートラウト! よし、行くぞ!」
 嬉々として運転席に乗ると、エヴァルトは小型飛空艇を発進させた。
「ここで行かなきゃロボマニアの名が廃るッ! ついでに助けを求める声も見捨てるわけにはいかない!」
 ついでかい。
「一も二もない、小型飛空艇で口から、一番乗りになるくらいの勢いで侵入だ!」
 燃えるエヴァルトの後ろで、ロートラウトはちゃんとまともなことを考えていた。
(機晶石に問題があるなら、ちょっと肩代わりしてあげたいかも……エネルギーを伝達する機関を少し付け換えたりして。多分無理があるかもしれないけど……)

 巨大機晶姫についての報を耳にし、ツァンダ市街に買い物に来ていた白砂 司(しらすな・つかさ)は両手で抱えていた紙袋を片手に持ち直して携帯電話を取り出した。知り合いに掛ける。
「ザンスカールへの電話も通じやしない」
 ツァンダ全体に聞こえるように環菜は報道機関を利用し、正確な情報がツァンダ全体に伝わるように取り計らった。その情報から、司は自分に出来ることを考える。
「とにかく足止めをしないとな。電波ジャックは明確な被害。悪意がなかろうと、そんな手段に出ている相手をツァンダに侵入はさせられない……この本は荷物になるし、あきらめるか」
 分厚い物語の本が大量に入った袋を、彼は足元にどすんと置いた。
「えぇえっ! その辺に置かないでロッカーに入れときましょうよっ! コインロッカーにっ! そしたら後で、取りにこれますよ?」
「…………」
 慌てるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)を見遣ると、司は溜め息を吐いて言った。
「……分かった。だがもたもたはしていられないぞ」
「はい! 3分待っててください、仕舞ってきます!」
「カップラーメンじゃないんだから……」
「あら、最近のカップラーメンは4分も多いんですよ?」

 パワーブレスを自身にかけたルミーナが、ブロックバスターを振り上げて襲ってくる。飛行能力を駆使して速度を上げ、勢いをつけての槌攻撃は、当たれば結構シャレにならない。
 やむを得ず、一行は移動手段をフルに使って森を抜け出した。ルミーナは、一度開いた距離を簡単に詰める。
「ルミーナさん!」
 隼人が叫ぶ。表情の無いまま、しかし鬼気迫る彼女が巨槌を振り上げる。軍用バイクのサイドカーに乗っていた恭司が飛び降りて足技を繰り出す。狙い違わず、蹴りは巨槌の柄を捉えた。
 ルミーナの手から巨槌が落ちる。その手を、芳樹が押さえた。
「落ち着けよ、僕達は鏖殺寺院じゃない!」
「そうよ、蒼空学園で君の様子を見て、心配してついてきたの」
 アメリアがそれを補足する。
「鏖殺寺院じゃ……ない……?」
 無感情に呟く声は、直接ルミーナの口から出たものだった。携帯からは聞こえてこない。一瞬、期待したものの、彼女は再び力を失ってふらふらと進み始めた。
『なら……いいわ……』
「待ってくれ。おまえは一体、何者なんだ?」
『あなたは……?』
「俺か? 俺の名前はレン・オズワルド(れん・おずわるど)……ただの冒険屋だ」
『わたしの名前は……ファーシー……』
 その時、ルミーナが東に顔を振り向けた。アトラスの傷跡の方を見据え、言う。
『来る……』
 途端に移動速度を上げるルミーナ。もう、護衛隊には見向きもしない。
「何処行こうとしてるんだ? このままだと巨大機晶姫の方に行くことになるぞ?」
 返事は期待できないながらも、翔が訊く。この状態のルミーナがビル程の大きさの機晶姫に近付けば、どんな被害に遭うか分かったものではない。
「何が来るっていうんだ。巨大機晶姫か? それとも、応援の生徒のことか? 機晶姫とこいつは、同一存在じゃなかったのか?」
 アーキスも疑問を投げかける。
「あ〜、見つけましたよ〜」
 上空から、神代 明日香(かみしろ・あすか)神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が空飛ぶ箒に乗ってやってきた。ツァンダに居た彼女は、機晶姫のことを知って箒をぶっとばしてきたのだ。
「ルミーナおねーさまは大丈夫ですかぁ〜?」
 レンが状況を説明すると、明日香はう〜んと首を傾げてから言った。
「わかりましたぁ〜」
「何がわかったのですか? 明日香さん」
 夕菜の問いに、明日香はのんびりとした口調で言う。
「ルミーナおねーさまが巨大機晶姫に向かっているのは確かだと思いますぅ〜。でも、中に入るのは危険ですからぁ〜、私たちが安全な道を確保しておきますうぅ〜」
 最近、男子を虜にするBUを披露している可愛い女の子に特攻さながらのことを言われ、護衛隊は驚いて口をあんぐりと……開けるとキャラ的によろしくないみなさんが多いので心の中でぽかんとして、芳樹が代表してとんでもないと首を振った。
「それなら僕たちがやるよ。君はこっちでルミーナさんを護衛してくれれば……」
「これは私たちの希望でもあるんですぅ〜。銃型HCもありますし、機晶石までの道をマッピングして戻ってきますねぇ〜」
「あ、明日香さん、待ってください!」
 ふよふよというイメージだが意外と速く、明日香は遠ざかっていく。夕菜もぺこりとお辞儀をして飛んでいった。

 景山 悪徒(かげやま・あくと)は携帯端末型機晶姫の小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)を耳にあて、げんなりした顔でしっかりとした口調で言った。
「申し訳ありません大首領様。何か聞き間違えたような気がしたのでもう一度お願いできますか」
 小型大首領様は、悪の秘密結社【ダイアーク】の大首領様のありがたいお声を聞くためのあくまでも『機晶姫』なので今の状況でも会話が可能だった。残念なことに。
『3度は言わんぞ……巨大機晶姫を手に入れろ』
「…………」
 やはり聞き違いではなかったようだ。
『何でもソチラでは巨大機晶姫がツァンダに向かって侵攻してきて大騒ぎという事ではないか……人に牙を剥く規格外の大きさの機晶姫……か。クククこれはいい! ファントムアクトよ、貴様に指令を与える。この強大なる力をもった機晶姫を我が組織の駒とするのだ!』
「…………」
『巨大機晶姫……素晴らしい力だ。世界征服という野望の為、その力利用させてもらうぞ……』
「…………」
『おい、聞いてるか?』
「大首領様の御心のままに……! して、どのような方法で?」
『それは貴様が考えろ』
 ……丸投げですかそうですか。
『手段は問わん……。なに、最悪この機晶姫とパートナー契約を結べば良いだけの話だろう……? では朗報を待っているぞ』
 いつも通り、一方的に通話を切る大首領様。
「大首領様、なんですって?」
 部下のタカイワ ジロウ(たかいわ・じろう)がのんびりと言う。
「巨大機晶姫を手に入れろ、だそうだ」
「え〜〜〜〜〜あんなでかいもん、無理っすよ〜〜〜」
 思いきりだるそうな声を出して、ジロウはぶーたれた。
「行くぞ」
「やる気でないっすね〜〜〜〜」
 ――だめだめな戦闘員Aと無茶苦茶な上司に頭痛を覚える悪徒だった。
 
 砂漠を越え、荒野に足跡を残し、西へ、にしへ。
 その巨大機晶姫を見上げる人影、2つ。
「機晶姫だかなんだか知らねえが、こいつ、ヒトのシマを挨拶なしで素通りする気かよ。ムカツクな」
「蒼学の連中も、我が物顔で通る気らしいよ。と、いうかさっき小型飛空艇がいっぱい飛んでたじゃん? あれ、全部蒼学の奴等だよね」
 環菜が調査で寄越した調査隊のことだろう。
「ちっ、ムカツク」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)はそう言うと、巨大機晶姫とは逆の方向へと歩き出した。
「あれ、どこ行くの?」
 てっきり機晶姫の中に殴りこみに行くのかと思ったガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が訊く。
「足跡を辿って、アトラスの傷跡のどこから来たか、調べてやる。目撃者もいるかもしれねえ。ああそうそう、砂漠に残ってる足跡は消しながら行くぜ。あたし以外の奴が同じことしないようにな」
「砂漠に、足跡なんかあんの?」
「こんだけでかけりゃ、穴がぼこぼこあるんじゃねえか? 砂なら、埋めんのも手間じゃねえだろ。ったく……通行料出せとは言わないが、仁義は大事だろ。仁義切るなら、弁当の1つも差し入れてやるのによ」
 すたすたと先へ行く菊。ガガは一度、巨大機晶姫に視線を遣ってから菊を追いかけた。
「ま、やりたい事をやるのが一番だよね」
 巨大機晶姫は2人から遠ざかり――各校からの応援が、その下に集まろうとしていた