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リアクション
終わりの章 電波ジャック機晶姫
「これは、想像以上だな」
巨大機晶姫に辿り着いたイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が下から感想を漏らす。アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)がパラミタ虎のグレッグに乗って来たため、彼らのパートナーを含めた5人は地上から機晶姫を見上げていた。
「入れるところがないか一通り見てくる。少し待っていてくれ」
イーオンが機晶姫に向かって飛空艇を走らせた。彼が飛び回るのを見ながら、アシャンテも驚き、危機感を募らせていた。
(……これだけ巨大だと、ツァンダに近づけては甚大な被害が出るだろう。それを考えると破壊するべきだろうが……あのSOSが気になる。あれが機晶姫だというならば……放っておくわけにはいかない)
「あんな大きな機晶姫、見たことないけど、あの中にいる機晶石が助けを求めてたんだよね?」
「……ですな」
御陰 繭螺(みかげ・まゆら)にフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が答える。セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)は出発以来、無口を貫いていた。
「どうやら、口から入るしかないようだな」
戻ってきたイーオンが言う。遺跡を再構成したような外見の割に、この巨大機晶姫は律儀に口と目を作っていた。もともと人が入るために作られたかのように、ぽっかりと土壁に穴が開いている。それに比べて、目は非常に小さかった。覗き穴のような空気穴のような、とにかく人が入るには無理な大きさだ。
「そしたら飛行手段がいるよね! ボクが空飛ぶ箒でアーちゃんを連れて行くから、一緒に行こう!」
「……グレッグは……」
アシャンテが少し悲しそうに呟く。此処は荒野。動物を繋いでおけるところなど何処にもない。放置しておいたら、何処に行ってしまうかわかったものではない。
「…………」
「…………」
「あー……」
イーオンが、困ったように頭を掻く。
「んと、んとねえ……」
繭螺だけが、一生懸命に頭を働かせた。で、ひらめく。
「ここから少し離れた安全な所、そうだね、あの機晶姫の足跡をもう少し深く掘って入れておけばいいんじゃないかな。そうすれば、勝手に出て迷っちゃうこともないと思うよ!」
「……穴……どうやって……」
穴堀りに最適であるスキル、破壊工作を持っている者は5人の中に誰もいない。
「……ドラゴンアーツですな」
フェリークスが言う。
「あ、なるほどね! ドラゴンアーツの怪力を使えば、穴も簡単に掘れるかも! ちょっとキレイには作れないかもしれないけど、そこは我慢してもらうとして」
「誰がやるんだよ……」
当然のように、4人の視線がイーオンに集まった。
「……………………フェル、おまえはドラゴンアーツ持ってるだろう。手伝え」
「イエス・マイロード」
やがて、掘った穴に無事グレッグを入れた5人は、改めて巨大機晶姫に向かった。ちなみに穴は、他にも動物に乗った生徒が来るかもしれないということでやや大きめなものになっていた。パラミタ虎と同じ穴に入れて大丈夫かという気もするが、グレッグは疲れて寝ているし、まあ多分大丈夫だろう。
そして、5人は浮き上がる。
「よし、行くよー……ってアーちゃん! なにやってんの!?」
アシャンテは、片手で箒にぶら下がっていた。
「このほうが迎撃しやすいし……バランスもいい」
「危ない、あぶないってば!!」
そんなこんなで。
「今のところ目に見えた攻撃はしてきていないが、万が一ということもある。機晶姫の気を逸らしてから侵入しよう」
巨大機晶姫の背後を飛ぶイーオンはそう言うと、前方に周って火術で爆発を起こした。ほぼ同時にアシャンテがヒロイックアサルト『幻惑の霧』で幻の像を作り上げる。機晶姫に視力があるかどうかは不明だったが、用心にこしたことはない。
「……よし、突入するぞ。タイミングを合わせろ……」
アシャンテの合図で、5人は口の中に突入した。
それから間もなく、神代 明日香(かみしろ・あすか)と神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が到着した。巨大機晶姫の周囲を旋回しながら明日香が言う。
「人の形を取ってるのですから、核の機晶石は頭か胸か腰の辺りですかね〜?」
人体の重要部分である、脳と心臓、子宮があるところだ。
「夕菜ちゃん、分かりますか〜?」
夕菜は機晶姫になるべく近付き、ざらついたその身体に触れる。瞬間、博識とトレジャーセンスを発動した。
「胴体の、ほぼ中央のようですわ。人体に例えると……胃袋、でしょうか……?」
少し首を傾げながらも報告する夕菜。それを受け、明日香は鳩尾に穴を開けることに決めた。機晶石までの最短ルートを作って、ルミーナを入れるのが彼女の目的だ。口からでは距離がありすぎる。
光条兵器の小型投擲槍を取り出すと、明日香は箒の上でバランスを取りつつ、常備しているギャザリングヘクスを飲んだ。魔力が増強される。
「じゃあ夕菜ちゃん、お願いしますぅ〜」
星輝銃を構えた夕菜が、シャープシューターで狙いを定める。
銃口から、光の弾が発射された。光は、正確に鳩尾らしき部分に着弾する。直後、明日香が槍を投擲した。壁肌にヒビが入り、穴が開くかというところで――再び、星輝銃の光が鳩尾を襲い、壁肌は完全に崩壊した。光は、そのまま内部に消えていく。どこに当たったかは、不明である。
「行きますよぉ〜」
明日香と夕菜は、機晶姫に侵入した。壁肌は中々に分厚かった。入った先に床があったので、そこに降り立つ。空間は、肌部分に沿った細道になっていて、床だけ石が敷かれていて後は土煉瓦である。その土もしっかりと固められていて、襲いにきた狼がすごすごと帰っていくほどには頑丈そうだった。壁には、色とりどりのコードがくっついていた。横幅は1,5メートル、高さも同じくらいだろうか。明日香は、少し頭を屈めて先に進んだ。
「う〜ん、元は廊下だったんですかねぇ〜。天井裏にしては広いような〜人体に例えると、大腸ですかねぇ〜」
「明日香さん、そろそろ人体に例えるの止めませんか? 必ずしも、巨大機晶姫の中が人体の構造と同じだとは……」
そこで、入ってきた穴の付近からがらがらっという音がした。振り返った視線の先では――天井と壁肌上部の一部が崩落し、開けた穴が見事に塞がっていた。
「……………………」
「と、とりあえず、機晶石を探しますよ〜。帰り道のことは、それからですぅ〜」
巨大機晶姫を見上げ、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が言う。
「大きいですね……」
「そうだな……」
「どこから入りましょうか……」
「そりゃ、口からだろ……って、おい!」
ラスは、これだけは黙ってられないという感じで優斗に言った。
「なんで移動手段が白馬なんだよ! 中に入るときどーすんだそいつ!」
都合良く用意された小型飛空艇に乗っておいて、正規に用意された白馬に文句をつけるのもどうかと思うが。
「いえ、この子しかいなかったので……」
さっきも似たような会話が別グループであった気がするがそれは置いといて。
どこかに繋げないかと巨大機晶姫周囲を探しまわる2人だったが、程無く、都合の良い場所が見つかった。足跡とみられる部分が掘られ、中でパラミタ虎が寝そべっている。
「虎がいますね……」
「そうだな……」
「馬、大丈夫でしょうか?」
「さあ……寝ているみたいだし、メシをちゃんと貰っていれば大丈夫じゃねーのか……」
「やだなあ……」
「……言っとくけどな、今、すげーやばい状況なんだぞ。緊迫してんだ。あれだけシリアスを強調しといてこんなとこで漫才してる場合じゃ……ええい! 早く中に入れろ! 大丈夫だこの文字打ってるやつは無類の動物好きだから! だからこんなアクに無い部分だらだら書いてるんだから!」
そうして白馬を穴に入れると、小型飛空艇に2人乗りした優斗とラスは口から入った。
西へと歩く巨大機晶姫の臀部が爆音を立て、煙を上げる。遺跡でもある機晶姫に生体機能は無い。これは、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が爆炎波を使った結果である。
炎で熱された土壁に、ザカコは続けてアルティマ・トゥーレを放った。熱と冷気の波状攻撃を受け、臀部が割れて黄土色の塊が落ちてくる。落下地点から飛び退りそれを見守ると、無事に開いた穴を見上げて言う。
「おけつに入らずんば石を得ず……って諺もありますしね」
「……まだホレグスリが残ってるのか?」
強盗 ヘル(ごうとう・へる)の突っ込みに、ザカコは真顔で返した。
「……冗談ですよ?」
「まあ。今の遣り取りでなるべく格好良く漢字を多用して誤魔化そうとした地の文が無意味になってしまったわ」
双眼鏡を装備したクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)が、口元をにっこりさせる。
「そう言いながら、なにをやっているのですか。今はまだ、それを使う時ではありませんよ」
柔和な笑みを浮かべ、サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)がナチュラルに諫言した。
「ではサイアスさん、行きましょうか」
ザカコは言うと、サイアスを抱え上げた。前後に動かされる左脚が『後』になったタイミングでバーストダッシュを使い、ふくらはぎを足場にして侵入していく。そう、穴を開ける場所に臀部を選んだのはバーストダッシュで入れそうな高さなのと、腰付近が中心地に近いという事を考えてのことだったのだ。
「さて、俺たちは連絡待ちだな。他の連中も集まってきてるし、足止めもそろそろ始まるはずだ。ここにいると危険だし、少し離れようぜ」
ヘルの脇で、クエスティーナはおっとりした顔を真面目なものに変化させて、言った。
「謎の機晶姫の正体を知りたいです。パラミタにきて、はじめて見ましたの。あんな大きなお人形さんを……」
その頃、臀部の穴を利用しようと地道に脚を登る男、2人。光学迷彩で姿を隠した景山 悪徒(かげやま・あくと)とタカイワ ジロウ(たかいわ・じろう)だ。
「もう少し待ちましょうよー。何も尻から入らなくてもー。しかもよじのぼらなくてもー」
「ここが1番地上から近いんだ。贅沢は言ってられん。俺たちには飛行手段もバーストダッシュも無いんだ。仕方ないだろう?」
動く脚にしがみつき、多少翻弄されながらも穴に到達する2人。中に入った時点で、もうなんだか疲れていた。
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