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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

「わたしのどこかに……おかしなものが、増えてきています……わからない、黒く、恐ろしいものが……これに支配されてしまう前に一目……銅板の無事を確認したい……。今の…………願いは…………それだけ……で……す……」
 ファーシーの語り方に異変が生じた。声が震え、これまで以上に途切れがちになる。
「ファーシー?」
 ザイエンデが名を呼ぶが、彼女は返事をしようとしなかった。
 否、出来なかった。
「……ア……」
 苦しそうな声が、機晶石から漏れる。同時に、少女型機体に巻きついていたコード群が血管のように脈打った。
「……にげて……」
 不穏な空気に、皆が捜索の手を止める。
 機晶石からの魔の力を受け止めきれず、何本かのコードが破裂した。熱気が噴出する。石に最も近かったザイエンデを永太が庇う。2人は、寸でのところで直撃を免れた。
 そして。
「逃げてーーーーーーーーーー!」
 悲痛な叫びと共に放たれた衝撃が――全員を襲った。
 
「うっし……とりあえずあの中に侵入しねぇとな……」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、そう言うとソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)を脇に抱える。
「パパ……ごめんなさい。私が運動音痴なばっかりに……」
「いいってことよ!」
 ラルクは、軽身功を使って一気に口まで駆け上がった。
「一気に……行かせてもらうぜ!!」
 中に入ると、口から喉にかけてはごつごつした坂道になっていた。坂を降りて通路に出る。
「な、何だあ!?」
 通路は、ゴーレムで溢れていた。エネルギーに満ちた巨大機晶姫が、力を適度に解放する為に内部にある土壁をゴーレム化していっているのだ。自己防衛本能でもあるのか、体表にあたる土に変化はない。
「ちっ……しゃーねぇな……ソフィア、俺から離れるなよ!」
 後列にいるゴーレムを遠当てで吹っ飛ばすと、ラルクはドラゴンアーツを使って一番前のゴーレムを素手で殴った。
 頭を飛ばされ、倒れるゴーレム。
「見掛け倒しじゃねえか! どんどん行くぜ!」
 先程吹っ飛ばした奴にもとどめを刺し、立っているゴーレムは片っ端から破壊していく」
 楽勝だと思った矢先――
「パパ!」
 ソフィアの声で振り返ると、倒した筈のゴーレムが再構成されて立ち上がっていた。流石に肝を冷やすラルク。
「まじかよ……くそ……これでもくらいやがれ!」
「パパ、あのコード……あれが動力を供給してるみたいだよ!」
 体表にめりこんでいるコードを指して、ソフィアが言う。
「コードか……素手じゃ無理だな。ソフィア……光条兵器で行くぞ!」
「あ……はい! 分かりました! では……いきます」
 ソフィアの胸の前に魔方陣が出現する。その中に手を突っ込み、ナックル型の光条兵器を取り出す。それを手にはめると、ラルクはコードに思い切り突き刺した。途端に熱気が噴き出してくる。
「あっち! びびった!!」
「あ! 平気ですか!? 今治します!」
 ソフィアが慌ててヒールをかける。そこで、入口の方から少女の声が聞こえた。
「うわっ! こりゃなんだよ!」
 いくら巨大な機晶姫でも、ツァンダへ侵攻するのは無謀だ。何か秘策が……? と考えたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、機晶姫に自爆装置があるのではという結論を得て、体内へ入ってきていた。巨大機晶姫が自爆すれば、ツァンダ一帯を楽に吹き飛ばせる爆発になってしまう。これはなんとしても止めないと! と思ったのだが……
「早く! こっちに来い!」
 通路の奥にいるラルクに呼ばれ、ミューレリアは超感覚を使ってゴーレムの隙間を縫って合流した。頭には猫耳が生えている。
「自爆装置と、あと動力炉なんかを止めにきたんだけど、どこに在んだろな?」
「自爆装置!? 無いんじゃねーかな、そんなハイテクなもん。ここは土ばっかりだし」
「動力ならそれですよ。そのコードの中をエネルギーが通っているみたいですね。恐らく大元は……機晶石です」
 ソフィアが言うと、ミューレリアはコードの束に目を遣った。
「よし、じゃあこれを銃でぶった切りながら行こうぜ! 私は赤のコードを切る!」
「どうして赤なんだ?」
「好きな色だから! 何か良いことありそうじゃんか!」
 銃や遠当てを使って熱気に気をつけながら、3人は機晶石を目指して進んでいった。
 
 巨大機晶姫が、突然腕を振り上げた。脚の方は歩行自体が攻撃みたいなものなので注意が必要だったが、腕が大きな動きをしたことはなかったので、白砂 司(しらすな・つかさ)は慌てて腕輪にしがみついた。
「うわっ!」
 地面と平行になる位置にまで上げた腕を、機晶姫は一息に叩き付けた。地響きと共に、司の身体を衝撃が貫く。彼が腕を転げ落ちるのと、腕が肘からもげるのはほぼ同時だった。ハルバードでの地道な作業が、肘部分を脆くしていたためだ。
 新たに出来たクレーターの端で司がなんとか起き上がると、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
 環菜やヘル達、脚を攻撃していた面々や途中から攻撃に加わっていたアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)テオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)天城 一輝(あまぎ・いっき)、合流を果たしていたルミーナ達も集まってくる。いつの間にか、外も結構な人数になっていた。志位 大地(しい・だいち)譲葉 大和(ゆずりは・やまと)も眼鏡をかけてやってきた。
 サクラコが、巨大機晶姫に踏まれない場所まで司を引き摺ると、テオディスがヒールをかける。ルミーナも、大体揃ったところで全体回復魔法であるリカバリを連続でかけた。
「みなさま、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
 ルミーナが深く頭を下げると、風祭 隼人(かざまつり・はやと)が慌てて言った。
「ルミーナさんのせいじゃない。今回は……仕方のないことだったんだ。誰一人、悪意を持った奴はいなかったんだから」
「今はまだ、ゆっくり話している時ではありませんよ。巨大機晶姫の移動速度が上がっています。このままだと本当にツァンダが危ないです。脚はかなり弱っていますし、あと少しで動きも止められるでしょう」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が言うと、サクラコも言葉を付け足した。
「残りの腕も、肩部分を遠当てで削っていますから落とすことは可能なはず……」
 その時、重量感のある衝突音がして足元が揺れた。見ると、巨大機晶姫の二の腕が落ちて、地面に横たわっている。
「誰がやったんだ……?」
 和原 樹(なぎはら・いつき)が、そう呟いた。

 空飛ぶ箒に乗った五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、巨大機晶姫の肩に降り立ってその眺望を楽しんだ。
「やー絶景かな絶景かなー。おっとと、危ない危ない。あっははは」
 落ちかけたところで軽やかにバランスを取り、顔のある方を覗き込んで冗談混じりに話しかける。
「ねー君。ツァンダに行くのやめて、その辺りで昼寝しない? ……って、聞こえないか」
 終夏は、濃度をかなり強めに調整したアシッドミストを使った。腕は、土が殆ど剥がれてコードで繋がっているような状態だった。アシッドミストの3連発でコードを溶かし、熱気がもわもわと出てきたところで、残っている土に向けてハーフムーンロッドを突く。
 どこかから男女の悲鳴が聞こえてきたような気がするが、多分、中からの声が漏れてきたのだろう。
 完全に切り離され、二の腕は地上へと落ちていった。
「あーああああー……つっかれたー。ちょっときゅうけーい」
 肩の上に寝転び、空を仰ぐ。巨大機晶姫の中での混乱など存在しないかのように、雲ひとつない空は平和だった。
 白い鳥が、気持ち良さそうに飛んでいく。
「ツァンダが危ないとはいえ、機晶姫を壊すのは、あっははは……胸糞悪い」

「いててて……」
落ちた腕に駆け寄る環菜達。
未だ湯気が残る腕の中から出てきたのは、ラスと春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)だった。
「あー、死ぬかと思った……」
「それはこっちの台詞でしょー! あんたと心中するとかマジでありえないからー!」
「だから、ちゃんと守ってやったろ? 酸と熱と紐なしバンジーのトリプルパンチはさすがにキツイな……ん?」
 ラスはそこで、自分達を見下ろす生徒達に気付いた。彼等の一番前には――怒りの形相をした環菜が立っていた。
「あなたたち……この非常事態に何を…………」
 今にも必殺の攻撃をしてきそうなオーラを出す環菜から、ラスは慌てて距離を取る。
「違う! 違うって! 変なことはなにも……おい、真菜華! あれ、あれ出せっ、早く! つーか溶けてねーだろな!」
「大丈夫だよー、ほら」
 真菜華が、切れた鎖がぶらさがった半月形の茶色い板を取り出した。
「あ、あなた、それ……」
「腕の中にあったんだよ。奥の方だったから俺じゃ取れなくて……」
 環菜は、銅板を手に取ると仰向けになったラスを引っ張り起こした。
「――行くわよ。私の盾になりなさい」
「げ、待てって! 俺はもう……」
「環菜様、お待ちください」
 自分達を残して巨大機晶姫に向かう環菜を、ルミーナが当然のこととして追いかけた。
「――あなたは、残りなさい」
「えっ……」
 意外過ぎる命令に、ルミーナは絶句する。
「何故ですか? わたくしは、ファーシーさんの心を感じました。彼女のマスターへの気持ち、壊れてしまったことへの後悔、わたくしへの縋るような願い。そして、魔に犯されていく恐怖……全てを共有いたしました。そのわたくしが行かなくてどうするというのですか? いくら、環菜様のご指示でも……」
「そのあなたが、ファーシーを殺すことが出来るの?」
「……!」
 環菜の言葉に、ルミーナの身体が強張った。
「この銅板が本物かどうか確かめたら、巨大機晶姫を止めなきゃいけない。その為には、ファーシーを殺すしかないわ。この処置は、彼女を救うことにもなるだろうけど……あなたは、それを実行出来るの?」
「…………わたくしがやらなくても、他の方に……」
 ルミーナが唇を噛み締めると、環菜は少しだけ語調を緩めた。
「私はルミーナに、機晶石の死を見せたくないの」
 小型飛空艇にラスを放り込んで自分も乗り込むと、環菜は飛び立とうとした。そこに、巨大機晶姫から脱出した神代 明日香(かみしろ・あすか)神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)がやってきた。箒に乗った彼女達は、土だらけですっかりくたびれていた。
「あ〜、やっと出られたですぅ〜」
 猫耳と尻尾を生やしたまま地面に座り込んだ明日香に、高月 芳樹(たかつき・よしき)が心配そうに言った。
「だから、僕達が行くって言ったのに……平気かい?」
「なんとかですぅ〜。穴が塞がってしまって隣の壁を掘りなおしてたんですけどぉ〜、ゴーレムさんが良い感じに壊してくれて助かりましたぁ〜」
「ゴーレムだって!?」
「はい、なんだか沢山いましたわ」
 夕菜はそう言うと、銃型HCをルミーナに差し出した。
「これが、マッピングしたものです」
 ルミーナが躊躇っていると、環菜が一旦飛空艇から降りてそれを受け取った。
「? ルミーナさんは行かないですかぁ〜」
「わたくしは……」
 俯くルミーナ。環菜は彼女をちらりと見てから、集まった生徒達に言った。
「じゃあ行ってくるわ。機晶石を壊す前に、巨大機晶姫がツァンダに着いてしまうかもしれない。私達に遠慮なく、攻撃して頂戴」
 そして小型飛空艇は、巨大機晶姫へ飛んでいった。